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俺のチームの戦略

 来週、再来週も全く同じメニューだった。来週に関しては予告した通りだったが、再来週に関しては予想外だった。苦手な分野であればある程、二週間でほぼ毎日やるとコツを掴むらしく、さらに一極集中での克服で磨かれた技が寧ろ癖になり、再来週もやりたいと言い始める。苦手ばかりやらせては行けないと実績があれば自由行動で更に練習規定時間以内には撤収できるようにしていたら、撤収の時にボール裁きが苦手分野だった筈の山城先輩がディメンションボールでジャグリングしていたことには流石に驚いた。周りを見れば暁雲先輩は朝熊先輩と一緒にマラソンした後でワンonワンしているし、案外変われるものだと思った。

 そして最も変化が起こったのが似鳥摩耶だ。彼女はマットによる運動で恐ろしいばかりの才能を開き始めた。四方を弾力のあるマットに挟まれた全域トランポリンを活用し、四方八方を縦横無尽に動く。左のマットで助走をつけ、下から右上の方にジャンプし、右マットに足をつけてさらなる高さを得ながら頭が地面に向くよう方向転換すると、上のトランポリンから猛スピード降下という化け物の所業をやってのけた。

 彼女自身のバネにトランポリンマットが更なるジャンプ力を生み出している。てか上のマット使った人初めて見た。ちなみに片手キャッチに苦戦中らしい。女性でも握りやすいサイズなのに…。

 ディメンションボールは女性でも握れると言われるほど小さい周囲48センチ。バレーボールの60センチ。ハンドボールの58センチから比べても相当小さい。

 ここも女性の受けがいい理由だ。

 …余談だが一部で、本当に一部で、いや別にネットで話題になったとか、それでディメンションボールの取引数が上がったとかない、別に、いやホントだって。…まぁ一部の男性からは弾力やサイズ等から巷でおっぱ痛たたたたたたッ!?

 抓られた。耳がもげた予感?

「何すんだよ東雲!」

「あんたエロいこと考えたでしょ。」

「はぁ!?」

「だって矢矧ってエロいこと考えると黙りこんじゃうじゃない?」

「し、してねぇよ。」

「あとテンパるよね。」

「はぁ!?」

「中1の時の前田さん事件はほんと衝撃だったわね」

「やーめーろー」

 あれは事故なんだホント。

 もうやめよう、な?

 …そういえば、こいつ東雲もこちらのチームとして入部している。経験もないのに突然どうしたんだろうか。


「そうだ矢矧君、練習試合をしないか?」

 俺が基礎練の最新数値を整理しているとふと部長が声を掛けてきた。

「それってフルの試合ってことですか?」

「そうだな。」

 スポーツの試合にもよくあるように、ディメの試合にもフルとハーフという試合形式がある。フルコートで8人形式、6ポイント先取で1セットの合計6セットの『フル』。

 コート以外は全て半分の4人形式3ポイント先取3セットの『ハーフ』。

 もっと分けてみよう。

 大人数でやり、迫力から人気のあるフル。

 広い範囲でのびのびと動けるハーフ。

 どちらも長所短所があり、様々だ。

 …しかし最近ではフルよりもハーフの方が人気なのが現状だ。

 フルの試合には元来高度な戦略性が求められていた筈だが、そこはディメンションボールという発展途上のスポーツ故か戦略や戦術といった物がない。故に個々の力量や広々としたコートで分かりやすいハーフの方が人気だ。

 しかし部長がここで敢えてフルの試合を挑むということは…

「俺に戦略的なディメンションボールをやってみせろということですか。」

「よくわかってるじゃないか!今回フルでやる意味はまさにそれだ。」

「うへぇ。俺が戦略家みたいな立ち位置ってどうなんすかね…?」

「戦略もオペレーターの仕事になるんだよ孔明君。」

「孔明君!?」

 三国志か!

