14、卑怯魔法
学食でレシピの収集を終え、まとめるのは明日となった職業ギルドの面々と浩助たちは、揃って新校舎と呼ばれる建物へ向かっていた。
拓斗の説明によると、体育館と格技室と新校舎の三箇所に分けて、約七百四十人の居住スペースが確保されたらしい。
その内、浩助たちは新校舎に居住スペースが割り当てられたので、向かっている途中となる。
「いつの間に、そんな話に……」
「ギルマスが混乱がないように、早めに用意していたみたいだね」
「時任君って、本当手回し良いわよねー」
「八割は、大道寺さんがやっていたみたいだけどね」
「ドジな割には優秀なのよねー」
しみじみと、沙也加は頷く。
中学の頃の部活の様子でも思い出しているのであろうか。
「しかし、暗くなってきたなー。洛、あぶねぇから足下気ぃつけろよ」
「ですニャー! 分かった!」
「だから、違うってぇの! 浩助だ! 浩助!」
月明かりに照らされた廊下は、既に薄暗く、それこそ月が雲間に隠れたのであれば、一寸先すら見通せぬ暗闇が広がることだろう。
蝋燭でも置かないのか、と拓斗に尋ねると、置けるだけの蝋燭がないし、そもそも下手に明かりを点けていると魔物を呼び寄せる可能性もあるため、自重しているのだという。
現在の時刻はまだ午後七時前後。
本来ならば、就寝時間にはまだ早いのだが、電気が使えないし、起きていてもカロリーを消費するだけなので、さっさと寝てしまおうというのが、異世界スタイルということらしい。
「とりあえず、学校周辺の防御施設を何とかしないとね。フェンスひとつじゃ心許ないし、全体も覆えていないし……。後は夜間照明用の資材の確保。その辺が揃って、初めて夜更かしもできるようになるんじゃないかな?」
「なるほど。前途多難だというのは分かった」
「前途多難の前に、浩助は眼前多難だろ。まぁ、死なないように気をつけろよ」
不吉な言葉に苦虫を噛み潰したような表情になるが、沙也加は任せてとばかりに胸を叩く。
「大丈夫よ。有馬が変なことしない限り、こちらから何かをやる気はないから!」
「ですニャー? 変なこと? する?」
「しねぇよ! 水原も変な単語、洛に吹き込むんじゃねぇ!」
どんなことにでも、好奇心から首を突っ込んでくる洛は、浩助と沙也加の会話を聞いて、どんどんと変な単語を学習していく。
会話が流暢になることは良いことなのだろうが、洛の知識が偏るのは浩助にとっては悩みの種でもあった。
「ふーん? どうかしら? 昼の件もあるし~?」
「まぁだ、胸揉んだこと怒ってんのかよ……」
「あったりまえでしょ!? そもそも、有馬、その件について謝ってないじゃない!」
言われてみれば、そうである。
だが、あれは緊急事態だったのだ。
不可抗力(?)だったのだ。
そもそも意識混濁としていた沙也加が悪いのだ。
正直、自分が悪いなどとは欠片も思っていない浩助は、それでも円滑な異世界生活のために頭を下げる。
「分かった、分かった、悪かったから」
「全然心が篭ってない!」
「ぜんぜ、心、こもっない!」
「洛が真似するから、ヤメロ!?」
当然のように怒られた。
それから、暫く、騒がしく廊下を歩いていると、拓斗の足が止まる。
浩助たちが案内されたのは一年の一番端にある教室であった。
一階にあり、体育館にも、格技室にも近い場所にある位置取りである。
つまりは何かしらの異変が起きた時には、迅速に駆け付けられるような配慮がなされていた。
拓斗に尋ねると、この考案は聖也がしたものらしい。
実に合理的な彼らしい。
教室に入ると、机と椅子がロッカー側に片付けてあり、広いスペースに毛布らしきものが重ねて置かれている。
沙也加が近付いて、生地の厚さやら手触りを確かめ、少し驚いたような表情を浮かべる。
「毛布、六枚もあるんだけど、いいの?」
「敷布団代わりのダンボールが用意出来なかったからね、それで何とかしてくれって、ギルマスが」
「あー、一枚は床に敷いてってことね。了解」
どうやら、厚遇というわけではなかったようだ。
