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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第四章、新魔王争奪戦が開幕したと思ったら、俺の妹にそっくりな娘が狙われてブチ切れた結果がコレだよ!
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113、湖畔の町防衛戦34 side朗 ~蠢動~

「――本当にこんな事でガクエンとやらは降伏してくるのかしら?」


 学園に程近い森を攻撃魔法で更地にし、その場に大々的に拠点を作り上げた魔界四天王の一人、スネア・フェメリは、今更ながらにそんな疑問を抱く。


 このような状況――今までなら『天魔』アスタロテが即答してきた場面なのだが、アスタロテが去った今となっては、スネアの問いに即座に答えられる古兵は居なかった。


 決して広いとは言い切れない天幕の中、雁首揃えた名門出の魔界貴族たちが首を捻る様は、どこかユーモアさえ感じる程だ。


 そして、その疑問にいち早く答えたのは、今回の作戦を立案した一番の新参者であった事も、その可笑しさに拍車を掛ける。


「動きますよ。あちらのリーダーはとても頭が良いですからね。この場所に即座に陣を構えた意味は十二分に伝わっているはず。後は折を見て、僕が降伏勧告を突きつける事で無条件に降伏してくるはずです」


 会議の為に集まっていたスネア配下の魔族たちが一斉に騒然となる。


 その言葉には、どうやら懐疑的な意見が多いようであった。


 それこそ、このまま会議ができなくなるのでは? と思える程の騒ぎようであったのだが、その雰囲気も一人の男が前に進み出る事で鳴りを潜める。


 ……どうやら、実力者の登場という事らしい。


「えらく自信有り気じゃないかね。新人(ルーキー)

「…………。貴方は?」

「スネア様の陣営に取り入ろうというのなら、我輩の名前ぐらいは覚えておくべきだったな、新人?」


 頬を引き攣らせて、金髪巻き髪の男が睨むような目で新人こと、夏目朗を睨む。


 これは失言かと思いながらも、朗は傍らに立っていたマリアベールに視線を向け、その答えを導き出していた。


「……オルディアス卿。スネア様の筆頭幹部よ」


 マリアベールの分かり易い解説に朗は得心するが、オルディアスはその言葉を鼻で笑い飛ばす。


「それもすぐに過去の話となる。スネア様が天下を獲ったあかつきには、我輩が新たな四天王の座に収まる事になるだろうからな。せいぜい、今の内から口のきき方には気を付け給えよ、新人?」


 朗は再度、マリアベールに視線を向ける。


 彼女は小さく頷く。


 どうやら、このオルディアスという男は、それだけの大言壮語を吐いても不思議ではないだけの実力を兼ね備えているらしい。


 厄介な相手に目をつけられたかと、朗が取り繕いの言葉を並べるよりも早く、オルディアスは目付きを鋭くして、朗を睨む。


「それよりもだ、新人。先程、面白い事を断言していたではないか。どうやら、自分の策に随分と自信があるようだが……」


 オルディアスは間を作るようにして、一拍区切ってから続ける。


「……もし、その策が失敗した場合はどうするのかね?」

「どう、とは……?」

「我輩たちに手間を掛けさせておきながら、『すみませんでした』では済まないという事だ。そうだな……」


 顎に手をやり、少しだけ考える素振りを見せ、オルディアスは続ける。


「もし、その策が成らなかった場合は、その右腕を貰おうか、新人?」

「オルディアス卿、それは……!」


 マリアベールが剣呑な雰囲気を思わず醸し出し始めるが、此処は戦場ではない。


 会議の場だ。


 朗はゆっくりと片手を上げて、それを制する。


「構いませんよ。ただ、それを飲むには条件があります」

「ほう? スネア様に献策を聞き入れられるだけでは不満か。一応、聞いておいてやろう。何だ?」

「貴方にひとつ、僕からのお願いを聞いて頂きたい」


 ざわり、とまたも場が騒然とする。


 それもそうだ。


 たかが人間風情の、しかも年端もいかない若造が、スネア陣営のナンバーツーに向かって、身の程知らずの戯言を吐いたのだ。


 それは、一歩間違えばこの場で(くび)り殺されてもおかしくはない事だったのだろう。


 事実、オルディアスにもその考えが浮かんだのか、一瞬凶悪な面相をみせるが――。


「面白いじゃない。オルディアス、その勝負、受けて上げなさいな」


 ――鶴の一声で、その場は収まってしまう。


 オルディアスは、その声の主の真意を図ろうと口を開きかけ――その場に跪く。


 その姿はスネアから見れば、従順な臣下の姿そのままだったのであろうが、朗にはその姿の中に反骨の()を見て取っていた。


「スネア様がそう仰るのであれば、このオルディアス・ネミュテール。そのように致しましょう」

「ふふ、貴方のその忠誠心、私は好きよ? ……では、この策のタイミングは朗、貴方に任せるわ。くれぐれも失敗しない事ね。まぁ、隻腕となった朗を見るのも、それはそれで楽しみだけど……。それでは、この軍議の場は今を以って解散とします! 皆、準備をし、備えなさい! 解散!」


 スネアの言葉により、人々が徐々にその場から捌けていく。


 朗もその流れに乗るようにして、マリアベールを伴って天幕の外へと向かう。


 その背後に突き刺さるオルディアスの視線は痛い程分かっていたが、朗はそれを表面上はおくびにも出さないのであった。


     ●


「やれやれ、大分困った事態になってしまったね……」


 学園の三階にある教室のひとつから窓の外を眺めて、元生徒会長である時任聖也は本日何度目かの嘆息を吐き出す。


 学園近くの森の中に突如大規模な拠点が出現したのは、正午過ぎぐらいの事であっただろうか?


