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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第二章、変態吸血鬼の奇行に気を取られ過ぎて、謎の誘拐事件に巻き込まれた結果がコレだよ!
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27、第二回試食実施会(後編)

前編の続きです。

 今までは何処か他人事だった生徒たちも固唾を呑んで見守る中、試食会は微妙な盛り上がりと共に進んでいく。


「そぉんれではぁ~! 続いての挑戦者です! 夢は未来の有名店店主! だが、その調理する姿は誰にも想像できないっ! 喧嘩で相手を叩きのめす手際だけじゃない! 料理の手際も見てくれ! エントリーナンバー三番! 国崎慶次の登場だぁぁぁッ!」

「…………。よくそこまで口が回るな」


 感心したような、呆れたような、そんな微妙な表情を見せて、慶次は丼を持って入場してくる。


 丼物か? と訝しがる審査員たちだが、目の前に置かれた食べ物の強烈な香りに、全員が驚きと食欲旺盛な表情を見せていた。


「詳しい説明は要らねぇだろう。まずは食ってみてくれ」


 それは、ラーメンであった。


 正統派の醤油ラーメンのように見えるが、強烈に香るのは魚介系の臭いだ。


 食欲をそそる臭いに、審査員たちは司会の言葉も待たずに箸を付け始める。


「こりゃあ、オイオイオイ、慶次マジかよ!? うめぇじゃんか!」

「いや、凄いよ! 香りもさることながら、出汁もちゃんと効いているし! それに、麺ももちもちで、オーク肉の叉焼もまた良い味出してるよ!」


 浩助と拓斗が絶賛して、凄い勢いで啜り始めれば――。


「麺に練りこまれているのは、卵かな? それに、叉焼までついている……。ネギのようなこの植物は学食でも見たことないが……。まず、見た目がちゃんとしたラーメンとして成り立っているのが凄いな。そして、味も……、文句ない!」

「卵は、恐らくエッグバードという種類の魔物から取れたものでしょう。卵の殻に脚が生えた珍妙な魔物で、弱い攻撃でもすぐに卵が割れてしまって、捕獲に手間が掛かると聞いたことがあります。ただし、捕獲に成功すれば、一匹で卵五十個分にはなるという魔物ですので、それを捕らえて卵麺を作ったのだと思います。叉焼はオーク肉を利用して、醤油は……、日本から持ってきた物にしては味が違うような? まぁ、要約しますと……、――んまいッ! ってことですね」


 中村が考察し、忍が詳細な説明を付け加える。


 ただのオモシロオカシイ審査員だと思っていただけに、観客のみならず、慶次も驚いたように目を見開いていた。


 ……ちょっと失礼ではあるが。


「良く分かったな。卵麺についてはその通りだ。醤油は魚醤を作れそうだったんで、作ってみた。魚粉もついでに入れてんな。ネギみてぇなのはシロクキって名前の植物だ。白葱っぽい癖に地上に生えてたから、引っこ抜いてちょっと齧ってみたらネギの味がしたから、ネギの代用品として使ってみたんだ」

「待ち給え、魚醤に魚粉だって?」


 慶次の言葉に反応したのは、中村だ。


 彼は驚いたように席を立ち上がる。


「それは、つまり魚が居るということかね!?」


 それに答えて良いものかどうか、慶次は逡巡した後、視線を忍に飛ばす。


 忍はそれを受けて、静々と、だが、力強く立ち上がる。


「それは、冒険者ギルド、サブマスターの私から説明致しましょう。つい先日、森の中を流れる小さな川を発見したという報告があり、冒険者を雇って水源の方を確認させました。その結果、一日ほど川を遡った所に、湖があることを確認しています。きちんとした報告が、まだ上がってきていないのは、その湖に関して、現在も調査中だからです。恐らく国崎先輩が取り扱った魚も、その湖の生態調査時に確保された魚を利用されたのではないでしょうか」

「当たりだ。最も、その調査チームに俺も入っていたからこそ、出来た芸当だがな」

「いや、それでもおかしいじゃないか」


 中村は食い下がる。


「魚醤の発酵には、通常数ヶ月は掛かるものだ。それを、たった数日で完成させてしまうなど不可能だと思うのだが……。魚粉だって、乾燥させるのに、時間が掛かるだろうに……」

「補助魔法の中には、対象の速度を上げるものもある。知り合いに頼んで塩に漬け込んだ魚の速度を上げて貰った。三日掛からずに魚醤になったさ。魚粉の方も同じようなもんだ」

