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4. 二人の男

10分ほど歩き、旅客機へはあと数十メートル

というところで圭吾は歩みを止めた。

私を両手で制し、ここへ留まれというようなジェスチャーをする。


「危険ですから、真咲さんはここで待っていてください」


圭吾の言葉に私はうなずいた。


「あまり旅客機に近づくと圭吾さんも危険では・・・」


私はそう訴えたが、どんどん旅客機へと近づいていく圭吾。

まるで聞く耳を持っていないという素振りで歩みを速める。

およそ全長45メートルほどの旅客機の周辺を、圭吾は念入りに見て回った。

同じ場所を再び目視しながら、不信な点はないかと確かめているようだ。


遠目でもとりわけ、不審な点はなさそうなのが見て取れた。

ただそこに、何の変哲もない中型の旅客機が佇んでいる。

白い機体は薄明かりの月に照らされて、艶めかしい光を放っていた。


一通り機体の周辺を調べ終わった圭吾は

首をかしげながら、私の方へ小走りで駆け寄る。


「暗いので見落としている点があるのかもしれませんが・・・

特に不審な点はなさそうです」


やはり、搭乗員たちは中にいるのだろうか。

圭吾は少し息を切らしていたが言葉を続けた。


「着陸してからこれだけ経っても

なにも起こっていないという事は引火する確率も低そうですし。

とりあえず中に入ってみます。搭乗員がいるかもしれない」


おおよそ、彼がそう言うのではないかと予想はしていたが

私と圭吾の二人だけでは少々心許ない。


ここは一旦戻って同行者を増やすべきだと私は主張した。


やはり、ひとりで旅客機の中へ入るのは気が引けていたのだろうか。

圭吾は私の提案を少し考えたのち、受け入れた。


私たちが踵を返し、乗客たちの元へ戻ろうとしたその時。


「ここで何をしているんだ」


ふいに低い男の声。

抑揚のないその声には、妙に威圧感があった。

振り返った先には、ふたりの男が茂みの方から出て来るところだった。


「ここで何をしているのかと聞いている」


少しイラついたような声で、私たちに問いかけた男は40代前半だろうか。

細身で神経質そうな表情にお約束といわんばかりの

グレーの上等なスーツを身に着け、黒ぶちの眼鏡をかけていた。

短髪の黒髪はヘアワックスできっちりとセットされている。

だが何故か足元は、運動シューズというミスマッチないでたちだ。


一方の男には見覚えがある。

避難の際喚いていたレッドヘアーの男だ。

20代半ばと思われる彼は、ゆとりのあるパンツに

カラフルなTシャツというラフな服装だった。

ドレッドヘアーも相まって、さながらクラブDJのようだ。


少し張り詰めたような空気の中、ゆっくりとした口調で私は話しだす。


「搭乗員の方たちの姿が見えないので探していたんです。

姿が見えなくなる際、不自然な様子だったとこちらの男性に伺ったもので・・・」


そう言いながら圭吾のほうを見ると

圭吾は二人の男のほうを向いてうなずき、私の言葉に続いた。


「少し距離があったので話の内容までは聞こえなかったのですが、

機長がCAたちに何かを話した後、みんな慌てたように旅客機がある方向へ走って行ったんです。

もしかしたら乗客の僕らには言えないトラブルでもあったのではないかと」


圭吾は二人に、機長の制服の袖に血が付いていたことは話さなかった。

何か意図があるのだろうか。

圭吾の訴えを聞いた二人の男は

互いの顔を見合わせて一呼吸置いたのち、私たちのほうを見つめた。


「それは確かに気になりますね。私たちも同行しましょう。

実は私たちも搭乗員があまりにも遅いので、探しに行くところだったのです」


神経質そうな眼鏡の男は、無表情なままこちらを見ながら単調な声でそう言った。

ドレッドヘアーの男は口角を上げ、白い歯を見せて笑う。


元々、同行者を増やすつもりで戻るつもりだった私たちは

この二人の男の申し出に異論はなかった。

私と圭吾は二人の申し出に、感謝の気持ちを述べたのち、簡単な自己紹介をした。


「北川と言います。ドレッドの彼は私の同僚です」


神経質そうな眼鏡の男は、愛想のないぶっきらぼうな口調で私たちに名を告げる。


「俺の名前はパウロ・ニシヤマ。父方の祖父が日本人なんだ」


ドレッドヘアーの男、もといパウロは陽気な様子で右手を差し出す。


対極な容貌の二人が同僚だ、という事に私は至極驚いた。

圭吾の様子を窺うと、彼も同じ気持ちなのが見て取れた。


私たちは冷たい表情の北川を横目に、パウロと軽く握手を交わした。

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