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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第五章、魔王とかダサすぎて震えてくるんで、ちょっと三メートルぐらい離れて歩いてもらえませんかねって言いたかった結果がコレだよ!
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123、暴力謀略

 月の光が闇夜を薄く照らし出す中、魔物が跳梁跋扈する林中を駆けていく集団がある。


 地鳴りを響かせて障害物をないものとして爆走していくのは、後ろ足だけが妙に発達した不格好な竜――いや、もしくは鱗の生えた蛙――たちの集団であった。そのいずれもが五メートル近くの巨躯を誇り、林中の障害物を根こそぎ破壊しながら進み続けている。

 勿論、そんな無茶苦茶な走行のために、龍の背は例え鞍が付いていようとも恐ろしく揺れるのだが、その振動を子守唄代わりに男は足を組んで座っていた。


「親父殿」


 少女の言葉に、男――ベリアル・ブラッドは目を覚ます。

 いや、その反応の早さからして、元々眠っていなかったのかもしれない。


「……ぁん、どうした?」


「竜軍師殿からの定期連絡が途絶えたぞ」


「……ぁの馬鹿がッ」


 不機嫌そうに歯軋りするベリアルを前にして、恐怖にかられたように顔色を青くする少女――ジーニャ・アンクローズ。

 それもそのはず、現在、魔王城に帰還しようとしているベリアル軍の総数は出陣時の三分の一程度にまで減っている。十二柱将に至っては、ジーニャ以外生死不明だ。これから覇を握る魔王軍の主力部隊にとってはあまりにお粗末な結果だと言えよう。特にバルムブルクとアイリーンに関しては、ベリアルも目を掛けていただけに損失による痛手が大きい。


「……ッチ、帰ってこないなら仕方ねぇ」


「あの、親父殿……。お言葉なのだが、ファルカオ殿を待つためにも行軍の速度を落とされては如何だろうか?」


「……ぁ?」


 軽い怒気の篭った目に怯えながらも、ジーニャは諫言を試みる。


「このままでは、親父殿の駆る陸竜がもたない。それに、歩兵の中にもついてこれずに脱落している者もいるという。この状態で魔王城まで戻ったのであれば、それこそ最初の軍勢の十分の一しか残らないことに――」


「……れがどうした?」


「え……」


 ベリアルの瞳を見た瞬間、ジーニャは全身が竦むような思いを味わっていた。


 どう考えても自分は間違ったことを言っていない自覚があるのに、ベリアルの圧力で詰め寄られるとそれが間違ったことのように感じられてしまう。それが、強者による威圧感というものなのだろうか。


「……テメェは勘違いしているようだから教えておいてやる。このベリアル軍は俺が楽をするために作った玩具だ。……モチャが幾ら壊れようと、遊ぶ奴にとっては痛くも痒くもねぇ。……だから雑魚がいくら脱落しようが関係ねぇんだよ」


「親父殿の考えはわからないではないが、戦争をやるには駒が必要だ。スネアだって、アーカムだってこのまま手をこまねいているはずはないだろう? 人手はどうしたって必要になる。その辺を考えて振る舞っては貰えないか?」


「……分かってねぇようだな、ジーニャ」


 ベリアルはジーニャの細い顎を片手で捉えるとぐいと自分の目の前にまで引き寄せる。


「……俺様がこの小娘を魔王城の玉座の間にまで届ければ俺様が魔王となる。そうなれば、スネアもアーカムも俺様の下だ。……戦なんぞ起こるまでもなく全てが片付くんだよ」


「な、何を言っているんだ、親父殿……? それでは、まるで魔王様はもう……」


「……クックック」


 悪意に塗れた笑みを刻み、ベリアルはジーニャの顎を離し、傍らに視線を飛ばす。


 そこには、ぐったりとした様子で鎖に繋がれたアンの姿があった。連れてこられた当初は口答えをする元気もあった彼女だが、今は喋ることすらできない程に疲弊している。反抗的な様子のアンに向かって、ベリアルがお灸を据えた結果ではあったが、それでもアンの目の奥の光は死んではいなかった。