「まぁ、そゆことでよろしく。」

「は、はぁ…。」

 開催は次週の火曜日、練習が終わってしまった今日から丁度一週間後のことだ。


「…重大発表です。」

 ゴクリと息をのむチームメンバー。

「Dimension ball is...」

 沈黙に厚みが増して。

「RENSYUUZIAI!」

「「「「Yeah!!!!!」」」」

 そして盛大に盛り上がった。

「なんで練習試合はローマ字何だろう。」

「なんで今頃になってオリンピックのノリ?」

 東雲と西園の呆れ声が聞こえる。

 …プラクティスマッチはめんどくさかったんだ。


「さて今回は第一グループとの試合になります。」

「何時やるのかなーって思ってたんだよ!」

 暁雲先輩が反応する。

「はい、来週火曜日です。」

「おー、随分早いね。じゃあ早速練習しようか。いつものでいいの?」

「ちょっと!?」

 苦手分野とは何だったのか。

「え?でも試合って言っても…」

 暁雲先輩の反論はもっともだ。ディメンションボールに戦略はない。

 しかしその言葉を…打ち消す。

「ないなら作るんです。このチームで。」

「「「「「…は?」」」」」

 今度こそ、西園と東雲の声を含めて声が一致した。


「つまり、どういうことになるのかしら?」

 山城先輩の疑問(というより困惑)も当然だ。俺の言っていることはつまり今歴史に挑戦しているということなのだから。

 ディメンションボールの学生全国大会は今から丁度10年前。

 本格的に全国に広まったのはそこからだ。

 だからこそ10年間の間に戦略、戦術が考えられていない筈がない。10年あれば定石だって完成する。では何故そのようなものがないのか。

 それはプレイヤーが戦略的プレイを放棄したからだ。

 きっかけは単純にして些細なこと。

 ディメンションボールのコートは全体がトランポリン質のマットで覆われていることだ。それは地面となる下の面も例外ではない。

 そして一人でのトランポリンとの大人数でのトランポリンとの違いは『自分のタイミングにトランポリンのタイミングがあうかどうか』の違いだ。

 一人のタイミングと違い、大人数はそれぞれのタイミングでのジャンプがある。よって場所による弾力性の違いで思う高さに飛べないこともある。よって現段階の「指示された場所にボールを取りに行く」ということすら実戦では上手く行くことが少ない。

 その問題をクリアしない限り連携すらできない。つまり戦術の前に土台がない。だから戦術というまどろっこしい技を捨てて個々の個人力量差にかけたある種の脳筋プレイしか行われていない。

 その基本情報を踏まえて、俺は先輩達に宣言する。

「てことで戦術の前の土台を作りましょう。具体的には…皆のジャンプのタイミングを同一にします。」

「そんなこと出来るのかしら。」

「不可能ではないと思います。」

「どうして?」

「ラジオ体操はご存知ですよね。あれにジャンプの動作があります。」

「まさかあれを?」

「はい、利用するつもりです。」


 ラジオ体操を俯瞰で見たことがあるだろうか。

 集団行動のエキスパート等がラジオ体操を揃えて行うのを見ると心を打たれるものがある。

 そこまでは目指さずともあのジャンプの部分を合わせれば出来上がるのは同一タイミングでのジャンプだ。

「なる程…でもそれにはボールに当たりやすいデメリットもあるわよね?」

「はい。」

 ボールは自分が飛んでいると避けにくい。全員が同じタイミングで飛ぶと、それが全員においてその場合が当てはまってしまうことがある。それを危惧しているんだろう。たしかに集団の和を崩さないために動くのが必須なので立て直せないミスは惜しい…が!

「でもそうすれば、パスが出せるようになるんです。」

「ぱ、パス?」

 呆気に取られて少し上擦った山城先輩の声が出る。

 あ、今の可愛い。

 でも、パスという言葉に驚くのは無理もない。

 ディメンションボールという競技の中で一番必要とされていないのはパスだ。

 競技の(もと)がドッジボールにあるから、ということもある。出す意味がないから、速攻の方が結果がでるから。

「だからパスには意味がない。と思いますよね。」

「ええ。」

 山城先輩の頬はさっきのでちょっと赤くなってる。

「バスケットボールやサッカーでのパスは敵からボールを守りますが。そう言った物のないバレーボールにもレシーブやトスといったパスのようなものがあります。何故か。」

 ルールだから、それは違う。正確に言えばそれだけの意味ではない。

「それは得点を取るために最高のコンディションで打つためよ。」

「そうです。それをディメンションボールに当てはめると。」

「そのコンディションは敵に一番当たりやすい状態でボールを投げることだね!」

 山城先輩の声にしては幼げな声に驚きながら視線を移すと、ドヤッとした暁雲先輩がいた。

「な、なんで暁雲先輩が…」

「失礼な~!これでも私は高2の成績トップテンの実力だぞ!」

「なんっ…だとっ…!!」

 衝撃だった。

「ふっふっふ。先輩を侮るとはまだまだだね。」

「だって先輩小柄だし」

「ちっちゃいゆうな!」

 でも残念ながら先輩感はなかった。

「話を進めますが。暁雲先輩の仰る通りパスは最高のコンディションで打つためのものです。俺としてはオペレーター兼コーチ兼マネージャーとしてこの方針で進めていきたいと思います。」

 暁雲先輩から疑問がでた。

「でも、これ秘密の作戦なんじゃないの?」

「まぁ、その方法で裏で練習して本番で見せたらあっちも驚くだろうな…とは思いました。」

「じゃあ私達は部活後の秘密自主練でやろっか」

 部活の秘密自主練…女子が言うとなんかアレだね。しかも暁雲先輩が言うと純粋オーラと混ざって色んな背徳感があるな。

 でもそれは違う。

「でも暁雲先輩。それは違います。」

「え?」

「対戦相手ではありますがそれ以前に相手は部の仲間ですから、いずれは戦術も開示します。それに我々が先に理由も教えず不思議な練習をしているといざ理由を習った時の身につき方が凄くいいんです。」

「なるほど、凄いね!」

 ニコッとされた。うわ照れる。

「あ、どうも…。」

「どういたしまして(ニコッ)」

 純粋オーラが眩しいッッ!

「じゃ、早速始めましょう。」

「「「「「ハイ!」」」」」

 さてディメンションボールの初戦略、作ってやろうじゃねぇの!


「ところで暁雲先輩。」

「何?」

「もしかして秘密自主練の提案って自主練でマラソンしたかったからじゃないですか?」

「…ッチ。」

「舌打ち!?」

 純粋オーラはどこへ!?

やっと部活のチームとして始動した気がします…。

これからも次々投稿していこうと思います。よければ応援お願いします。

(ボールサイズ等の数値は「スポーツルールブック2013」準拠です。)

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