「どんだけ、重ね掛けしたんだよ……」


 浩助が呆れる中、中村は感心しきりとばかりに腕を組んで頷く。


「ふぅむ。なるほど……。冒険者システムなど危険が多い故に反対していたが、新たな発見により、暮らしが改善されていく可能性もあるのか……」


 どうやら、料理だけでなく、冒険者という存在そのものにも感じる所があったらしい。


 そんなところで、意見が出揃ったと判断したのだろう。


 沙也加が右手を上げてジャッジを求める。


「どうやら、なかなかの好感触のようですね! それでは、国崎君の点数をどうぞッ!」


 言うまでもなく、全員が同じ点数の札を掲げていた。


「五点、五点、五点、五点……!? おーっと、まさかの二十点満点が出ました! 学食メニューにラーメンの追加だぁ!」

『うおおおぉぉぉぉぉぉ――――ッ!』

「あー……、悪いんだが、それは少し待ってくれねぇか」

「へ?」


 だが、慶次から出た言葉は、喜びの声ではなく、困惑の声である。


 一度は歓声を上げた観客たちも、拍手を送ろうとしていた審査員たちも、突然、尻込んだ慶次の様子に疑問符を浮かべる。


「魚の数がまだ全然足りてねぇんだ。そんで、いきなり学食メニューとなったとしても生産が追いつかねぇ。やるなら、ちゃんと作れるようになってからってことにしてくれねぇか」

「つまり、数カ月後でないと食べられない?」

「冒険者ギルドの許可次第だろうが、そこまで掛からねぇとは思う。だから、少し待って欲しい」

「わっかりましたっ! 皆さん、待ち遠しいとは思いますが、そこまで待ちましょう! それでは、学食メニューを勝ち取った国崎選手に改めて拍手を!」


 わーっと歓声が巻き起こるが、慶次は特にその歓声に応えることなく、無言のまま立ち去っていく。


 手の一つも振れば良いのに、相も変わら愛想のない男である。


「そういや、生徒会長さんよ。水源の調査とか、俺は全然頼まれてねーんだけど?」

「ただの調査クエストですし、Sランク冒険者の手を煩わせる必要もないかと思って、こちらで通常のクエストとして発行致しました。有馬先輩が頑張り過ぎると、ランクの低い冒険者の儲けが少なくなってしまいますので、その辺はどうか御容赦を」

「まぁ、そういうことなら仕方ねーか。――と言っても、こっちも最近手持ち無沙汰なんでな。何か、軽いクエスト? みてーなものがあれば、暇潰しに受けるってギルマスにも言っといてくれよ」

「分かりました」


 忍が軽く目線だけで礼をし、浩助は満腹になったのか、お腹をポンポンと叩く。


 そんな二人のやりとりを最後まで待っている沙也加ではないので、既に彼らの目の前には蓋で中身を隠された料理が取り揃えられていた。


 慶次が持ってきたラーメンに対して、随分と小さいのだが、はて? と浩助たちは首を傾げる。


「それでは! 本日、最後のメニューとなります! エントリーナンバー四番! 調理チームの希望の星にして、無類の頑張り屋! 今回の料理も考えに考え抜いて、作ってみました! 不味かったらすみません! ――許しません! 柳田美優の登場だぁぁぁぁっ!」

「えぇっ!? 何で、沙也加ちゃん、許してくれないのぉっ!?」


 少し半泣きになりながら、入場してきた美優は相変わらずのむちむち制服姿であり、浩助は思わず五点札を出しかける。


「はいはいはーい! 男性審査員の方々は、いきなり五点出そうとしないのっ! そもそも、何で中村先生まで五点掲げようとしてるんですか!」

「おっぱいは正――、じゃなくて、国崎君の料理が素晴らしかったので、気が緩んでしまったようだ。気を引き締めて、堪能させてもらうよ」

「何か、聞いちゃいけないことを聞いちゃったような……。でも、とりあえずはきちんとした審査をしてくれるようですので期待しましょう! それでは、料理オープン!」


 沙也加の言葉と同時に、料理の蓋が取り払われ、白い更に乗った白い物体が現れる。


 それは――。


「ケーキ……?」

『おおおおおぉぉぉぉぉっ!』


 調理チームの女子たちから、思わず歓声が漏れる。


 どうやら、異世界に来てから随分と甘いものに飢えていたらしい。


「今のところ、砂糖を錬金するための素材が見つかっていないみたいだからね。砂糖なしでこのケーキを作ったのだとしたら、大したものだよ」


 中村が感心したように呟き、拓斗もそれに追随するように頷く。


「砂糖もそうですけど、クリームを作るのに牛乳は不可欠ですよ。それをどうやって調達したのか気になりますね。サブマスの方には何か情報はあります?」

「一応、マッドブルと呼ばれる魔物が牛にそっくりだという話は聞いていますけど……。とても凶暴で捕まえるのが難しいため、討伐報酬(ドロップひん)として肉とか骨とか皮しか手に入らないという話ですね」

