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俺の後悔と試合後

 讃良時雨。野に放したライオンのような闘志とそれを助長する身体能力の高さ。

 鉄壁の要塞のように堅牢なディフェンスに、砲弾と見間違う位に迅速で破壊的なアタック。

 まさに楠瀬坂ディメンションボール部第一チームに相応しい圧倒的エース。不動の強さ。今の第一の強さの象徴ですらある。そんな彼女が、

 目の前の光景を見て、

「うわぁ…」

 ただ感嘆の声を上げる。

 そこには同情、哀愁すらもあったかもしれない。

 …それほどに第二チームのエース、西園優衣という選手は圧倒的だった。


「…久しぶりだな。戦闘型西園。」

 俺は暫く逡巡したがそう声をかける事にした。呼び方なんてないし。今の西園を一番うまくあらわしていると思う。

「お、その声はあん時の男か。」

「ああ、矢矧悠という。」

「はるか?随分と女々しい名前だな。」

「そう言ってくれるな。俺は一応お前が今いるチームのオペレーターだが、アナウンスは?」

「必要ない。」

「だよな、まぁ相手に怪我をさせない程度にしといてくれ。」

「しゃあないなぁ。まぁ出来る限りしてやるよ。」

「宜しく頼む。」

 連絡を切る。

「…ッチ」

 壁に拳をぶつける。

 が、大きな反動や大質量の衝撃をぶつけても全壊しないと言われているオペレーター室の強化セラミックを混ぜ込んだアクリルの板はびくともしなかった。

 考える。

 今から西園の一方的な得点が始まる。

 良かったじゃないか。ウチのチームは勝てる。

 初陣が初勝利だ。初白星だ。何が悪い。

「クソッ。」

 何が良かっただ。結局の所個の戦力差が勝敗を分けただけじゃねぇか。戦略はどうした?戦術がどうした?

 結局今から取る西園の取る得点量には勝てないじゃないか。

 俺の嫌いな結果で、面白みのない戦果を上げて勝つ。

 この戦いで、第一チームも俺も強大な力の前に屈することになる。

 堪らなく悔しかった。勝てるはずなのに。悔しかった。


 試合の展開はまさに「蹂躙」で あった。

 ハッキリ言って讃良先輩など目ではない。圧倒的蹂躙がその後のゲームの結末を如実に表していた。

 ボールのシュートはどんな体勢からでも間違いなく全力の讃良先輩を超えている。その力を自在に操り、点数を稼いでいる。

 特に驚くべきなのがフェイクだ。

 自分のボールのスナイプと威力に絶対的自信があるからこそのフェイク。まずは高速の球を相手に当たるギリギリに撃つ。

 その速さが胴体視力が追いつくか追いつかないかのギリギリでの強烈なキャノン砲。その威力に相手が怯んだその時こそ相手を狙ういいタイミング、

 すかさず戻ってくるボールから胴体を狙い、確実に当てる。

 まさに個の力を生かした戦略というべきもの。存在の圧が違う。王者の獣狩りだった。

 結果第三セット以降はストレート勝ち。

 第二チームには喜びと困惑が入り混じった。


「…今回はウチのチームの勝利となりました。」

 試合後のミニ総括である、後でちゃんとした反省会もするつもりだが試合終了後の一言も行う。

 ちなみに試合の終わるビープ音と同時に西園は我に帰りへたり込んだ。あれだけ強く撃っていた筈の肩がしなしなーと落ちていく様子は…もうなんか悲しくなってくるものであった。

「第三セットのキラースタートや、第一セットでのカウンターも成功しました。が、讃良先輩程度の選手にはやはり通用しない手も多く、一層の精進をするつもりです。宜しくお願いします。」

 はい、という声が聞こえる。

「…西園は今回とても頑張ってくれました。ありがとうございました。」

「え?あ、うん。こちらこそ…。」

 微妙な気持ちを抱えながら俺は総括を続行した。


 その後コートの片付けをしながら今回の試合をメモしていると部長と讃良先輩の姿が見えた。

「お疲れ様でした。」

「そちらこそ、西園ちゃんには遠く及ばないよウチのチームは。」

 部長の返答。

 讃良先輩も続く。

「本当、僕のチームに欲しいくらいだね。」

「あげません。」

 西園が持っていたビブスを入れた持ち手が金属製のプラスチックかごが手から滑って落ちた。

 落としたら音がうるさい製品だから気をつけよう、と念じてみる。届くわけないけど。

「ウチのエースストライカーなんで。取られると困ります。」

「それもそうだね~。」

 西園が溢れたビブスを集め始める。

 部長がそのまま話を続ける。

「戦略もいい感じだったじゃないか。」

「はい。讃良先輩の防御テクニックには及びませんが、もうちょっと改良します。西園や皆の実力も大体分かりましたし。」

 西園手が少し止まり、また動き始める。

「へぇ、なんで西園ちゃんにスポットを?」

 手が止まった。

「あいつはいい選手ですよ、技術もあるし、経験もあります。俺の無茶なアナウンスも聞いてくれますしね。」

 長らく止まっていた手が動き始めた。

 西園が立ち上がる。

 会話続行。これも冗談混じりに言っておこう。

「本当にいい選手です。好きになるかもしれません。」

 ガシャーン!

