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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第一章、調子に乗って闇魔法使っていたら、知らない所で恨みを買っちゃった結果がコレだよ!
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19、巨乳錬金

 それは、とても重々しい音でありながら、何処か衣擦れの音にも似ていた。


 要約するに、重い擦過音。


 金属のような硬質な音がするでもなく、打撃のような衝撃のある音でもなく、断続的に重い物を引き摺るような、そんな音。


 【スキル】伐採:Lv2 を習得致しました。


闇具作成(ダーククリエイト)で武器を作ってみたが、影を物体にぶつけるとこんな音がすんのか……」


 浩助の目の前で、樹齢千年はありそうな巨木が、その身をスライドさせて倒れていく。


 たった一振り――。


 闇魔法で作り出された斧で、浩助が巨木に斬りつけた回数である。


 重々しい音と共に、巨木が天空に向かって伸ばしていた枝々を震わせて地面に倒れる。


 その姿に特に何の感慨を覚えることもなく、浩助は手頃な太さの木を見つけ、またしても試し切りをするかのように、軽く斧を振るう。


 学園外縁部。


 鬱蒼と茂る樹々に覆われたその空間は、薄暗く、じめっとした暑さを以って訪問者を出迎えていた。


 少し動いただけでも汗が滲む空間の中で、浩助は精力的に大樹を切り倒す。


 彼が操る影分身たちも、外縁部の各所に散っており、浩助同様に周囲の樹々を薙ぎ倒していることだろう。


 それは、伐採スキルが地味に成長していることからも察せられる。


 学校側と生徒側の代表を集めた学食での会議は、未だ熱を以って続いていた。


 一応、問題の方は出揃ったようなので、今は問題に対する対策と取り組む優先順位の決議が行われていることであろう。


 そんな集会から離れ、浩助が一体何をやっているのかと言うと――。


「まぁ、この木の葉っぱが飯のタネになるって話だから、切り倒さにゃしゃーねわな」


 昼食の準備であった。


 正確には、学園外縁部に作成する柵の素材調達と、米の素材となるリケイジュの葉の調達である。


 これは、冒険者ギルドからの初の依頼であり、その報酬は山盛りの御飯という、貨幣ですらないものではあったが、どちらも緊急性が高いものとして、緊急クエストとして発注されたものである。


 冒険者ギルド側としては、いずれ埋め合わせに何らかの報酬を用意するとは言ってくれてはいるものの、浩助としてはあまり期待してはいない。


 それよりも、当座の飯の確保という価値が大きく、浩助は文句も言わずにこのクエストをこなしていた。


 ちなみに、御飯の錬金レシピの元であるリケイジュという木は総じて背が高く、幹が太い。


 蹴って、葉を落とそうとしてもビクともしないし、逆に蹴り足を痛めてしまう程に頑丈である。


 この木の葉を取ってこいとなると、それこそ、落ち葉から選別して探すか、木を登って取って回るかしないと調達は難しい。


 しかも、大量に要る場合は、そんなちまちまとしたことでは需要を満たせない。


 何せ、七百五十人分の食事を賄わなくてはならない。


 悠長に落ち葉を集めるよりも、早く大量に素材をかき集める必要がある。


 そこで、白羽の矢が立てられたのが、一撃で木の防御力をぶち抜いて、切断まで可能な浩助というわけだ。


「しっかし、この葉っぱ一枚と草一本で、米一俵が作れるってのは良く分かんねー理屈だなぁ。まぁ、御蔭で飯だけには困らねーのはありがてーけどよ」

「ちょっと、有馬~、コツ教えてよ~」

「んで、コイツはコイツでちっとも進歩しやがらねー、っと」

「酷くない? 言い方酷くない?」


 浩助が木を切り倒す傍らで、沙也加は一生懸命闇魔法の練習を続けていた。


 闇魔法のレベル1の魔法は、『影繰(カゲクリ)』という影を自在に操るスキルである。


 沙也加は、自分の影に向かって、「曲がれ~、伸びろ~」とずっと念じたり、睨んだり、気合を入れてみたりと色々とやっていたようだが、未だ覚えられずにいるようだ。


 浩助は、はぁ、と嘆息をしながら作業の手を止める。


「闇魔法と光魔法は、四大元素魔法とは違って、覚えにきーってさっきも言っただろ? 使えるようになるまでは、ひたすら練習あるのみって、ねこしぇ大先生も言っているんだ。頑張って努力し続けろよ。以上」

