俺が選任で重圧
…結果的には負けた。
てかあれは魔球だろ完全に。なんであんなにグンニャリとボールが捻れてるんですか?空気摩擦かなんかですか?避けることも許さないといいたげな球が一秒もかからずに手中に戻り、複雑な軌道など一切考えさせることなく突進してきた。
性格トランサー西園の放つボールは性格のように激変しパワーにおいて俺のレベルを圧倒する。
戦略や駆け引きの通用しない戦力差、格の違い。圧倒的蹂躙。
ボールという矢が壁に突き当たり跳ね返る。
てか完全に別人だろ。誰だよあいつ。
最後は真っ直ぐに来たボールが反動して重力に逆らわなかった俺に背後からぶち当たり、接触を伝えるランプと音が鳴り響いた。
…二回目の膝枕である。
てかまた失神かよ。俺衝撃に弱いな…。
「キャッ!」
「させるか!」
腹筋に近いフォームで体を起こす。
二度目ならもう分かる。これはあれだまた引かれる奴だ。俺の頭蓋骨を死守せよ!
体を起こしてから膝枕の張本人に顔を向ける。目を開いた時も見えた蒼い髪が俺の方に揺れた。
「あ、矢矧君おはよう。」
「毎度毎度ありがとな。西園。」
「そうだよ西園さん。それをするだけでビジネスが生まれる神聖なものなんだから。」
「どういう会話の入り方だそれは!?」
東雲が何を言ってんのか俺もたまにわからない。
更に部長も続く。
「はぁ…君にはがっかりだよ。」
「え、言いましたよね最弱だって?」
「でも逆転するんだろ?そういう展開だったんだろ?」
「どういうマンガ脳ですかそれ。」
「そしてディメンション四天王を倒す!」
「倒さねぇよ!?」
「そして俺のディメはこれからだと夕日に」
「駆けていかねぇよ!!てかそれ打ち切られてんじゃんか!!」
「はっはっは。」
「誤魔化された!?」
やっぱりキャラ濃いなぁ。
「…さて。まぁ約束は守って貰うんだけど。」
「ディメ部で奴隷ってやつっすね?」
「いや奴隷とは一言も言ってないよ?ただ部活ないでの業務を手伝ってほしいってだけで」
「完全に奴隷フラグですね分かります!」
「…まぁその案はあった。」
「あったんだ!」
「だけど部長権限により全て却下させて貰った。」
「…え?」
今なんて言った?
ディメンションボールというスポーツで。雑用系が消えれば残った役割はただ一つ。
「…もしかして。オペレーター?」
「その通りだ!」
周りからおお~。という声が挙がる。
俺としては血の気の引ける話だった。
オペレーター。状況を把握し部員に伝える役割。
その主格的役割故、カリスマ性等も含めてまさに部を牽引する奴が必要なのだ。
「部長、あなたは今俺にチームリーダーとなれと言っていると言うことがわかる?」
「ふふふ、それが分かっているなら君はやっぱり只の素人では無いね。」
「けど俺は只の一年ですよ?先輩に指示を出せと?」
「君は指示を聞く器じゃない。少なくとも戦略側にいると考えるが?ほら体も動かしてないんだろう?」
段々と追い詰められている気がする。
奴隷は嫌だと言った手前雑務を強制されていない俺に残る手立ては本当にオペレーターしかない。さらに雑務への更なるネガキャンで雑務への転職も潰され、オペレーターをやるしか無い状況にされかけている。
なかなかの策士ッ!
「それにねぇ、只の一般人はないだろぉ矢矧悠君。いや」
『浮游王子』君
部長は確かにそう言った。
何かが、切れた。
「その言い方はやめてほしいっすね。もう俺は止めたんです。この競技を。」
「それは何故?」
「己の力量に気づいたんです。」
「どういう意味だ?」
「体の硬化は避けられないし体も大きくなって的になりやすい。男子には不利な競技だと気づいたんです。」
「…違うな。」
「本人が正解の問題なのに?」
「それが本人の本心だったらな」
「ではこれは俺の本心じゃないと?」
「無いだろうな。」
「じゃあ何だ?」
「『プレイヤーとしての』自分の限界に気づいたからだ。」
「…何が言いたい。」
「行動の制限に耐えられなかったんだろう?」
「……。」
「なんだ反論もなしか。やっぱり図星か。」
反論は出来なかった。
何故?知らない。
理由の分からない怒りが見え隠れしていたからなのかも。
俺は言わずとも、部長の目には怒りの色があった。
お互いギリギリの攻防だったかも知れない。
「まぁ反論がないなら言わせて貰うが…。」
「…なんすか。」
ここで一度部長は言葉を止めた。
「うちの部にはそういう突飛な戦略が必要なんだよ!」
「…は?」
そして体育館全体に聞こえるような大声で演説を始めた。
「只のお約束だけじゃない。ディメンションボールの世界にない戦術性が今ウチのチームに必要なんだ。それをオペレーターの力で発揮しろ!私はそれを求めている!」
それからも何故か涙ぐみながら部員の前で演説をかました部長に俺も部員も只圧倒された。
…なんかアツい青春スポ根漫画みたいな展開だな…。
「…はい。」
空気に呑まれた俺がこの言葉を言うためにどれだけの時間がかかっただろうか。
そして言った途端拍手が起こった。
…なんか西園が涙ぐんで拍手してるんだけど。
しかも周りも便乗してるし。
