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俺の戦略で試合中(2)

 山城先輩からは当然の疑問。

「裏技…とは?」

「これは戦略でもなんでもなく、小手先のちょっとした技術なんですが…。実践した方が早いでしょう。多分実践で使えるとき指示します。」

 現役の時にたまたま見つけた技だ。

「もっとも、讃良先輩には一度しか通用しそうにありませんし…ね。」


 機会は早く訪れた。讃良先輩を避ける為に下にパスしたあとの朝熊先輩のシュートターン。

「朝熊先輩。後方左から二人目。強く。」

「…了解。」

 朝熊先輩の声が多少どもる。

 それもそうだ。

 ディメンションボールでの後方端から2人目とは一種の自殺行為だ。まずコースが読まれやすい。端でもないかぎり相手の後ろは使えないことも多く、横の壁は中列が止めやすい。しかし後方端から二人目を狙うには横の壁が必須だ。つまり二人目を狙うというのはそこしか狙っていないと言っているようなもの。更に讃良先輩は上に飛んでいて落下中だ。下手に上には打てない。つまり狙いは相手に完全に読まれていると言っていい。

 その証拠に二人目は既に防御体勢にはいっている。そこで俺は垣間見る。左端から二人目、ではない。

 右端から二人目だ。

 結局の所ルートはたった一つ。そしてそのルートなら…

 ボールが曲がる。

「な…ッ」

 ボールは無防備な右端二番にヒット。一点をもぎ取った。時雨先輩も驚いている。

「バウンドリフレクト…。」

「朝熊先輩、ナイスです。」

 起こした朝熊先輩が一番驚いている。

 バウンドリフレクトとはディメンションボールというスポーツで稀に見られる現象である。

 実はこの現象。形状変化の起こりやすいディメンションのボールを利用したもので、ちょっとした小技になり得るのだ。

 ディメンションボールのコートは全体をネットで覆う特殊コートだがそのコートを支える為の「繋ぎ」は当然入っている。

「繋ぎ」は一辺に5個、等間隔だ。よってこの「繋ぎ」に上手く当たれば、ブレーキがかかって回転がかかり、ボールの方向が変わるという訳だ。

 但し非常に条件が難しい。

 まずディメンションボールは球体の球を使っている。だから通常この繋ぎに触れることは出来ない。ソフトボールより柔らかい球とされていて空気摩擦による形状変化が激しいとされるディメンションボールでもよっぽどのスピードが必要で、ギリギリ形状変化したディメンションボールが当たる程度の物だ。

 今回だって成功したこと自体が素晴らしい。

 プレー中の「まぐれ」を理論的にひき起こる条件を満たした結果の産物だ。

 まぐれと裏技は紙一重ってことかね。


 勿論そんなスピードが突然そっちに来たようにに見えるんだから反応出来ず、ボールは見事に返ってくる。

 流石の讃良先輩もこれにはビビったようだから、今の内に仕掛けるか。

 まずは中列右の似鳥がキャッチ。前列左端でジャンプさせておいた日美先輩にパス。…流石に追いつくか。

 すかさず下にパス。西園がキャッチ。

 そして連絡を出す。

「暁雲先輩。レディ。」

 後列左端、暁雲先輩へと。


 讃良時雨は考える。

(後輩の日美はジャンプしていたが私なら止められる。下の西園もそうだ。

 僕の今の条件なら左端なら完璧だ。中央も問題ない。

 だからここから点数を入れるなら右からしかない。)

 しかし、だから疑問が消えない。

(僕を舐めている?有り得ない。)

 否定。あのオペレーターから情報を貰う選手だからこそ分かる。

 相手側のオペレーター室にいる一年生の男子。

(さっきのボールリフレクトも、キツいパス攻撃も、あんなことが出来るオペレーターがその程度の憶測を誤るはずがない。)

 敵であるが故の正確な予測。力量は読み間違えない。

 だからこそ、疑問が消えない。

(あのオペレーターなら右を狙うしかないって分かっている筈。)

 さっきパスしていた似鳥という一年生をちらりと見る。

(彼女が飛んでも私が今からなら止められる。)

 彼もそれは分かっている筈だ。さっきの似鳥の投擲の速さから見て確信出来る。単純な投擲ならば今の時点から右に移動し、止めに行けると。

(だから…部長にも体力底なし沼と言われるのかな?)

