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序章 龍麻呂のモノローグ

 前日の夜半に雨が降ったためか、湿った土の匂いが立ち込めている。墓に供えられた小さな黄色い花が、この世の無常と理不尽を物語っていた。

 僕は墓の周りに生えた雑草を適当に引っこ抜いて、きれいにしてやった。手を合わせて、永遠の眠りについた男性と子供に祈りを捧げると、僕は自宅に戻った。

 暑い。なるべく風通しの良い場所に寝転がって目を瞑る。姉貴が脱ぎ散らかした服がそのまま放置されていたが、僕は仕事で疲れていて片付ける気にならなかった。毎日、早朝から夜遅くまで黙々と他人のために大量の飯を作ってその日が過ぎていく。時間通りに給食できないと賃金が引かれ、同じ献立が続こうものなら上から怒鳴られる。肉体労働の割にそもそも賃金が低い。だが、職があるだけましだった。

 さっきの墓に埋まっているのは、姉貴の夫だった男と彼らの赤ん坊である。姉貴は若い頃、近隣地域に嫁いだ。夫とはそれなりにうまくいってたようだが、赤ん坊がお腹にいる途中、その夫が病気で帰らぬ人となった。姉貴はすぐさま実家に戻ってきた。近所の人々から、出戻り女という蔑みの視線を送られながら、姉貴は赤ん坊を産んだ。ところが、赤ん坊はこの世の悲惨さもほんの少しの楽しみを知ることなく一年も経たないうちに息を引き取った。

 僕はいつも思う。もし僕たちに意見を言うことが許されていたら。もし僕たちにまともな仕事が与えられていたら。もし――。

 どうして無能な奴らがこの世を牛耳り蔓延っているのか。ただ地位の高い家に生まれたというだけで、そいつがどんなにバカで傲慢で他人の苦痛を理解しない奴であっても、死ぬまで他人に頭を下げることはない。そして僕たちみたいな持たざる者は、そうしたって持てる者になれるわけでもないのに、無能な強者に頭を下げ続けるのだ。

 僕が持っているものは、笑ってしまうほど何もなかった。何もないがゆえに、愛する女性を手にすることもできない。

 それでも、土木作業に従事している親父と一緒に姉貴と弟を養ってやらないといけない。夫と子供の死に打ちひしがれた姉貴と、生まれた時から言葉を話すことができない弟が小さな家の中に希望のない日々を生きている。妹は僕と同じように早朝から夜遅くまで布を織ったり、針仕事をして雀の涙ほどの生活費を得ていた。

 だが、僕たちは振り上げた拳を黙って下すようなヤワな人間ではなかった。目の前に渡れない大河が流れていたら、どうすべきか。


 僕たちはその答えを知っていた。

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