プロローグ 灯火に誓う旅立ち
手に取って頂き、有難うございます。
第2話で訓練場の試験まで一気に駆け抜け、そこからは緩急を付けて物語が進みます。
中盤から終盤に掛けて大きな見せ場をご用意していますので、最後までお付き合い頂けると幸いです。
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静まり返った、深夜の和室。
唯一の灯りは、揺れるロウソクの炎。
横たわる母上の手を握り、わたしは『禁じられた救い』から、必死に目を逸らし続けます。
使えば助けられますが……決して許されません。
「……夜宵」
「……! はい、母上」
「貴女を1人にして……ごめんなさいね」
「そんな……謝らないで下さい。 わたしなら、大丈夫ですから」
「そうね……。 夜宵は良い子だから、きっと大丈夫……」
母上は微かに笑みを浮かべ、わたしの手の上に手を重ねました。
その温もりが、もうすぐ消えてしまうのだと思うと、どうしても涙を止めることが出来ません……。
嗚咽を堪えるわたしに、母上はゆっくりと告げました。
「言魂学院に行きなさい……」
「え……? で、ですが、無字のわたしでは……」
「心配しないで……。 学院長には、話を付けているから……。 試験は受けないといけないけれど、夜宵なら問題ないわ……」
「母上……」
「ここで1人で暮らすよりも、夜宵には外の世界を見て欲しいの……。 貴女にとっては厳しいことも多いでしょうけれど……きっと、その方が幸せになれるわ……」
「……わかりました。 それが母上の願いであるなら、わたしは言魂学院を目指します」
「有難う……。 夜宵……どうか、元気で……ね……」
それが、母上の最後の言葉でした。
安らかな顔でしたね……。
苦しまずに逝けたことだけが、唯一の救いでした。
わたしはその場で、声を押し殺して泣きました。
でも、いつまでも泣いてはいられません。
母上の願いを叶える為に、前に進まなければ。
翌朝、母上を丁重に弔ったわたしは荷物を纏め、言魂学院への旅路に出ました。
このときのわたしは、まだ知らなかったのです。
あの学院で、世界を揺るがす出会いが待っていることを。