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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第四章、新魔王争奪戦が開幕したと思ったら、俺の妹にそっくりな娘が狙われてブチ切れた結果がコレだよ!
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120、湖畔の町防衛戦41 side浩助 ~終幕、そして5~

「……何となく、状況は分かったけどよ。つーか、謝るなよ。敵の術中にハマって、眠らされていた俺の面目が丸潰れだろーが」


 浩助はそう言って、頭を掻く。どうにもバツが悪いようだ。


「だが……」

「良いから、デーンと構えてろよ。傲岸不遜な方がテメェらしーんだよ。殊勝なテメェとか調子狂うわ。あー、真砂子センセ。……実際、生き残りはどんなもんなんだ?」

「それは、数を聞いているのかしら?」


 突然、話を振られた伊角真砂子は言葉の意味を確かめるようにしてそう返していた。


 その言葉に、浩助は黙って頷くと、彼女は(そら)んじるように宙を見つめてから視線を返す。


「そうね。まだ正確な数までは把握出来ていないけれど……、大体、二百人ぐらいにまで減っていると思うわ」


 開戦前に二百五十人ぐらいの人数であった事を考えると、その被害は五分の一にまで及ぶ。


 その被害を多いと見るか、少ないと見るかは、主観が入るところではあるだろう。


 少なくとも、この場にいる人間は少ないと捉えている人間はいないようだ。


「北山……センセ、この町の復興計画はアンタに任せて良いか?」

「有馬、お前はもう少し言葉使いをだな……、いや、先生と呼んだだけ進歩なのか……。まぁ、町の方の再建計画の方は受けてやろう。……だが、それを頼んで、お前は何をするつもりだ?」

「何って……」


 浩助は一度考えるように言い淀んでから、にこやかに笑みを浮かべる。


「少し寝たきり老人みたいになってたから、ちょっと体を解す運動をしようかなぁ~って?」

「……嘘が下手過ぎるぞ。本当の事を言え」

「……言ったら止めるじゃん」


 浩助は暗にその言葉が嘘だと認める。


 まぁ、教師の前で「お礼参りをしてくる」などと宣言すれば、止められるのが関の山だ。


 だからこそ、浩助は言葉を選んだのだが、どうやら北山には見透かされていたようである。


 いや、北山だけではない。


 この場に居る全員が、その言葉を嘘だと理解していたのだろう。


 刺さるような視線に、浩助は思わず顔を背ける。


 ――と、横手に佇んでいた沙也加と視線が合う。


 その視線を見て、浩助は何となく「合わせて」と言っているように聞こえた。


 軽く視線で返すと、沙也加の笑みが深まったような気がする。


「ま、どのみち、有馬は止めても出ていきますよ。何せ、アンちゃんがさらわれていますからね。――あ」


 これ以上はないワザとらしい合図を受けて、浩助は沙也加の手を取る。


 次の瞬間には、沙也加は刀の姿となっており、浩助は無詠唱で三体の影分身を呼び出していた。


「駄目よ、有馬君! 危険だわ!」


 刹那に届いたのは、担任の伊角真砂子の声か。


 ただでさえ、生徒の死に心を痛めているであろう恩師に向かい、浩助は静かに笑いかけると――。


友達(ダチ)も殺されて、弟子(アン)も奪われて、それでも動かねぇのは、最早、俺じゃねぇよ、真砂子センセ。……拓斗、慶次、洛、キルメヒア、アスタロテ、北山センセ。――後は任せとけ。……仇は取る!」


