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1話 物語の主人公じゃなくてもいいじゃない

「ねえ、世界を旅したいと思わないか?」


 幼馴染が言った。突拍子もない一言だった。

 このまま村で過ごすだけじゃ得られない経験がしたいんだと熱弁する。

 こういう奴が物語の主人公になるんだろうな。そんな羨む思いを抱きながらも、その主人公の景色を隣で一緒に見たいと願望を抱いた僕はこう口にする。


「僕もついてく」

 

 これは物語の主人公を陰で支える僕の壮大でも何でもない話。



 ♢



「聞いたか? 『世界の探究者(ワールド・シーカー)』が遂に神武具(レガリア)を手に入れたんだってさ」

「馬鹿にすんな! 流石に知ってるぜ? 世界で五人目の所有者(マスター)だってな」


 世界中に散らばるダンジョン。ダンジョンの中には地上とは比べ物にならない程の資源が隠されている。

 そしてその資源の中には当然財宝も含まれている。

 下手をすれば一つダンジョンを攻略するだけで一生遊んで暮らせるほどの金が手に入るのだとか。

 そんな一攫千金の夢を見てダンジョンに挑む者達の事を探索者と呼ぶ。

 そして先程の男達の、いや町中の話題となっている『世界の探究者(ワールド・シーカー)』とはとあるルーキー探索者パーティの名だ。

 パーティっていうのは探索者同士でダンジョンを攻略するために組む部隊みたいな物。

 探索者ギルドと呼ばれる探索者の秩序を保つ機関で申請して承認されれば誰でも作れる。

 基本的には二人から申請可能だ。

 そしてそのルーキーパーティが神武具(レガリア)っていうとってもとってもレアな武器を手に入れたから町中で話題になってるって訳さ。

 ま、どうでもいい事だけど。


 町中の喧騒に嫌気が差しながら僕はゆっくりと歩みを進めていく。目指す場所は探索者ギルドだ。といっても他の探索者みたいに依頼を取りに行くわけじゃない。

 ちょっと億劫になってくるな。いろいろと面倒な手続きをしなくちゃいけないし。


「たった二人だけで構成された新進気鋭の最強パーティ『世界の探究者(ワールド・シーカー)』か~。『聖魔双剣』のヨシュカ・アルトマンとか良いよな~。超上位のモンスターでもイチコロらしいぜ? 噂では単騎で龍を討伐したって話だ」

「俺もそっち派だな~。『完全無欠』のレアン・オルブライトはよく分からんしなぁ」

「噂では支援に特化してるって聞いたけどな」


 どうでもいい話ばっかしてんな~。まあ町が平和な証だし、良しとするか~。何を隠そう、僕もここの住人になるんだし町の治安は良いに越したことはない。


「その『世界の探究者(ワールド・シーカー)』がこのヨルデンハイム王国に来るとはな」

「ああ。しかも各国を転々としてたあのパーティがこの国に探索者ハウスを作るらしいぜ?」

「ホントかよ!? そんなのどこで聞いたんだよ!?」

「さっき探索者ギルドに『世界の探究者(ワールド・シーカー)』が探索者ハウスの職員を募集してたのを見たんだよ」

「職員募集か……こりゃあ、探索者達がこぞって応募しそうだな」

「だな。職員って言っても門下生みたいなもんだしな。そこから有名パーティが生まれる事だってあるし」


 へー、それは初耳だった。てっきりただただ家政婦とかパーティの財政面的な事をやるだけだと思ってた。

 意外と町の噂話というのも良い情報が手に入るものだ。

 そんな事を思い浮かべながら歩いていると目的の場所へ到着する。

 探索者ギルドの見た目は場所によってかなり変わる。だが、紋章だけは常に変わらない。

 かつて存在したとされる英雄が剣を掲げる鏡像がトレードマークとして入り口に飾られている。

 

「うん、ギルド遠めで良い立地だったかも」


 以前の国ではギルド近傍の宿で過ごしていたせいで結構酷い目にあったからな。

 流石にこれから本拠地にする場所はそうならない様気を付けた。


「さて、こっからが勝負だな」


 一枚の書類を大事そうに抱えながらギルドの扉を開くと、そこに広がっているのは希望に満ちた瞳をした輝かしい探索者達で賑わう景色……だけではない。

 如何にも荒くれた連中も居る。出来ればアイツらには目をつけられないようにしないとなー。

 僕、ここじゃ新参者だし絡まれやすいからな。

 そそくさと身を隠しながらギルドの受付へと歩いていく。

 確か依頼書と同じ窓口だったはずだからこの列だよな?


