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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第一章、調子に乗って闇魔法使っていたら、知らない所で恨みを買っちゃった結果がコレだよ!
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11、戦闘回だった(過去形)

「……話し合い? 本気で言ってるの、それ?」


 少女の言葉は辛辣だ。


 何か、少女の機嫌を損ねるような現象があって、それを起因にしているのかもしれない。


 橘たちが何かやったのか? とも思ったが、それを聞くべき当事者は既に目の前にしかいない。


「というか、さっきの子たちは何処?」


 それは、浩助が聞きたいぐらいだ。


 逃げ足が早すぎて、気付いたら居なくなってましたー、なんて言えもしない。


《それを聞いてどーする? ですニャー》


 代わりに疑問をぶつけてみる。


 語尾の締まりがないのは若干迫力に欠けたが、この場合は都合が良いだろう。


 一生懸命に、愛想笑いのようなものを浮かべてみせる。


 相手に協力を申し出なければいけない立場なのだ。


 少しでも印象は良くしておいた方が良いだろう。


 だが、浩助の笑みは子供が見たら泣くようなものであり、どう見ても、傍らに『!!?』の文字が踊っていることを、彼は知らない。


「どうもこうもないよ! 二百と三十二回の季節を巡って鍛えに鍛えた洛の宝貝『万物創造』を破壊されちゃったんだよ! それなりの折檻をしないと気がすまないよ!」


 空中に宝貝を使って浮かぶ少女は、憤懣やる方ないないとばかりに鼻息が荒い。


 やはり、浩助の予想通り、橘たちが何かしたらしい。


 非は思いっきりこちら側にありそうだ。


(これ、俺がしゃしゃる必要あんのか?)


 それに気付いてしまったからこそ、浩助の気概も薄れる。


 浩助だって、いっぱしのアウトローを気取っている身だ。


 自分のケツぐらい自分で持てよ、という思いは強い。


 それが、嫌なら最初から跳ねっ返らなければ良いのだ。


 だが、それを今ここで言ったところで仕方ないだろう。


 当事者は今も一生懸命逃げている最中だろうし、目の前の少女の標的が完全に浩助に向いてしまっている。


 今から何かを取り成すには、少しばかり遅い。


 それに、少女は「折檻」という言葉を使ったが、ステータス差から言っても「拷問」に近いものが加えられる恐れが高い。


 それを考えると、望む望まぬに関わらず、浩助は少女の行手を妨げねばならないのだろう。


《だったら、悪いが教えることはできねー、ですニャー》


 少女の目が細まる。


 喜び、悲しみ、侮蔑、憤怒――。


 その瞳の色は様々に変化し、浩助に仔細までは教えない。


 ただし、分かることもある。


 あれは、ネコ科の肉食動物が獲物を狩る時の目に似ているということだ。


「そう。だったら……、キミが洛に折檻を受けるしかないね?」


 有無を言わさぬ口調。滲み出る怒気。


 それもそうだろう。


 浩助だって同じ状況になっていれば、キレてる。


 この少女がキレない理由がない。


 ――身構える。


 交渉は決裂――。


 本来ならば、八世界を融合させた犯人を見つけ出すために、良き隣人となっていたかもしれない種族は、愛するよりも早く、引っ叩くことを選択したようだ。


 剣道をやったこともないはずの浩助の両腕が、大鎚を振り上げる洛の動きに呼応して動く。


 一瞬、不気味なものを感じるが、沙也加を手にした時に盛大に剣系のスキルが開眼していたことを思い出し、浩助はあっさりと順応する。


 この辺、余り深く考え込まない性格が幸いしているか。


 一触即発の空気が漂う中――、その空気を破る者がいた。


《その代わり、そのパオペエより凄いものを見せて上げるってのはどうかしら、ですニャー》

「「――はぁ!?」」


 二人の声が重なる。その声を発したのは浩助と洛であり、そしてその要因を作ったのは――。


(――水原! てめぇ、何考えてやがんだ!?)


 そう、水原沙也加であった。


 ねこしぇの念話能力を借りて、あたかも浩助の意志かのように沙也加は提案を行っていた。


 心の中の怒鳴り声が聞こえたのであろう。沙也加の不機嫌そうな声が返ってくる。


《うっさいわね~。そんな怒鳴らなくてもいいじゃない!》


 どうやら、念話は気持ちに応じて音量も変わるらしい。


 まだ耳がキンキンするわ~、と沙也加はぶつくさと零す。


(お前が勝手なこと言いやがったからだろ!? どういうつもりだ!)

