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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第五章、魔王とかダサすぎて震えてくるんで、ちょっと三メートルぐらい離れて歩いてもらえませんかねって言いたかった結果がコレだよ!
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122、決戦前夜

新年あけましておめでとうございます。

本年度もぼちぼち更新していくので宜しくお願いいたします。m(_ _)m


そして、実験的にちょいと書き方を変えてみたりしています。

……年も変わったし、そういうのも有りですよね。(しれっ)

 太陽が頂点を過ぎ、ゆっくりと山際に入っていくのを背の高い木々が見守る。剣のように尖った葉が落ち行く太陽の光を惜しんで、懸命に光合成を繰り返す中、太陽とはまた違った光が空に瞬いて、次の瞬間にはその光は大地に突き刺さっていた。


 いや、突き刺さったわけではない。


 土煙を派手に上げながら転がるようにして大地を滑ったソレはゆっくりと速度を落として、ダンっと近くにあった樹を蹴りつけることで、その勢いを完全に殺して止まる。その結果、樹齢三千年はありそうな極太の樹が折れてしまったのだが、ソレにとっては大して問題ではなかったようだ。


 ふぅ、と一息吐いて呼吸を整える。


「やっぱ、空を飛ぶのは燃費が悪ぃわ。MPがもう空に近ぇし」


 地上に降りてきたのは黒髪黒目の凶悪面――有馬浩助である。

 彼はやれやれとばかりに折れた樹の根元に腰を下ろすと、帯刀していた刀を鞘ごと空中に投げ放つ。その投げ放たれた刀は、光の粒子を纏うと即座に学生服姿の少女へと変化してみせていた。


「やっぱり、途中で戦闘を挟んだのが痛かったわよね。あれで、大分、派手にMP使っちゃったもの」


 とんっと軽い足音を響かせて地面に着地した少女は首の後ろで縛られた尻尾髪を揺らしながら、浩助を振り返る。その姿は見惚れる程に絵になる。だが、先程の言葉でもわかるように、男勝りの勝ち気な言葉ばかりを使う残念美人なので、間違っても見惚れるといったような事態は起こらない。


 それが、水原沙也加という少女の特徴であった。


「くっそー、今日中に追いつくつもりだったんだがなぁ……! 仕方ねぇ、今日は此処で野営にして、MPの回復に専念すっか~。っていうか、俺の全力で追いつけねぇってどんだけ相手は早いんだよ……」


「何だかんだで相手が退いてから一時間以上の間が空いていたからね。難しいんじゃない?」


「それでも、俺は追いつける気がしていたんだが……?」


「相手もそれなりに早いってことでしょ。棗ちゃん~、出てきていいわよ~」


 沙也加が影に向かってそう呼び掛けると、ひょっこりと可愛らしい頭が顔を出す。


「あ、もう大丈夫な感じですか?」


「とりあえず、早く出て。人型だとMPがもたないから……」


「す、すみません!」


 まるでイルカが跳ねるかのように、華麗な動きで影から飛び出る川端棗。

 ちょっとした動作だというのに、浩助はそれだけで棗の身体能力の高さが分かったようで、ほぉ、と感心したような声を上げていた。


「はいはい、謝るのは後。とりあえず、今日はここで野営らしいから準備を手伝ってくれる? 有馬もまだ少しぐらいなら【スキル】影分身出せるんでしょ?」


「MPしんどいんだってぇの! 薪拾いや水汲みは俺とお前で高速で処理して、川端にはテント設営をしてもらえばいいだろ!」


「仕方ないわねぇ。そういう分担にしてあげるわよ。悪いけど、棗ちゃん、お願いできる?」


「私と有馬先輩の愛の巣……、いえ、何でもないです! 頑張らせて頂きます!」


 途中から浩助と沙也加の目が不信感に溢れていたことに気付いたのだろう。姿勢を正して、棗は慣れない敬礼で応える。そんな様子を数秒眺めた後で、まぁいいかという気持ちで浩助は棗に対して後ろ手を振る。