「お、そちらさんもご依頼ですか?」


 僕が列に並んだ瞬間、前のおっさんがそう話しかけてくる。探索者ギルドへの依頼は一日にかなり多い。

 だからこそこうして誰かと世間話でもしながら列に並ぶ時間をつぶす人が多いのだろう。


「いや、僕は依頼じゃないですよ。実は探索者ハウスを新しくここに造ったのですが、その書類関係を提出しに来たんですよ」

「ということは探索者さんなのですな。いやはや探索者ハウスを建てられるなんてよっぽど腕の立つ探索者なのでしょうな」

「それほどでもありませんよ~。探索者ハウスなんてレベル5以上から誰だって建てられるようになりますからね」


 探索者の階級は基本的には『レベル』というもので区分けされている。レベル5は多分中堅探索者くらいかな? 僕はその辺あんまりわかんないけど。


「レベル5ですか。すみません。私、探索者の階級には疎いものでして。レベル5は上位の方ではないのでしょうか?」

「上位ではないと思いますよ。多分中の下くらい?」


 レベル3までが大体見習いくらいだとしたらそんなくらいの認識になるよな。てか僕あんまり同じところに滞在することないから、指標がパーティメンバーだけなんだよな。

 サンプルが少ない。そんでアイツ、レベル5とか一瞬で駆け抜けていったしよく分からん。僕はアイツのお陰で上がっただけだしより一層分からん。


「ねえ、そこのアンタ。さっきから聞いてりゃ好き放題言ってくれるわね。レベル5が中の下? そんな事あるわけないでしょ」

「へ?」


 おっさんと話していると突然俺の背後から女性が声をかけてくる。

 振り返ると如何にも喧嘩っ早そうな少女がこちらを睨みつけていた。いや、てか何か他の探索者達も睨んできてるんだけど。

 え、僕愉快なおっさんとラブラブ談話してただけなのに何でこいつらに恨まれてんの?


「ど、どうしましょう?」 

「ちょ、一般人の私に聞かないでくださいよ」

「でも僕別になんもしてないですよね? レベル5なんて誰でもなれるとかしか……」


 そこまで言った瞬間、ドンッと俺のすぐ真横の壁が拳で打ち抜かれる。

 そして目の前にはあの喧嘩っ早そうな少女の顔があった。いやん、彼女距離じゃん大胆なんだから。


「レベル5にもなったことない癖に調子に乗んなよカス」


 なんかこのシチュエーション、本で読んだことあるぞ。押しの強い超毒舌キャラのイケメンが主人公の女の子に詰め寄る奴だ。

 でもどうしてだろう? 全然ときめかないよコレ。てか盗み聞きしてたんなら僕が探索者ハウスを建てようとしてるって話も聞いとけよ。レベル5以上からじゃないと建てられないって言ってるよね?


「私はレベル5のアイリン・シュバルツ。この世界じゃ数少ない『龍殺し』の称号を持つ一人よ」


 龍殺しか~。何だっけそれ? でも称号を得ているってことはそこそこ強いってことなのかな?


「す、スゴイデスネ」

「何その気持ちの籠もってない返事は? 絶対思ってないでしょ、腹立つ」


 目の前の少女、アイリンが顔を真っ赤にしながらこちらを睨みつけてくる。なんでこの人初対面の人に対してこんなに強気なんだろう?

 

「決闘よ。探索者なんでしょ? 決闘で実力の差を思い知らせてあげる」


 その瞬間、探索者ギルド内が大いに盛り上がる。

 あーあ、だから嫌なんだよなここ来るの。暗鬱とした気持ちを抱えながらその様子を傍観してため息を吐く。

 周囲は既にやる気に満ち溢れている。


 対する僕はやる気のかけらも存在しない。第一、決闘って軽々しく言ってるけど殺し合いだからね? 怖いじゃん。


「どうなの? 受けるの?」

「別にいいけど、後にしてくんない? 僕、書類出さないといけないから」

「オッケー。場所はここね。待ってるから絶対来るのよ。逃げたらただじゃおかないから」


 なんか紙切れみたいなの渡されてどっか行ったんだけど。いやでもコレラッキーじゃない? 逃げれるじゃん。ただじゃおかないとか言ってたけど町で再会する確率なんて低いんだし、たとえ会ったとしてもその頃には忘れてるくらい時間が経ってるだろ。

 そう思いながら僕は気を取り直して列に並び続けるのであった。

ご覧いただきありがとうございます!


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