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桎梏の森 ー追憶は眠りの底でー  作者: 月宮 碧斗


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12/16

沈黙の果て

いつもご覧いただきありがとうございます。

「近づいてくるなよー。お前といたら霊にとりつかれるだろうが!」

「学校もう来ないでくれない?君の顔見るだけで気分悪くなるんだよね。」

 一人ひとりの違いは個性であり、尊重するべきものだということに気づけない未熟さがもたらす悲劇、いじめ。遠藤紫苑が経験した最悪の過去である。彼の親は霊媒師という特殊な職業で、その血を引き継いだのか彼は幼いころから霊がみえた。幼稚園でも小学校でも、霊が見えたときにはすぐに話しかける心優しい子だった紫苑は次第から周りに気持ち悪がられるようになり、気づけば彼の周りに人はいなかった。孤独な毎日の中でも彼が仮面を脱ぐことはなかった。けれども今は、それでよかったと思っている。佑介に出会えたのだからーーー。


 佑介と紫苑の出会いは大学だった。お互いに、心を許せる友達がいなかったのだと思う。校門前ですれ違ったとき、通ずるものを感じたのか、紫苑は佑介に話しかけられた。

「君、みえるの?」

「え。」

 まさか自分に話しかけてくれる人がいるなんて思いもせず、最初は反応しなかった。

「そこの君だよ、ボーダーシャツの。誰も周りにいないのに周りをすごく気にしていたからさ。」

 彼にそう言われ、紫苑はゆっくりとうなずいた。佑介はとても温かい表情で、彼なら何でも受け止めてくれそうな気がしたのを覚えている。その後、大学の近くのカフェに二人で行って他愛もない話をした。嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。初めての友達だった。


 佑介に異変を感じたのは藍那と出会うほんの数日前の出来事である。突然紫苑のもとにメールが来て、シャイニングヒル失踪事件の調査に協力してほしいと言われた。サークルで心霊スポットに行くことはあっても、個人的に誘われたところに違和感を覚えざるを得なかった。

 シャイニングヒルは事件があってから訪れる人の数が激減した。キャンプ場なら他を探せばたくさんあるし、自然の豊かさでいえば理王山だって負けていない。失踪事件は心霊現象の噂を招き、観光客を他の場所へと流してしまっていた。それからというもの、シャイニングヒル付近での事件はおさまっていたのだが、わざわざ人が避けていたところに、ましてや二人で行くなんて馬鹿げた真似はしたくなかった。けれども彼は一歩も譲らなかったのだ。

「やっぱりやめましょうって、佑介さん。」

「なに、問題ないよ。ただこの付近で怪奇現象が起こらないか、確認したいだけさ。」

 折れない佑介に紫苑はついていくしかなかった。一人で行かせてしまってはまた大変なことになるに違いない。

 シャイニングヒルの広場から柵を越えて佑介は歩き続けた。紫苑は明らかに空気が違うのを感じ、止めようとする。それでも彼の身体はプログラムされたAIのようにとどまることを知らない。森の中を流れる川が見えてきたときであった。霊感のある紫苑には、少女が佑介の体内に入っていくのをみてしまった。立ち尽くすことしかできなくなった彼に、佑介は正気が戻ったのか、

「もういい、帰ろう。」

 とだけ言った。




 藍那と佑介は、異世界で『遠藤とのシャイニングヒル』を訪れた後、紫苑をランチに誘った。紫苑自身も霊が取り憑く瞬間を見たのは初めてだった。あまりの衝撃にその事実を佑介に伝えることができなかったのだという。二人は彼からその日の全貌を聞いた。

「間違いないね。今この瞬間も僕の身体に少女が宿っているんだね。成仏させてあげなければ、桎梏からは抜け出すことができなさそうだ。」

 佑介は悪夢の原因が判明し、違和感は残りながらもどこかすっきりしたような気持ちだった。自分に残されたやるべきことは、ただ彼女を、彼女の思いに耳を傾けてあげることだけなのだろう。あの日一体なにがあったのか。その真実を追求するだけだ。

 三人が食事をしながら会話を交わす様子を遠くから津村が観察していた事実に、彼らが思い至ることはなかった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

紫苑が見た“少女が入り込む瞬間”について、皆さんはどう感じましたか?

津村の視線の意味や、シャイニングヒルの真相予想など、一言でも感想をいただけるとすごく励みになります。


次回、沈黙の先に隠された真実へもう一歩踏み込みます。

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