106、湖畔の町防衛戦27 side慶次 ~大袈裟なラーメン~
今回はいつもよりちょっと長めです。
「なんだ、お前ら? そんなに殺気だって……。ついさっきまで、そこのアイリーンからの命令で戦闘行為はしねぇって息巻いてたじゃねぇか……」
『お嬢を、な……、名前呼びだと……!?』
ざわり、と魔族たちの間に動揺が伝播していく。
それを不可思議に思いつつも、慶次は手を動かす事だけは止めずにラーメンを作り続ける。
その様子には、周囲の不穏な空気に臆した様子も見受けられなければ、気付いた様子も見受けられない。
ただ、ひたすらに客との戦争に勝とうという意欲のみが見て取れた。
「……とりあえず、食った奴から席を譲ってやってくれ。まだまだ並んでいる奴は沢山いるんだからよ」
ぞんざいな扱いをされた魔族たちは、その態度が気に食わないとばかりにヒートアップする。
剣呑な視線で慶次を見やり、箸を付けていないラーメンの器に手を掛ける。
『オウ、店主……。聞こえなかったのか? さっさと屋台の外に出んかい……ッ!』
「……並んでいる客を捌いてからな」
だが、慶次は全く取り合わない。
それどころか、ラーメン作りに真剣な表情を見せる程だ。
そして、その様子を熱に浮かされた様子で、ぽーっと眺めるアイリーン。
(うん。色々と酷いッス……)
無視される魔族も気の毒だし、自分の世界を作り出しているアイリーンも無責任だし、ラーメンを作ることしか考えていなさそうな慶次も適当に過ぎる。
『おい、店主……。俺たちをなめるなよ……?』
このままでは暴動が起きるのではなかろうか?
そんな風に危惧する琴美の目の前で魔族がすくっと立ち上がる。
その手に持つのは、まだ口すら付けていない出来立てのラーメンだ。
慶次が眉根を寄せるのよりも早く、その魔族は中身の入っているラーメンを丼ごと地面に叩き付けていた。
陶器が割れる音と、中身が地面にぶちまけられる水っぽい音が響き、その光景を見ていたアイリーンが驚いたような表情を浮かべ、次いで悲しそうな表情を浮かべる。
「ぁ……」
そして、それを見ていた琴美も、思わず口元を両手で隠して顔色を青褪めさせる。
恐る恐る、視線で慶次の様子を窺う。と――。
「……美丘、片付け頼めるか?」
――だが、慶次に目立った感情の変化は見られなかった。
ただ、淡々と鍋から麺を上げて、水気を切って笊に上げている。
何も思う所がないのだろうか?
いや――。
(サングラスで表情が読み取りにくいッスけど、かなりキテるッスよね……。麺をお湯から上げた時間も相当早いッスし……)
了解ッス、と返事をしながらも、見る所は見ている琴美。
彼女は触らぬ神に祟りなしとばかりに、割られた丼の後片付けに取り掛かる。
その際に、丼を割った魔族の傍を通ったので、彼女は素知らぬ顔で小さく告げていた。
「ご愁傷様ッス……」
『……あぁ?』
怪訝そうな顔を見せる魔族の男。
だが、その事に頭を悩ませる暇もなく、次の瞬間には、彼は満面に喜色を浮かべる事となる。
「……いいだろう。客を待たせるわけにいかねぇから、『少しだけ』相手をしてやる」
そう言って、慶次はゆっくりと屋台の位置から離れ、開けた場所に足を向ける。
それに続くのは、憤りに顔を歪める数十人の魔族だ。
凡そ、アイリーンが率いていた部隊の三分の一になろうかという数である。
どうやら、アイリーンは部下たちに大分愛されているようであった。
……色んな意味で。
(愛され系の十二柱将? ……魔族なのにッスか?)