「え? すっごく大人しかったですよ、牛さん」

「……は?」


 どうも、情報の齟齬が発生している。


 忍は頭の痛くなる思いで、額を押さえながら浩助に視線を向ける。


 視線を受けた浩助は、一瞬でその視線が意味するところに気付いたのだろう。


 念話を使ってねこしぇに正解を尋ねてみる。


「ふむふむ……。マッドブルってのは、スッゲー大人しい魔物だってよ。ただし、HPが半分を切ると猛り狂って、周りのあらゆるもんに危害を加えるんだそーだ。大方、冒険者がマッドブルを発見して、中途半端に傷付けたから逆襲食らったんじゃねーの?」

「そ、そういうことでしたか……。では、近付いて乳を搾っても何の問題もない、と……」

「ねこしぇの言うことを信じればそうなんだろうな。っていうか、柳田も何ともねーよーだし。平気だろ」

「うん。田中君に護衛してもらって、野草を摘んでいた時に見つけたんだけど、凄く大人しかったから牛乳貰ったんだ~。それでね、お礼に草上げると、喜んで、尻尾振るの♪」


 うふふ、と笑う美優は本当に幸せそうだ。


 そんなに大人しい動物なら学校のグラウンドででも飼えばいいのに、と浩助は思いながらケーキを口に運ぶ。


 鼻腔を甘い香りが駆け抜け、甘ったるいケーキの味で口の中がべっとりと――。


 ……しない。


「ん? んん? 甘――、いや、味がしねぇ?」


 それを聞いて、皆も一様にケーキを口に運ぶが、全員が狐につままれたような表情をみせる。


「甘い、と思うんだけど……。なんだろう、味がしない気も……」

「というか、これは砂糖が入っていないのでは?」

「はむ。……うん、そういうことですか。面白いですね」


 仕掛けが分かったのか、忍が困ったような微笑を浮かべる。


「多分、これ、臭いだけが甘いケーキなんですよ」

「臭いだけ? あぁ、言われてみりゃあ、そんな感じだわ。甘くねーけど、甘い臭いはする」

「人間の味覚というのは随分といい加減で、割と臭いに騙されて味を感じることも多いそうです。柳田先輩はそれを狙ったんですよね?」

「は、はい。砂糖が貴重になっていると聞いたので、できれば砂糖を使わない甘いものが作れたらなぁ、と思って……」

「しかし、砂糖も入れていないのに、この甘い臭いは一体……?」

「フェアリーバタフライの……、睡眠袋、かな?」


 答えを出したのは拓斗だ。


 彼はついこの間まで、その甘い臭いのする睡眠袋で何とか使えそうな道具が作れないか、と四苦八苦していた経験がある。


 その答えに満足するように、美優も何度も首を縦に振る。


「は、はい! 魔物の解体の時に、甘い匂いがするから何かに使えないかと思って取っておいたんです。人間は、味覚で味を判断しますけど、嗅覚も大事な役割を担っているってテレビでやっているのを見たことがあって、それで使ってみたんですけど……、あれ?」


 だが、美優の言葉を聞いている審査員は誰も居なかった。


 全員が全員、その場に突っ伏すようにして眠っていたからである。


「えー、ちなみに、美優ちゃん。この睡眠袋から、睡眠毒は抜いたのかしら?」

「え!? 毒とかあったんですか!?」

「あー、うん……。コホン」


 頬から一筋の汗を垂らしながら、沙也加は肘を曲げたまま手を振る。


「それでは、これで第二回試食実施会の方を終わらせて頂きます! 皆様、最後までご視聴頂き有難うございました!」

「え!? えぇっ!? 私の得点は――ッ!?」

「〇点に決まってるじゃない!? 毒はNGよ! NG!」


 だが、今回の試食会の成果により、学食には卵料理やら牛乳を使った料理がぼちぼちと並ぶことになるのだが、それはもう少し先の話ではあった。

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