 閑話休題。

 よく考えれば変だ。

 ボールはもう移動している。投げればいい。ボールは端と端を蛇行する弱いボールになるが右を狙って投げればいい。

 少なくとも点数を取るチャンスになる筈だ。

 なのに投げない。それもディメンションボールはボールを持てる時間が制限されているのに。6秒だ。だから残り3秒。

(もしかして僕の着地を狙っている?僕が右に行くと踏んで?)

 そうならば策士だと思う。

 残り2秒。

 そして讃良時雨は判断する。

 つまりこれは右移動への誘導フェイクだと。

 そして行動する。

 つまり直上へのジャンプとして。

 跳んだ、瞬間。その一瞬に。

 その時ボールが右に捨てられた。

 西園は右を一度も見ていない。その目はまっすぐ自分を見ていて、そして笑っていた。

(まさかオペレーターの情報だけで?)

 何故信じられる?右には誰もいないのに。

 瞬間。

 直線に移動する影を、讃良時雨は視認した。

(!!!!!?????)

 そして驚愕した。

 まさか

 思っても見なかった


 後方左端から突っ切ってくるなんて。


(本当に驚きだよ。)

 あのオペレーターは本当に考えたことも無いことをする。

 セオリーを崩した先の新天地にいるプレイヤーだ。

 讃良時雨は小さく溜め息を吐いた。


「GO!」

 暁雲先輩に指示を出す。

 成功する瞬間は一瞬。速いと気付かれる。遅いと対策が打たれる。

 足を着けてたった今飛んだ時の瞬間を使って一気にスポットへと移動する。

 讃良先輩の対策が取れない瞬間を狙え!

 暁雲先輩の本当の在り方。体重が軽いから高い位置のジャンプが出来る?違う。的が小さい?殺されるぞ?

 正解は俊敏な体を使った移動だ。通常なら自身の体重で地面にめり込み、ジャンプ以外の移動が難しいディメンションボールだが、暁雲先輩の場合は体重が軽いので沈まず、地面のように移動出来るのだ。

 小さな子供だとトランポリンがあまり沈まないのと同じだ。

 と暁雲先輩に先輩に解説したら卍固めをかけられた。ものすごく痛かった。死ぬかと思った。

 …まぁそんなこんなでこの技は成功したのである。

 まずはフェイント。西園が右の方にパスを出さず、右の前列が空いていることに違和感を覚えさせる。

 しかしそこにはボールを受け取るはずの似鳥がいない。

 つまり讃良先輩が右に飛ぶ瞬間にまっすぐ撃つというフェイント。…の様に見せかければいい。

 後は西園が右を向かず、視認調整をしない形で右に投げるだけ。自分のパスが確実にそこへ行くとは限らないのに、俺の「大丈夫だ。」という言葉を、西園は信じてくれた。

 最近来たばっかりの只の一年オペレーターを信用しろと言ったことはここに来てやっと活きた。

 俺だったらそんな風には動いていない。成功するかも分からないのに。

 でも、だからこそ、狙え。

 今しかないのだから。

 プレイヤーが思いもしなかった、けどいつかは憧れるようなスーパープレイ、バレーボールのような美しいパス攻撃の戦略性を。

 プレイヤーの夢を、オペレーターが実現させる。

「行けるッ!」

 空中に飛んだ暁雲先輩が胸から放つボールは純粋な暁雲先輩のスピードに発射のスピード、理屈では通常の二倍。

 俺の今の戦術の渾身。

 今、放たれる。


「速い。」

 東雲もそう呟いた。

 彼女の体格からは想像も出来ない強烈なショット。

 避ける専用だった筈の暁雲奏という選手の在り方が目の前で崩されて、覆される。

 考えられないほど速い。

(これまでの暁雲先輩の固定概念からは考えられないだろ?)