琴美は割れた丼を片付けながら、心の中でそんなことを考える。
そして、それとは全く関係なく、喧嘩好きの魔族やお祭り好きの魔族も動いたようだ。
結局は、気付いた時には総勢百近い魔族の群れが慶次を取り囲んでいた。
「……こいつはまた随分と大勢で押し掛けてくれたもんだ」
『後悔してんなら、今、この場で謝っておくことだぜ? 何せ、俺らは加減ってものを知らねぇからな?』
「……何故、俺が謝る必要がある?」
『るせぇ! そんなの……、俺達のお嬢に色目を使ったからに決まってるだろうがッ!』
慶次は記憶の中を穿り返す。
だが、何処をどう探したとしても、そんな甘い記憶は思い出せない。
「……いや、そんな記憶はない。お前の思い違いだ」
『いいんだよ! テメェの記憶にあろうがなかろうが、そんな事はどうでもッ! 問題は俺たちのお嬢をテメェが靡かせたってことだ! それだけで万死に値するッ! いいから、俺たちに黙ってぶん殴られろッ! 気の済むまで!』
「……手前勝手な理屈だな。まぁ、その辺は俺も同じだから、責める気はない。さて――」
慶次はそう言って、水鏡のように揺れる空間の中から一本の中華包丁と白味掛かった麺生地を取り出す。
その様子に、集まってきた魔族たちは一瞬呆けたような表情を見せるしかない。
これから始まるであろう惨劇を前にして麺生地を取り出すとはこれ如何に?
私刑を前にして気が狂ったのでは、と穿った見方をする魔族もいたことであろう。
だが、当の慶次はふざけた様子もなく、ただ淡々と告げる。
「……子供に説教するんじゃあるまいし、当り前だから言うまいと思っていたが、種族の違いによる常識の違いがあるかもしれねぇからな。一応、言っておいてやる――」
慶次は中華包丁を空中で一回転させると、慣れた手つきでそれをキャッチして、その感触を確かめる。
「――食べ物を粗末にするんじゃねぇ!」
(それを国崎先輩が言っちゃうんッスか!?)
琴美の心の声はさておいて、慶次は左手に持つ麺生地に中華包丁を添えて持つ。
その姿はまるで、バイオリンを構えるバイオリニストのように優雅で堂に入っていた。
一朝一夕で出来る構えではあるまい。
『何だそりゃあ!? ふざけてんのか!? どこまでも馬鹿にしやがって! ぶっ飛ばしてやる!』
だが、頭に血が上った魔族たちは、そんなモノお構いなしとばかりに、慶次に殺到する。
次の瞬間には、もみくちゃにされ、陸に打ち上げられた魚のようになる慶次の姿を誰もが想像したことだろう。
事実、アイリーンもその光景を夢想したのか、青い顔を見せている。
もし、慶次がラーメンの道を本気で極めようと思っていなかったのなら、それは現実のものになったのかもしれない。
……だが、そうはならない。
何故なら、彼にはこの異世界の中で唯一無二の強力なスキルを有しているのだから――。
「国崎流ラーメン術中伝――」
それは、彼が真摯にラーメンというものに向き合っていたが故に修得してしまった『悪魔』のスキルだ。
そのスキルは、ラーメンに関わるあらゆる事象を『大袈裟に変化』させる。
例えば、普通に美味いラーメンを作れば、他人の心を揺り動かすし――。
もしも、不味いラーメンを作ろうものなら、生物兵器レベルのものが作り上がる――。
そんなとんでもないスキルなのだ。
そんなスキルを持つ、この男が、この状況において、ただの麺生地を取り出して珍妙に構えるなどあるわけがないのである。
「……刀削麺手裏剣」
慶次の右手が閃いたと思った瞬間、大小様々な破片が辺りに舞い散る。
それは、白色であったり、灰色であったり、黄ばんでいたり……。
兎角、様々な色合いを見せて宙に舞い飛んだのは――。
『ぐおおおおっ!? コシの強すぎる麺が歯をへし折って、口内にぃぃぃぃぃッ!?』
