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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第一章、調子に乗って闇魔法使っていたら、知らない所で恨みを買っちゃった結果がコレだよ!
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23、最高潮の殺意

 灯りが漏れる格技室の前では、血風が途切れることなく続く。


 紫色の散華が縦や、横に隙間なく咲き誇り、格技場の入口前を気色の悪い色に染めてやまない。


 その染色作業を淡々とやってのけるのは、長いマフラーを靡かせる一人の少女だ。


「冒険者ギルド、サブマスター、大道寺忍、参ります……」


 彼女の手には、鉤型をした特殊形状の武器『アサシンダガー』が握られ、格技場の入り口を固めるように、彼女はその場に留まって戦っている。


 たまに、彼女の脇を抜いて格技場に入ろうとする魔物もいるのだが、それらは彼女の影分身によって一瞬で足を止められ、その侵入を良しとはしなかった。


 鉄壁にして、堅実な守り。


 そして、戦っているのは彼女だけでなく、中からも、時折、魔法の援護が飛び、彼女の戦いを助け続けている。


 だが、それでも魔物の数が多い。


 中学時代よりも切れの悪い自身の動きに喝を入れながら、忍は表面上は平然を装い、魔物たちと対峙し続ける。


 弱みを敵に悟られたくないというのは勿論あるのだが、彼女には忍耐のスキルがある。


 精神的苦境に陥っても、決してミスすることなく、冷静でいられるこのスキルは、単純な戦闘技能以上に、彼女にとっての生命線でもあった。


()ッ!」


 彼女の手首から先が霞み、投げ放たれたアサシンダガーが複数の魔物の命を刈り取る。


 そのまま、勢いを殺して戻ってきたアサシンダガーを手中に収めると、彼女は接近してきた魔物の一団を即座に斬り倒す。


 いや、例え殺されていなかったとしても、アサシンダガーの刃には麻痺毒の効果がある。


 それで、魔物の足さえ止められれば、背後からの援護によりトドメは自然と刺される仕組みだ。


 彼女は、ちらりとその視線を背後へ向ける。


「魔法も……、数学も同じなのだよ――、完全な式の中にこそ、その美しさがある……」


 そう言って、数学教師の北山隆史は空間に膨大な量の魔法陣を描き出してみせていた。


 それらが、一斉に意味を持ち、発動した瞬間、忍の目に見える範囲が一瞬で灰燼に帰す。


 【ユニークスキル】高度魔法陣――。

 

 詠唱による魔法でなく、陣として魔法を記載することで発動するユニークスキルである。


 通常の魔法よりも手軽さはないが、その威力に関しては詠唱型の魔法よりも高くなる。


 北山隆史はそんなユニークスキルの使い手であった。


 何故そんなスキルを北山が取得したのかと、忍は甚だ疑問ではあったが、今なら何となく、彼女にもその理由がわかる。


「駄目だな。自分で高次方程式を立てて、魔法陣として記載してみたが、解答が虚数になっているようでは美しくない。これでは、次のテストには使えんよ」


 そう。彼ほど数字と式を愛している人間が、この学園に居ないからだろう。


 まるで、芸術品のように数式を描く北山は嘆息と共に髪を掻き上げる。


 どうやら、彼の中には数学に対するこだわりのような、美意識のような、何かそんなものがあるらしい。


 その様子に、何を言うわけでもなく――、それでも少しは休める時間を作って貰ったことに感謝して、忍はアサシンダガーを空中で三回転させてキャッチしてみせていた。


(これ、間違って買い取っちゃったんだけど助かったなぁ……)


 レンタルと間違えて買い取ってしまったドジも、どうやら今だけは役に立っているようであった。



「やべーぞ、水原! 驚いたことに、運がゼロだとな……。寝ている所に木が突っ込んでくるらしい!」

《いや、無いでしょ。それ》


 【闇魔法】影走りで校舎の外にずるりと這い出しつつ、浩助は酷く興奮したように、手元の刀に語りかける。 


 その刀から返ってくる反応は、とても冷ややかなものだったが、浩助はめげていないようだ。


 右手に刀を握り、左手に洛を連れながらも、地上へとその足を踏み出し、一歩を踏み締める。


「いや、じゃなかったら、何だって言うんだよ? 理由もなく、教室に木が突っ込んでくるか? ありえねーだろ。絶対、俺の幸運がゼロのせいで起きたサプライズだぜ、きっと。まぁ、ねこしぇの危険感知スキルがある限り、んなもん屁でもねーけどな」