「んじゃ、ここは任せた。ねこしぇ、拓斗に貰ったキャンプ道具一式があっただろ? あれを川端に渡してやってくんねぇか?」


《おまかせあれですニャー!》


 浩助の肩から離れ、小躍りしだす黒猫人形に「よろしくね」と微笑みかける棗を背に、浩助と沙也加は薪に良さそうな枝を探して森に踏み入るのであった。


     ●


「……川端棗だっけか? ありゃ相当強ぇぞ」


「知ってるわよ。じゃなきゃ、頼まれても連れてこないわよ。……っていうか、有馬、それ生木でしょ。もっといい感じの枝を拾いなさいよ」


「いちいち細けぇなぁ。――っていうか、気付いてたのか?」


 分け入った林中で薪になりそうな木の枝を探しながら、浩助と沙也加の二人は雑談をしていた。その会話の主題となっているのは、川端棗についてである。靴が汚れるのも構わずに茂みを踏み固めながら、浩助は沙也加の答えに意外そうな顔を向けていた。


「なんとなくね。魔族の正規兵に気取らせずに近付いたり、動き自体に隙が少ないし、剣術家としてもビビッと来たわね。『あ、この娘強い』って」


「そんなもんかね」


「そういう有馬は何でそう思ったのよ」


 足元に転がっていた木の枝を拾いながら、生木か、そうでないかを適当に見極め、浩助は収納スキルで収納していく。伊角真砂子に野営時の薪集めのコツを習っていたような気もしたが、正直ほとんど覚えていない。ねこしぇを置いてきたのは失敗だったかなと浩助は今更ながらにそんなことを思う。


「俺が少し早く動いても、俺の動きを普通に捉えているみたいだからな。一度も驚いた顔を見せてないだろ、アイツ?」


「言われてみればそうかしら? 学園四天王の『外道の有馬』の動きを見切るなんてなかなかやるわね……」


「おい、その恥ずかしい渾名やめろ! っていうか、誰からその話聞いたんだよ!」


「え、鈴木くんがそれでイジると有馬が面白い反応するって言ってたわよ?」


「拓斗~……、ふざけんなよ~……、テメェ……」


 ぎりぎりと奥歯を砕きそうな勢いで噛み締める浩助――と、そこで気になったのか、沙也加は人差し指を上げて浩助に視線を向けていた。


「学園四天王っていうからには、あと三人はいるんでしょ? 他は誰なの?」


「んなもん聞いてどーする……」


「ただの興味本位だから気にしないで」


「一応、言っておくが、学園四天王ってのはただのネタだぞ? 本当にヤバイ奴はたったの一人だ。俺たちは、そいつに対する人数合わせで数えられてるだけだからな?」


「そうなの?」


「そうだよ。俺も慶次もそれで迷惑してんだよ。色々と色眼鏡で見られるわ、他校の生徒には喧嘩吹っ掛けられるわ……」


「ってことは、有馬と国崎君が四天王と。あと二人は?」


「テメェ、さらっと情報収集しやがって……、チッ、まぁ、隠しても仕方ねぇから言っとくか。もう一人は夏目朗。学校の成績が優秀で剣道部の主将も務めているが、何かと黒い噂が絶えねぇ男だ」


「夏目君なら知っているけど……、普通にいい人じゃない」


「……アイツに絡んだ他校の生徒が半殺しになったとか、そういう話があんだよ。結構、ヤバイ奴だと思うぜ、俺は」


「噂でしょ? 信じられないなぁ」


 口元に指をやり、思案気な表情をみせる沙也加。

 だが、浩助にとってはそんな夏目朗でさえも四天王の中では飾りに過ぎないと思っている。彼は続ける。


「まぁ、その辺はどうでも良いんだよ。問題は最後の一人だ。アイツだけはガチでヤバイ奴なんだよ」


「どうヤバイのかは知らないけど、私も知っている人?」


「名前ぐらいは聞いたことあるんじゃないか? 遠加野桐花(とおかのとうか)って言うんだが」


「あ! あの超綺麗な人!」


 学園には、『橘いずみ』という押しも押されぬ学園の華がいる。男を魅了する喋り方に、媚にまで見えない絶妙な可愛らしい仕草、そして、見る者の目を奪う艶やかな顔立ちにプロポーション。まさに、学園のアイドルという二つ名を欲しいままにする魔性の存在である。