「……気に入らねぇなぁ」


 そう言って、ベリアルはアンが繋がっている鎖を左手に持つと、アンをそのまま陸竜の背中から投げ放つ。彼女はそのまま、地面に引きずられるようにして、木の根や石に体を強くぶつけて声ならぬ声を発していた。それでも魔王の娘であり、浩助に鍛えて貰っていただけあるのか、陸竜に引きずり回された程度では即死することはない。


 少女の悲鳴がやがて途絶えたのを見て、ベリアルは片手を振るってアンを陸竜の背に戻す。彼女は体の至る所から血を流し、全身が見るも無惨な裂傷擦過傷の塊となっていたが、それでもその視線は何かを信じてやまないという力を宿しベリアルを鋭く貫いていた。


「……ッチ、条件にテメェを連れてくるって話がなけりゃ、この場でぶっ殺してんだがよ」


「…………」


「……ぁん?」


 アンが何かを呟いたのを聞いた気がして、ベリアルは思わず耳を澄ませる。

 そんな彼の耳に聞こえてきたのは、途切れ途切れの言葉――。


「…………。高威力……、高性能……、高機動……」


「……ッチ、ぶっ壊れたか?」


 恨み言にも聞こえるアンの言葉に興味を失くし、ベリアルはジーニャに視線を向ける。


「親父殿……」


「……ジーニャ、テメェはグダグダとくだらないことを考えてないで殿を務めてこい。……やることはわかってんだろうな?」


「怪しい追手がやってきたら殺すのだろう? わかっているさ。……だが、親父殿。先程の私の言、どうか心に留めおいて欲しい。……どうか」


 では失礼する、と一礼をして去っていくジーニャの後ろ姿を見ることもなく、ベリアルは陸竜に鞭を入れる。

 竜はその鞭に命を燃やすように益々加速し、周囲の岩や木々をなぎ倒して真っ直ぐに進んでいく。まるで道など関係ないと言わんばかりの暴挙に、ベリアルは満足げな笑みを浮かべて前方を見つめる。


 向かうは魔王城。


 ソレ以外の目的は全て瑣末事――、彼の表情には如実にそう書かれていたのであった。


     ●


 魔王城の建てられていた魔界という世界は、光がなかなか届かない世界であった。

 空は赤く厚い雲に覆われ、届く光も濃い緋の色をしており、当然そんな環境であるからして、大地にも緑はない。その代わり、他の世界ではあまり見られないような漆黒の石材が良く産出する。黒曜石ともまた違った黒い石材は魔族の建材として良く利用されており、当然魔王城にもふんだんに利用されていた。


 その黒石を恐る恐るといった調子で魔法陣から出てきた足が踏む。


 どうやら、空間転移の魔法のようだが、利用者はそれに慣れていないようだ。何とか地面の位置をつま先で割り出すと、ゆっくりと魔法陣から姿をのぞかせる。


「ワープ系の禁術ね。……なるほど、なかなか便利だ。――で、ここが魔王城ということで良いのかな?」


 青白く輝く魔法陣からゆっくりと姿を現したのは夏目朗である。

 その後に続いて姿を現したオルディアスが然りと頷く。


「スネアの魔術は魔界一の精密さを誇っている。彼女が術式を間違えることはまずない。ならば、ここは自然と――」


「――おや、スネア様が帰ってきたのかと思って出迎えにきたのですが、オルディアス卿でしたか」


 まるで滲み出てくるようにして気配が生まれ、オルディアスと朗は同時に一点をみつめる。


 そこには、片眼鏡(モノクル)を掛け、紳士然とした格好をした壮年の男が立っていた。背が高く、姿勢もピンとしていることから、執事のような第一印象を受けるが、朗は言葉からこの男がただの執事ではないということに気付く。


