連休中にはご注意を
「ひどいな」
GWという大型連休が始まり、予想していた事とはいえ、実際にテールランプの赤い列に並ぶことになるとやはり気が滅入る。
妻と子供はもうとっくに寝入ってしまっている。
僅かずつしか動かないので、いらいらする気持ちも分からなくも無いのだが・・・
『急に止まったのはそっちだろ!』
『突っ込んできたのはそっちだろ!』
とガラス越しに聞こえてきそうである。
目の前では接触事故を起こした運転手らが言い争いをしていた。
はっきりとは見えないが、その二人は中年の男性と金髪の若い男のようだ。
さっさと車線を変更したいのだが、面白いほど車は動けない。
諦めて私は目の前の喧嘩がすぐ終わるのを祈った。
事故自体はたいしたことはないようだし、走行には問題ないだろう。
常識的に考えれば、他の人に迷惑がかかるのでそれほど長い言い争いにはならないだろうと私は考えていた。
しかし、私の予想に反して喧嘩はエスカレートしていくのだった。
若い男は中年の男性を殴るけるの暴行。
そして、私の一番初めのセリフへとつながるのだった。
私は同じような年齢の中年の男性に同情する。
何もそこまでしなくても。
謝っているじゃないか。
しかし、私が心の中でどれだけ非難しようと状況はよくはならない。
「ま、待てよ。嘘だろ」
中年の男がぐったりと地に倒れる。
これはまずいなと警察に通報しようとして携帯電話を取り出す。
その瞬間、周りを見渡す若い男と私は目があった。
ゆっくりと近づいてくる若い男。
その手には血で汚れたナイフが握られていた。
まさかさっき倒れた男は刺されたのかと私の心は激しく動揺する。
早く110番通報しないと、と思うがこの渋滞でそんなに早く駆け付けられるのかという疑問も頭をよぎる。
間に合わないだろう。
自分の身は自分で守らなければいけないのか。
私の足はアクセルを踏み込むべきか逡巡していた。
迫り来る若者は私に猶予など与えずにボンネットの上に飛び乗る。
そして、フロントガラスめがけて蹴りを放つのだった。
「うわぁぁ!!!」
私は思いっきりブレーキを踏みこむ。
タイヤは甲高い悲鳴を上げ、車は止まった。
「どうしたの?」
横で寝ていた妻が驚いた顔で私に聞く。
私は目をぱちくりとして前を見る。
道は比較的空いている。
「す、すまん。ちょっとうとうとしてたみたいだ」
「もう、しっかりしてよね。あぶな・・・」
ガシャンッ!!
夢かと少し安堵したのもつかの間、衝撃と愛車のうめき声がすぐに私を襲う。
ぐらぐらと揺れる脳みそでバックミラーを見ると、どうやら後続車両に追突されたようだった。
居眠りしていた自分を呪いながら、車を出ていくと「何でハザードも出さずにこんな所に止まってんだ!!」など言う罵声が聞こえた。
仕方がない。
私が悪いのだ。
「すみません。ご迷惑をおかけしまし・・・」
私は近づいてくる男の顔を見て驚愕する。
その男に見覚えがあった。
若い金髪の男。
私はただ彼がナイフを持っていないのを祈るだけだった。