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第2話

人の立ち入らぬ森は、まるで迷路のようで。

昨日は散々に歩き回っていた道なのに、不思議と今日はまっすぐに、あの場所へと繋がっていた。



「お嬢さん。濡れたままでは風邪をひきますよ。」


湖のほとりで寝そべるリリエル。

その顔を覗き込むようにして声をかければ、彼女は少し眉を上げた。


先程まで、また湖で遊んでいたのだろう。

リリエルの髪も体も、雫が滴り落ちている。



「騎士様、ほんとに来たんだ。

きれいね。」


傷だらけの甲冑の、何が綺麗だと言うのか。

ただ呆れるしかないけれど、リリエルの目はひとつの濁りもなく、ただ心から言っているように見えた。



「それより、体を拭きなさい。

ほら、布なら持ってきたから……ああもう、服が張り付いてる。気持ち悪くないんですか。」


リリエルを立ち上がらせ布を渡そうとすると、両腕を左右に広げ目を瞑った。


……拭けと、言っているのか?


試しに背中の水滴に布を当ててみる。

されるがままというのは、こういうことを言うのだろう。


「まるで親鳥の気分だ。」


小さなため息とともについ、独り言が漏れてしまった。



「変なの。」


「何がでしょう?」


「だって、鳥ならここじゃ生きられないもの。」


そう言われ、はたと気付いた。

昨日も、今日も。

この森で鳥の声どころか、動物の気配すら感じない。

不自然なほどに、静かなのだ。


「……なぜですか?」


ある程度拭き終わると、リリエルは近くの茂みへと足を運んだ。

しばらくして戻ってきた彼女は、手のひらに赤紫色の瑞々しい木の実を転がしてみせた。


「だって、全部毒だもの。

これも、その木も、全部。」



——全部、毒。

国の調査とここに来るまでの息苦しさで、いくらか毒草があることは知っていた。

だが確かに、自生する植物が全て毒なら何の姿も見かけないのも頷ける。


「……待て。

君は昨日そこに生えていた木の実を——」


言い終えるより早く、リリエルは口をもぐもぐと動かしていた。

手のひらは空っぽ、小さな唇は赤く染まり、頬は血色が良くなり……。


「は?」


到底、毒を口に含んだとは思えない姿に、空いた口が塞がらない。

当の本人はあまりにも平然としていて、心なしか腹が膨らんだようにも見える。


「リリエル、それも毒なんじゃ……?」


「毒。

食べたら次の夜が来るまでお腹いっぱい。」



「……毒って、そういう意味か……。」


やっと胸を撫で下ろし、リリエルが摘んでいた実をよく見ると、ラズベリー似た、ほのかに甘い香りのする果実だった。


一晩腹が膨れるなら、野営や遠征で役立つかもしれない。

低木に手を伸ばすと、なぜだか少し眉を下げたリリエルがその前に立ち塞がった。


「騎士様は、だめ。

食べたら死んじゃうし、栄養もないもの。」


私を心配するようなそんな姿が、わずかに胸をくすぐった。

だけれど、心配するのはこちらの方だ。

そんなもので腹を満たしていたリリエルを看過するわけにはいかず、二度と森に生えるものを口にしないようにと、強く言い聞かせたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

女性キャラ描くのがどうにも苦手です。

次回、リリエルもぐもぐ回です。お楽しみに。

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