そこらへんの冒険者のふつうの恋
酒場《跳ね馬亭》は今日もうるさかった。
「最後にぶっ飛ばしたのは俺だ!」
「は? あたしが足止めしてなきゃ食われてたろ!」
ガルドとリゼが怒鳴り合い、周囲の冒険者が笑う。
「また夫婦喧嘩か?」
「誰が夫婦だ!」
声が綺麗に重なって、さらに笑いが起きた。
ガルドは熊みたいにデカい重戦士だ。流れ者だったが、豪快な性格と面倒見の良さで今では街に馴染みきっている。
一方、リゼはこの街育ちのシーフ。商人も衛兵も子供も、皆が彼女を知っていた。
そして誰もが知っている。この二人がいつも一緒だということを。
「で、いつ結婚すんだ?」
「しねえよ」
「するかバカ」
また声が揃う。
リゼはため息をつきながら酒を飲んだ。
ガルドとは長い付き合いだ。目線だけで次の動きが分かる。命を預けられる相手。
だからこそ、この想いを言えなかった。
「おい、難しい顔してんな」
ガルドの岩のような手が頭をぐしゃぐしゃと撫でる。そんな仕草ひとつで胸が高鳴るのが悔しい。
「してねえよ」
「してるって」
笑うガルドを見て、リゼは小さく目を逸らした。
こんな男、好きにならない方が無理だろう。
でも、今の関係が壊れるのは怖かった。
◾️
翌朝、ガルドは頭を掻きながらギルドの扉を押し開けた。
「ぉぉ……酒残ってんな……」
「自業自得だバーカ」
すでに受付前にいたリゼが鼻で笑う。朝だというのにいつも通り軽装で、腰の短剣も磨かれていた。こいつは本当に酒が残らない。
「お前おかしいだろ。あんだけ飲んだぞ昨日」
「鍛え方が違う」
「シーフの鍛え方じゃねえよそれ」
リゼは掲示板を指した。
「そうそう、これ受けるか?」
掲示板を見る。大型魔獣討伐。少人数推奨、高報酬。
「お、いいじゃねえか」
「絶対そう言うと思った」
「面白そうだしな!」
「それ基準で依頼決めんな」
呆れた声。だがリゼも依頼書を剥がしている時点で、受ける気満々だった。
ガルドは笑う。こういうところが好きだった。
危険を前にしても怯まない。むしろ目を輝かせる。命知らずなくせに、生きるのが上手い女。
自然すぎて、自分でも時々怖くなる。リゼが隣にいるのが当たり前になりすぎていた。
もし、いなくなったら。そこまで考えて、ガルドは眉をひそめる。
考える必要もない。リゼは強い。その辺の冒険者よりよほど死ににくい。
それに、自分が守る。ずっとそうしてきた。
リゼをどう思っているかなんて、何年も前から分かっている。年季の入った片想いだ。リゼのためなら命を張れる。隣にいてほしい。笑っていてほしい。無茶してほしくない。他の男と近いと妙に腹が立つ。
だが、言わない。言えない。今さら関係を変えるのが怖かった。
もし気まずくなったら?
もし今みたいに並べなくなったら?
