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7. 再び避難場所へ

沈黙を破ったのはパウロだった。


「いつまでもここにいるわけにもいかないね・・・

ここはひとつ、避難してる人たちのところへ戻って状況説明をするペアと

留まるペアとに分かれて行動するってのはどうだい?」


最良の案だ、とでも言うように自信ありげな表情のパウロ。

確かに、避難している乗客たちにも今の状況を知らせる必要がある。

もちろんパニックに陥るだろうが、隠している訳にもいかない。


「ここに留まるペアは何をするんです?

犯人だってまだ近くにいるかもしれない。

全員で戻った方が安全です」


圭吾の問いにパウロはまたしても自信ありげな表情で答えた。


「確かにちょっと危険だけど、

ギャレーの中の食料や医療品を運び出しておこうと思ってね。

いつ救援が来るか、こんな状態じゃ予測もつかない。

みんなが助かるには食料と医療品が必要不可欠だろ?」


パウロは自信ありげに胸を張った。

表情や口調は陽気な南米人のそれだったが、彼の案は至極冷静な判断に思えた。

食料や医療品を取りだす際、

燃料漏れをしている機内へわざわざ出入りを繰り返すのも危険だ。


「荷物を降ろしたら荷物を降ろすペアも避難場所へ向かう。

避難場所まで荷物を運ぶのは重労働だ。

新たに人手を調達してからにした方がいいと思うんだ」


「君にしては珍しくまともなことを言うね。

私もパウロの案に賛成だな」


北川は悪びれた様子もなく皮肉を言う。


「珍しく、は余計だよ。あんたはいつも一言多い・・・」


パウロはふてくされたように母国語でなにやら独り言をぶつぶつと呟き始めた。

私と圭吾は、異論はないといった風にうなずく。


だがある盲点に私は気づいた。

ギャレーの中の食料を運ぶという事はつまり、

血の海に横たわる二人の遺体の周辺を

うろつかなければならないという事だ。


人選はなにで決めるのかと冷や汗をかく思いでいた。

じゃんけんか、それともくじ引きか・・・


不安そうな私の表情を察してか、パウロは優しい口調で言う。


「女の子を恐い目に逢わせるわけにはいかないからね。

荷物を運びだすのは俺と北川でやるよ。

君たち二人は先にみんなのところへ戻って状況を説明して欲しい」


ちっ、という舌打ちをして北川はそっぽを向いた。

だがパウロの言葉に異論があるというわけではなさそうだ。


「それに北川は死体に慣れてるからね・・・」


いやらしく笑うパウロの目。

私の背筋は凍ったように冷たくなった。

彼の目の奥底に、一瞬不気味な光が見えた気がしたからだ。


「パウロ」


北川が何か言いかけたのを遮ってパウロは続ける。


「彼は医療従事者なんだよ。お医者さんってやつだ。

だから血や遺体には慣れてるって意味さ」


こんな極限状態で冗談を言えるパウロが少々腹立たしい。

だが、先ほどの彼への違和感は気のせいだった事に私はほっとする。


北川が医療従事者ということに私は大して驚きもしなかった。

彼が医療に携わる者ならば

機内でのあの落ち着きように納得がいくからだ。


「パウロさんこんな時にそういう冗談はきついですよ・・・」


圭吾はパウロの冗談に苦笑いしつつ、安堵した表情を浮かべる。

北川はあきれたように溜息をついた。


「ははは、ふたりとも脅かして悪かったね」


「まぁともかく、乗客たちのところへ戻って状況を説明してきます。

そのあとはパウロさんたちがこちらへ来るまで

僕らは待機ということでいいですか?」


「それで問題ないでしょう」


北川が短くそう言い、パウロもうなずいた。


北川とパウロに見送られながら

私と圭吾は乗客たちが避難している場所へと向かった。

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