それよりも、浩助はそろそろ気になっていたことを拓斗に言わなければならない。
「さっきからずっと思っていたんだが、拓斗の職人ギルドのギルマスと、聖也の冒険者ギルドのギルマスって、どっちもギルマスだからごっちゃになんねぇ? もっと違う呼び名とかねぇの?」
「まぁ、確かに、俺もごっちゃになる時あるかな。何か良い呼び名がないか、少し元生徒会長に相談してみるよ」
「おう。その辺、定着する前にヨロシク」
「はいはい。んじゃ、オヤスミ――っと、ひとつ言い忘れてた」
教室を去りかけて、拓斗は∪ターンをして戻ってくる。
「明日の朝に、学食の方に代表者を集めて集会を開くって話をするのを忘れてたや。一応、そこで、現状の説明とこれからの話をギルマスと校長以下の教師陣で話し合うらしいんで、代表者一名に出て欲しいんだけど。……まぁ、浩助たちなら全員出ても問題ないかな? とりあえず、そういうことなんで、明日はヨロシク」
それだけを言いおいて、オヤスミーと拓斗は行ってしまう。
拓斗に聞こえるように返事を返しながら、浩助は早速自分の毛布を確保し、床に敷く。
そして、寝てみる。
「うーん……」
思った以上に背中が硬くて、痛い。
どうやら、沙也加も同じような感想を抱いたようで、二人で床に敷かれた毛布を睨みつけている。
「わー、ふかふか!」
だが、洛だけは、薄っぺらい毛布ひとつでも気持ちが良かったのか、はしゃぐようにして毛布に包まっていた。
その様子はまるでミノムシのようだ。
「思ったんだが――」
浩助は沙也加に向かって提案があるとばかりに指を立てる。
彼女はそれに気付いて、「何よ?」と返してくれていた。
「毛布を重ねて使えば、それなりに厚みが出るんじゃねーか?」
「それはそうでしょ」
「四枚重ねれば、大分寝やすいと思うんだ」
「何よ、ジャンケンでもして、奪い合おうっていうの?」
「なんで、そんなリスキーな話を持ちださなきゃいけねーんだよ」
「じゃあ、何よ?」
「つまり、あれだ……」
少し言い淀みながら、浩助は後頭部を掻く。
「一緒に寝ねーか、って話だ」
「…………。頭大丈夫? というか、私が割って中身見てあげようか?」
「まぁ、そういう反応するだろうよ! ってか、すると思ったっつーの! でも、別にひとつの毛布の面積に二人で寝るのはできなくもねーじゃん! それで、快適に寝れるならいいなって思っただけだっつーの! だから、その蔑んだ目で見るのはヤメロ!」
「有馬が変なこと言うからじゃない! でも、まぁ――」
沙也加は毛布を二枚重ねて床に敷く。
「――半分は採用してあげる。あ、洛ちゃん、この余っている毛布使っても良いかな?」
「いーよ!」
どうやら、洛は毛布に包まったミノムシスタイルが気に入ったらしい。
そのまま、床の上をゴロゴロと転がっている。
「下に二枚敷いて、掛け布団を二人で使うってことで、どう?」
「まぁ、一枚下に敷くだけよりはマシか」
「あ、ちなみに、余りに距離が近いからって、襲ってきたら切り飛ばすわよ?」
「やらねーよ!」
何を? とは聞かない。
昼間のオークのアレを見ているだけに、浩助は血の気が引く思いで否定する。
何にせよ、夜には浩助もやることがあるのだ。
悶々と妄想を膨らませて、悶えているほど暇ではない。
「それじゃあ、明日も早いし寝っか」
「そうね。遅くまで起きていると、お腹も空きそうだしね。それじゃあ、おやすみ、洛ちゃん」
「おやすみ! サヤカ!」
「…………。何で、俺の名前は覚えねーのに、水原の名前は覚えてんだ……?」
「人徳でしょ。後、あんまり、毛布をそっちに引っ張らないでよ」
「へいへい。……んじゃ、おやすみ、水原」
「…………。おやすみ、有馬」
長い一日が終わりを告げる。
明日のこともあるし、今は体力の回復に務めなければならないのだが、浩助にはまだやるべきことが残っていた。
それは、現環境を整えながらも、粗雑に扱ってはならないこと――。
――即ち、成長である。
(ねこしぇ、起きてっか?)
