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大根と王妃①  作者: 大雪
第三章 大根失踪
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第7話 鍾乳洞

加筆修正完了

 ピチャン……ピチャン……

 冷たい刺激に、意識が急浮上していく。

 真っ暗だった視界が前後に揺れる度に、色と形が増えていく。

 同時に、視界に増え出す色と形が急速に集束と散乱を繰り返し、一つの光景が広がった。

「……これ……は…」

 まだ微かにぼんやりとしていた思考は、周囲を認識した瞬間一気に覚醒する。

 両手をついて上半身を起こした果竪の前に広がる光景。

 青白い光が照らす無数の鍾乳石や石筍、天井を覆い尽す無数の氷柱石。

 絶え間なく聞こえてくる幻想的な水音。

 これらが示すものはただ一つ――此処は鍾乳洞だ

「綺麗……」

 目の前の光景の美しさは筆舌を尽くしがたいものがあった。

 巨大な地低空間にそびえる鍾乳石群は、どこかの宮殿を彷彿とさせ、垂れ下がる氷柱石は、非常に細かく繊細だった。

 果竪はゆっくりと立ち上がり、近くの鍾乳石へと歩み寄るが、ふと違和感を覚えて周囲を見回す。

 何もおかしな部分はなかった。

 溜息を一つこぼし、果竪は鍾乳石の前へと立った。

 石に触れ、その細かさを確認すれば、やはり今まで見た事がないほどの繊細さである。

「これだけの繊細なものを作るとすれば………」

 果竪は目を閉じ、耳と触感を研ぎ澄ませる。

 「やっぱり――風化作用がないんだ、ここ」

 この鍾乳洞は閉塞型という事だ。

 よく鍾乳洞の入口もしくは出口付近では、強い風を感じられる。

 これは鍾乳洞が地表に二箇所以上の開口を持つために起こる空気の移動だが、閉鎖型の鍾乳洞では当然開口が一つしかないのだから、その移動は基本的にはない。

 ここが鍾乳洞の入口付近なのかそうではないのかは分からないが、これだけ集中しても風を感じ取れないとすれば、まず十中八九ここは閉鎖型であると見ていい。

 また、もう一つここを閉鎖型だと判断する材料がある。

 風は風化という破壊作用を持っている。

 絶えず風を受ける環境では、鍾乳石とはいえ表面は風化作用によって破壊され、繊細さが損なわれていく。

 だが、ここの練乳石は脆いまでに繊細だった。

 という事は、この鍾乳洞はその風化作用が極力少ない環境下で育った鍾乳洞であり、閉鎖型に他ならない。

「とすれば、出口は一つだけ……」

 果竪は呟き辺りを見渡す。

 これは外に出るのが難しそうだ。

 風の流れがあれば、風の進む方向に歩けばいいが、ここではそれが使えない。

「どうしようか……」

 流石に初めての場所で無闇に動き回るのは危険すぎる。

「助けを待つにしても……私が何処にいるかから探し出すだろうから……時間、かかるだろうなぁ」

 そもそも森に行くとさえ言っていないのだから、明燐達が探してくれるとしてもかなりの時間がかかるだろう。

 因みに、果竪の中に明燐達が自分を探さないという選択肢はない。

 そんな事を思う余地もないほどに、明燐達が自分を大切にしてくれている事が分かっているからだ。

 だから、きっと今回も探しに来てくれるだろう。

 正確な時間は分からないが、森に居た時点で屋敷を出てからかなりの時間が経っている筈だ。

 もう探しに来ていてもおかしくはない。

 ――そこまで考え、果竪は申し訳なさを感じた。

 勝手に屋敷を抜け出し、見知らぬ場所で迷子になった自業自得の王妃を捜しに来なければならない彼ら。

 彼女達の苦労を考えれば、ここで長時間反省するのも悪くないし、寧ろするべきだ。

「反省って言ったら正座だよね」

 だが、下は水で濡れており、正座すれば衣服が濡れて後で風邪を引くことは間違いない。

そしてまた仕事を増やしたとして怒られるのだ。

「……反省はとりあえず後にして、何とか脱出しよう」

 うん、その方がよほど相手の為になる。

 そうだ、鍾乳洞の奥まで来るより、入り口付近に居た方が明燐達の徒労も少なくてすむ違いない。

「けど……こんな凄い鍾乳洞が森の地下にあったなんて……」

 【聖域の森】の奥にある干上がった泉。そこで起きた地割れから落下した。

 近くに河らしきものもないから、移動はしていないだろう。

 となれば、ここは森の泉の真下という事になる。

 だが、そこにこれほど大きな鍾乳洞があるとは……。

「聞いた事がないから、たぶん誰も気付かなかったのね」

 ここは秘境という事か。

 そう思うと、果竪は自分の心が弾むのが分かった。

 こんなに綺麗な場所を初めて知ったのが自分。

 大切な友人に大事な秘密を打ち明けられた時のような優越感と嬉しさが込み上げる。

 だが、程なくある事実に気付いた。

「誰も気付いてない秘境って事は、当然明燐達も知らないのよね」

 となると、たとえ捜索したとしても、見つけてくれるまでかなりの時間がかかると見ていい。

 下手をすれば王宮にまで連絡が行くかも――馬鹿王妃が失踪しましたって。

「それこそ何としても自分で脱出しなきゃ!」

 遭難よりも恥ずかしい事態がすぐそこに。

 あの上層部の事だ、ぜ~ったいに、馬鹿にするに決まっている。

 奴等は鬼畜だ、腹黒だ、悪魔で鬼で、生粋の魔王すら足下に及ばない。

 何度奴等に心をえぐり抜かれてきたか。

『果竪、大丈夫だ! 胸なんて無くて生きていける!』

 女体変化した際に人よりも大きな胸を揺らす男に言われたくなかった。

「で、出口!」

 何とかして見つけなければ。

「でも、ここに鍾乳洞がある事自体知らなかったのに、出口なんて余計に何処か分からないよぉ」

 だが、何時までも留まってはいられない。

 先程よりも温度が下がっている気がする。肌寒さに体が自然と震える。

「うぅ、早く見つけないと……」

 果竪は体を温めるように掌を擦りながら歩き出した。


今回の(始まり編)では色々と加筆修正を行っております。

また、色々と説明も付け加えておりますが――どうでしょう?


大根1~3と比べて分かり易いですか?


宜しければ分かり易い、分かりづらいなど教えて下されば嬉しいです♪


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