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独り善がり

『映す声』




節分の日に撒いた豆を

拾って食らう子供のように

床に散らばった硝子の破片を

君は拾っては口に押し込んでいた



以来、君の言葉は断片的に

極めて断片的に僕に突き刺さる


きらきらと反射して

見たくもない僕を映す



君は自分の声を失くしても

僕に汚い僕を気付かせたかったの?



君はそう言って首を傾げた




『月齢カレンダー』



私の元カレは月が好きで


いつどの大きさの月が出るのか知っていて


今日はせっかくの満月なのに残念だ、なんて


雨の夜空を私と見上げた


あいつのために買った月齢カレンダーは


あいつに見せることもないまま


部屋に貼ったままで


今日は晴れていて、なおかつ満月だから


あいつは狼男に変身するに違いない





『おやつ』


チョコレートが溶けてしまったので

今日はうんと苦いコーヒーで乾杯です

本当はあの子が好きな癖に





『北風』


北風の癖に優しいことを言う


手がかじかんでるのに

熱い涙を凍らせてくれるから

ここでしばらく慰めて欲しくなる


私に風邪をひかせるつもりですか







『うろこ』



貴方の身体は透き通って


まるで骨まで見えてしまっていたので


私は貴方が身をよじる度に軋る肋骨を


じっと観察するのです



透明なうろこは


海に取られてしまったのでしょうか


自分を守るたった一つの術を失くした

綺麗な貴方を

私はガラスケエスの中に閉じ込めてしまいたいのです




『路地裏』



溝の中に吐き出した魂は

まあ、なんて歪んでるんだろうね!

いっそ自虐的に蹴り飛ばしてしまおうか

どうせ、衝撃に耐えられず

ひしゃげるのがオチだろうけれど


こんな汚い魂が体の中に入ってたんだ

どおりで気持ち悪いはず

それじゃこれからは

もうちょいマシな生き方できるかな

うん、気がつけば足もこんなに軽い


勇んでスキップ路地に飛び出す

途端、僕は人形のよう

倒れてそれきり動かなくなった




『輪廻』



「廻る、廻る」

 

 死んだ魚が私に言う

  

 私はこくりと頷いて

 

 水没する視界に左手で敬礼!

 

 「また明日」





『シンメトリー』


小指の横にもう一本親指が生えた


友達は病院に行けと私に真剣な眼差しで言うが


これがなかなか便利なので


すっかり気に入ってしまったのです


どうして生えたか定かではないが


きっとオタマジャクシと同じような原理で


だからそんなに心配するようなことでもなかろうに


母は私に泣き付いて


早く病院に行くように懇願するのです







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