そうなったら、自分がどうなるか想像もつかない。それぐらい好きだった。
「おい」
リゼがガルドの脇腹を小突く。
「ぼーっとすんな」
「してねえよ」
「してた」
リゼはじっとこちらを見上げた。赤茶の目。戦闘中は鋭いのに、普段は妙に柔らかい。
出会った頃はもっと尖っていた気がする。まあ、お互い様か。
「……なんだよ」
「いや」
リゼは口端を吊り上げて笑った。
「今日も頼りにしてる、って話」
一瞬、心臓が妙な跳ね方をした。
ガルドは誤魔化すように大声で笑う。
「任せろ!がはは!」
「うるさ」
「がっはっは!」
笑いながら、ガルドはふと思う。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
◾️
砂煙が舞う。岩蜥蜴は最後にびくりと痙攣した後、動かなくなった。
リゼが短剣を引き抜き、肩で息をした。
「……終わり」
「楽勝だな!」
「どこがだよ、普通にデカかったぞ」
ガルドは豪快に笑った。確かに強敵ではあったが、二人にとっては想定内だ。
ガルドは倒れた岩蜥蜴を蹴る。
「晩飯うまそうだな」
「食う気かよ」
「食えんのか?」
「不味いよ」
リゼが呆れながら短剣の血を払う。その横顔を見て、ガルドは少しだけ口元を緩めた。
戦闘後のリゼは、気が抜けるのか少し幼く見える。まあ本人に言ったら蹴られるので言わないが。
「ん?」
リゼが顔を上げた。同時に、ガルドも気づく。
静かすぎる。
「……ガルド」
「おう」
反射的に盾を構える。空気が変わった。冒険者の勘だった。長年生き残ってきた感覚が、全力で警鐘を鳴らしている。
その瞬間。ぐしゃりと。
岩蜥蜴の死体が、潰れた。
「は?」
巨大な何かが、上から降ってきていた。岩蜥蜴より、さらに大きい。四足で、異様に長い前脚。
そして、裂けるみたいに広い口。
ガルドは即座にリゼの肩を掴んだ。
「下がれ!!」
飛び退く。次の瞬間、さっきまでいた場所の地面が爆ぜた。岩が礫となって降り注ぐ。
砂煙の向こうで、化け物が低く唸った。
「……なんだ、こいつ」
リゼの声が硬い。ガルドも同意だった。こんな魔物、今までやってきて見たことがない。
その見た目は異様だった。
身体中が黒ずみ、肉が歪んでいる。ところどころ骨が外に飛び出していて、まともな生物に見えない。
「ギルドの情報にこんなのなかったぞ」
「イレギュラーか……!」
化け物が動く。速い。巨体に似合わない速度で岩場を駆けてくる。
「っ、右からだ!!」
リゼが叫ぶ。ガルドは反射で盾を構えた。直後、衝撃。
「ぐっ……!」
重い。盾ごと身体が押し込まれる。
「なんだこいつ、馬鹿力かよ……!」
「ガルド!」
「来んな!!」
嫌な感じがした。こいつはまずい。化け物が口を開く。喉の奥が赤く脈動する。
「避けろ!!」
瞬間、赤黒い閃光が走った。熱線が射出され、岩壁が抉り、しゅうしゅうと煙が上がる。
「はぁ!?」
リゼが横へ飛ぶ。ガルドも転がるように回避した。
爆音に峡谷が揺れる。
ガルドは舌打ちした。
「聞いてねえぞこんな化け物……!」
「撤退しよう」
リゼが低く言う。だがその瞬間。化け物の目が、ぎらりとリゼを捉えた。
化け物が一直線に跳んだ。狙いはリゼ。ガルドの身体が反射で動く。
間に合わない。そう思った瞬間、リゼが獰猛に笑った。
「舐めんなよ」
短剣が閃く。化け物の爪を弾き、その勢いを利用して懐へ潜り込む。
「任せた!」
「任された!」
叫ばれる前に、ガルドは走っていた。盾を構え、真正面から突っ込む。
リゼが跳ぶ。ガルドの盾を踏み台にして、さらに高く。
「そこだァ!!」
短剣が化け物の目へ突き刺さった。歪な悲鳴で脳が揺れる。同時にガルドが全力で盾を叩き込む。