 そして、そんなひたすらに目立つ存在である橘いずみとは対局の存在でありながら、その美貌ゆえに噂の的となっている人物がいる。それが、遠加野桐花という少女であった。


「深層の令嬢っていうか、見ているだけでため息が出ちゃうような美人でしょ? 男子もあまりに綺麗すぎて、声掛け辛いて嘆いてたぐらいだし……。あ、その綺麗過ぎる姿が学園四天王としてヤバイって話?」


「違ぇよ、馬鹿! アイツがヤバイのは口を開いてからだ!」


「どういうこと?」


「電波系だぞ、アイツ! しかも、本物だ!」


「え?」


 拾っていた薪を取り落とし、沙也加は自分の幻想が崩れた音をはっきりと聞いたのであった。



「つまり、遠加野さんと有馬は幼馴染で、その異常性を良く知っていると……」


「昔っから頭おかしいんだよ、アイツは」


 爆ぜる焚き火に木の枝を()べながら、浩助は思い出すようにしてその記憶を指折り数えていく。焚火の上では、ふんわりと甘い匂いを発する飯盒と、食欲をそそる臭いのする鍋が掛けられている。普通ならば、この美味しそうな香りに魔物が引き寄せられそうなものだが、火を燃やすのと同時に魔物が嫌う匂いを発する香を焚いているためか、そのような事態にはなっていないようだ。


 この香も、拓斗が錬金術で作った異世界キャンプ便利グッズのひとつである。拓斗様々である。


「俺が上級生にボコられたって聞いたら、三日後にはその上級生たち全員の弱みをリストにして笑顔で俺に持ってくるし、俺がこの店の料理は美味いって言えば、それと寸分違わない味の料理を作ってきてご馳走されるし、この間も二月の雪降ってる中呼び出されて行ったら、チョコ食わせていきなりキスされるしよ……、とにかく無茶苦茶な奴なんだよ……!」


「キ――!? その辺、詳しくお願いできますか、有馬先輩!?」


「……いや、聞いて面白い話でもねぇし、詳細は要らんだろ。――って何で水原まで身を乗り出す!?」


 女性陣二人の動きがおかしいためか、浩助の中の熱が少しだけ冷める。要するにちょっと頭冷やそうか → 冷やしましたな感じだ。


「いや、有馬の浮いた噂なんて聞いたことがないから、ちょっと興味あるってだけよ。続けて」


「そんな状態で続けるわけがねぇだろ!」


 ずずぃっと身を乗り出す女性陣に若干引き気味に構えながら、浩助は半眼を向ける。

 そもそも、浩助の幼馴染が少しおかしいという話をしているのであって、浩助が主眼ではないのだ。その勘違いを正すために、彼は咳払いをひとつすると話題の方向性を変える。


「とにかく、そいつは行動原理が普通と少し違う。……違う上で、それを実現できる力を持っていやがんだ。言っちまえばキ○ガイに刃物って奴だ。俺たち不良がいきがってるのとちょいとワケが違うんだよ」


