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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第四章、新魔王争奪戦が開幕したと思ったら、俺の妹にそっくりな娘が狙われてブチ切れた結果がコレだよ!
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110、湖畔の町防衛戦31 sideキルメヒア ~不定と固定~

本日三回目の更新。

「ふふっ、このクソ女を倒した後は、アンタが相手してくれるってかい? ベリアル! ……面白い! 面白いじゃないのさ! あはははっ!」

「……退()いてろ。……テメェに用はねぇ」

「アンタに無くても、アタシにはあるんだよねぇ! 待ってな、今このクソ女をぶっ飛ばしてから殺ってやるからさぁ!」

「…………」


 ベリアルの表情にあからさまに不機嫌な色が浮かぶ。


 それを見て、老け顔の魔族が顔色を青褪めさせて、何事かを諫言しようとするが、ベリアルの圧倒的な鬼気の前にその行為は形を為すこともなく有耶無耶となってしまう。


「さぁ、クソ女! 第二ラウン――……」


 麗華が全身から殺気を出した瞬間、その頭部が足元の地面へと埋没する。


 元々、蜘蛛の巣状の亀裂が入っていた地面は完全に陥没し、浅くはないクレーターがその場に出来上がる。


 派手に血飛沫を上げ、顔面を陥没させた麗華の後頭部を掴み上げながら、地面に叩き付けた張本人であるベリアルは「……なぁ」と静かに問いかける。


「……俺様は退いてろと言ったはずだよな? ……なぁ?」


 麗華から答えが返ってくるよりも早く、ベリアルは麗華の後頭部を掴みながら、もう一度大地にその顔面を叩き付ける。


 粉塵が巻き起こり、地面が少なからず揺れたように思えたのは、恐らく気の所為ではないのだろう。


 膂力は麗華も、キルメヒアもある方だが、この男のソレは彼女らのものとは一線を画す。


 力みもなく、溜めもなく、ただ軽く――、最強の破壊力を作り出す。


 そんな力なのだ。


 キルメヒアの背にらしくもなく、ぞくりと震えが走る。


(流石は、武勇のみで四天王にのし上がってきた男――。正直、震えが止まらんな)


 キルメヒアが戦略兵器としての価値を見出されて、魔界四天王に就任したのに対し、ベリアルは己の強さのみでのし上がってきた(つわもの)だ。


 魔力の強さと家柄で重用されているスネアや、人脈の広さと工作能力の高さを買われて登用されたアーカムとは違う。


 本物の武闘派である。


 その実力は、キルメヒアを以てしても舌を巻く程だ。


「……なぁ、もう一度言わねぇと分からねぇのか?」

「…………」


 最早、原型を留めていない血だらけの顔のままに麗華は何事かを小さく呟く。


 その言葉が聞き取れなかったのだろう。


 ベリアルは僅かに麗華に向かって耳を寄せる。


 その瞬間、麗華は手元の砂を掴んで、ベリアルの顔面に向かって投げつけていた。


 恐らくは目潰しのつもりなのだろう。


 真っ赤に染まった顔面の中で、真っ白な歯だけが笑みの形を形作り、至近距離からの裏拳を即座に放つが――。


「……それが、テメェの答えか」


 その拳が、空間に縫い付けられたかのように一瞬で停止する。


 見やれば、最初に麗華が投げつけた砂の粒子も、ベリアルの目の前で空間に縫い付けられたように静止していた。


(ベリアルの代名詞とも言われている【ユニークスキル】固定化……)