「これは、アーカム・オールストン様。お早いお出迎えですな」


 オルディアスが朗にもわかりやすいようにフルネームで相手を呼び、恭しく頭を垂れる。お前の獲物はここにいるぞ、早く何とかしろ、とあからさまなアピールである。朗はオルディアスの明解なパスに心の中で苦笑を漏らしながらも、オルディアスを見倣って恭しく頭を下げていた。

 それに気付いたのだろう、彼の視線が不思議なものでも見るかのように朗を捉える。


「おや、見慣れない御方もいますね。そちらはどなたでしょうか、オルディアス卿?」


「――お初にお目にかかります。私、人間の夏目朗というものです。スネア軍の参謀をやらせて頂いております」


「ほう、『天魔』殿の次は人間の参謀を採用致しましたか。なかなかスネア様も面白いことをしなさる」


 口では感心した風を装いながらも、その視線はオルディアスへと向けられている。

 今の話が事実化どうかを問い掛けているのだろう。

 だが、オルディアスは既に朗との共闘を確約している。そこから突き崩すのは不可能だろう。事実、オルディアスは無言で軽く首肯してみせていた。


「そういうことでしたら、私も歓待しないといけませんね。ようこそ、魔王城へ。だだっ広い所ではありますが、どうぞゆっくりしていって下さい」


「えぇ、ありがとうございます。――最も、そうはできないと思いますけど」


「……どういうことですかな?」


 喰いついた、とばかりに朗は目を細める。


「この魔王城が戦場になるであろうということですよ。ちなみに、オールストン様は権力などに興味は?」


「人並にはありますよ。ですが、スネア様やベリアル様と争ってまで手に入れたいとは思ってはいません。魔王の座ともなると特にですね」


 アーカムの零した言葉に、一瞬、朗の表情が強張る。

 そして、彼はそのまま明晰な頭脳で得た情報を解析し、素知らぬ顔で口にする。


「『魔王の座を狙って、ベリアル軍と我々が事を構えている』という状態に貴方は不干渉を貫くと?」


「有り体に言ってしまえばそうですね」


 アーカムから返ってきた答えを朗は頭をフル回転させて考える。

 そして、彼の頭脳で出た結論はこうだ。


(魔王は、もう死んでいる……? 跡目争いが起きているのか……?)


 彼の中では魔王はまだ生きていて、アーカムを調略後にベリアルを降してから魔王軍の全軍をもって魔王退治と洒落込むつもりであった。

 だが、その計画の最終目標がいきなり失くなった。

 彼は即座に計画の見直しを実行し、その目標を挿げ替える。即ち、ベリアルを降し、そのまま魔王の座を奪うというものに――。


 朗はそんな自分の考えをおくびにも出さずに笑顔を浮かべる。


「それは、魔族の安寧を願ってのものと捉えればよろしいですか? 誰が上に立とうとも自分が支えれば、政は上手くいくだろうという自信から来る傍観であると?」


「まぁ、あまり大きな事は言いたくないのですがね。現在、我が国は天界と交戦中ですし、三つ巴、四つ巴となって戦力を減らすような泥沼は避けたいというのが本音ですね」


「そうですか。なるほど。……ですが、果たしてそれが最善でしょうか?」


「どういうことです?」


「私には戦力を一極に集中させ、どちらかを叩き、早々に決着を付けてしまった方が損耗が少なくなるように思えます。均衡し合う戦力同士が戦っていては、結果として損耗は酷いものとなるでしょう」


「なるほど。一理ありますね」


「その辺のことを少しお話できませんかね? できれば二人で……」


「ふむ」


 少し品定めするように視線を這わせ、アーカムは破顔する。


「面白いですね。少し、お話してみましょうか?」


 その言葉を聞き、朗の笑みは益々深くなるのであった。

スネア「わ、私の出番は……?」

オルディアス「スネア様は全軍を魔王城に移動させてから戻ってきて下さいね♪」

スネア「えぇ……」

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