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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第一章、調子に乗って闇魔法使っていたら、知らない所で恨みを買っちゃった結果がコレだよ!
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13、食糧問題に挑む

「おいおいおい、マジかよ」


 拓斗たち職人ギルドのメンバーと連れ立って、学食に赴いた浩助は、そこで信じられないものを目にしたかのように足を止めていた。


 それは、他のメンバーたちも同様だったようで、お互いに驚いたような、安堵したような、複雑な表情を浮かべる。


 何が、彼らを驚かせたのか。


「ピカー! 光る!」


 洛が興奮したように、一方を指差して楽しそうに床を跳ねる。


 そう、暗くなりつつある学食内を照らしていたのは、六台のスタンド型照明機だ。


 室内が暗くなり、危なくないように、とテーブルや厨房を照らし、その中で食事を摂っている生徒たちが大勢いた。


「先生方が、発電機の方を用意できないか、準備していたみたいだけど、上手くいったみたいだね。照明機材の方は演劇部の奴を借りてきたみたいだけど」

「んなことやってたのか……」

「本当なら、こういう状況を魔法で切り抜けられたら良いんだろうけど」


 拓斗は軽く肩を竦める。


「誰もが使えるってわけでもないし、助かるよね」


 そうだな、と相槌を打ちながら、配膳用の盆を持って、浩助は列を作っている生徒たちの最後尾につく。


 どうやら、ここに並んでいれば、配給が受けられるらしい。


「結構、人が沢山いるわね。足りるのかしら?」

「知らねー。足りなかったら、あの豚肉でも食ってればいいんじゃね?」

「あのね~、ご飯が食べられる最後の機会になるかもしれないのよ? そんな状況で、幾ら美味しいからって、(トロ)を選べるわけないじゃない」

「…………。えぇっと、その口ぶりだと、もしかして水原さん、あの肉食べたの?」


 恐る恐る拓斗が尋ねる。


 だが、その反応は普通だと浩助は思う。


 あれを、美味しい食材だと認識できるのは、食べた本人たちだけだ。


「結構、美味しかったわよ」

「調理チームから報告は受け取っていたけど、お、美味しいか……、うん……」

「まぁ、食べてみたら分かるわよ」

「職人ギルドのギルドマスターとして、食べないといけないんだろうな……、はぁ……」

「まぁ、頑張れ、拓斗」

「頑張る! タクト!」


 訳も分からず応援する洛の声援に応えるようにして、拓斗は弱々しく片手を上げる。


 というか、洛もちゃっかり列に並んでいたのか、と思う浩助を余所に配膳は着々と進み、十分の後には、彼らは同じテーブルへとついていた。


 在庫処分というか、あるもので作ったという感じの食事は、レパートリーを選べこそしなかったものの、この世界に着いてからの初めてのまともな食事ということもあり、その美味しさ、温かさに、思わず涙が滲むほどであった。


