彼だけが知っている
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中に入ると、以前通った左の廊下が全く跡形もなく消えていた。依然として残っていたのは正面階段と右側の廊下。記憶を鮮明に思い出していくと、リプレイスは形を変えていく。恐らく、彼らを待ち受ける何かが誘っているのだろう。
正面に広がる大きな階段の先は暗黒の闇に包まれていた。
「ここは今行くべきではなさそうだな...だとすれば...。」
二人は右の廊下を進む。突き当たりの部屋のドアにはこう書かれていた。
『遠藤と訪れたシャイニングヒル』
佑介には、全く記憶がなかった。
「やっぱり佑君、行ってたのね。そうだと思ってた。恐らくあなたが彷徨い続けていた森は、シャイニングヒル近くの森よ。二十年以上前の失踪事件も、つい最近の失踪事件も起こった現場そのものなんじゃないかしら。」
「忘れていたのか。思い出せなかったのはどうしてなんだろう。」
「とりついた霊の仕業じゃないかしら。とにかく、入ってみましょう。」
佑介はうなずき、ゆっくりとドアを開けた。そこに広がっていたのは、先ほどまで彷徨い続けていた森に酷似した光景だった。藍那の言うとおりなのかもしれない。この森が、俺に何かを訴えかけている。
遠藤と訪れたと言うことは遠藤も何か知っていたのだろうか。二人はあてもなく森を進んだ。少し歩いたところで正面に川が見えてきた。よどみない流れは勢いも強く、川辺の花々を静かに揺らしている。
川に近づこうとしたとき、後ろから誰かが歩いてくるのを感じた。遠藤と佑介自身だった。
「この森は危険です。帰りましょう佑介さん。」
遠藤が焦りに満ちた声で言う。隣の自分は全く反応がなくうつろな目をしている。明らかに何かに取り憑かれているようだった。
「きっとここまでする必要はありません。霊感のある僕には分かります。シャイニングヒルの近くは明らかに危険です。」
それでも隣の佑介は何も言わずにただ川に向かって歩き続けようとする。次の瞬間、彼は意識が瞬間的に戻ったかのように、はっと声を出して気を取り戻した。しかしそのとき、遠藤の顔は青ざめていた。
「いつの記憶かはわからないけれど、夢を見出したことと関係がありそうですね。」
と藍那が腕を組みながら言う。そうだね、と佑介が彼女に返したときには二人は白い館に戻されていた。あのときあの瞬間、何があったのかは彼だけが知っている。もう少しで何かを思い出せそうな気がしていた。
玄関に戻ると、階段の奥に広がる暗黒の闇はごろごろと音を立てながらうごめいていた。
「遠藤に会えば、何か分かるだろう。そうすればこの先にもきっといける。失踪事件の真実を突き止めて、彼女を成仏させてあげるんだ。」
二人は呪文を唱え、現実の世界へと帰る。
呪文を忘れてしまうことも、元の世界に戻れないことも、ごめんだった。
だが、そのうちの一人は――あるいは、そうではなかったのかもしれない。
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