《ねこしぇは、睡眠は取りませんニャー。なんでしょうかニャー?》
(すまねぇけど、俺のスキルについて確認がしたい)
《畏まりましたニャー》
そう。成長のためには、まずは自己確認。
現在の自分には、何が出来て、そして何ができないのか。
それを把握した上で、何をすべきなのか。
その成長の軌跡を、目標を描かなくてはいけない。
その為には、浩助は自身が身に着けているスキルについて、少しずつでも理解する必要があったのである。
……決して、スキルの数が沢山あったから後回しにしていたわけではない。
断じて、問題を先送りにしていたわけではないのだ!
(……とりあえず、覚えきれねーと思うし、最初は三つぐらいにしとくか)
浩助は気になっているスキルを三つ厳選して、ねこしぇに説明を求める。
(まず、一番気になっているスキルだな――。コイツだ)
【スキル】憤怒【特上位スキル】
効果時間:パッシブスキル/消費MPなし
説明:自身の怒りに反応し、自動発動。効果時間中、攻撃力十倍。防御力〇。思考能力の極端な低下。
開放必須条件:悪鬼LvMAX、狂犬LvMAX、狂気LvMAX
思った通りのクソスキル説明を確認し、浩助は内心で嘆息を吐き出す。
このスキルを発動させた直後、浩助は沙也加相手に本気でキレかかった経緯がある。
オーク相手にも冷静に対処できていなかった気がする。
それに、鎖那にも言われた。
(憤怒の効果が薄れてきている、だったか……?)
以上のことより、このスキルが地雷であると考え、浩助は真っ先に確認の槍玉に上げたのである。
《憤怒、ですニャ? 憤怒は、スキルの持ち主の怒りにあわせて、自動で発動するスキルですニャ。圧倒的な攻撃力を得られる代わりに、防御力を捨て、尚且つ思考能力も低下しますニャ。狂戦士のスキルと似ているですニャが、狂戦士のスキルは常時発動で攻撃力は三倍止まりですニャー。その代わりに防御力低下は半分になりますニャー》
(防御力はゼロのまんまだから、それは良いとして……、思考力低下ってのが問題だな)
その問題さえ解決できるのなら、戦闘中の切り札として使える能力になるかもしれない。
ねこしぇに、憤怒のスキルをコントロールできるようなスキルがあるか尋ねてみると、一応、あるにはあるという答えが返ってくる。
《思考力低下効果のつくスキルは、思考力上昇系のスキルで打ち消せますニャー。例えば、深慮遠謀とか、神算鬼謀などのスキルがそれですニャー》
うん、全く取れる気がしない。
浩助は早々にコントロールすることを諦める。
《後は、憤怒の思考能力低下の効果に抵抗する、精神系のスキルを取得することですニャー。これらは、思考能力の低下を防ぐというよりも、バッドステータスに抗うという意味で、一定の効果を発揮すると思われますニャー》
そちらならば、まだ何となく望みがありそうだ。
浩助は、どんなスキルがあるんだ? とねこしぇに尋ねる。
《精神修養、臥薪嘗胆、不惑あたりがありますニャー》
羅列だけされても、どれがどれだか分からない。
(一番簡単に取得できそーな奴は?)