化け物の巨体が岩壁へ吹き飛んだ。しかし直ぐにゆらりと立ち上がる。
嘲笑うように口を裂いて。
ガルドの背筋を、冷たいものが走った。
「……冗談だろ」
◾️
嫌な化け物だった。
強い弱いの話じゃない。生き物としての気持ち悪さが、今まで戦ってきた魔物と違う。
てかてかと黒光りする肉が脈打っている。潰れたはずの部分が蠢き、骨が軋みながら元の形へ戻っていく。
再生しているのだ。
「うっわ、最悪……」
思わず本音が漏れた。隣でガルドが盾を構え直す。
「目ぇ潰したよな?」
「潰した。なのに動いてる」
化け物は片目を失ったまま、こちらを見ていた。いや、見ている気配がある。視線というより、獲物を探る獣の感覚に近い。
峡谷に低い唸り声が響く。リゼは短剣を握り直した。
冷や汗が流れているのが分かる。
撤退。頭ではそれが正しいと分かっていた。ギルドの情報にないイレギュラー。未知の再生能力。二人だけで深追いする理由はない。
だが。
この化け物は速すぎた。
「逃げろ。あたしが囮になる」
「却下」
即答だった。リゼは眉をひそめる。
「聞けよ」
「聞いた上で却下だ」
「お前足遅ぇだろ。あたしなら撒ける」
「却下」
「ガルド!」
「却下」
この男、こういう時だけ異様に頑固になる。化け物が地面を蹴った。
「っ!」
爆発みたいな速度だった。巨体が一瞬で間合いを潰す。ガルドが前へ出る。
轟音。爪と盾がぶつかった。
「ぐ、おお……ッ!」
地面が割れる。ガルドの足が岩を砕きながら沈み込んだ。
重い。見ているだけで分かる。今までの敵と比べても、純粋な膂力が異常だった。
「ガルド!」
「気にすんな、やれ!!」
怒鳴る声。リゼは舌打ちしながら駆けた。
右側面へ回る。化け物の意識は完全にガルドへ向いていた。タンクとしては理想的な状況。だからこそ腹が立つ。
こいつはいつもそうだ。自分が壁になればいいと思っている。昔から、出会った頃からずっと。
リゼは岩を蹴り、一気に跳んだ。短剣を振るう。狙いは首筋。刃が肉へ沈む。
だが浅い。
「硬っ……!」
直後、化け物の尾が唸りを上げた。
「リゼ!!」
咄嗟に身を捻る。だが避け切れない。
「ッ、ぐ……!」
吹き飛ばされる。岩壁に叩きつけられ、肺から空気が抜けた。
「リゼ!」
「うる、せぇ……!」
痛む脇腹を押さえながら立ち上がる。折れてはいない。まだ動ける。その瞬間、化け物がガルドを盾ごと押し込んだ。
巨体が滑る。
ガルドの顔が歪む。リゼの背筋が冷えた。あのガルドが押されている。
「っ……!」
考えるより先に身体が動く。
地面を蹴る。
加速、加速、加速! 化け物の背後へ滑り込む。狙うはその後ろ脚。
腱を断つ。
「はぁッ!」
肉を裂く感触。
化け物が咆哮した。体勢が崩れる。ガルドが即座に押し返した。
「おおおおおおおおおッ!!」
盾の一撃。化け物の身体が浮く。
そこへ追撃しようとして、リゼは止まった。違和感。化け物が、笑っているように見えた。
「――ガルド、離れろ!!」
叫ぶ。直後、化け物の全身が赤黒く発光した。だがガルドは間に合わない。至近距離。逃げ場がない。
リゼは歯を食いしばった。
無茶だと分かっている。でも、行かない理由はなかった。
昔からそうだった。ガルドが前に出る。なら自分は、その背中を死なせない。
「ガルド!!」
跳ぶ。化け物の身体が膨れ上がる。爆発が来る。リゼはガルドへ飛びついた。
次の瞬間、世界が赤く弾けた。
そのまま地面を転がった。背中へ焼けるような痛みが走る。砕けた岩が雨みたいに降ってきた。
「ッ、ぐ……!」
耳鳴りが酷い。
視界が白くなって、肺に熱い砂が入り込んだみたいだった。しばらく、本当に何も分からなかった。