 事実、学食で食事を摂っている生徒の何人かは(まなじり)を拭っている。


「美味しい! 御飯! 美味しい!」

「おう、洛も気に入ったか。けど、明日からはまともに食えるかどーかも分からねーから、ちゃんと味わって食うんだぞ?」

「ですニャー、分かった!」


 訂正するのも馬鹿らしくなり、浩助は「なら良いや」とばかりに、自分の目の前の食事に箸を伸ばす。


 焼き魚定食ということだが、この先、まともな魚が食べられるかどうかが分からないため、現状では貴重品だろう。


 普段は、大して味わいもしないくせに、浩助はこの時ばかりは高級食材に手を出すかのように、慎重に箸をつけていく。


 身をほぐし、醤油をちょいと掛けた大根おろしと共に口元へと運ぶ。


 ――美味い。


 日本の焼き魚は、やはり心に沁みる程に美味い。


「この味を忘れねぇようにしねぇとな……」


 それは、故郷に帰るための決意と共に心に刻むべきものなのだろう。


 隣でミートソースパスタを食べている沙也加も小さく頷く。


「それにしても洛ちゃんは、箸を使うのが上手いな」

「えへへー」


 関心したように言う拓斗の隣では、洛がハンバーグ定食を器用に箸で切り分けていた。


 どうやら、仙人界にも箸を使用する文化があるらしい。


「しかし、仙人ってのは、霞でも食って生きてるもんだと思ってたんだが、フツーに飯も食うのな」

「食べない、大丈夫! 食べる、もっと大丈夫!」


 洛の言葉の意味が分からず、その場の全員が首を傾げる。


「食べなくてもいけるってことかしら?」

「良く分かんねーな。ねこしぇ、今の言葉の意味分かるか?」

《ニャー。洛さんは、仙人は食事の必要は薄いものの、ある程度は必要としている、と言っているようですニャー》

「要するに、食わなくても平気だってことだろ。ボカしやがって。ちなみに、どれぐらい、食べなくても平気なんだよ」

「絶食、三百、季節、回る」

《人類の時間で言うと、三百年ぐらいですニャー》

「…………。お前、食う必要ないんじゃね……?」

「ですニャー! 酷い!」


 食糧事情の問題を考えると、浩助の言葉は最もなのだろうが、人道的に考えると酷い話となるのだろう。


 事実、沙也加も、「洛ちゃんだけ仲間外れだなんて、可哀想じゃない!」などと憤慨している。


 ただの女子の団体意識なのかもしれないが。


「あー、はいはい。こいつら、ホントーに分かってんのかね? 明日には俺ら飢え死にするかもしれねーってぇのに。なぁ、拓斗?」


 だが、拓斗の返事はない。


 箸を口元に運び、そのままの姿勢で固まっている。


「……拓斗?」

「…………。……浩助」


 ようやく意識を取り戻したと言わんばかりの間があった後、拓斗は恐る恐る浩助の焼き魚定食を指差す。


「すまないけど、その魚、一口だけ貰ってもいいか……?」

「あん? まぁ、魚なんて次に何時食えるかわかんねーからな。いいぜ。……ただし、一口だけだぞ! あと、大口の一口とかは無しだかんな!?」

「悪い、ありがとな」


 そう言って、拓斗は浩助の鯵の開きに箸をつけ、本当に極僅かな身を口に運ぶ。


「――やはり」


 それは、拓斗の考えを裏付けるものであったのか。


 彼は力強く頷くと、周囲で談笑しながら食事を食べていた職人ギルドの面々に声を掛ける。


「すまない、皆! まだ、食事をしないでくれ! 箸をつけてしまった人は箸を置いて!」

「おいおい、どうしたんだよ、拓斗?」


 その横暴ぶりを見兼ねたのか、浩助が口を挟もうとする。


「見つけたんだよ!」


 だが、拓斗はそんな抑止力もなんのその、満面に気色を湛え、興奮したようにまくしたてていた。


「食糧問題を解決する手段を!」

「はぁ?」

「食べたら出てきたんだ! 調合レシピが! 素材さえあれば、米でも魚でも作れる!」


 一瞬の静寂。


 拓斗が何を言っているのかを考えて――。


 一番最初に口を開いたのは沙也加であった。


「あ、錬金術Lv3……」


 拓斗は大きく頷く。


「レベルが高くないから、大したものは作れないと思っていたけど、普通の食材ならレベルが高くなくても作れるみたいだ! そして、食材を食べれば、そのレシピがステータスに記録される!」


 浩助にも徐々に分かってきた。


 つまり、今、学食にあるメニューを片っ端からつまみ食いすれば、そのメニューに関しては材料さえあれば、ある程度、再現が可能になるということか。


「今から、俺が、少しだけ皆の食事をつまみ食いさせてもらう。それで判明したレシピを公開するから、皆協力して欲しい!」

「あの、そういうことでしたら……」


 一人の女生徒がおずおずと手を上げる。


「私も錬金術のスキルがありますので手伝います」

「それなら、俺もだな」

「僕も低いけど、あるんで……、手伝います」

「よし、じゃあ、手分けしてレシピを確保しよう! 皆も協力頼む!」


 席についていた職人ギルドの面々が大きく頷く。


 素材が確保し易いものかどうかは不明だが、それでも食料を入手する方法が増えたのは喜ばしいことだ。


「簡単なレシピで、御飯が作れると嬉しいけど……」

「錬金術Lv3で作れるものなんだろ? そんな難しいものじゃないんじゃないか?」

「難しくなくても、この辺で取れる素材じゃないと大変だと思うけど」

「あぁ、それなら心配ないよ」


 拓斗が洛のハンバーグを試食してから、笑顔を見せる。


「御飯のレシピは、テンガイソウとリケイジュという木の葉っぱなんだけど、校庭の外に沢山生えてるから。だから、御飯は心配しないで良いと思う」

「そうなの? 良かった~」


 安堵して、胸を撫で下ろす沙也加だが、次の瞬間には何とも言えない微妙な表情となる。


「でも、草から出来たお米を食べるってのも、何か違和感あるわよね」


 それは、誰しもが思っていたことなのか、皆して困ったような笑顔を貼り付けるに留まったのであった。

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