《精神修養ですニャー。座禅をしているだけでスキルが習得できますニャー。しかも、累計時間が一定に達する度に、スキルレベルが上がりますニャー。ただ、スキルレベル上昇に伴う、ボーナスはMPのみとなっておりますニャー》
(座禅組むだけでいいんだろ? ボーナス少なくても問題ねーよ)
早速、明日から暇な時間でもみつけて、座禅を組んでみようと浩助は決意する。
(そんじゃまぁ、憤怒についてはいいわ。他のスキルの説明なんだが……、コレとコレの違いが良く分からん)
【スキル】闇魔法【中位スキル】
効果時間:各魔法個別/リロード時間:30秒/消費MP:各魔法個別
説明:魔法攻撃力+200~560、闇属性+560~980、光属性-560~980の補正。効果はスキルレベルによって上昇。スキルレベルに伴って、使用できる魔法が開放される。
開放必須条件:なし
【スキル】暗黒魔法【上位スキル】
効果時間:各魔法個別/リロード時間:30秒/消費MP:各魔法個別
説明:魔法攻撃力+200~560、暗黒属性+560~980、聖属性-560~980の補正。効果はスキルレベルによって上昇。スキルレベルに伴って、使用できる魔法が開放される。
開放必須条件:闇魔法LvMAX、狂気LvMAX
(一応、違うものなんだな……)
説明文を読む限りでは似たようなものに見えるのだが、違う区分ではあるらしい。
これも、ねこしぇに説明してもらう。
《闇魔法のスキルは、自然属性である火水木土魔法に連なる光闇の属性魔法のひとつですニャ。自分の影や相手の影を媒介にして、特殊な魔法が使えますニャ。暗黒魔法の方は、自然属性の魔法でニャく、聖属性と対をなす、暗黒属性を操る魔法ですニャ。基本的には、精神系に働きかける魔法が多いのが特徴ですニャ》
(ふーん、何か陰湿な感じの魔法が多そうだな。一応、どんなもんか中身も聞いておくか)
《闇魔法と、暗黒魔法、どちらを説明しますかニャ?》
(んじゃ、卑怯そうな暗黒魔法で)
《ご主人様は、なかなかひねくれ者ですニャ》
(るっせぇ! いいから、説明しろ!)
心の中で浩助が怒鳴ると、はいですニャー、と一声鳴いて、ねこしぇが浩助の網膜に情報を流し込んでくる。
表示されたのは、暗黒魔法の魔法名と消費MPの一覧であろうか。
説明がないので、どのような効果のものかが良く分からない。
《とりあえず、レベル1からの習得魔法からいきますニャ》
(頼むわ)
《レベル1は、認識妨害ですニャー。ご主人様を敵が認識できなくなりますニャ。ただし、指定は個別対象ですニャで、複数人に掛けるとなるとMPが沢山必要になりますニャ》
(ふむ。女湯覗く時とかに便利そうだな。……って、こっちの世界で風呂ってどーすんだろ?)
《えっと、ですニャー……》
(あぁ、ちょっとボケてみただけだから。気にすんな。続けてくれ)
多少躊躇ってから、ねこしぇは続ける。
《レベル2は、精神恐慌ですニャー。相手を一時的に混乱させる魔法ですニャー。魔法の詠唱を途中で止めたりするのに便利ですニャー》
(混乱……。何か、相手に妙な映像でも見せたりでもするのか?)
《強制的にヒステリー状態にすると考えるといいですニャー》
(煽る時に使えっかな……?)