「じゃ、よろしくね矢矧君」
そう言うと倉庫の方へ歩いていく。
あと、と言って通りがかりの俺に耳打ちする。
「部員になるんだったらタメ口直せや。先輩に気安くタメしてんじゃねぇぞ。」
ドスの聞いた声が耳の奥底まで響いて、俺は腰が抜けたようにへたり込んだ。
「じゃ、私は他の部活見て来るから~」
といって東雲は体育館から出て行った。自分はディメ部に入るつもりはないらしい。
…てことは俺は一人ここにいさせられるらしい。男子一人身内無し。死ぬかと思った。
性格が治った西園は意外と優しく、唯一の頼どころだった。
ちなみにオペレーターの練習なんてものは存在しない。
「ねぇ部長。」
「なんだい矢矧君。」
「オペレーターはチーム練習以外では今のところ特に仕事無いですよね。」
「…じゃあそこのタオルを…」
「雑用系なのかーッ!結局かーッ!」
てことで結局雑用係だった。
そんなアホをやっていたら下校時間になった。
一年の正式な入部を希望できるのは明日からなので今日は通常帰宅時間での帰宅になる。
「ね、ねぇ矢矧君。一緒に帰らない?」
そんな西園の誘いに、体育館からでて革靴に履き替えながら俺はとりあえず快諾した。とりあえずで快諾名事に関しては気にするな。いくら女子とのコミュ障の俺でも人並みの青春をもとめているのだ。
駅からは別方向なので駅構内での解散だが、学校の校舎から校門まで100m。更に駅から一キロはある。しかも楠瀬坂というからには、坂なのだ。
帰りは下りなだけまだいいけども。
「あ、あのな西園。ほんと悪かった。許してくれ。」
校門をでてからの突然の謝罪。なんのことかを悟った瞬間西園は顔を赤くした。
「い、いえ。私も、あれ更衣室に行こうと思ったんだけど先輩達がここでいいって言ったから。そのほんと見せちゃってゴメン。」
「ん?い、いや別に西園は肌綺麗だからべつに謝らなくても…てかむしろ得を」
言っていて気がついた。
自分が如何に恥ずかしいことを言っているかに。しかも西園が更に顔を赤くしている。うわぁ何言ってんの俺?
「わ、悪い!」
「い、え、別に!?大丈夫大丈夫…。」
「…そっか。あ、そうだ。試合の時に気になったんだけど、あの1ポイントの後性格が豹変してた気がするんだけどアレなに?」
「あ、あの事何だけど…。」
「?」
「わ、私上がり症なんだ。」
「…は?」
それから西園は自分について話した。
西園優衣という人間は普段のこういう人間なのだが、どうやら朝等での低血圧タイプの時間とテンションが上がった時の高血圧タイプがあるらしく。
例えば低血圧タイプだとイライラしていて、何かと敵視したり。高血圧タイプだと好戦的で攻撃的になるらしい。
…それもう多重人格なんじゃねぇか。と言おうとして止めた。
結構驚きだった。朝はクールでニヒル。昼間は普通に過ごし、でテンションが上がるとアタッカーになる。
なんだこれ完全に多重人格じゃねぇか血圧関係ないじゃねぇか…という言葉も飲み込んだ。
兎に角血圧に関係があるらしい。
まぁ種を知ればそれも西園の良さなのだということで納得も出来た。
それから俺らはたわいもない話をして帰った。
部長の演説に感動しただとかディメンションボールは中学でもやってたとか。人格とかは関係なく西園は普通にいい子だった。そうして駅前についた時、
「ね、ねぇ。矢矧君。」
「ん?」
「連絡先、交換しない?」
…。
……。
………。
神、光臨。
いやっほぉぉぉぉぉおお来たぁぁぁぁぁああ!青春キターーーーー!アオハルだぜぇラブコメだぜぇいよっしゃぁぁぁぁい!
めっちゃ狂乱していた。脳内で。
…まあ俺みたいなの場合こういう奴だけでは全然喜べないどころか危険として認識したほうがいいのだが、
いやまぁ大丈夫だよね?西園優しいし、かわいいし、ね?大丈夫ネ?
「あ、ダメだったかな…?」
「いや全く!?むしろ歓迎だ!」
「っ!?はぅぅ…」
またなんか変なこと言ったかな。まぁいいよ完全にセーシュン時代だろこれいやったぁぁ!
「じゃあこれ赤外線。」
「あ、うん。はい。」
画面には西園優衣のプロフィールが表示されている。
……おぉ。
もう感嘆の声しかでまい。
「うん。じゃあね矢矧君!また明日!」
「あ、おお、じゃあな!」
そう言って別方向の電車に駆けていく西園。その顔はほのかに赤い気がして…。
このあとめちゃくちゃ歓喜した。
「ったく…。何先に帰ってんだか。」
体育館を覗いた限りではおそらく先に帰ったであろう矢矧悠に愚痴を垂れながら私、東雲恵利は坂をくだっていた。
確かにあそこに置いていき連絡も約束もなかった私もわるいけれど待っててくれても…。
そして駅前で仲良さげに言葉を交わす矢矧と西園さんの姿を見て。思わず目を逸らしてしまった。
それでも何故か目は二人の方を向く。更にあの二人はメアド交換もするらしい。
メアド交換を終えて別方向に歩き出した二人をみて。
胸の小さな痛みに気付かぬフリをして、私は矢矧の方へ駆け出して行った。
次作です。
基本的に定期投稿にしようとは思いますが…
次はたぶん5日後(適当)です。
キャラクターが情緒不安定ですが気にしないでください(笑)