 その様子を傍から見ていたキルメヒアは、その現象の原因にすぐに思い当たる。


 ベリアルが魔力を流したものは全てのモノが、その場に固定される。


 それは、人であろうとも、大地であろうとも、海であろうとも、だ。


 固定されたものはベリアル以外には動かせず、他の者には動かせない。


 その能力はいうなれば、最強の防御であり、最硬の物質を生み出す作成能力でもあった。


「……番犬ぐらいにはなると思って飼ってはみたものの、所詮、駄犬は駄犬か」


 ――目の前で広がったまま固まる砂の一粒をベリアルは無造作に摘む。


 摘まれた砂は、そのまま砂の帯となって一塊となって動いていた。


 恐らくは最初の一粒を起点に、周囲の砂の位置を固定したのだろう。


 それを、ベリアルはゆっくりと麗華の背へと捻じ込む。


 本来ならば、麗華の硬い皮膚とベリアルの膂力により塵と化してしまう砂の粒だが、ベリアルが魔力で『固定』し続ける限り、その形を失うことはない。


 帯状に広がっていた砂の粒が徐々に麗華の背中へと食い込んでいく。


「~~~~~~~ッ!?!?!?」


 声ならぬ声を上げる麗華。


 だが、ベリアルはそれを愉しむでもなく、ただ淡々と作業のように麗華の背に砂を食い込ませていく。


 砂の粒子が麗華の皮膚を突き破り、肉を裂き、背骨を破砕し、内臓にまで到達したところでベリアルはぐるりと砂の帯を一回転させる。


 それだけで、麗華の臓腑はずたずたに引き裂かれ、彼女は口から大量の血液を吐き出して、目を白黒とさせていた。


「……俺様の役に立たねぇ、ゴミは要らねぇ。……テメェはクビだ」


 言葉と同時に、ベリアルは背骨に沿って砂の帯を一気に頭まで引き上げる。


 その線に沿って血が間欠泉のように噴き出し、縫合不可能な程の酷い傷が背中から頭にかけて深々と刻み込まれる。


 それでも、『その程度』ならば、麗華にとっては大したものではなかっただろう。


 何せ、切断面をくっつけただけで治る程の治癒能力があるのだ。


 いくら傷つけられようとも、彼女には生き抜けるだけの自信と強さがあった。


 事実、彼女の顔面は血で汚れてはいたものの、既に元の美しい造形を取り戻しつつある。


 だが――。


「……ぁあ? 誰が傷を治して良いと言ったんだ?」


 その瞬間、治りかけていた背中の傷がベリアルの手によって『固定』される。


 その時、初めて麗華の表情に恐怖の色が浮かぶ。


 治るはずの傷が一向に治らず、不治の病のように痛みがいつまでも続く。


 それは、今まで怪我という怪我を無かった事にしてきた身としては、恐怖以外のなにものでもないのだろう。


 思わず縋るような視線をベリアルに向ける麗華。


「……んだ、その目は? ……気に入らねぇ」


 だが、それすらもベリアルの逆鱗に触れるというのか、彼は片手一本で麗華を吊り上げると容赦なく彼女の眼窩に次々に指を突っ込む。


「~~~~~~~ッ!? !? !?」

「……俺様は優しいからよ。……その傷も固定しておいてやるよ」


 そういうベリアルの指には、くり抜かれた二つの眼球が血だらけのままに握られていた。


(エグイな、相変わらず……)


 その様子を見ながら、キルメヒアは少しだけ不快そうに眉を顰める。


 元々、なんでも有りの魔界を己の実力だけでのし上がってきた男だ。


 この程度の残虐行為など、彼にとっては児戯に等しいのだろう。

 

 だが、慣れていない者にとっては、耐えられるものではない。


「……じゃあな」


 ベリアルが麗華の後頭部を掴んだまま振りかぶる。


 そして、麗華が何かを告げるよりも早く、彼女の体は弾丸のように宙へと投げられ、やがて、その姿を山の合間へと消していった。


 ……果たして、彼女がどうなったのか?