でも、それなら魔法を使わなくても、『口撃』でなんとかできそうな気がしなくもない。
《レベル3は、精神増強ですニャー。支払うMPの量に応じて、魔法攻撃力を上昇できる魔法ですニャー。魔法防御力が高い相手に対して、無理矢理暗黒魔法を通す時に重宝しますですニャー》
(なるほど、魔力の増幅魔法ってことか。しかし、効果だけ聞くとレベル1で習得できる魔法でも良い気がすっけど……)
《MPさえあれば、魔法攻撃力を極限まで上昇できる魔法ですニャー。それなりに、危険だと思いますニャー》
(そう考えるとそっか。ってか、それがレベル3で大丈夫なのか……?)
これ以上のレベルになると、更に酷い魔法が出て来るのだろうか。
恐ろしいやら、頼もしいやらで、浩助の顔も自然と引き攣る。
《レベル4は、強制失神ですニャー。読んで字の如く、強制的に相手を失神させますニャー》
(あぁ、うん。ヤッベーのきちゃったよ……)
浩助の魔法攻撃力は、6652。
これを下回る魔法防御力の敵は、この魔法を食らっただけで、戦闘も行えず倒れることとなる。
情緒も風情も何もなく、効率的に相手を倒すという一点を鑑みるならば、実に有用な魔法といえることであろう。
その代わり、魔法防御力が高い相手には、役立たずとなってしまうが。
(狩りとかには使えるかもしれねーか)
《レベル5は、精神吸収ですニャー。相手のMPを削って、削った分だけ自分のMPを回復しますニャー》
(……ちょっと待て)
《ニャ?》
恐ろしいことをサラリと言ってのける。。
浩助の考え違いでなければ、これはとんでもない魔法である。
震えで思考が乱れるのを気にしながら、『確認』する。
(その魔法のMP吸収量って、もしかして魔法攻撃力に依存しないか?)
《その通りですニャー。というか、基本、魔法攻撃力は全ての魔法の威力に関係しますニャー》
(そーか。そーか。……だとしたら、その精神吸収って奴は、精神増強と掛け合わせたら、とんでもねーことになるんじゃねーか?)
精神増強で魔法攻撃力を超強化。
超強化した魔法攻撃力のままに、精神吸収を使用。
相手のMPをしこたま奪い取り、更に精神増強を実施、精神力を超強化。
超強化した魔法攻撃力のままに、精神吸収を使用、以下略――。
ろくでもないループが完成していた。
《それは、現実的には不可能ですニャー》
(あん?)
《暗黒魔法は魔法発動後、三十秒のクールタイムが必要ですニャ。精神増強の効果時間は六十秒ですニャで、一応発動は間に合うですニャが……。それを相手が黙って見ているとも思えないですニャ》
(つまり、即発動のコンボじゃないし、使った時点で警戒されるから当てるのも困難ということか?)
《できニャくはニャいと思いますが、非現実的ですニャー》
ふむ、と浩助は考える。
確かに、そんな酷いループが簡単に成り立つほど、この異世界は甘くはないだろう。
だが、待てよ――、と浩助は自身の記憶を掘り返す。
(なぁ、ねこしぇ……)
《ニャんですか、ご主人様?》
(確か、捷疾鬼のスキルの間は、クールタイムって回復してたよな?)
《…………。回復していましたニャ……》
(つまり、俺なら普通にコンボ可能ってことだよな?)
精神増強で魔法攻撃力を超強化――、捷疾鬼中でクールタイムを誤魔化しつつ、捷疾鬼中に精神吸収を発動。
相手は躱すこともできずに食らい、浩助のMPは大幅に回復して、相手のMPは大幅に削れる。
ついでに、攻撃系の魔法でもぶつけてやれば、相手には大ダメージが通りそうではある。
この流れで、やれないことはないだろう。
やれないことはないのだが……。
(でも、それだったら、普通に捷疾鬼中に相手に攻撃仕掛けた方がはえー気がするな。捷疾鬼からの憤怒使えば、大体相手は死ぬだろ)
《大幅なMP回復の裏技的には使えるかもしれませんニャー》
(くそぅ、割とエゲツねーコンボだと思ったんだけどなー。まぁ、いいや、次だ、次!)