《あのねー、相手は、自分が頑張って作っていたものを、こっちに勝手に壊されちゃったから怒っているのよ? それを謝りもせずに、問答無用で返り討ちにするっていうのは、あまりに酷いってもんじゃない?》

(不意打ち云々言ってた奴の台詞じゃねぇだろ、それ!?)

《あれは、戦闘に対する心構えよ! 今は話し合いをするんでしょ? それなのに、早々に話し合い放棄してたら、意味ないじゃない。話を聞いてもらえないなら、まずは相手と交渉の余地があるように、相手の興味を惹くところから始めないと!》

(いや、だが……)


 あれほど激怒した相手を交渉の席に付かせることができるのか、浩助は迷っていた。


 そもそも、浩助は交渉事の経験なんてないし、口が回る方でもない。


 それだけ器用に生きていたら、不良にだってなっていない。


 それでも、やるしかないのだろう。


 ――この巫山戯(ふざけ)た世界から生き残るためには。


(……ちっ、やるだけやるって元生徒会長にも言っちまったか)

《そうそう。観念なさい》

(……けど、こんな条件で相手は乗ってくるのかよ?)


 ちらりと視線を向けると、少女は――。


 ――とても、挙動不審だった。


 くねくねチラチラ、とても見られたものではないダンスのようなものを踊り、視線を浩助に向けてくる。


 あまりに不可解な事態に、浩助も戸惑うしかない。


(何やってんだ、アレ……)

《もしかして》


 どうやら、沙也加には思い当たるフシがあったようだ。


《モノ造りが好きそうだし……、興味があるんじゃないの?》


 そういえば、少女のステータスには、職業:宝貝錬成師や、【スキル】鍛冶職人があった。


 そもそも、二百数年の歳月を掛けて、集中して道具を作成するほど、道具造りが好きなのだ。


 未知の技術や道具に対する興味が薄いはずもない。


 探ってみるか、と浩助は目付きを鋭くして、ねこしぇを介する。


《興味あるのか? ですニャー》

「きょ、興味!? そ、そんなのないし! 洛は怒っているだけであって、別に宝貝よりも凄いものが、どんなものかな!? とか、何をみせてくれるのかな!? とか、そんなこと全然思ってないしっ!?」


 どうやら、滅茶苦茶、興味津々のようだ。


 とはいえ、相手は異世界の職人――。


(興味はあるみてーだが、一体何を見せれば、度肝を抜けるんだ……?)

《あ、それなら大丈夫よ。異世界ものの定番があるから》

(マジか!? ジャパニーズオタク文化スゲーな!? っていうか、何で水原がそんなこと知ってるんだ!?)

《部活でちょっと足首やっちゃった時に、田中くんに借りたの。暇潰しに良い本ない?って》

(何で、そこで田中に頼る……)

《だって、田中くん、学校の休み時間は大体本読んで過ごしてるし、動かなくて良い暇潰しが欲しかったんだもん。あ、結構、面白かったよ?》


 授業をサボったり、教室から頻繁に姿を消す浩助が、級友の趣味について知っているはずもない。


 それでも、沙也加の情報をあてにするのであれば、分の悪い勝負ではないのだろう。


 浩助は、未だ見るに耐えない奇妙な踊りを続ける少女へと目を向ける。


《で? 見たいのか、見たくないのか、どっちなんだ? 見たくないって言うなら、このまま喧嘩っつーことになるんだが、どうする? ですニャー》

「うぐぐっ、精魂込めて作っていた宝貝が壊れちゃって、許せない気持ちは勿論あるけどッ! 嘆いていても戻るわけじゃないしッ! だったら、宝貝職人として、見識を広げた方が……!」


 悶えるように、その場で高速でクネる。


 これは、あとひと押しで崩れるか?