 それを知る衝撃も、音もなく、キルメヒアは心の中で十字を切るだけである。


「……さて、殺り合う前に一応聞いておいてやるか」


 自身が放り投げた物体(れいか)に一顧だにする事なく、ベリアルはキルメヒアへと視線を向ける。


 その目はあくまで無機質であり、まるで自分がやった事を理解していないような恐ろしさがある。


 いや、自分がやってきた事を、些末事として捉えているのだろうか。


 残虐性、膂力、共に格の違いを見せつけられた思いで、キルメヒアは内心で(ほぞ)を噛む。


「……俺様の下につかねぇか?」

「何だって……?」


 その言葉の意味を図りかねて、キルメヒアは思わず頓狂な声を返してしまっていた。


 キルメヒアが思うベリアルという男は他人に助力を請うような男ではない。


 天上天下唯我独尊。


 傲慢が服を着て歩いているような男だ。


 そんな男の口から出たまさかの言葉に、キルメヒアも驚きを禁じ得ない。


「……俺様も馬鹿じゃねぇ。戦略兵器としてのテメェの価値は認めてるってことだ」

「自分たちは、同じ魔界四天王だろう。それなのに上下関係を迫る気かい? そんな事を魔王様が許すとでも?」


 四天王はあくまで対等な関係であるからこそ、魔王の部下としてやっていける。


 もし、四天王同士で結託しようものなら、それは謀反を起こそうとしていると勘繰られて、魔王に粛清を受けてもおかしくないのだ。


 危険な橋を渡ろうとしているのだと、暗に忠告したつもりであったが、ベリアルは余裕たっぷりの――、いや、若干鼻につく笑みを浮かべて堂々と宣言する。


「……魔王なら死んだ」

「…………。……冗談にしては笑えないな」

「……テメェがボイコットした会議で知らされた。……乗り遅れたんだよ、テメェは」

(あの時のアーカムからの手紙か……?)


 思い当たる節があるだけに、キルメヒアの顔が次第に渋面へと変わっていく。


 それを面白そうに眺めながら、ベリアルは続ける。


「……テメェを攻めてんのも、言うなれば、次期魔王決定戦の課題みてぇなもんだ。……別にテメェが憎いからやってるわけじゃねぇ。……要求に応じさえしてくれれば、最初から攻めるつもりはなかった」

「あれだけの兵を配備しといて、良く言うもんだね」

「……スネアの奴が横槍を入れてくる可能性があったからな。……念には念を入れてだ。……テメェは便利だし、今回の件で将としても十二分に動けることが分かった。……殺り合う前に、口説けるもんなら口説いておいて損はねぇと思わせたのは、テメェだぞ?」


 そうは言っても、言外に、やむを得ない場合は敵対する事も辞さないと言っているのか、ベリアルから吹き付けてくる圧が次第に大きくなってくる。


 実力を買ってくれるのは嬉しいが、明らかに女性を口説く態度ではないと、キルメヒアは内心で苦笑するしかない。


「……答えは、イエスか、はい、か?」

「…………。それ、選択肢ないだろう? まぁ、なかなかユニークな脅し文句ではあるけどね。あぁ、答えはノーだ。……残念ながら、自分の心の在り処は既に別の場所にあるからね」

「……それは、スネアにつくって事か」


 ベリアルの無機質だった目に、少しだけ剣呑な光が宿る。


 だが、キルメヒアは肩を竦めて嘆息を吐き出すだけだ。


「いいや、既に運命の人に(ハート)を射止められたという事さ」


 その言葉を聞いたベリアルの視線が僅かばかり湖畔の町へと動き、その馬鹿馬鹿しい考えを打ち消すかのように軽く頭を振る。


「……チッ、結局、テメェもゴミか」

「うーん。酷い言われようなのに、心が躍らないのは何故なんだろうな? 愛が足りないからか?」

「……チッ。……そうだな。……テメェはそういう奴だった。昔からどうも会話が噛み合わねぇ。……口説こうとした俺様が馬鹿だったか。……仕方ねぇ、後で奴隷として飼ってやる。……簡単に死ぬんじゃねぇぞ、貧弱?」

「はっはっはっ! そう思うなら手加減したまえ、暴君よ!」


 薄闇色の霧が周囲を包み込もうとし、その闇が固定化されて地に落ちる。


 二人の魔族は互いに視線を絡ませ合い、一人は凶悪な笑みを見せ、一人は困ったような顔で笑い、静かに対峙するのであった。

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