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9話 「なにがため」

短いです。

 アシルの転落事件をきっかけに前世の記憶を取り戻してから、一日。

 前世の自分・ハルカの自我が目覚め、もしかしたら怪しまれるのではと心配したものの、ルーシーとしての自我もしっかり残っているせいかアシルにも気づかれることはなかった。


 大量発生していたシザーラビットもルイがすぐにフランシスさんに報告し、ことなきを得た。


 ここ数日で二度も魔法暴走させ気絶した私はフランシスさんによって魔法修行を言い渡されてしまった。

 令嬢修行は一旦お休み。一国の長とその跡継ぎである殿下に謁見するのだから、不可抗力でさえも危害を加えることは許されない。ハルカとしての意識があるからこそ、それがどれだけ大切かはわかる。けれど、せっかくつくった時間でアシルに子供らしい遊びを教える作戦が叶わなくなってしまった。


 いや、少しの時間でもできる遊びはある。あきらめないぞ、私は。



 それに、レジナルド殿下との謁見は大きなチャンスでもある。


 今回謁見する跡継ぎ息子、第一王子こそがユーリの親友レジナルド殿下。

 ユーリと親しくなるには、その親友レジナルドと親しくなることが確実だろう。


 貴族は婚約年齢が若い。

 学園に入学してから~、なんてのほほんとしていたら、ユーリに婚約者が決まってしまうかもしれない。

 ゲームでは通常攻略キャラクターのうち数人は婚約者が既におり、好感度が上がっていくと彼らの婚約者たちから様々な妨害を受けるのだ。ユーリ婚約者については触れられなかったが、いないとは限らない。


 こっそり調べたところによると、ユーリは社交界にはまだあまり出席していないらしい。つまり交流は親戚やごく親しい家同士のみで、まだ婚約者はいないはず。それなら今のうちに彼の隣をキープすればいい。そうすれば婚約者候補として彼の父親・バラティエ子爵とフランシスさんに印象づけられるかもしれない。


 子爵は伯爵家のサントラム家との婚約に嫌な顔はしないはずだし、フランシスさんは、幸せになれるのなら平民でもいいと言ってくれているから問題ない。



 そして、目下の問題であるルイとアシルのヤンデレ具合。

 彼らはゲームの攻略対象である。つまり心を病んで私を殺しにくる可能性があるのだ。


 ゲームでのアシルは、可愛らしい毒舌キャラクターとして描かれていた。

 可愛らしい容姿で微笑みながら地位の低い者を見下し毒を吐く。しかしその態度は主人公である義姉にのみ一転する。


 『姉さんはもっと僕を頼ってよね。二人だけの姉弟でしょ?』


 一見素敵な台詞なのに、ゲームを進めるのつれその本性が現れる。つまり彼も将来有望なヤンデレ候補なのだ。


 彼は姉への愛が深すぎて、嫉妬に狂ってしまう。

 家族である限り姉と結ばれない。それならばとサントラム家の証である、姉のラズベリー色の瞳をえぐり出すのだ。姉を事故死として社会的に殺し、視覚を失った彼女を一生屋敷に監禁し永遠に幸せに暮らす。

いくつかエンドがあるのだが、アシルルートの主人公は悲惨な末路を辿る。


 ハッピーエンドはそこまで悲惨ではない。けれど義理とはいえ姉弟の情が生まれつつある今は彼ルートには入りたくない。ゲームでは表現が濁されていたけれど、ハッピーエンドのスチルには彼との子供も描かれる。つまりは子供を成す行為をしたわけで。姉として抵抗があるのだ。

 それに今のアシルは病んでいる気配はない。ならば病んでしまうほど彼に好かれなければ良いのだ。うん、これは簡単そうだ。


 しかし、ルイ。彼がわからない。

 ルイのルートでは主人公に暴力や監禁の矛先は向かないかわり、その周囲に及ぶ。自分にとっては危機はなくとヤンデレはお断りなので、私はやっぱりユーリがいい。

 ルイはフランシスさんが魔法の師範を依頼されるとと、二つ返事で了承したらしい。引きこもってまで拒否していたのに、どうしてだろう。わからない。彼の掴みどころのない言動に相まって、わからないことが怖くなる。


 

 目を覚ましたその日からさっそく魔法の授業が始まった。

 周囲を緑と花々に囲まれ、心地良い風の通る東屋でルイと向かい合わせに座り、教材を開く。

 深緑色の古びたローブを羽織ったルイは前髪が邪魔して今日はラズベリー色の瞳は見えない。


 教材に影を落としながらルイが不意につぶやく。



 「魔法は凶器だ。身を守ることもあれば、身を滅ぼすこともある」



 どこかこわばった声。身を正して聞き漏らさないように集中する。



 「大切なものを守ろうとして、壊してしまうこともある」



 「君は、何のために魔法を使う?」



 「守るため?壊すため?それとも力を隠すため?」



 サラリと濃い藍色の髪が風に揺れて、ラベンダー色の瞳がこちらを覗く。

 まっすぐ向けられた瞳は私の一挙手一投足を見逃さんと真剣で、見定められていると分かる。

 彼は私に魔法を教えると決めたわけではなかった。

 間違えばきっと、魔法は教えてくれないだろう。


 でも、なにが正解かわからない。

 私は賢くない。嘘をついてもきっとバレてしまうだろうし、つきたくない。

 それなら素直に答えるしかない。


 「幸せになりたいの」


 ラズベリー色の瞳が話の続きを促してくる。

 

 「私は幸せになるために力が欲しいの」



 言葉とともに強く瞳を見つめ返せば。



 「……いいよ、君に魔法を教えてあげる」


 一瞬ぽかんとした後、ルイは緩やかに笑みを浮かべて言った。

 

 どうやらお眼鏡にかなったようで胸をなで下ろせば、未だ私を見ていたらしいルイと目が合う。先ほどの試すような色はない。


 「それじゃあ、魔法のお勉強しよう。お嬢様」




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