「おー! ですニャー、スゴイ!」

《ニャー、照れますニャー♪》

「やっぱり、洛、お前、俺とねこしぇを混同してやがるだろ!? そろそろはっきりしたらどうだ!?」

《はいはい、どうどう……。――え?》


 そこで、沙也加は学校に起きている異変にようやく気がついたのだろう。


 月明かりの落ちるグラウンドに視線を向け、言葉を失くす。


 彼女の視界の中では、月明かりと、其処彼処から昇る魔法の光源に照らされて、異形の徒たちが、ひとつの巨大な生物のようにうねっているのが見えていた。


 それは、一匹の巨大な龍のような、もしくは大きな津波のような――、兎角、人の矮小な身では抗い難い光景に見えたのである。


 怯えにも似た震えが、刀を握る浩助にも伝わる。


 だが、彼はそんな彼女を見てしまったせいで、逆に冷静さを保つことが出来ていた。


 そもそも、彼は暗殺スキルを所持しているが故に、闇夜でもある程度の夜目が効く。


 彼の目には、巨大なうねりとなった魔物の姿――、などといったものは映っていない。


 そんなものは、想像力によって肉付けされた得体の知れない幻だ。


 彼の目には、はっきりと『有象無象の山』しか映っていない。


《なによ、これ……》

「さぁな。魔物には、夜にこういったお祭り騒ぎでもしだす習性があんじゃねーの? 集会みてーなもんだろ。俺のダチも良くやってたぜ?」

《何、呑気なこと言ってんのよ!? 殺気を纏った気配が大勢こっちにやってきてるのよ!?》

「そーだな。あぶねーな。……って事で、洛。お前は新校舎に行って、拓斗とか他の連中を守ってやってくんねーか? 悪ぃけど、お前さんぐらいしか頼れる奴がこの場にいねーんだわ」

「任せろ! ですニャー! 洛! 頑張る!」


 ぽすんっと洛が無い胸を叩き、次いで自身の袂から黒く短い鞭のようなものを取り出す。


「雷公鞭、使う? ですニャー」

「仙人の武器か? ちょいと興味はあるが……」


 何となく、手に持つ沙也加から不機嫌そうな空気を感じて、浩助はふっと息を漏らす。


「……どうやら間に合ってるみてーだ。気持ちだけ貰っとくぜ」


 浩助が軽口を叩いている間にも、魔物の軍勢は浩助を取り囲み、その退路を塞ごうと包囲網を狭めてきていた。


 それを見た洛は、慌てて袂から風火輪を取り出すと、足の下に装着して空中へと飛び上がる。


「ですニャー、頑張る!」

「おう、洛も死ぬんじゃねーぞ!」

「洛も、頑張る!」


 そう言って、彼女は一瞬で中空を蹴って飛び、新校舎の屋上へと着地を果たしていた。


 彼女の戦闘力であれば、並の魔物が相手であろうとも、大した脅威にはならないだろう。


 そう結論付け、浩助は自分の置かれた状況に、ようやく目を向ける。


 既に浩助の周りには、魔物が壁となり、その殺意と狂気を突き付けてきていた。


 怯え、泣き叫び、逃げ惑う――、もしかしたら、魔物たちはそんな醜態を晒す獲物の姿が見たかったのかもしれない。


 だが、宜しくない。


 こんなに大勢で密集して、浩助を囲んでしまうのは、どう考えても悪手だ。


「【暗黒魔法】精神吸収(マインドアブソーブ)――」


 浩助の視界に入る魔物全てから、膨大な魔力がかき集められ、その魔法の力が浩助にあっという間に吸収される。


 ――と、同時に浩助は捷疾鬼を発動。


 暗黒魔法のクールタイム三十秒を、捷疾鬼のスキル中でやり過ごす。


 そして、三十秒のクールタイムが過ぎた瞬間、浩助は捷疾鬼中にも関わらず、先程とは違った方向へと視線を定め、精神吸収を行っていた。


「よし、MP三千溜まったな。――んじゃ、一千ほど消費しようかね。一時間四十分の制限だが、夜中だし、そんなもんでいいだろ」

《いつも思うんだけど、有馬って、こういう狡賢い作戦に関しては天才的よね……》

「おう、もっと褒めろ。そんじゃ、行くぜ――、【闇魔法】影分身!」


 浩助の姿を象った十人の黒い男たちが出現し、彼らは一様に紅い三日月型の笑みを浮かべてみせていた。


 そんな彼らに、満足そうな笑みを見せながら、浩助はそろそろ終わる捷疾鬼の時間を意識して、指示を飛ばす。


「目につく魔物を片っ端から駆除しろ。このままじゃ、眠れねーからな」


 その命令が行き渡ったであろう次の瞬間、硝子が砕けるような音が響き、時間が元の速さを取り戻す。


 黒の男たちは一斉に散開し、手当たり次第に目に付く魔物たちを、その手に掛けていく。


 それに負けじと、浩助も沙也加を振るって魔物を屠り始めたところで、気配に気が付く。


(何だ……?)


 彼の視線の先に、他とは違う気配を纏う魔物の姿があった。


 橙の髪に、灼熱を思わせる真っ赤な肌をした、五メートルはあろうかという巨漢だ。


 男は、浩助を――、いや、浩助の呼び出した影分身の姿を見つめ――。


 浩助は、男の――、いや、男の背後にある壊された柵の姿を見つめる。


『テメェか……』


 奇しくも、男二人は同じタイミングで、同じ言葉を吐き出す。


 そして、次に放った言葉も、また同じものであった。


『テメェが俺のモンを壊した野郎か……!』


 多分、エインジャは括弧付きで仲間という文字が記載されたであろう言葉を発し、浩助は括弧付きで柵という記載がされたであろう言葉を発したはずだ。


 彼らは、自分と相手の言葉に同時に驚き、そして、挑むような目付きで――。


『――テメェは殺す!』


 そう、一言一句違えることなく叫んでいた。


 魔物の群れが、その殺意に慄くように群れを割り、浩助とエインジャはその道を濃い殺意を湛えたままに歩み出る。


 グラウンド中央まで、約三十秒――。


 悪夢の夜は、最高潮(クライマックス)までの秒読みを数えるのであった。

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