 西園がまた落とした。

 部長は豪快に笑う。

「はっはっは、部内恋愛は禁止だよ。」

「でしょうね。」

 西園が素早く拾い今度こそ倉庫に…

 讃良先輩が言う。

「…やっぱり西園ちゃんくれない?」

「あげません。」

 …また落とした。


 後で戦略の件について色々と教えることを約束して、今回の練習試合は終わった。

 そして試合を終えた第三体育館の簡易机で今日の試合結果を記す。

 今回の試合の戦術はチームとの通信の録音を基にノートに書き写し、先輩の体力を数値に表しながらボールの移動順と選手の動きを確認する。

「うへぇ、何かめんどくさいわねぇ。」

 隣の東雲が露骨にめんどくさそうに言う。

「それがマネージャー兼オペレーターの仕事なんだよ。どうせならお前もマネージャーやってくれ。」

「私はまだ選手よ。」

「その言葉試合に出たら言ってくれ。」

「う、五月蠅いわね!この(ディメンションボール)馬鹿!」

「ツンデレ乙」

「言うと思った!」

 思考がバレてた。

 第三セットまで書き写してノートを閉じる。

「途中じゃないの?」

「え?あ、いや、…もう下校時間だからな。」

「じゃあ一緒に帰らない?」

「お前が俺のノート書きをずっと見てるから元来そのつもりでいたんだが?」

「ふ、ふぅん。ま、行きましょう。」

 校門を出て日暮れの楠瀬坂を下る。

 日の沈みを見ながら俺はポツリと東雲に漏らした。

「本当は…さ。第四セット以降で西園が本気出したときさ。悔しかったんだよな。」

 第四セット以降、俺がショボい頭捻って考えこんで練った策でもぎ取ったは数点は、西園の本気にかかれば一セットで取り返せるものだった。

 第四セット以降は全てこちらのチームがパーフェクトでセットポイント。讃良先輩が交代したとは言え、そうでなくともその差は開くばかりだったろう。

 ノートを3セット目で終わらせたのも西園のワンマン行動であったため必要なかったからだ。

「小賢しい戦術は通じないけど戦力の違いは明らかに結果が出る。西園が強いから今回は勝てた。」

 これは紛れもない真実。戦術で疲労するよりも、バラバラに指示を出したほうが燃費がいい。そうしてとった1点も次には防御される。戦術は消耗戦。そして狭いルールの世界に戦術はいくらでもあるわけじゃないのだ。なんなら戦術も戦略も初めからなかったようなものだったって言い換えてもいい。

「でも第三セットは…」

「あそこで戦術が尽きた。」

「あのまま戦術を続ければ、」

「讃良先輩に止められて終われっていうのか!!!?」

 俺の大声にビクリと肩を震わせる東雲。明らかな怯え。

「…悪い、大声出して。」

「…別にいいわ。でも、小賢しい。は違うと思う。」

「……。」

 結局東雲はいいやつだ。愚痴も八つ当たりも、なぜか聞いてくれる。そして励ましてくれる。理由を聞かれても俺は『いいやつだからなのでは』という曖昧身勝手な考えしかできないが。才能だ。

「試合始めの山城先輩のショットも、第三セットの暁雲先輩のショットも、矢矧の戦略でしょ。」

「…まぁな。」

「だから第一セットから上手くプレッシャーを掛けられた。違う?」

「…違わない…と思う。」

「ならいいじゃない。今回の矢矧はちゃんとオペレーターとしての役割を果たしたし、戦術も成功させた。」

「そうだな。」

「及第点じゃない。私なら自分を褒めるわ。」

 嘘付けと思った。

 こいつは絶対自分に及第点をつけない。ずっと前からそういうやつだ。

 聞いた話では、小学生の頃からおばあちゃんの看病をずっと一人でやっていて、初期症状とは言えボケを更生させて、老人の耐性では危ない風邪も看病と錠剤だけで直すような優秀な看護士だったらしい癖に、中二の頃にどうしようもなかったレベル4の癌でおばあちゃんを亡くした、

 いや亡くさせたと自分を責めている。小学五年生の時点が余命だって言われたらしいのに。こいつは未だに自分を責めている。

 だから、目の前でそんなこと言って自己嫌悪に陥らないで欲しい。…その顔こっちも辛くなるんだよ。

「冨美先輩のケア、ありがとな。」

「別に大丈夫よ。筋肉硬化なんて運動部ではよくあることなんでしょ。」

「まぁな。今度処理の仕方教えてくれ。」

「嫌よ。先輩方を揉みしだくつもりでしょこの変態。」

「なっ!!そんなことしねぇよ!」

 …そうか、揉みしだけるのか。

「……おいそこの女子と会話しててもエロいこと考えるムッツリさん。」

「はぁっ!?考えてねぇし!」

「ふふ、返答が小学生。」

「うるせぇ!」

 減らず口にはムカつくが結局笑ってる東雲が一番だなぁとは思った。


 その時西園優衣は物陰に身を隠していた。

「わわわ。」

 その動きすら素早く、機動力ならば讃良時雨かそれ以上。

 だが今の彼女にはそんなことどうでもいいのだ。

 目の前の状況である。それ即ち仲良さげに帰宅する矢矧と東雲の2人。

 ちょっと教室に戻ったついでに体育館を覗くと丁度矢矧達が帰るところだったのだ。

 東雲と仲良さげな矢矧の姿。

(…着いてきてしまった。)

 彼は只のオペレーターである。只のチームメンバーで、珍しいから観察してて、特に深い意味はない。

 ましてや親密そうだからと言って嫉妬なんて全然。そう全然。

(…誰に言い訳してるの私)

 言うまでもなく自分にである。

 しかし本心とはまだ認めていない。その気持ちへの決心はまだ少し先である。

試合終了です。

次からは…またもグダグダ日常回です。よろしくお願いします。

書いてる方としては楽しかった回ですよ次回(笑)

…ところで、みなさん活動報告見てますか?

作者名から私のマイページに飛んで(ふざけた)活動報告も見ていただければ幸いです。

毎回ふざけてます。アンド、結構大事な報告もしてますのでね。

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