――そう、魔族たちの歯であった。
彼らは苦しそうに喉元を押さえて、その場にゆっくりとしゃがみ込む。
『ぬぐぐぐ……っ、の、喉の奥に張り付いて……、い、息が……!?』
『だ、唾液が吸い取られる……!?』
バタバタと倒れゆく魔族たち。
それを見下ろしながら、慶次は麺生地と中華包丁を収納スキルでしまい込む。
「……コシが出るように、水分が完全に飛ぶまで練り込んだ麺生地だ。その触り心地は岩のように硬く、カルシウム不足な歯など容易にへし折る」
『や、野郎……ッ!』
猛った魔族たちが、屈み込む魔族たちを後目に慶次に殺到するが、その魔族を前にして、慶次はまたも落ち着き払った様子で収納スキルから二本の麺棒を取り出すと、それを両手に持って魔族たちの間を、さっと抜けるように駆け抜けていた。
まるで、舞うような華麗な動きに、魔族たちは一瞬虚を突かれ、風切り音を頼りに視線を背後に向けようとして――。
――その場に次々と倒れる。
「国崎流ラーメン術奥伝、麺棒=カリ=スティック――」
『うおおおおっ! 強張っていた筋肉が引き伸ばされて立てない~っ!?』
『うぅ、硬かった俺の筋肉が~!? まるで、脂肪のように柔らかくなっちまってる~!?』
「麺生地を練り、伸ばす――。……その動作の真理を理解した時、麺棒は万物を引き伸ばす凶器と化す」
『ふざけんな、コノヤロー!? 体が動かねぇじゃねぇか! これじゃ、お嬢の役に立てねぇぇぇぇ! どうしてくれんだぁぁぁッ!?』
「……安心しろ、箸を握る力だけは残してある」
『どういう気遣いの仕方だよ!? 頭おかしいんじゃないか、コノヤロー!?』
柳に風とばかりに、文句はスルーする慶次。
何にせよ、今の慶次の動きを見た事で、接近戦は危険であると魔族は学習したらしい。
その想像は、ほとんど正解に近い。
例え、麺棒の乱打の中を潜り抜けたとしても、慶次には毎日麺生地をこねくり回していた両腕がある。
その両腕に掴まれてしまったが最後、魔族の誇る筋肉は常に引き伸ばされた状態、あるいは固まった状態となってしまい、その場で動けなくなる事は必至だ。
だから、近接戦闘を諦めたのは正しい。
では、これからどうするのか?
近接戦闘が難しいとなれば、やるべき手段はただ一つ――。
『退いてな……』
『おぉ! エースだ! 名無しのエースが来てくれたぞ!』
『あのエースか!? 先の天魔大戦の際には、一人で五十人からなる聖戦士を退けたという……!』
ざわり、と魔族たちがざわめく。
どうやら、少しは骨のある魔族が前面に出てきたようだ。
カウボーイハットのような帽子を被り、優男風の風貌をしたその男は口笛を吹きながら、その右手を銃に見立てて、慶次に向けて構える。
『悪いが大将、死なないでくれよ? 俺ァ、まだアンタのラーメンを食ってないもんでね?』
「……? 何を言っている?」
『分からないかい? これから、アンタは俺の技の前に沈むって言ってんのさ! 【固有魔法】デッドリーファイア!』
途端、エースと呼ばれた男の指先から白色の光弾が放たれた。
いや、それは、出現した瞬間から網膜を焼く白い光を放ちながら、空間を高速で駆け抜けてくる。
まるで、白い爆発の連鎖――。
それが、果たして炎魔法のユニークスキルであることを、慶次は理解していたのか。
サングラスの奥の目を眩しそうに細めながら、彼は高速で近付いてくる白い爆発の軌跡を待ち構える。
『おい! その炎は鉄をも溶かす! 早く避けないと危ないぞ!』
そう叫んだのは、エースと呼ばれた男の優しさか。
だが、慶次は収納スキルより、さっ、と黒くて丸い形状をしたものを取り出す。
それは――。
「中華、鍋……ッスか?」
