0、やさぐれ召喚
皆様が書かれている異世界召喚ものを読んでいる内に書きたくなったので書きました。
行き当たりばったりで着地点も見えていませんが、軽いノリで楽に読めるようなものを目指していきたいと思いますので、宜しくお願いします。
青い空、鳥の囀り――。
三月の少し肌寒い風が草木をそよぎ、グラウンドでは元気に動く生徒たちが体育の授業を実施している。
そんな爽やかな学校生活の残り時間も後僅か。
卒業式までの秒読みが進む中、グラウンドを陰々滅々として眺めている男がいた。
「ちょっと、有馬! おーい、有馬~! 先生に当てられてるって!」
有馬浩助――。
隣の席の女子の叫びにも動じずに、ただグラウンドを睥睨している男である。
男の胸に渦巻くのは、怒り、不満、憎悪などの、とにかくドロドロとした負の感情。
それを、胸の内に溜め込み、辺りの様子を気にせずに三階の教室から校庭を睨んでいる。
「おい、有馬! 聞いているのか!」
教室内に響いたのは、教師の声か。
それが、しつこく、何度も浩助に向けて浴びせられたため、彼は苛立ったように自分の机を蹴り上げる。
「うるせぇっ! 少し黙ってろ!」
机が音を立てて倒れ、教室内に静寂が訪れる。
そんな様子の浩助に、教師も匙を投げたのか、コホンとひとつ咳払いをすると、「それじゃあ、水原さん、続きを呼んで下さい」と続けた。
浩助の隣の席の少女が短く「はい」と言って立ち上がるが、浩助にとってはどうでも良いことだ。
そのまま、教室の外の景色を眺め続ける。
やがて、しばらくすると、浩助の足に何かがあたる感触。
何かと思って、顔を向けると隣の席の水原沙也加が浩助の倒れた机を、席に座ったまま直そうとしていた。
だが、席に座っているためか、なかなか上手くいかない。
奮闘していた沙也加の視線が、浩助に向く。
「ちょっと、直しなさいよ! 邪魔になるでしょ!」
「……チッ、知るか」
「アンタねぇ~、女の子にフラれたぐらいで、そんなにヤサグレてんじゃないわよ」
「――ッ!? てめぇ、なんでそれを……ッ!」
「……よっ」
手と足を使って、沙也加は器用に机を戻してみせた。
「橘さんが女子の間に吹聴して回ってたわよ? ……ご愁傷様」
「あんの、クソアマ……ッ!」
「というか、男子も男子ね~。あんな猫被りの何処が良いんだか……」
浩助は何かを言い返そうとして言葉に詰まる。
その猫被りを見破れずに、あんな理想の女子はいない! と惚れて、告白して、玉砕して、そして自暴自棄になっている彼には反論をする余地がなかったからだ。
そして、返す言葉もないままに、歯を食い縛って校庭を見続ける。
ともすれば、悔しさが暴発して、どうにかなりそうだった。
そのまま、ガラス窓を突き破って、身投げしてやろうかとも考える。
それほどまでに、彼の頭の中には負の感情が滾々(こんこん)と湧き続けていたのである。
色で言えば、漆黒か、消炭色か。
だが、そんな彼の感情とは、全く真逆の色が校庭に弾ける。
(何だ……?)
声に出したのだが、声が出ていないことに浩助は気付く。
白い光は、一瞬で校庭を含む校舎全体を包み込み――。
――その日、浩助たちが通っている学校は一瞬で地球という星から消滅したのである。