ヤケクソ気味に叫び、ねこしぇに続きを促す。
《レベル6では、精神支配を覚えますニャ。これは、レベル7で覚える魔法の起動魔法となりますニャ。一応、食らった相手は術者の許しなしでは動けなくなりますニャ》
(? ちなみに、レベル7の魔法っていうのは?)
《精神操作ですニャ。術者の思い通りに相手を意のままに動かせますニャ》
(やっぱ、暗黒魔法エゲツねぇわ……)
《レベル8で覚える魔法は、記憶改竄ですニャ。相手の記憶を勝手に改竄することができますニャ。意中の相手に使ってラブラブになるも良し、敵を味方に引き込むのも良しの、効果時間なしの無制限魔法ですニャ》
(ちょっと待て。ここまで聞いてきて怖くなってきたんだが……。この暗黒魔法の使い手って、この異世界の中にはどれぐらいいるもんなんだ?)
よくよく考えてみなくても、浩助の魔法防御力はゼロである。
それは、抵抗のしようもなく、問答無用で魔法に掛かってしまうということだ。
そして、暗黒魔法の使い手がそこら中に居るのならば、浩助は迂闊に外にすら出ることもできなくなる。
《暗黒魔法の使い手は、極少数だと思われますニャー》
だが、ねこしぇの答えは、浩助に安堵をもたらしてくれるものであった。
《魔界の住人の極上層部の二、三人がレベル7程度まで嗜んでいるぐらいで、それ以上の使い手となれば――》
暫し、逡巡。
《魔王とご主人様ぐらいのものですニャー!》
(魔王と同レベルかよ!?)
安堵が急激に不安になったのは言うまでもない。
それを見透かしたようにねこしぇは言う。
《一応、御主人様には暗黒魔法耐性(極)が付いていますニャー。ですから、御主人様と同レベルの暗黒魔法の使い手でない限り、暗黒魔法の脅威は及ばないですニャ》
(ちなみに、同レベルの相手だった場合は?)
《魔法攻撃力と魔法防御力を比べて、魔法防御力が上回っていたら抵抗できますニャ》
(完全に望み薄だということは分かった……)
とりあえず、後のことは考えないようにして、ねこしぇに続きを促す。
《レベル9で覚えるのは、精神崩壊ですニャ。一瞬で相手を廃人にさせますニャ。その後で記憶改竄などに繋げるとやりやすいと思いますニャ》
(エゲツないコンボを思いつく前に、エゲツないコンボを推奨された……、どうしよう……)
《ご主人様が最初に言っていたことが正解ですニャー》
(ん?)
《暗黒魔法は、すこぶる卑怯なんですニャー》
(身も蓋もねーな!?)
《では、最後の魔法ですニャー。レベル10で覚える魔法は、精神世界ですニャー。肉体を捨て、精神生命体となり、他人の精神を蝕んだり、支配したりできますニャ。物理側からは防御不可の最終手段ですニャ》
(怨霊とか、亡霊とか、悪霊みたいなもんになれるっつーことか? ちなみに、肉体を捨てるって言ったが、物理世界? に戻ってくることはできるのか?)
《相手の精神を乗っ取ったら、その相手の肉体で顕現できますニャ!》
(やっぱり悪霊じゃねーか!)
全体的に恐ろしい魔法が多かったが、その魔法の使い手が魔界の住人の極限られた人数だと知れたことは、有益だったと言えよう。
浩助は少し眠くなってきたのか、欠伸を噛み殺しながら、今度は闇魔法についての説明を求める。
ねこしぇは、その期待に応えるかのように嬉々として説明し――。
そして、浩助は偶然にもそこで、ひとつの魔法と運命的な出会いをするのであった。
魔王と戦うフラグをさらりと立てていくあたり、主人公ですよね。
戦うかは知りませんけど(行き当たりばったり)。
5/3 暗黒魔法耐性についての部分を修正。