琴美が驚いたように零したように、それは取っ手を付けられた中華鍋であった。
慶次はその取っ手を片手で持つと、その白色の爆発に向けて思い切り中華鍋を叩き付ける。
『死ぬ気かよ……ッ!?』
エースは叫ぶ。
だが、慶次は落ち着き払った声音でただ一言、ポツリと呟いた。
「国崎流ラーメン術秘伝――」
次に起こった事は、見ていた者の中でも完全に理解できた者が何人居たことか……。
白い閃光の連鎖爆発の中、慶次は鍋にごま油を入れ、既にカット済みであった人参に似た野菜、白菜に似た野菜、玉葱に似た野菜、わかめに似た海藻を入れ、さっと火を通しながら、爆発の連鎖の軌道を捻じ曲げていく。
エースがぎょっとした面持ちを見せる間に、鶏がらスープと各種乾燥させて作った香草の類――異世界版の調味料である――を入れ、一瞬で煮立った所に、水溶き片栗粉らしき液体を注入し、さっとかき混ぜる。
次の瞬間には、中華鍋の底でコントロールされた白色の爆発は軌道を変えて湖の中程へと放り込まれていた。
派手な轟音を上げて、湖の中程で水蒸気爆発が巻き起こる。
『な……ッ!?』
その間、時間にして、ほんの僅か。
それ故に慶次の動きを、ほとんどの魔族は理解できていなかった。
ただ、名無しのエースと呼ばれた男のユニークスキルが、どうやら慶次には通用しない――。
それだけは理解できたことであろう。
呆然とするエースに、つかつかと近付いた慶次はさっと鍋の中身をエースの背中へと流し込む。
「――熱々五目あんかけ」
『ぉわっちゃああああああぁぁぁぁぁぁ――――ッ!?』
エースは絶叫し、飛び上がり、背中をゴロゴロと地面に擦り付けるが、擦り付ければ擦り付ける程、その被害は広がっていくようであった。
耳に堪えない絶叫が辺りに木霊する。
それを聞きながら、慶次は屋台に戻り淡々と調理を開始する。
やがて、息も絶え絶えになったエースが動きを止めたのとほぼ同時に、地面に寝転がる彼の目の前にすっとラーメンの丼が置かれる。
ほわり、と食欲を誘う良い匂いがエースの鼻腔を擽る。
朦朧とする意識の中、エースは自分が空腹であったことを思い出していた。
背中は酷い火傷に侵され、頭の中は熱に浮かされて意識も判然としないのだが……、それでも彼は食欲に負けたように、差し出された一杯へと手を掛ける。
そのエースの耳に、無慈悲な言葉がポツリと告げられた。
「国崎流ラーメン術初伝――」
『ま、待ってくれ……、やめてくれ……、本当……、試すような真似をして悪かったから……』
だが、もう止まらない。
エースはその一杯のラーメンが恐ろしいものであると分かっていながら、本能を刺激する香ばしい香りに打ち勝てず、その一杯を口にする。
途端、彼の口元から無数の針が口内を突き破って現出する。
「――粉落とし担々麺」
『おぶぅわあああぁぁぁぁぁ――――ッ!?』
その麺は、バリ硬や針金など比較にならぬ程の硬度を持ってエースの口内に突き刺さる。
口内はあっという間に鉄の味に満ちるのだが、それでも鼻腔を擽る良い香りが食欲を刺激し、エースはダメだと分かっていても、スープを口内に流し込んでしまう。
『おわあっちゃあああぁぁぁぁッ!? かれええぇぇぇぇッ!? いってええええぇぇぇぇッ!? ぐおおおぉぉぉぉッ!? 沁みるぅぅぅぅんがががががッ!?』
傷口に塗り込められる唐辛子の効いた味――。
彼は白目を剥きながらも、機械のようにラーメンを求め続け、その担々麺を食べ続ける。
やがて、その一杯を余すことなく堪能した時、彼は死んだ魚の目のまま、その丼の底に書かれている文字に目を留めていた。
『こ……、れ……、は……』
視線で慶次に問うと、彼はぶっきらぼうに告げる。
「『愛』という漢字だ」
『愛……』