 言うなり、浩助が呼び出した影分身が穴の空いた天井に向かって、闇具作成(ダーク・クリエイト)で作り出したライフル銃を撃ち放つ。


 浩助は刹那でそれに反応すると、あっという間に宙を蹴って天空へと飛び上がっていた。


 いや、正確には宙を蹴っているわけではない。


「影で出来た弾丸を蹴って、空を飛んでいったのか……? 何処まで物理法則を無視する気だ、有馬……?」


 呆れたように呟く北山の声は、当然のように浩助の耳に入る事はなかったのであった。


     ●


「……にしても、まさか、水原の方が俺に助け舟を出してくれるなんてな。明日は雪でも降るんじゃねぇか?」


 使い捨ての影分身を生み出しては、その影分身に銃を撃たせ、その弾丸を足場として浩助は加速していく。


 エネルギー保存の法則を完全に無視した動きではあるが、そもそも、この世界の物理法則はあってないようなものだ。


 速度が早くなれば、当然エネルギー量も多くなり、物体に与えるダメージは多くなる。


 勿論、その物体が硬くなれば、更に物体に与えるダメージは大きくなるだろう。


 それを考えると、防御力が高く、速度が早いものは、『攻撃力も同時に高くなる』のが普通だ。


 だが、この世界の『ステータス』ではそうはならない。


 そういう(ことわり)の世界ではないからだ。


 だから、『銃弾を蹴って飛ぶ』という一風風変わりな移動方法も実現出来てしまうのだろう。


 なので、この辺の常識に今更ツッコむのはナンセンスなのである。


《だって仕方ないでしょ? 有馬が『相手をぶっ飛ばしに行く』って言ったら、皆、ボロボロの体を引きずってでも付いてくるって言うじゃない。そんなの見てられないし》

「そんな人望、俺にあるかぁ~?」

《人望っていうか、希望ね。アンタならやれちゃうんじゃないかって思えちゃうから、その希望に縋ってみたいって……、そんな感じ》

「そんなもんか? 良く分からねぇ……。まぁ、どっちにしろ、アンが拐われたって時点で救い出しに行くことは確定していたけどな」


 上空一万メートル。


 高々度と呼ばれる、その空間の中で浩助は辺りを見回す。


 米粒のように小さくなった、自分の町――。


 炎が燃え盛り周囲を赤く照らし続ける標高の高い山――。


 瘴気のような、薄闇のような、黒い靄が蔓延る灰色の大地――。


 遠くには、森を突き抜けて山のような巨人が闊歩するようなおかしな世界が広がっている。


 どうやら、まだまだこの世界には、浩助の見聞きした事のないようなものが沢山転がっているようだ。


 それらを確認しながら、浩助は「あ」と短く声を上げる。


「――っていうか、敵がどっちに行ったのか、そういう情報を一つも持ってねぇんだが!?」

《その辺は抜かりないわよ》


 言うなり、浩助の胸の辺りに真っ黒な影が広がっていく。


 あまりに不自然な影の動きに、浩助はすぐさま【闇魔法】である影繰の事を思い出す。


 徐々に胸部に広がっていく真っ黒な影を見るのは、あまり心地の良いものではなかったが、それでも浩助は沙也加のするがままに任せる。


 やがて、その闇が浩助の胸部を真っ黒に覆い尽くした辺りで、ゆっくりとその影の中から小さな頭が姿を現していた。


「お、お邪魔しま~す……。――って、有馬先輩!?」

「お前は、確か、えーっと、一年の……?」

「川端です! 川端棗です! 先輩!」

「そうだ、川端だ。――って、何で影の中から出てくるんだ? 影空間に閉じ込められていたのか? 水原もひっでぇことしやがるなぁ……」

《閉じ込めていたのは私だけど、頼んだのは彼女よ。彼女なら『追える』らしいし……》

「……追える?」

「はぁ、はぁ……、せ、先輩の胸の中……、先輩の香り……、しゅき……♪」

「おい、川端……?」

「ひゃい?! えぇっと、あはは……。だ、大丈夫です、先輩! 人探しなら私に任せて下さい!」

「本当に大丈夫なんだろうな……?」


 すこぶる不安な面持ちで、浩助はそう呟く。


 期待されていない雰囲気の中で、それでも棗はぽんっと自分の胸を叩く。


「任せて下さい! 私のストー……、じゃなくて追跡技術は学園一です! では、集中しますので少々お静かに願います」


 浩助は影分身を生み出す事をやめて、これ以上の上昇をストップする。


 耳に聞こえてくるのは、鼓膜が痛くなる程の風切り音。


 顔も凍りついてしまうほど冷たい強風に晒されているのだが、そんな中でも集中して相手を探し出す事が出来るのだろうか。


 だが、結果から言えば、浩助のその不安は杞憂に終わる。


 まるで、猟犬のようにあちらこちらに顔を動かしていた棗の顔が一点で静止したからだ。


「居ますね。あっちの方向に。何かを待っているように見えますけど……?」

「この距離で『見える』のかよ。どんな目してやがる。もしかして、固有(ユニーク)スキル持ちか?」

「えへへ~、そんなところです♪」

「まぁ、助かったぜ。……あっちか」


 棗の指差した先は、浩助が真っ直ぐ進んでいた方向より、左手六十度程ズレていた。


 このまま真っ直ぐ進んでいたのなら、見逃していたかもしれない。


「なら、ちと挨拶しに行くか。川端は影空間に引っ込んどけ」

「は、はい!」


 背後に影分身を生み出しながら、浩助は空中で姿勢を整える。


 空気抵抗を使って、体勢を操るのも特訓の中で幾度も繰り返した。今では慣れたものである。


一斉射撃(ファイア)!」


 背後から発射される銃弾が着弾する瞬間、浩助は足先を使ってその速度を器用に殺し、それを推進力に変える。


 銃弾の衝撃は一瞬で機動力へと変化し、浩助はそれを繰り返す事で宙を駆けていく。


 この移動方法――、難点を言えば、銃弾が風に流されたり、弾丸が回転しているため、上手く推進力に転化するのが難しいといった部分があるのだが、それを補って余りある程の長所があると浩助は考えていた。


 その一つが、地形の影響を受けずに移動できるという点だ。


 特に浩助は、速さを特徴とする戦闘スタイルなだけに、地形による悪影響を受けずに戦えるというのはかなりの利点となる。


《有馬の動きって、本当、おはじきみたいよね》

「そうか? 俺は大砲の弾を踏んで飛ぶ配管工のオッサンだと思っているんだが?」


 どっちもどっちな感想を抱きながら、彼らは未だに太陽が高い青空の中をかっ飛んでいく。


 やがて、五分もしない内に、『標的』の姿を浩助は捉える。


 背中に翼を生やし、空に滞空する男の姿――。


 その姿を認めた途端、浩助は音もなく急上昇する。


 元々、影で出来た銃だ。


 火薬などを使っていないため、静音は魔法の使用者の取捨選択の類となる。


 浩助は男のほぼ真上にまでやってきて、銃弾での移動をやめる。


 男との距離は直線距離で、五千メートルくらいか。


 その距離をスカイダイビングの要領で、上手く微調整しながら、あっという間に頭から落ちていく。


《パラシュート無しのスカイダイビングって、なかなか怖いものがあるわよね》

(そーか? 少し本気出せば、一瞬で何時間分もの動きが出来るし、こんなもん恐怖でも何でもねぇだろ? まぁ、それはともかく――)


 浩助の目の前に男の頭頂部が認められ、彼は減速する。


 そして――。


「――よぉ」


 湖畔の町が襲われてより、三時間と三十七分――。


 人類最高の戦力は、ようやく最初の魔族と会敵したのであった。

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