パイオニア
お前はつくづく運がいいと。そう教えられてきた。実感などない。俺にとってそれはあって当たり前のものだからだ。どうも大人というものは生きる活力というものがない。野心がなくなり,「今ある幸せ」なんてくだらないものを噛み締める。情けないったらありゃしないね。
才能は才能を使う才能を持ってして,初めて才能になる。例えばあの岩の影で熱心に恵まれない者たちに自身の不幸を詩っているあいつ。なるほど大した才能だと思うが使い道がなってない。あれほどの才能をくすぶらせて,弱者の羨望を集めたところでなんになった?老いて感性が衰えたら終わり。「今ある幸せ」なんてものを歌い出すのさ。そうなったらみんな用済みだと言わんばかりに離れていくんだ。例外なんて何もない。あいつの周りには誰1人いない。もう辞めちまえばいいのにな。辞めちまえばいいのに。
結局,奴は発狂しながら安らかに死んでいった。呪いにも近い遺作は燃やしてやろう。呪いは呪いらしく,誰にも見られずこの世から消えるべきなんだ。
....誰よりも才能があった。
そう思っても届きやしない。
ふざけるなと。
俺はあいつの望んだ俺の環境を呪いながら,
奴の遺作を叫びあげ,発狂して死んだ。