エースはただその言葉を繰り返すようにして口内で呟くと、何かを納得したかのように晴れ晴れとした表情をみせる。
『そう、か……。愛、か……。そう、だな……。お嬢が誰を愛そうとも……。俺たちは……。お嬢を愛しても……、良いのか……』
エースの言葉に、慶次の周りを囲んでいた魔族たちがハッとした表情になる。
その表情は、エースと同じように晴れ晴れとまではいかなかったものの、何かに気付いたかのように険が抜け落ちていた。
『俺たちがお嬢を愛するのが自由なように……』
『お嬢が誰かを愛するのも自由……』
『それを、俺たちが止めるのは、お嬢に対する迷惑にしかなり得ない……』
『お嬢を愛する気持ちが強すぎるが故に、お嬢を困らせちまったら、お嬢の親衛隊失格か……』
各々がどうやら思うところがあるようだ。
そんな様子を横目で見やりながら、慶次は言葉を掛けることもなく包囲網を抜けて、屋台へと舞い戻る。
その屋台の席では、どこかほわほわとした笑みを浮かべるアイリーンがおり、慶次は表情を変えることもなく、あいつらにも困ったものだと呟く。
「そこの嬢ちゃんが惚れたって言ってるのは、俺のラーメンにだろ……。全く、何を勘違いしていやがるんだか……」
『…………』
その瞬間、アイリーンの笑顔が一瞬固まったように見えたのは気のせいであろうか。
丼の後片付けを終えた琴美も、どこかぎこちない表情のまま固まる。
(そういえば、アイリーンさんの言葉には主語がなかったようなッス……。一目惚れしたとしか、言ってなかったようなッス……。いや、でも、場の空気的にそこは……。――あ、駄目ッス。国崎先輩だったッス。……空気読めない奴ッス、コレ)
場の空気が読めるぐらいだったら、不良にもなっていないだろう。
アイリーンはどこか落胆したような、それでもホッとしたような顔であははと笑う。
『そ、そうですね……。えっと、あまりにラーメンが美味しかったので、それに一目惚れしちゃったんです』
「……だとしたら、嬉しい話だ。それだけ魅力的なラーメンが作れたってことだからな」
(それで、良いんスか!? アイリーンさん!?)
琴美が視線を向けると、アイリーンが唇に人差し指を当てて、必死でしぃ~っというポーズを取っている。
どうやら、デリケートな部分なのであまり触られたくないようだ。
女の勘でそれを察した琴美は、渋々ながら頷く。
「……どうした、美丘?」
「い、いや、なんでもないッス! さてと、営業再開ッスね――」
「……そうだな」
慌てて作り笑いを浮かべる琴美だが、その表情が瞬時に呆けたものに変わる。
「――え? あ、念話がきたみたいッス」
「……こっちは手が離せない。適当に相手してやってくれ」
「了解ッス!」
視界の端に念話を受け取るか否かの選択が出たのに対し、琴美は受け取ることを選択する。
そして、軽い挨拶と共に現状を報告しようとして――。
――その顔色を蒼褪めさせていた。
「え……、今、なんて言ったッスか? 良く聞こえなかったッス、もう一度……」
その様子に、慶次も怪訝そうな表情で振り返る。
勿論、作業の手は止めずにだが――。
「……どうした、美丘」
彼女は青い顔のまま、カタカタと唇を震わせながら、色を失った表情で途切れがちにその言葉を発していた。
「田中、先輩が……、田中先輩が……」
「……田中? ……則夫か? ……則夫がどうしたって?」
「死んだ……、って……」
その言葉に、初めて慶次の手が止まる。
「…………。……アイツが、……アイツが死ぬわけねぇだろぉがぁぁぁぁぁぁぁッ!」
そして、次の瞬間には怒気も明らかに、慶次はその場で吼えたのであった。
■国崎流ラーメン術難易度表■
初伝……優しい。
中伝……ちょっと難しい。
奥伝……やヴぁい。
秘伝……頭が逝去。