朝ごはん
じりりりり~~!!
けたたましい目覚まし時計が鳴り響く。時刻は午前6時00分。
カーテンのかかる窓から、暖かい日差しが差し込んでいる。昨日の悪夢とはうってかわった気持ちのいい朝だ。
ルイはベッドから身を起こそうとするがなかなか動けない。動かそうとする手や足がキシキシと鳴り、起き上がるのを拒んでいるのだ。なんとかベッドから這い出て机の上の目覚ましを消す。
そして、サングラスを装着。ベッド脇においてある薬を2錠飲んだ。
だめだ・・もう少しだけ寝よう・・・
ルイはもとから朝に強いほうではない。もうちょっと寝なさいという身体のメッセージを抗うことなく受け入れ、ベッドにゆっくりと戻っていく。
そのときだった。
「起きて~~~ルーーーーイくぅぅぅぅん!!!」
目覚し以上にけたたましい足音とともに、叫びながらドアを開け放つ幼女が2人。
そのまま部屋に入り込み、ルイのいるベッドに走りこんでくる。2人の足音は完全にシンクロして増幅されており、結構な騒音だ。そしてルイのベッド付近で一瞬だけ足音が止んだ直後・・
「・・ごっふぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ルイの叫び声が部屋中に響いた。頭川家名物・水と月のフライングボディプレスである。
水と月は一卵性の双子だ。柔らかそうな頬の丸い顔や小さな体躯が、小学3年生の幼さを感じさせる。お揃いの黄色の水玉柄に白のフリルのついたワンピースは、くるりとはねるショートヘアーにマッチしていた。
「ルイくん、起きないと遅刻しちゃうよ?」
「ルイくん、起きてご飯作ってよ?」
「・・・この起こし方は辞めてといつも言ってるじゃないか。永久に目が覚めなくなってしまうところだったぞコノヤロー。」
何回注意しても聞いてくれないが、一応注意するルイ。ここまでがいつもの流れなのだ。
水と月をくすぐりまくって仕返しを終えたルイは、きしむ身体を動かして洗面所にたどり着く。顔を洗って寝癖を簡単に直し、そのまま洗濯機近くにかけてある黒のエプロンを身に着けた。
「さーて、今日の朝飯は何にしようか・・とりあえずめんどくさいから味噌汁は無しにs・・」
この瞬間、後頭部に衝撃とともにスパンっという音が響いた。ルイの独り言を遮られる。
「ちょっと!!味噌汁が無い朝食とか麺の無いラーメンと同じじゃん!!ちゃんと作ってよね!!」
鏡越しに後方を見ると、そこには白のパジャマ姿の女の子が1人。
中学3年生の和奈。肩まで伸びたセミロングの髪が寝癖で少し跳ねてゆれている。前髪はおでこの上で結んでおり、怒りを含んだ少しつりあがった大きな目を誇張さていた。ショートパンツ型のパジャマから色白のすらっとした足は自慢の美脚らしい。思春期真っ只中の彼女だが、胸の成長期は完全に遅れをとっているようだ。
そして再び後頭部に衝撃。
「あんた今、私の胸のこと考えたでしょ!小さくて悪かったね!!ふーんだ!!」
和奈は絵に描いたようにそっぽを向いた。なぜ思考がばれたのかはルイにも不明である。
「なぜバレた・・・味噌汁作るから許してくれ」
「やっぱり考えてたのね!!・・まぁいいわ。豆腐の味噌汁、よろしく。」
「あいよ。ちゃんと寝癖直してから来いよー。」
ルイは和奈とすれ違いざまに頭を撫で、そのまま台所へと向かった。
台所に着くとすでに男の子が1人、朝食の準備に取り掛かっていた。
「おはよう湊。今日もはやいねぇ」
「ルイが来るの遅いんだぞ。早くそこの野菜切ってくれ。」
「はい、了解。」
