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大根と王妃①  作者: 大雪
第三章 大根失踪
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第8話 出口を求めて

 水に濡れた足場は非常に危険で、移動するのも苦労した。

 これが、観光用の鍾乳洞ならば、歩道が良く整備されていて歩きやすいが、ここは未発見の鍾乳洞らしく、整備も何もなかった。

 当然、危険な場所の柵もないので、何度も落ち掛けた。

「おわぁ!!」

 カランと鍾乳石の欠片が闇の中に吸い込まれる。

「あ、危なかった……」

 ここは危険だ。

 滑りやすくちょっとした油断で道を踏み外す。

 因みに、足を踏み外す理由としては果竪自身にもあった。

 というのも、頻繁に周囲を見回す為に、足下への注意がおろそかになるからだ。

 ならば、足下に注意しろといっても、なぜかずっと感じる不思議な違和感にそれもままならない。

「せめてもの救いは、辺りが何とか見えるって事ね」

 鍾乳石がぼんやりと青白く輝き、辺りを照らしてくれている。

 そのおかげで、明かりを持たずとも果竪は進むことが出来た。

 が、そんな救いも、次ぎに起きる果竪の行動の防波堤にはなってくれなかったらしい。

「いったぁ!」

 グギっと大きく足を捻った激痛に思わず飛び上がる。

「イタタ……何、これ最悪じゃん!」

 あまりの痛みに涙目になった果竪。

「くぅぅ……こ、こういう時は傷薬!」

 白い裸体眩しい大根からもたらされる白濁のエキスを抽出して作り上げた、私オリジナル!!

 だが――ポケットに入っていなかった。

「……そ、そうだ湿布!」

 同じく、トロリとした大根の白濁した液体から作り上げた湿布。

 それをつければ、まるで大根が添い寝してくれているかのような夢心地が味わえる素晴らしい代物!!

「何処に行くにも持ってきている必需品!! きっとある筈!!」

 ――なかった。

 果竪はその場に突っ伏した。

「こんな……こんなことって……」

 頬に触れるのは、涙なのか地面の水なのか。

「今まで何処に行くにも欠かしたことはなかったのに――はっ! もしや、傷薬と湿布も誘拐されたんじゃ!」

 誰に!!――きっと明燐達が居れば、本場のツッコミ顔負けのツッコミがなされた筈。

「くぅぅ! 私とした事が!! 愛する大根達が攫われていくのにも気付かないなんて!!」

 こんな事では、愛する大根に合わせる顔がない。

 今すぐそこの鍾乳石に頭をぶつけて逝ってしまいたいぐらいだ――と、そこで果竪はある事に気付いた。

「って、逝ったら大根と離れちゃうじゃない!!」

 そう、冥界に逝ったら大根と離れてしまう。

「そんなの絶対に嫌よ!!」

 あのほっそりとした悩ましげな肢体を持つ大根達と永遠の別れだなんて!!

「あ、でも冥界に大根の種を持っていけば」

 が、すぐに無理だと気付く。

 人間だろうと神だろうと、死んだら物など持っていけない。

 魂だけが冥界へと旅立つ。

「……種、種を魂に埋め込めば」

 ずっと一緒――いや、私自身が大根へと昇華するに違いない。

「そう、そうよ、大根の種と魂の融合、大根と融合」

 ハァハァと血走った目つきで種を見つめる姿は、健康的な青少年に宜しくない光景だった。

 もはや軽く通報レベルを乗り越え、逮捕レベル突入かもしれない。

 凪国王妃が大根の種片手に変質者っぽい事を呟いて逮捕される。

 それこそ一大スキャンダルになるのは間違いない。

「あ、でも種ってどうやったら魂に埋め込めるんだろう」

 神として、いや、女として何かが終る寸前、果竪は基本的なことに気付いた。

 そうだ、魂に種を埋め込むとしてもどうしたらいいのだろう?