 そうはいいながらも俺は歯噛みする。

 あの時視認した後の讃良先輩は明らかに左の壁を使い跳躍しようとした。

 見た瞬間に動き出せるあの胴体視力。

 タイミングにはコンマ2位までなら成功の幅が出来ると思っていた。

 違った、彼女には1コンマのズレも通用しない。

 今回のジャストタイミングすら見ればギリギリな筈だ。本当に化け物だ。

 それでも試合ではそのシュートが決まる。胸の高鳴るようなシュートが、決まる。

 たった二点の反撃。だが相手を動揺させるには十分な隙。

 讃良先輩が立て続けに防げなかったことも大きいだろう。

 結果第三セットは俺達が辛勝した。


 第三セット後。

「時雨。交代しよう。」

 オペレーターの部長からの相談に讃良時雨は「理由を」とだけ言った。

 ただしその眼光は見るものを竦ませる。

 非常な不快感がオーラとして滲み出ている。

 しかし部長は気にもとめず淡々と理由を述べる。

 ここで讃良時雨の体調は禁句だ。周りがどんなに讃良時雨の能を将来も活躍してほしいと思って買っていても本人にとって自分はその程度のことなのだ。その程度のこと、での交代は彼女の地雷なのである。

 そしてその自分を犠牲にしてでも戦う彼女の在り方は、一種の妄執である。

「多分の予想だが、ウチのチームははこれ以降のセットを落とす、逆転は無理だ。」

「へぇ。なんで。」

「あっちのチームの化け物が目覚めるからさ。」

「そんなのどこから引っ張ってくるの?」

 自分の見た限りそんな選手はいない。讃良時雨は確信していた。

 しかし部長は否定する。

「あの中にいたよ。あれはヤバい。」

「手合わせしてみたいもんだね。」

「次の機会にして欲しいね。今は対策をたてて欲しい。」

 部長は讃良時雨があの時にいなかったことを思い出した。

(時雨があれを見たらなんて言うだろうかなぁ。)

 スゴいね?

 勝てそうにないなぁ?

 全然違うだろう。

(多分「戦ってみたい」だろうね。)

 彼女はどんなに強い相手でも闘争心を忘れない。食いつく。無茶をする。負けず嫌いを超えた戦うことを自らの生き甲斐とする少女。

 野に放った野性剥き出しの戦闘民族みたいな人間。

 それが讃良時雨という存在だ。

 そう信じている。

 結局讃良時雨は第三セットで交代した。


「ふぅ…。」

 第三セット終了と、始めてのセットポイント。

 化け物、讃良時雨から取った一セットは言わずもがな、俺達には圧倒的な喜びだった。

 …そして。俺は皆に告げた。

「第四セットですが、俺にはもう手がありません。」

 皆が息を飲む。

「ですが、戦力差は此方が圧倒的有利に動く筈です。」

「どういうこと?」

 朝熊先輩は言っている意味が分からないという顔をしていた。

「詳しいことは第五セットとの間の休憩で話しますが…。西園がそろそろ覚醒するとだけ言っておきます…。」

 ただならぬ雰囲気にチームが沈黙する。

「では、今からフォーメーションの変更を指示します。」

 フォーメーションの型は<ピラミッド>。

 そしてその前列は、西園だった。

5日置きというのはいささかスローペースなのではないか?とビギナーながらに考えながら7話です。

私としては書置きもまだあるので更新ペースは早めてもいいのですが、ここまでで今19話までしか作れておらず、今でこそ1話完成につき作業時間が3、4日ですが今後もっと時間がかかるかもしれませんからどうなのか、とは思いますが…。(校正もありますしね。)

アドバイスあったらメッセージ、または7話完成の活動報告の方にコメントいただけるとうれしいです。

というわけで今回は試合も後半戦を迎え、次には試合が終了します。

たぶんの話で確定ではありませんが8,9話が日常回、10話からは第二章(ただし章くぎりはしない程度)に入ります。

よければこのままお楽しみください。

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