この料理をテキパキとこなすこの男の子の名前は湊。青のチェック柄のエプロンが妙に似合っている。同学年の子と比べると比較的小柄で、サラサラヘアーの前髪と可愛らしい顔立ちはごく一部の発酵した女性に絶大な人気を獲得しそうだ。
頭川家ではルイと湊が料理担当である。
その理由は至極単純。女性人の料理スキルが絶望的であることだ。
3年前の和奈が作ったハンバーグ事件は、未だに思い出すことを脳と胃が拒否する。
ルイは野菜を手早く切り、ボウルに盛り付けてサラダを完成させた。次に湊のとなりで味噌汁の製作を始めた。
湊があらかじめ鍋の湯を沸かしておいてくれたので作業が効率よく進む。このコンビネーションは3年かけて作り上げたものだ。
となりで卵焼きを作っている湊がルイに話しかける。
「友達のケン君も料理はお母さんかお姉ちゃんが作ってるんだってさ。うちはなんで男が料理当番なの?」
「それはおかしいなぁ!!普通はどこの家も男が料理するんだぞー!!ハッハッハー」
「よっぱりそうだよなー。それならいいけど。」
ルイはこのことを聞かれるたびにヒヤリとする。
思い起こせば、湊が料理当番に任命された頃は、それはまぁたいそう嫌がり苦労した。
そのとき湊に納得させた説明が、
どこの家庭も男が料理をする。料理は男の宿命なのだ。わかってくれるね?
この一言だった。それ以来、とんでもなく純粋な湊はそれを信じ続けて3年間、料理当番をこなしている。カワイイやつだ。
しかし最近ではそれが嘘だと気づき始めているので、ルイは内心ヒヤヒヤしているのであった。
気づいたキッカケは数ヶ月前の学校での調理実習で、凄まじいクオリティーのハンバーグを作った湊に友達が質問攻めにした事だとか。
そうこうしていると朝食は完成。ダイニングテーブルに湊が食器を運び準備をしている間に、ルイは家族全員を呼び集める。
「おーい、飯が出来たぞー。早く集まれコノヤロー。」
ルイの声をキッカケに大勢の子供達が各部屋から集まってくる。水と月、和奈を含めた総勢7人の子供達がワーワーと迫りくる光景は何回見ても圧巻だ。
甘えん坊のチビを3人連れて現れたシスターがいる。この人がルイの母である頭川 海美だ。
少し垂れた優しそうな目と口元にあるホクロが特徴的である。身にまとうシスター服は抜群のスタイルにフィットしており、アラフォーとは思えない美貌だ。
「おーい、そんなに走ると転んじゃうわよー。。」
しゃべり方もおっとりしており、いかにもまったり系の母だ。
ルイの家はいわゆる教会である。それに加え孤児院の役割もになっていた。
ここに住む子供達の大半は両親を失くした孤児なのだ。
こうして、総勢9人がテーブルについた。そして皆で胸の前に手を組み、お祈りを始めた。
そしてルイの いただきます の言葉で、食事を開始した。
「菜緒ちゃんは今日も朝練ー??」
「うん、そうみたいだよ。なんか大会が近いから毎日朝練だってさ。」
食べ初めて数分後、母の海美と湊の会話だ。
そう、この家族にはもう一人存在する。ルイの姉の菜緒だ。この最悪最強の姉貴のことは後々、ご紹介しよう。
「ルイ君はー、、朝練行かなくていいのー??」
ルイは海美の言葉を聞いてフリーズ。食べようとしていた卵焼きが箸から滑り落ちた。
やらかしたー!!今日朝練じゃねーか!!
「あー、オレは既に最強だから行かなくてもダイジョブなんだよーハハー。」
苦しい言い訳である。
その嘘を完全に見破っている和奈がルイに一言だけ告げた。
「いつも2回戦負けのブサイクが何言ってんの?」
「・・サーセン、嘘つきました。」
ルイは時計を見て間に合わないことを確信。食後は片付けやら洗濯を済ませて、いつもどおりの時刻に家を出発するのであった。