 考えるが、思いつかない。

 もっと考えたかったが、身を切るような寒さに諦めた。

「後にしよう」

 そうだ、今はもっと考える事が別にある。

 とにかく先に進もうと、果竪は痛みを我慢して立ち上がったが……。

「あ、あれ?」

 先程ひねった筈の足首から痛みが消えていた。

 あれほどズキズキと痛んでいた筈なのに。

「ど、どういうこと?」

 地面を溜まった水でずぶ濡れにはなっていたが、特に何をしたわけでもない痛めた足首。

 そこで、果竪ははっと足を見る。

 そういえば私……足を痛めたのは化け物に襲われた時だった筈。

 果竪は地割れに落ちる前のことを思い出す。

 そうだ――突然現れた化け物に襲われて、足を酷く痛めて動けなくなった。

 でも……自分は鍾乳洞の中で、普通にスタスタと歩いていた。

 そう……ずっと感じていた違和感はこれだったのだ。

 果竪は自分の足を触る。

 最初に痛めた部分を押しても痛みはない。

「どうして……」

 自然治癒するには早すぎる。

 かといって、治癒の術を使ったわけでもない。

 では、何故痛みがなくなった?

 不思議な事ばかりだった。

 だが――不思議な事はそれだけではない。

 そもそも、【聖域の森】に化け物が現れた事からしてそうだ。

「【聖域の森】は聖域。幾重にも結界が張り巡らされている特別な場所」

 有事の際には、領主の舘に次ぐ避難場所として用いられる。

 そんな場所に化け物が現れるなんて普通であれば考えられない。

 では、普通ではない事が起きたのか?

 そう考え、果竪は直前に起きた地震を思い出す。

 この地域で地震はそう珍しくはない。

 だが、あそこまで大きく揺れる地震は初めてである。

 まさか、あの地震が【聖域の森】の結界に影響を与えたのだろうか?

 それとも、あの地震自体が化け物を出現させるものだったのか?

 はたまた、全く関係なく別の原因が関わっているのだろうか?

「でも……あれだけ大きな地震だったから、全くの無関係って事はないと思うわね」

 少なからず、何かには関わっているだろう。

「にしても……あれほどの地震だったのに、ここの鍾乳洞に被害らしきものが見当たらないよね……って事は、この鍾乳洞の強度はかなりのものね」

 地震では鍾乳洞は崩れる。

 鍾乳洞の最期は、ほとんどが地震による崩落とも言われるぐらいだ。

 だが、長い年月をかけて育った大きな鍾乳洞は、地震に強くなかなか崩れる事はない。

 現に果竪が昔入った事のある鍾乳洞は、全て無事に残っていた。

「でも、そうなると当然出口も遠いって事で……」

 大きくて広ければ、居る場所によっては出口が遠くなる。

 今もかなり歩いてきたが、出口らしき場所は全く見えなかった。

「な、何とかしなきゃ」

 とりあえず、他のことを考えるのは外に出てからにしよう。

 今ここで色々と考えてもすぐには答えなんて出ない。

 それどころか、そちらに気を取られて割れ目に落ちたら大変な事になる。

「墜落死だなんてなったら目も当てられない」

 しかも、すぐには見つけて貰えないだろうからきっと腐って……うわぁ、想像したくない。

 ってか、例え腐らなくたって墜落の激突で目も当てられない状態となっているだろうから、あんまり変わらないか。

 そんな事を考えながら、果竪は高低差のある地面を乗り越えていく。

 何度目かの曲がり角を曲がった時だった。

 突然開けた場所に出た。

 天井は高く、まるで王宮の大広間を思い出させる広い空間。

 奥に、豊富な地下水により創られた地底湖が見えた。

「あ……」

 誘われるように、気付けば湖の岸辺に佇んでいた。

 幻想的な蒼い湖水をたたえた大地底湖は、まるで鏡のように鍾乳石を映し込む。

 本物と湖に映り込んだ上下対称の鍾乳石。

 瞬きすら忘れるほどの美しい光景だった。

「綺麗……」

 唯一人、この幻想的なまでの美しさの中に佇み、その美しさに酔いしれる。

 一片の狂いもなく、正確無比な計算のもとに耕し植え尽くされた大根畑に、勝るとも劣らない素晴らしい光景。

 鍾乳洞好きからすれば殴られそうな比較をするが、果竪には最上級の褒め言葉の一つ。

 そうしてどれだけ美しい地底湖を見つめていただろうか?

 はっきりいって、その時の自分は完全に無防備だったと思う。

 だから、気付かなかった。

 背後に迫り来る気配に――

「ここに来るお客さんは珍しいわね」

 突然かけられた声に、果竪はバランスを崩す。

 目の前はたっぷりと水がはっている地底湖。

 うん、落ちたら濡れ鼠決定だ。


表現があんまり上手くいかなくて撃沈(汗)

うぅ……文章力が欲しいです。



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