 押して駄目なら引いてみることにする。


《んじゃ、見たくねーってことでいいな? ですニャー》

「ま――、待ったぁ! 見る! 見るよ! うん!」


 浩助が意地悪く呟くと、少女は焦ったように、沙也加の出した提案に乗ってくる。


 まさに、『計画通り』か。


 今の浩助の顔なら、世界的な探偵も真実を掴む前に殺してしまいそうである。


《わっるい顔してるわねー。……あ、顔が悪いって意味じゃないわよ?》

(いらねーフォローしてんじゃねーよ! つーか、ここまでお膳立てしたんだ。出来ませんでしたじゃすまねーぞ? ――で、そのスゲーものってのは何を見せるんだ?)

《それはね! 携帯よ! 携帯電話ッ!》

(はぁ……?)


 沙也加の満を持した回答にも、浩助の反応は芳しくない。


 どこがどうして、それが宝貝よりも凄いものなのか、理解できていないのだろう。


 だが、沙也加は語る。


《中世っぽい世界観の異世界ファンタジーでは、携帯電話はオーバーテクノロジーの塊なのよ! 現状だって、八世界とか訳分からないことになっているけど、一応ファンタジー感あるし、きっと携帯電話は凄いものとして通じるはずよ!》


 沙也加の話を聞いて、浩助は少し考えてみる。


 確かに、悪魔だとか、天使だとか、ドラゴンだとか、幽霊だとかが、携帯電話を使っている姿は想像できない。


 無論、仙人だってそうだろう。


 浩助の勝手なイメージの中では、霞を食べながら、たまに動物に化けたりして人間に教えを与えたりする印象がある存在だ。


 イメージ的には凡そかけ離れている。


 ……これは、凄いものとして相手に通じるかもしれない。


(おぉ~、なるほど。有りだな!)

《でしょ~? というわけで、有馬、携帯出して!》

(は? いや、持ってねぇし)

《え……?》

(え……?)

《いやいやいや、冗談でしょ?》

(言いたかねーが、ウチ、家計に余裕ある方じゃねーし。携帯とか持ってねーぞ。水原持ってねーの?)

《えーっと、教室の鞄の中……》


 二人……いや、一人と一本……の間に重苦しい沈黙が訪れる。


 それ携帯の意味ねーじゃん、と思う浩助ではあったが、今は他人を責めている場合でもない。


(どーすんだ?)

《どうするって言っても……》

(不意打ちすっか)

《ここにきて方針転換!?》

(いや、でも、それもやむなしじゃね? 俺、死にたくねーし)

《でも、あと一歩なのよ!? あるでしょ! 人間の叡智が詰まった、こう……、何かが!》

(いや、特に思いつかねーし)

《諦めるの早すぎぃぃぃぃぃぃ――――ッ!?》

「それで! 何を見せてくれるのかな!」


 待ちきれなくなったのか、少女が含みのないキラキラとした視線を向けてくる。


 その純粋無垢な視線に良心の呵責を覚えながらも、浩助は刀を握る手に力を込め――。


「あ、思いついたわ。――ねこしぇ」

《ニャー! ステータスオープンと言ってみろ、ですニャー》

「すてーたすおーぷん? ――うわわっ!? なにこれ、なにこれ!?」


 少女の焦った様子が直で伝わり、浩助はねこしぇが翻訳するよりも先に、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていた。


《コイツは、ゲームで言うところのステータスという奴だ、ですニャー》

「すたーたす! なにそれ!」

(……え? うーん、うん……?)


 なにそれと問われて、浩助は答えに窮する。


 とりあえず、凄いものと思いついて見せてみたのは良いものの、それに対する満点回答を用意していない。


 自然と意識が沙也加に傾く。


《いや、私に振られても困るんだけど!》


 空気を読んだのか、先んじて無理だと告げられる。


 ならば、どうしたら良いのか。


 ――答えはひとつであった。


(頼んだぞ、ねこしぇ!)

《えぇ!? ねこしぇがですかニャー!? わ、わかりましたですニャー。えーっと……》


 軽く咳払いを交え、ねこしぇが浩助の代わりに説明を行う。


《このステータスというのは、人間の能力を数値化し、特技や特徴を文字化し、その人物の成りをより判りやすく鮮明に映し出すことができる規格ですニャー。それは、言うならば、世界を切り取り、デフォルメし、視覚的に分かり易くした発明品であるともいえますニャー。その直感的な分かりやすさゆえに、こうして世界のシステムとして採用されているのを見ても、人類の叡智の結晶といえるのではないでしょうかニャー》

「「おー」」


 さすがは、説明猫。


 説明を任せた瞬間、澱みなくそれっぽい説明が出てくる出てくる。


 その説明を聞いた少女は、「世界にさえ認めさせるとは……、負けた」とか言って地面に平伏しているし、その効果は絶大なようだ。


 浩助は「ねこしぇはワシが育てた」感を表情に貼り付けながら、平伏する少女に近寄る。


(くくく、見たか! これが人間様の実力よ! てめーら、才能の上に胡座かいてた雑魚仙人とか目じゃねーってぇの! 分かったなら、二度とウチのシマ荒らすんじゃねーぞ、カスが!)

