『表設定』の総論
それぞれのエピソードの表設定を解説したところで、表設定の全体を俯瞰してみましょう。
エピソードの構成は次の通りです。
第一の扉・等価原理の闇
第二の扉・もう一匹の猫
第三の扉・翼の生えた少女
第四の扉・救世主の光
第五の扉・エヴェレットの薔薇
このエピソードの順番は、エピソードの展開の仕方の違いで並べ替えをしました。その違いは『最初の書き出しに「アインシュタイン・エレベータ」の描写が書かれているかどうか』です。
思い出してください。第二の扉と第四の扉は、最初のシーンがいきなりアインシュタイン・エレベータから話が始まっています。その話を挟むように、エピソードの中盤以降でアインシュタイン・エレベータが出てくる第一の扉、第三の扉、そして第五の扉を構成してあります。これは、似たような書き出しが続かないようにして、連作短編集全体のリズムを作り出そうとしているのです。
そして、エピソード個別の順番です。
前述したように、最初に書き上げて一番良さ気な「エヴェレットの薔薇」を最後にしたのは、もちろん戦略です。ですから当然の如く、これが「第五の扉」になりました。
次に、これも前述しましたが「翼の生えた少女」は少々思い話です。ですので、一等最初のエピソードにする勇気はありませんでした。必然的に「第三の扉」の位置へと収まりました。
すると自動的に「等価原理の闇」がトップバッターの「第一の扉」になりますが、それを意識して出だしはダディの大好きな宇宙空間から始めようと少々手を入れました。「太陽系外探査船『ディープスペース号』」とか、マークのセリフである「修理依頼書によれば、衝突物は反物質粒子になってますね」とか、もうどっかで聞いた話を思い出してしまいますよねぇ。えぇ、意識しましたとも。ちゃんと三年の期間を経て修理してますよ。
さてさて、問題は「ルドルフ」と「イースー」でした。
残った構成位置は、第二の扉と第四の扉。そして、エピソードは「もう一匹の猫」と「救世主の光」の二つ。
どちらにも知的な笑いの要素は含ませてありましたので、どちらがどちらへと収まっても問題はないとは思っていました。
最初の構想では「もう一匹の猫」は後半に持ってくるくもりでした。堅苦しくて難解なエピソードを読んだ後は、コメディで笑い飛ばして終わらせようという算段でしたので。
ところが、エヴェレットの薔薇が第五の扉として意外と収まりが良くて、その前に「マーサの荒振り」を持ってくることに躊躇しました。それなら序盤でということで、第二の扉が「もう一匹の猫」に。
第四の扉に収まった「救世主の光」も第三の扉の重苦しさをドドさんとイースーの掛け合いで軽くしてくれるかなぁという思いもありました。
果たせるかな、この構成は良かったと今でも思います。もっとも、こうしてあからさまに構成のやり繰りが出来たのは「連作短編」ならではのことでしょう。
普通のストーリー小説でも、わざと時系列をごちゃ混ぜにして読者を掻き回したり、ストーリーの中のエピソードを交換するっていう手法を執ったりしますが、こんな風に簡単に取り替え引き換えは出来なかったでしょう。
ここまでが『EE』の「表設定」の解説です。これ以降からは、このライナーノーツの大本題である『裏設定』の解説へと駒を進めます。どうか、お楽しみに。