やがて。
「……リゼ」
低い声が聞こえる。
リゼはゆっくり顔を上げた。
リゼに覆い被さるようにして、ガルドがいた。
煤まみれで、額から血を流して、それでもちゃんと生きている。
その瞬間、全身から力が抜けた。
「……生きてんじゃねえか、バカ」
「お前もな」
周囲は酷い有様だった。
地面は抉れ、岩壁は崩れ、さっきまで化け物がいた場所には巨大なクレーターができている。
肉片すら残っていない。自爆。そうとしか思えなかった。
「なんなんだよ、あれ……」
リゼは息を吐いた。
経験上、魔物が死に際に暴走することはある。だがあんな規模は見たことがない。
ガルドが舌打ちする。
「ギルドに報告だな」
「だね……」
立ち上がろうとして、よろめく。
「っ」
「怪我してんのか」
「大したことないよ」
「嘘つけ」
身体がふわりと浮いた。
「は!?」
気づけば、ガルドの肩に担ぎ上げられていた。
「ちょ、おい!!」
「暴れんな危ねえ」
「降ろせ!!」
「却下」
「さっきから却下しか言わないね!?」
ガルドはそのまま当然みたいな顔で歩き出した。リゼは顔を真っ赤にする。
「おいバカ! 見られたらどうすんだ!」
「別に」
「別にじゃねえよ!!」
しかもよりによって肩担ぎだ。荷物扱いである。
「重くねえのか」
「軽すぎる、もっと肉食え」
「今はそういう話してねえ!」
ガルドは豪快に笑った。くそ、楽しんでやがる。
リゼは本気で暴れようとして、脇腹が痛み、顔をしかめた。
それを感じ取ったのか、ガルドは口をへの字に曲げた。
「ほら見ろ」
その声が少し低くて、リゼは黙った。峡谷の風が吹き抜ける。
「……なあ」
「ん?」
「降ろせ」
「怪我人は大人しくしとけ」
ガルドは少し考えてから、
「こんな無茶二度とするなよ」
と言った。
リゼはムカついた。ガルドがどんなに止めたって、やってやると思った。
「お前が無茶しないんだったらあたしも無茶しない!」
「俺はいいんだよ、盾役だから」
ガルドは珍しく静かな声だった。
「でも、お前が怪我すんのは嫌だ」
「何でだよ」
「好きだから」
言った後、ガルドはしまったというような顔をした。リゼは目を見開く。好き? こいつが、あたしを?
ガルドは固まっていた。
さっきまで豪快に笑っていた男とは思えない顔で、目を逸らし、頭を掻く。
「……いや、今のは」
「今のは?」
リゼの声が妙に掠れた。ガルドがさらに気まずそうな顔をする。
「その、違くてだな」
「何が違うんだよ」
「いや、違わねえけど」
「どっちだよ」
リゼは自分でも分かるくらい心臓がうるさかった。
好き。
ガルドが、そう言った。聞き間違いじゃない。
長年一緒にいた。背中を預け合って、死地を越えて、酒場で笑って。でも、こいつはそういうことを絶対言わない男だと思っていた。だから今、頭が追いつかない。
「……お前、今の意味分かって言ってる?」
「分かってる」
返事だけは早かった。ガルドは観念したみたいに大きく息を吐く。
「ずっと言わねえつもりだったんだよ」
リゼは黙った。ガルドは苦笑する。
「変なことを言って、お前と組めなくなるのが嫌だった」
その言葉が胸に落ちる。同じだった。リゼもずっと、それが怖かった。
「……馬鹿だな」
リゼは急に力が抜けた。ああ、こいつも同じだったのか。ガルドは耳まで赤かった。あのガルドが。思わず吹き出す。
「ははっ……」
「笑うな!」
「いや、だって……」
可笑しかった。
強くて、豪快で、魔物相手には平然としてるくせに、こんなことで慌てている。
ずっと見てきた男の、知らない顔だった。
「……あたしも」
「ん?」
リゼは少しだけ視線を逸らした。
「好きだよ、バーカ」