 その様子を確認するために、見晴らしの良い三階の教室に対策本部を移し、学園側は今に至るまで対策会議をずっと行っている。


 それこそ、かれこれ一時間以上は経っているであろう。


 それだというのに、未だ学園側の総意がまとめ切れていないのは、情報が少なすぎるというのもあるのだろう。


 聖也としては不毛だと思わないでもないのだが、何かしらの方針は決めるべきであるとは考えているため、このまま会議の流れを見守る雰囲気ではいた。


(ただ、この一時間程の様子を見る限りでは、相手に進軍の気配はないし、放っておいた方が良いように思えるけど……。先生方はどう考えるだろうか……)


 ちなみに、現在は煮詰まってきた空気感を打破する為か、軽い休憩中である。


 この休憩を挟んだ後に、また会議を再開する運びとなっている。


 喧々囂々と議論を交わしていた教師たちは、束の間の休憩に席を離れている者が多いのだが、聖也はどうしても落ち着かずに森の中に作られた敵の拠点の様子を窺うようにして、ずっと視線を向けていた。


「……先生方は討って出る意見と、様子を見る意見で二つに割れていますが、ギルドマスターはどう思いますか?」


 そんな言葉を掛けたのは、近くに佇んでいた大道寺忍だ。


 彼女は、どこか不安げな視線を聖也へと向け、ともすれば泣き出しそうな掠れた声でそんな言葉を投げかけてくる。


 不安、なのだろう。


 それは、聖也としても同じだったが、彼は忍が更に不安にならないように、しっかりと優しげな声音で答えを返していた。


「その二つなら、完全に静観派だね」

「それは――」

「……その理由を聞いても良いかね?」


 何故、と忍が聞き返すよりも早く、二人の会話に割り込むようにして口を挟んだのは『サンタ』こと校長である。


 彼は自慢の白い髭を撫で付けながら、好々爺然とした笑みを浮かべ、聖也を見ていた。


 その表情にはどこか達観した空気があり、人生の先達のここ一番の落ち着きようを見た気がして、聖也は慌てて姿勢を正す。


「校長先生、おられたのですか……」

「何、このような老体だと歩くのも億劫だったのでね。ぼんやりと休んでいたのですが、そこに先程の言葉でしょう? 何か論拠ある意見であれば、聞いてみたいと思ったのですよ」


 その言葉に、聖也の顔にも思わず苦笑が浮かぶ。


「論拠という程のものではないのですが……。私にはアレが武威の誇示のように見えて仕方がないのですよ。ほんの僅かな時間で、コレだけの拠点が作れるのだという実力を見せびらかしているように見えてならない」

「ほうほう。ちなみに、ウチの学校の子でも、あれだけの事は出来るのですか?」

「有馬君でしたら出来ると思います。ですが、今、学園に居る生徒では難しいでしょうね。特に時間を気にしないで良いというのであれば、何人かはできるかもしれませんが……」

「つまり、あそこにいるのは有馬君レベルの相手という事になると?」

「はい。そして、そんな相手がわざわざ自分の力を誇示してみせている以上、全面対決ではなく、交渉を望んでいるのではないかと考えています。全面対決を望んでいるのならこちらを一方的に攻めれば良いだけですから」

「なるほどなるほど……。確かに、私もこの一時間の間に何も動きが無かった事が気になってはいましたが、相手が交渉を望んでいて、その交渉を優位に進める為に我々にプレッシャーを掛けてきているのだとしたら、そのような捉え方も有るでしょうね」

「…………。そう仰るという事は、校長先生の考えは違うのですか?」

「そうですね……」


 サンタは自慢の白髭を引っ張りながら、訥々と自分の考えを言葉にする。


「例えば、目の前に目立つ陣を作り、その間に学園の内部に密偵のようなものを送り込んで、偽報を流した後に混乱を起こしてから攻めるとか、ですか。それなら、味方の被害も少なくて済みそうですしねぇ」

「なるほど。そんな考え方もありますか……」

「まぁ、とりあえず、今は静観という点では意見の一致をみたわけですが……」

「そうですね。相手はどう出ますかね……」


 聖也の見つめる先、相手の陣には未だ動きのようなものが見えた様子はなかった。

最近、登場人物一覧が欲しいと切に感じます……。

出て来る奴多すぎなんですけどー……。

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