九つのエピソードから五つのエピソードへ
最終形の『EE』に残ったエピソードは後ほど記述するとして、没になったエピソードを紹介します。
◇頭の中の実験(思考実験)
実際の機材や道具を使って計測的な実験を行うことなく、頭の中だけで実験を考えるということが『思考実験』で、これを揶揄して「意地の悪い論争とか議論」を書こうと思っていました。
アインシュタインの思考実験は特に有名なので、相対論風なことを語るには欠かせない演目だと考えていました。しかし、適当なエピソードを拾うことが出来ずに、また自らも考え出すことが出来ませんでした。
◇「見る」と「見られる」(観測者視点)
相対論では『観測者』という視点はとても重要な要素です。観測する視点が違ってくると結果も変わってくるからです。それは「見かけ上のこと」なのですが、その結果の違いを澱み無く説明する必要がありました。
『視点は違っても原理は一緒』
そんなことを揶揄出来そうなエピソードを、残念ながら思い付くことが出来ませんでした。
◇博徒な幽霊(量子力学)
量子力学は確率に支配された、存在を捉えにくい、何とも不思議な学問です。それを象徴した話を書こうと思った「演目」です。
『ぼんやりと霞んだ得体の知れないモノが現れ、最後にトンネル効果でどこかへ消えていった』
エピソードの輪郭はこんな感じで思い浮かんだのですが、どうにもその存在が『幽霊』のイメージで、一旦そう考えるともうそこから離れられなくなり、ホラー街道一直線になりそうでした。基本的にダディはホラーが苦手なので、ホラーを書く心の余地は全くありませんでした。
そんな訳でエピソードの中身を思い付かなかったのでした。
◇優柔不断と高飛車(不確定性定理とラプラスの悪魔)
未来永劫、全ての事象を掌握していると考えられていた存在、それをラプラスという学者は「悪魔」に例えました。しかし、観測精度を上げれば上げるほど正確でなくなるという不確定性原理の発見によって、その存在は胡散霧消してしまったのです。
運命に魅入られた『ラプラスの悪魔』とそれに立ちはだかる『不確定性原理』という設定で、因縁を持つこの二つの存在を何かに見立てて話を作る予定でした。キャラも実に楽しそうな設定が出来そうな予感がしていました。
『二つのキャラは、草食の優柔不断男(不確定性原理)と、肉食のタカビー女(ラプラスの悪魔)。不確定性原理とラプラスの悪魔が喧々諤々と言い争う』
そんなストーリーがおぼろげに見え始めていました。参考になるエピソードもきっとどっかにあるだろうという予感は、充分にあったのです。
しかし、先の三つのエピソードをボツにしたこの時点で、残りのエピソードは六つ。
「六つかぁ。なーんか、中途半端だなぁ」
そう思った瞬間、以前から公言し続けていた『人妻と猫』の要素を突然に思い出し、そしてあっという間に混ざり合い、挙句の果てに「あるテーマ」と「あるコンセプト」が僕の頭の中に閃いてしまったのでした。それが『裏設定』だったのですが。
僕はこの『裏設定』のために、カタチが見え始めたこのエピソードをアッサリと捨てて、五つのエピソードにしてしまったのでした。