第二の扉◇もう一匹の猫
この扉のテーマは、言わずと知れた『シュレーディンガーの猫』です。そして、コンセプトとしては次の通りです。
『箱を開けないで、あーだこーだと議論を楽しむのか、それとも鬱陶しいと思うか。ただし、本当に猫を使っての実験はやるんじゃないってばさ!』
今更「シュレーディンガーの猫」を解説する必要もないと思いながらも、説明出来なければ理解していないことと変わらないという信念の下、一応説明をさせていただきます。なんたって『ライナーノーツ』ですからね。
基本的に「シュレーディンガーの猫」は量子力学のマクロ的な反証のための思考実験という位置付けであると認識すれば良いと思われ……って、この書き方自体が難しいでしょうか?
量子力学とは、確率で支配されてる部分があり、電子や原子核の位置を決定するのは観測(測定)をした時であって、それまでは一意に決められてはいない訳なのです。よって確率の分布に従って「もや」のような「霧」のような状態で電子は原子核の周りを回っているのだと解釈されたのです。
確かに素粒子のようなミクロな世界ではそうかもしれない。それは方程式から求められることだから。しかし、人間が認識出来るマクロの世界では、物質はそこに存在していて、はっきりとした輪郭で見えています。そして、朦朧とした状態でもなく、霧掛かったようにも見えてはいないのです。
そこでシュレーディンガーは、この不思議な考え方と現実を揶揄して「シュレーディンガーの猫」と題された一つの思考実験を提案した、という訳です。
この思考実験のこと、特に実験装置の詳細については本文でもドドさんが解説しています。その部分を抜き出してみましょう。
『ふむふむ、この容器の中身はラジウムで、そこに置かれているのは放射線測定器。それにつながっているのは……硫酸が入った容器の上に青酸ナトリウムの滴下装置ですか。なるほど、なるほど』
実験装置は、猫が入る大きさの箱にラジウム等の放射能物質を置き、その横に放射線測定装置で放射線を測定する。測定装置がラジウムの放射線を感知すると、その横に置かれた青酸ガス発生装置のスイッチが入り青酸ガスが発生します。その青酸ガスによって箱の中に閉じ込められた猫が死ぬ、という仕掛けなのです。
この装置がどうして量子論の確率の話になるかと言うと、ラジウムが放射線を出すのは量子論そのものの確率の話であって、この実験装置の中で放射線によって猫が死ぬのは量子論的確立と同じではないのかというのが、シュレーディンガーの主張なのです。だから、この箱の蓋を開けるまでは猫が死んでいるかどうかは分からない訳で、言わば「霧やもやになった猫が箱の中に居るんじゃないのか?」というのです。だから、死んでいる猫と生きている猫が混在することはこの宇宙ではありない訳で。
いわゆる「パラドックス」な話で「卵が先か、鶏が先か」と同じような命題なのですね。それで、この話に明瞭な解がある訳ではなくて、ミクロな話だからマクロの世界へと安易に考え方を持ち込んじゃいけないよという教訓めいたことを言ってるだけなんですね。
シュレーディンガーの猫を理解してもらったところで、第二の扉のゲストキャラをご紹介しましょう。
この扉では二匹の猫しか登場しません。真っ白な猫と山吹色の猫。只の猫が二人、いや二匹か。どちらも癖のあるヤツで、いずれもドドさんとは関係のない存在です。
真っ白な猫は『ルドルフ』という名前で、これはシュレーディンガーのミドルネームからいただきました。キャラの造形は、おおよそバレているとは思いますが、これも『裏設定』で公開いたします。
そして、山吹色の猫は『ヨーゼフ』という名前で、これもシュレーディンガーのミドルネームからいただきました。二つも持ってるんですよ、ミドルネームを。シュレーディンガーというお方は、結構由緒正しい家柄のようですので。こちらのキャラもその造形は半分ネタバレしていますが、こちらも後のお楽しみといたしましょう。
ストーリーとしては、次の二点をフューチャーしました。この二匹は絶対に死なないということと、マーサに悪さをすること。話の絡みはそれだけ。
え、それだけかって?
えぇ、それだけです。……あぁ、ポイントは他にもあります。
青酸ガスが「アーモンド臭」だったり「オレンジの匂い」だったりするってことを描写したことと、青酸ガス発生装置のメカニズムはアメリカの死刑台に用いられている方法と同じものを採用したということ。それくらいですかね。
だって、基本的にこの話は『コメディ』なんですもの。