「分かってるわよ! でも、努力するにしても、方向性っていうか、コツっていうか、何かそういうのあるでしょ!?」

「んな事言われても、こっちに来た時には、既に覚えてたしなー。コツとか言われても分かんねーし」

「有馬に聞いた、私が馬鹿だったわ……」

「っていうか、今、闇魔法使える奴らって、多分、大体そんな理由だろうから、コツとか誰も教えてくんねーだろ。聞いても誰も答えらんねーんじゃねーか?」

「うぅ、先人というのは、かくも孤独なものなのね……」


 膝を抱えてめそめそとしながらも、影を操ろうと弛まぬ努力を続ける。


 やはり、何だかんだいって、一流アスリートだった少女だ。


 精神的には強いものがある。


 ……まぁ、肉体的にも強いが。


「とりあえず、後三十分ぐらいで影分身も消えっだろうし、さっさと外縁部の伐採だけでもやっちまわねぇとな。その後で、斬った木を柵にして――、って、今日中に終わんのかねぇ?」


 考えるだけでも、うんざりしそうなので、なるべく考えないようにしつつ、浩助は身体を動かし続ける。


 樵が木を切るように、受け口を作る必要はない。


 浩助の速度があれば、木が倒れてきたところで躱せるし、学園を破砕するように倒れそうになった場合は、その有り余る攻撃力で倒れる方向を捻じ曲げてやればいい。


 だから、浩助は深く考えることなく木を切り倒していく。


 やがて、三十本ほど木を切り倒した頃、浩助は近付いてくる気配に気が付いて、その動きを止めていた。


 影分身の御蔭で、察知のスキルを習得したせいか、遠くからでも人が近付いてくるのが良く分かるようになっていた。


「おい、水原、誰かこっちくんぞ」

「……洛ちゃんじゃないの?」


 洛は拓斗と共に、絶賛武器防具の開発中だ。


 宝貝造りに関してはプロ中のプロを自称する洛だが、鍛冶鋳造スキルに関してはズブの素人もよいところらしい。


 今頃は、スキルの使い方を、拓斗についてきっちりと学んでいる頃だろう。


 そんな洛が、拓斗の講義をサボってまで、此処に来るとは考え難い。


「アイツが興味のある事柄を放ってこっちに来るわけねーじゃん」

「まぁ、その気持ちは分かるけど……。じゃあ、あれ、誰なのよ?」


 気配は、既に視認できる距離にまで近付いていた。


 緑色の運動着の上下を着た、髪の長い女子。


 運動着の色は各学年で異なり、それで何学年の生徒であるのかが判断できる。


 緑は、三年――。そう、浩助たちの学年だ。


「あれは、柳田だろ」

「どこ見て言ってんの?」


 沙也加の声は驚く程に冷え冷えとしている――、そんな風に浩助は感じたが幻聴だったのかもしれない。


 事実、浩助の視線はある一点に釘付けになっている。


 暴れるように揺れる、巨大な胸。


 ブラしてないのか? と思わず尋ねてしまいたくなるほどに、その少女――柳田美優(やなぎだみう)の巨乳は爆発的な破壊力で以ってアピールを続けていた。


 いや、ただ単にクラスメートである浩助たちの姿を見つけて、走り寄って来ているだけなのだが……。


「嫉妬か? 水原もあんだけでかくなりてーとか?」

「あんなに大きくちゃ、刀振れないわよ。――っていうか、私、そこそこある方だから、嫉妬とか別にないから」

「うん。水原は、後で洛にゴメンナサイしとけ」

「なんでよ!?」


 やいのやいのと騒いでいる内に、息を切らせながらやってきた美優が両膝に手をあてて、前屈みになってようやく停止する。


 どうやら、随分と急いで走ってきたらしい。


「良かったぁ~、知っている人がいて~!」

「どうしたの、美優ちゃん? すっごい急いで来たみたいだけど……」

「だって、学校の外だったし、一人だと怖かったから……。沙也加ちゃんがいてくれて良かったよ。あ、あと、有馬君も!」

「俺はついでかよ……」


 ぶつくさと文句を言いながらも、浩助は美優の位置を確認してから伐採作業に戻る。


 元々、手を止めていたのも切った木がどこに倒れるか分からないから、周囲の気配をちゃんと把握しておく必要があったからだ。


 不安が取り除かれれば、遠慮をする必要もないだろう。