「良くわからないけど……。それで、その遠加野さんは今何処に居るの? 湖畔の町の方には居なかったわよね? 学園にでも残っているの?」


「聞いた話じゃあ、学校休んでたから、この迷惑な現象に巻き込まれなかったとか言ってたかな? まぁ、とりあえずこっちには来てないみたいだぜ?」


「学校を休んだ?」


 思案気な表情を見せ、沙也加は確認するようにして浩助に問う。


「ねぇ、有馬。二月の雪降っていたのって十四日だったりしない?」


「あん? そんぐらいだったかな……? でも、何で知ってるんだよ?」


 無言で視線を交わして嘆息を吐き出す、沙也加と棗。

 この男は……と言われているような気がして、浩助は少しだけ仏頂面になる。


「それで? アンタはその娘に何をやったの?」


「何って……」


「キスされた後よ。有馬のことだから、どうせ怒ったんでしょ?」


「そりゃ怒るだろ。いきなり呼び出されていきなり襲われて平気な奴がいるかよ? だから拳骨をくれてやった」


「それは、ショックで学校も休むわよねぇ……」


「そうですねぇ。正直、私も同情を禁じえません……」


「何だか、俺がとっても悪者になっている気がする……。いや、俺おかしいことしたか!?」


 何となく疎外感を覚えながら、浩助は空を睨む。人間界に居た時は全然見えなかった満天の星空も、此処では空気が澄んでいるせいかよく見える。この世界に無理矢理引き込まれた時は、明日をも知れぬ運命に憤りを覚えたものだが、こうして生活が徐々にだが安定してくると、この世界の良い部分も見えてくるようだ。少なくとも吸う空気は、浩助が住んでいた場所のものよりも濃いように感じられた。

 ……その御蔭で少しだけ感じた苛立ちも抑えることができた。言葉を続ける。


「まぁ、学校を休んでいたおかげでこの世界に引き込まれなかったみたいだし、それはそれで結果オーライだろ。それよりも、だ。俺は連中に追いつけなかった方が気になってるんだが……」


「それは、相手が強いってことでしょ?」


 鍋をかき混ぜながら、沙也加がにべもなく言い放つ。浮いたり沈んだりする丸々とした野菜は有馬旅館でも料理長を務める棗の作だ。肉や野菜の下処理は勿論、味付けにも細かな工夫が為されており、野営(キャンプ)で食べるには少々贅沢な食事となっている。


 それを食べ頃と見て取ったのか、椀に汲みながら沙也加は浩助に手渡す。


「はい、毒味」


「もうちょっとマシな言い方あんだろ……」


 文句を言いながらも汁を啜る。味的にはコンソメスープに酷似した味であり、野菜の旨味が濃厚に溶け出している。その上、スープの舌触りは滑らかであり、いつまでも咀嚼していたい気分にさせてくれる。それに加えての食いでのある大きめの野菜。食べごたえがあり、ご飯がなくてもそれだけでお腹がいっぱいになってしまいそうな一品である。


「問題なく美味いわ。本当、川端は料理上手だな~」


「そ、そんなことないですよ~! もうっ、煽てても食後のフルーツしか出ませんよ!」


「出るんだ……」


 呆れた顔をしながら、沙也加は棗の分のスープも盛っていく。

 後は、炊いていた白米を配膳して――、余った分に関しては収納スキルに放り込む。


「本当、便利だよな。収納スキル」


「そうねぇ。今じゃ、コレなしじゃちょっと考えられないわね」


「逆に私は、こっちに来て携帯電話を使わなくなりましたよ。昔は盗さ――じゃなくて、写真を撮ったりするのに凄く利用していたんですけど……」


「あ、わかる。私も持ち歩かなくなったのよねぇ。まぁ、電池がないっていうのもそうなんだけど。携帯をいじっている時間がないというか、生きるのに精一杯なのよねぇ……」


 沙也加の言葉を聞きながら、そのせいで洛相手にヤバくなったことを思い出しながらも、心を落ち着けてご飯をかき込む浩助。まぁ、今となっては良い思い出である。


「思い出話はいいからよ~、敵の分析でもしよーぜー。今度の相手は何か強そうじゃん?」


「はいはい。有馬は携帯もってないもんね~」


「うっせ。それよりもだな――」


 かくして、有馬たちの騒がしい夜は過ぎていくのであった。

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