《猫ちゃん、今のは訳しちゃ駄目だからね♪ 今から、私の言うことを伝えて頂戴♪》

《分かりましたですニャー♪》

(いや、ここはちゃんと言っとくとこだろ!? 何で、にこやかに俺の意見スルーなんだコラ!?)


 長年連れ添った熟年夫婦ばりの結託を見せ、ねこしぇと沙也加は浩助の意見を完全無視。


 とりあえず、少女と交渉事を始める。


《大丈夫かな? ですニャー》

「あんまり大丈夫じゃない……」


 返ってきた声は弱々しかったものの、目にはまだまだ力があるようだ。


 少女は、しっかりとした足取りで起き上がる。


「はぁ~、負けた負けた~。董庵大仙人の一番弟子で、仙界一の宝貝技師だと自負してたのになぁ……。全く見たこともない技術と発想に脱帽するしかないよ。アレを作ったのはキミ?」


 浩助は視線を受けて、視線をトス。


 その視線の先は、肩に乗っている黒い猫人形だ。


「キミがそうなの!?」

《ね、ねこしぇというか、ねこしぇの本体と言いますですかニャー……》


 困ったように回答するねこしぇに対して、興醒めするかと思いきや、少女は興奮するようにねこしぇへと近付いてくる。


「そもそも、キミ、人形なのに動いてるじゃない!? 何なのコレ!? 訳分からない現象ばかりで、洛は混乱しそうだよ!?」

《それはそうでしょ、異世界の技術なんだから、ですニャー》

「異世界、の技術……?」

《貴女、この場所に見覚えはある? ですニャー》

「見覚え? ん? ……此処、何処? ――っていうか、本当に此処何処!? 崑崙山じゃないのッ!?」


 それは、少女の故郷の山の名前だろうか。


 彼女の顔色はみるみるうちに青く変わり、見ている方が気の毒に思うほど正体を失くしていく。


 そんな少女を(おもんばか)ったのだろう。


 沙也加が優しく言葉を連ねる。


《その事を説明するためにも、一度一緒に来て欲しいの。お願いできないかな、ですニャー》

「…………」


 少女は迷っているようであった。


 見も知らぬ土地に、知人の一人もおらず、ただただ不安に苛まれていく姿は、浩助に昔日の記憶を思い起こさせる。


 ――ねぇ、お兄ちゃん。何でウチはお父さんがいないの?


 父と母に連れられて仲良く家に帰っていく他の子供たちを見て、妹が寂しそうに言った言葉が、今でも脳裏に焼き付いて離れない。


 あの時は、誤魔化すようにして妹の頭を撫でて答えたが、内心は不安と寂しさで押し潰されそうであった。


 母は、いつか父が帰ってくるのを信じていたが、浩助にはそうは思えなかったのも、そんな思いを抱いた一因なのだろう。


 そして、その時の妹の姿が――。


 ――何故か、今の少女とダブって見えたのは偶然ではあるまい。


(コイツは……、今、知り合いも何もいねぇ……。ひとりぼっちなんだ……。あの時の俺たちよりも、もっとずっと寂しくて……、不安なはず……)


 先程までは無垢な光で輝いていたはずの瞳も、今では暗い影を落としている。


 だからであろうか。


 浩助は知らず知らずの内に妹をあやすようにして、少女――洛の頭をぽんっと撫でてやる。


「心配すんな。俺がなんとかしてやっからよ」

「…………。……うん」


 言葉は通じていないはずだが、何となく気持ちだけで通じ合う。


 心の篭った思いというのは、それだけで相手に対するメッセージとなるのだろう。


 ――【スキル】言語翻訳:Lv1 を習得致しました。


 ……と思ったが、どうやら気のせいのようであった。

副題、説明猫神。

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