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桎梏の森 ー追憶は眠りの底でー  作者: 月宮 碧斗


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インマー・アウフェント

いつもご覧いただきありがとうございます。

「おかえり。遅かったわね。」

 家に帰ると母が晩御飯の支度をしているところだった。今日はサークルで雑談していたこともあり、いつもより少し遅めの帰宅になってしまった。もし今夜本当に夢に滞在し続ける魔法のような実験を実行するのなら、果たして何がわかるのだろう。そして戻って来れないという不測の事態に巻き込まれないだろうか。期待とは裏腹に一抹の不安も覚えつつ、僕は自部屋に戻り、ノートの内容を復習した。

 晩御飯はクリームシチューだった。小さい頃からの大好物。ごろごろと大量に入った鶏肉やブロッコリーが母親らしい味を出している。自炊をする時にレシピを母にわざわざ尋ねたくらいにはこのメニューはお気に入りだ。

 何気ない会話を交わして夕食を食べたあと、お風呂に入って歯磨きまで終えた。睡眠の準備、いや夢の旅への準備は万端である。あたたかいパジャマに包まれて僕はすぐに眠りについた。


 気づけば森の中だった。いつもの場所だ。ここで間違いない。今夜実行すると藍那には言いつつも、今日も同じ夢を見られるかどうかは少し怪しいところがあった。しかしその心配も杞憂で、昨日までと変わらずこの悪夢に降り立ってしまった。

 周りを見渡しても何もない。ただ木々が生い茂る向こうに暗闇が広がっているだけでどこに向かっているのか、先に何があるのかなど見当もつかない。こんな世界に足を踏み入れてしまっていいのだろうか。

「カァア。」

 と頭上で鳴くカラスの声に腰を抜かしそうになった。カラスを見るだけで少し不吉な印象を覚えてしまう。しかし、今日はそんなことにいちいち脅えてられない。この空間で生きていかなければならないのだから。

 僕は覚えてきた呪文を唱えつつ自ら頭を叩いてみることにした。

「インマー・アウフェント...」

 半信半疑ながらも三度繰り返し唱えてみる。すると、数秒静寂が彼を包んだあとどこかで大きな爆発音がした。

「成功したのか...?」

 またしても辺りは静寂に包まれた。なにか周りに変化があったのではないかと一足ずつ踏み出してみる。今まではいつまで歩き回っても変わらない景色だったが、今回は少しずつ木々や空気が変わっているような気がする。どれくらい歩いた頃だろうか。遠くに青色の光が見えてきた。サファイヤのように輝くそれは動くことなく、空中で漂い続けている。僕は勇気を振り絞り、その光に近づこうと歩を進めた。

 手に届きそうなところまできたときだった。

「お前には知らない世界がある。」

 どこかからか囁く声がした。

「お前はそれを知る必要がある。みることができなかった景色を経験した暁には、何にも苛まれない本当の自分をみつけることができるだろう。」

「誰の声だ...?ここはどこなんだ...?」

 何か答えが返ってきたような気がしたが、うまく聞き取ることができなかった。僕はなにかに囚われている?本当の自分を見つめ直すことができていないのか?

「お前が自分を愛せないのなら、この世界から抜け出すことはできない。」

 何を言われているのか理解できなかったが、最近の僕がいつも通りではないことはわかっていた。日常生活における夢での違和感も、藍那に言われたように夢を見出したきっかけについてもそうだ。無意識のうちになにかにとりつかれる場所を訪れてしまったのか。

「教えてくれ。僕に足りないこと、知らないこと全部。なにか選択を誤ってしまった?誰かにとって忘れられないくらい傷つけることをしてしまった?」

「それを...思い出しに来たんだろう?」

 そういった瞬間光は高速で上空へと消え去り、目の前にはみたこともないくらい大きな屋敷がたたずんでいた。森の中には相応しくないような高級感の漂う白い壁。何も考えることができなかった。そびえ立つ白い魔物に誘われ、気づいた瞬間には大きなドアの目の前まで来ていた。

 みつけなければならないのだった。ここまで来た以上、自分がこの異世界を生きる理由を。

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