 沙也加たちの方に、木が倒れないように気をつけながら、破壊活動……もとい、伐採作業を再開する。


「凄いね、有馬君。木をあんなに簡単に切り倒しちゃうんだ……」

「ま、馬鹿みたいに攻撃力が高いのが特徴みたいなトコあるしね。壊す事と暴れる事に掛けては超一流なんじゃないの? それで、美優ちゃんはどうしてこんな所に来たの? 魔物とかも出て来るかもしれないし危ないよ?」

「えっと、それは……、コレを貰いに来たの!」


 そう言って、美優が一枚摘んでみせたのは、リケイジュの葉だ。


 丸みがかった薄い葉で、光を沢山吸収してきたせいか、地球に生息する植物よりも鮮やかな緑色をしているように見える。


 その葉を片手に、今度は片手に持っていた手提げ袋から、ひょろりとした雑草のようなものを取り出す。


「それって、もしかしてテンガイソウ?」

「そう、当たり! もしかして、沙也加ちゃんも鑑定スキル持ち?」

「私は別に鑑定スキルは持ってないけど……、『も』ってことは、美優ちゃん、もしかして鑑定スキルを持ってるの?」

「れ、レベル1だけど、い、一応……」

「え~、いいなぁ! 羨ましい! 私なんか教え方の悪い先生のせいで、未だに魔法ひとつ覚えないんだもん。美優ちゃんに鑑定スキルでも教えてもらおうかな~」

「誰が、ヘッポコ教師だ! スキルを覚えるには、一定のスキル経験値が必要で、そのためには継続的な努力と、根性が必要だって、ねこしぇ先生が言ってただろ!? そんでも、覚えねーのはテメーの努力が足りてねーからだろーが! 他人のせいにすんな!」


 怒鳴りながらも木を倒し続ける姿は、流石と言って良いかどうか。


 半眼になって眺めながらも、沙也加は意識の片隅で影を動かす努力を再開する。


「半端もんに努力が足りてないんだ、と言われちゃあねぇ……」


 呆れたような声のトーンではあったが、美優は沙也加の目が決して笑っていないことに気付いていた。


 この少女は、幼少の頃より剣術の達人である祖父に地獄のような特訓を受け続け、更には部活で誰よりも遅くまで練習を繰り返し、より強くなるために効率的な練習法、最短の太刀筋、相手の癖や欺き方をそれこそ血眼になって研究し続けてきたのだ。


 それが、努力が足りていない――、と一蹴された結果どうなるのか?


「……ちょっと、努力したくなっちゃうわよねぇ?」


 完全にスイッチ入っちゃってる人の出来上がりである。


 水原沙也加――、人一倍の負けず嫌いであった。


「えっと、そうだよね! 経験を積まないと上手くならないよね!」

「ん? 美優ちゃん?」


 どこか、決意を込めた言葉に、沙也加の意識が戻ってくる。


 それでも、闇魔法の練習を止めなかったのは、意識の変革があったからだろうか。


 どちらにせよ、良い兆候ではある。


「えへへ、実は私も特訓しようかなぁって思って此処に来てて……」

「特訓? 鑑定スキルの?」

「ううん、錬金スキルだよ。鈴木君一人に任せっきりじゃ悪いと思って」

「ちなみに、錬金スキルは持ってるの?」

「い、一応、レベル1だけど……」

「なるほど、それを鍛えたいんだ!」

「うん、ゲームに詳しい男子が、スキルは何度も使っていると鍛えられて強くなるって言ってたの聞いたから。だから、私もやってみようって思って……」

「それで、ここまでリケイジュの葉を取りに来ちゃったのね」

「うん、ちょっと迷惑かなとは思ったけど、待ちきれなくて……」


 そう言って、美優ははにかんだ笑みを見せる。


 だが、沙也加は美優に対して同じように微笑むことはできなかった。


 何故なら、彼女はその行動の意味を全く理解していなかったのだから。


「うん。その考え方自体はとても良いことだと思うよ、美優ちゃん。……でもね、聞いて」


 真剣な表情の沙也加に気圧されるようにして、美優は伏し目がちに頷く。


「此処は異世界なの。学園の中でさえ、ちゃんとした安全が保証されていない世界なの。それなのに、護衛の一人も連れないで外に出るなんて、何か起こって下さいって言っているようなものよ? 今回はたまたま私達が外縁部に居たからいいけど、今度からはちゃんと護衛をやってくれる冒険者を連れて、外に出なさいよね?」

