第3話 ストックオプション Stock Option
で、今抱き締め合っている女・美沙稀だが、地味女なコイツはとにかく身持ちが固い。もう三ヶ月になるが「結婚してからのお楽しみ♪」とか言って、絶対にキスもさせなければ、抱かせない。俺も笑顔で「そうだな、早く美沙稀と結婚したいよ」なんて言って、適当に誤魔化している。無料で性欲処理ができないのは正直困るが、結婚してまでお前となんかヤリたくないっつーの。
親の遺産を持っていたコイツからも、もう一千万近く引っ張っているし、そろそろ詐欺るのも潮時かな……あっ、そう言えば――
「ねぇ、美沙稀」
「は〜い。なんですか、敦さん。空腹なら何か作りましょうか? パスタでいいですか?」
「そうじゃなくて、美沙稀って、株持ってるとか言ってなかったっけ」
「株?」
「うん、ほら俺の会社のために随分美沙稀にも助けてもらったでしょ」
「敦さんの会社、いつか私とふたりで経営するんだよね?」
「もちろんだよ!」
「うふふっ、楽しみだなぁ〜♪」
コイツ、馬鹿すぎる。
「いや、だからさ、美沙稀はちゃんと生活できてるのかなって」
「わぁ〜、私の心配してくれたんだぁ。嬉しいな♪」
いや、お前から引っ張れる財産が無いかの確認だ。
「え〜と、株は持ってないよ」
「そうなんだ。持ってれば売ればいいのにって思ったんだけど」
「私が持ってるのは、勤め先の会社の『ストックオプション』だよ」
へ? 『ストックオプション』? 何だそれ?
「あぁ〜、敦さん『ストックオプション』知らないんでしょ〜」
「そ、そんなことないよ。あははは……」
こんなアホに馬鹿にされるとは……
「『ストックオプション』は、自社株購入権のことだよ」
「ほぉ?」
「私の持っている権利は、自分の会社の株を一株一万円で最大五千株を購入できる権利なの」
「ふむふむ」
「でね? これでモチベーションを上げて、頑張って働いて会社の業績が上がったとするでしょ? そうするとどうなる?」
「会社の株価が上がるね」
「そういうこと。株価が二万円の時にこの権利を行使すれば……」
「一株あたり一万円の利益が得られるわけだ」
「せいか~い! でも、逆に株価が落ちちゃっていたら、この権利を行使できないから、ストックオプションをもらった社員は、みんな頑張って働くってワケなの」
それってスゲェ儲かる可能性が……
「美沙稀の勤めてる会社って、何ていったっけ?」
「『FTTデータサービス』だよ」
「!」
その名前、ネットニュースとかで見た記憶がある!
「今、株価っていくら位なんだろ?」
「知らな〜い」
ストックオプションのあげ甲斐のないヤツだな……
「でも、業績はここ数年右肩上がりだよ」
「えーと……あっ、その新聞見せて」
「はい!」
美沙稀から新聞を受け取る俺。
経済欄に株価の情報とかって……俺の呼吸が止まった。
『好業績に加え、AI向けの新しいデータセンター開設など好材料』
『タヨト自動車、ハードバンクとの業務提携が業績を後押し』
『FTTデータサービス、株価五万円突破』
こ、これって……!