数秒、沈黙。次の瞬間。
「……マジで?」
「今さら嘘つくか」
ガルドが呆然としている。その顔を見ていると、なんだか無性に腹が立ってきた。
「何その反応」
「いや、お前絶対俺のこと殴ると思ってた」
「どんな認識だよ」
「実際よく殴るし」
「それはお前がアホだからだろ」
ガルドはしばらく黙っていたが、やがて堪えきれなくなったように笑い出した。
「がはははっ!」
「うるっさ」
「いや、だってよぉ……!」
本当に嬉しそうだった。それを見て、リゼも少し笑う。
なんだ、もっと早く言えばよかった。
そんな考えが、一瞬だけ頭をよぎった。だが次の瞬間。ガルドが当然みたいにまたリゼを担ぎ直す。
「だから降ろせって!」
「怪我人は黙ってろ!」
「恋人になったからって許した覚えないんだけど!?」
「恋人」
ガルドがその言葉を嬉しそうに繰り返した。
リゼは顔が熱くなるのを感じながら、ガルドの背中を軽く蹴った。
「にやにやすんな、気持ち悪い!」
「無理だろこれは!」
◾️
ガルドとリゼが付き合い始めたことは、驚くほど早く街中に広まった。まあ原因は自分だ。
「隠す必要なくねえ?」
そう言ったら、リゼに本気で頭を叩かれた。だが時すでに遅し。
「やっと付き合ったのか!」
「遅ぇんだよお前ら!」
「俺、十年前から賭けてたぞ!」
酒場《跳ね馬亭》はしばらく祭りみたいになった。
ガルドは豪快に笑っていたが、リゼは顔を真っ赤にしてキレていた。
「うるせえ!!」
「照れてる照れてる」
「殺すぞ!!」
いつも通りだ。
付き合ったからといって、急に何かが変わったわけじゃない。二人で依頼を受けて、酒場で騒いで、危ない橋を渡る。
ただ。
「怪我してねえか」
気づくと、前より口にしていた。些細な傷を見つけるたびに、妙に気になる。
「してねえよ」
リゼはいつも通り鬱陶しそうに返す。だが、本当に無茶をした時は少しだけ目を逸らす。それが分かるくらいには、長い付き合いだった。
「お前こそ前出すぎ」
「盾役だからいいんだよ」
「良くねえ」
即答される。ガルドは苦笑した。昔からそうだ。
リゼは自分の怪我には無頓着なくせに、ガルドの無茶にはすぐ怒る。
たぶん一生治らない。まあ、自分も同じなのだろうが。
夕焼けが街を赤く染めている。
丘の上に座り込み、ガルドは大きく伸びをした。
「平和だなぁ」
「お前昨日酒場で椅子壊してたろ」
「あれは椅子が弱い」
「お前が強すぎんだよ」
リゼが呆れながら笑う。
その横顔を見て、ガルドは少しだけ目を細めた。綺麗だと思った。昔から思っていた。
だが、口に出すと絶対調子に乗るので言わない。
ガルドはぼんやり空を見上げる。
昔は、帰る場所なんてなかった。依頼を受けて、金を稼いで、また別の街へ行く。そんな生き方だった。
でも今は帰る街がある。待ってる奴らがいる。隣にはリゼがいる。
それが、とても嬉しかった。
「……なあ」
「ん?」
リゼがこちらを見る。赤茶の目。戦闘中は鋭いくせに、今は柔らかかった。
ガルドは頭を掻く。こういう時、気の利いた言葉が出てこない。
だから、正直に言った。
「これからも、隣にいろよ」
リゼが少し目を丸くする。
しまった、もっとマシな言い方あっただろ、とガルドは今さら思った。
だがリゼは、ふっと笑った。
「命令?」
「……お願い」
「はは」
リゼは肩を揺らして笑う。それから、自然みたいな動作で肩を寄せてきた。
「断る理由はないね」
その瞬間、胸の奥がじんわり熱くなる。ガルドは照れ隠しに大声で笑った。
「がはは!」
「うるさ」
リゼが呆れたように笑う。夕陽が沈んでいく。街には灯りがともり始めていた。
帰る場所がある。大切な女がいる。
それだけで十分だ。