「あ、う……、その、ゴメン……」

「まぁ、何事も無くて良かったわよ。――って、有馬、移動し過ぎ! そろそろ十五メートル越えるじゃない! 全くもう! そういう時はちゃんと声掛けてって言ったのに!」


 憤慨する沙也加を見て、美優はどこか可笑しそうに笑う。


「……何?」

「ううん、本当、有馬君が絡んだ時の沙也加ちゃんって、楽しそうだなって思って」

「楽しいっていうか、慣れよ、慣れ。だって、小学校の頃からずっとクラス変わんないのよ。しかも、グレてからはずっと私が面倒見る係みたいになっちゃってるし」

「沙也加ちゃんぐらい強くないと、普通の女子は有馬君が怖いからね」

「そういうもんかしら。ただのやんちゃ坊主にしか見えないけど」

「そう言えるのも、多分、沙也加ちゃんだからだと思うよ」


 倒れた樹々を跨いで乗り越え、沙也加と美優は浩助を追う。


 距離を縮めたところで、適当な木の切り株に座りながら、今度こそ美優は素材二つを手に真剣な眼差しを見せていた。


「うん、二人も頑張っているんだし、私も頑張らないといけないよね!」

「……頑張りは強要されるものじゃないと思うけど、美優ちゃんが頑張るって言うのなら、私は応援するわ」

「うん、ありがと! よーし、何だか上手くいきそうな気がしてきたよ!」


 美優は視界の片隅にある文字に意識を集中させて、錬金レシピを呼び出す。


 レベル1で表示されるレシピは、薬草などの簡単なレシピであり、そこに御飯のレシピはない。


 それでも、美優が御飯を作ろうとすると、十回に一回ぐらいは成功して米俵が作られる。


 どうやら、錬金レシピ自体はスキルレベルアップと共に開放されていくようだが、レシピにないようなものでも、作れないわけではないらしい。


 そして、錬金が成功するかどうかは、完全にスキルレベルに依存する。


 美優はそれを上げたいのだ。


「御飯の錬金レシピはレベル2相当って、鈴木君が言ってた……。私もその錬金レベルになれれば、もっと効率よく御飯を作り出すことが出来るはず……」


 片手にリケイジュの葉とテンガイソウを重ねるようにして握り、美優は視界の片隅でちらつく文字に意識を集中させる。


 ▼錬金しますか? (テンガイソウ、リケイジュの葉) YES/NO


 美優はYESを選択。


 その次に現れるのは、錬金に必要なための手数料だ。


 今回の錬金に必要なのは、G:5。


 決して安くはない値段である。


 だが、彼女は異世界に来る前に、財布の中に多くのお金を忍ばせていた。


 金欠になるには、まだ猶予がある。


 迷わずに、彼女は金額を投入して錬金を開始する。


 美優の手から、どこか安らげる暖かい光と、それとは真逆の稲光にも似た紫電が迸る。


 沙也加が、ぎょっとした目を向けるが、美優は慣れたものだ。


 手の中から、光が止んだ時、そこには――。


 ――何もなかった。


「うぅ、失敗しちゃったよ……」

「まぁ、そんなに簡単に成功してたら、私の立つ瀬もないからねー」


 沙也加の視線の先では、未だにピクリとも動かない自分の影の姿がある。


 それを見て、美優はくすりと笑い、沙也加もつられるようにして笑みを浮かべていた。


 どうやら、スキルレベルアップというのは、修行僧の如き努力と忍耐を擁する、かくも難しいものらしい。


「一緒に頑張ろうね、沙也加ちゃん!」

「そうね、頑張っていきましょ!」


 二人が共に小さく頷きあって、その意志を高め合っているその背後で――。


「お、また伐採のスキルが上がりやがった。本当、簡単にポンポン上がりやがんなー」


 そう言う浩助の呟きを彼女たちはひっそりと黙殺するのであった。

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