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大根と王妃①  作者: 大雪
第七章 事態急変
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第53話 名前はアンドレア

 憎い相手を貫いた瞬間、歓喜が全身を駆け巡った。

 だが――更に貫こうと刀を動かした時、妙な違和感を覚えた。

 なんか……変な音がする。

 肉を断つ音ではなく、これは――。

 その時、凄まじい絶叫があがった。

「アンドレアがぁぁぁあっ!」

 誰?!

 全員が度肝を抜かれたのは言うまでもない。

 そこで、伯冨は自分の刀が刺し貫いているものに気づいた。

「だ、大根?!」

「私の愛する大根に何するのよ!!」

 その叫びと共にドロップキックを顔面に受けた伯冨は後ろに飛んだ。

 が、そんな哀れな相手を一別する事無く、果竪は刀がささった大根へと駆け寄った。

「アンドレアがぁっ」

「なんで名前が西洋風なんですか」

「この子の故郷は西洋だもの――って、明燐ってばなんてことするのよ」

 果竪がヒシッとアンドレアを抱きしめながら明燐を睨み付けた。

 アンドレアがこんな目にあったのは明燐のせいだった。

 二人が駆けつけた時、李盟は刀の錆となりかけていた。

 このままでは間に合わないと判断した明燐は果竪が隠し持っていた大根を奪い取り、それを伯冨へと投げつけたのだ。

 李盟の代わりに刀を受けた大根。

 果竪が絶叫して伯冨に一撃を加えたのはその五秒後の事だった。

「アンドレアが傷物に!」

「別に大根の一本ぐらいなんですか。代わりの大根なんて沢山あるではないですか」

「アンドレアはただ一人よ」

「じゃあこれは?」

 明燐は果竪から同じく奪い取った大根の一つを手に取り聞く。

「ポメ三郎」

 和洋折衷来たし!!

「では、これは?」

「藤治郎」

 純和風の名前を大いばりで話す果竪に、明燐は頭痛を覚えた。

「まさか一本一本に名前なんて」

「あるに決まってるじゃない!! この世に一つとして同じ大根はないのよ」

「ちなみに、名前はどのようにして?」

「インスピレーション」

 一番役に立たない物を!!

「なんて言うわけ無いじゃない!! 大根達と話し合って一番良い名前をつけてるに決まっているじゃない」

「果竪、一度お医者様に見て貰いましょう」

 何処を?とは明燐は言わない。

 頭の中と言うにはあまりにも現実を認めたくなかったからだ。

「私より明燐の方がいいと思うわよ。私は何処も疲れてないもの」

 いや、疲れているとかではなく、頭の中身が心配だから――と、明燐は言わなかった。

 というか、言えなかった。

 刀が振り下ろされる音に、明燐は相手の横っ腹に蹴りを叩き込む。

「がはっ!」

 いつの間にか迫っていた男達数人が吹っ飛ぶ。

 流石は元女王様。

 ハイヒールにて散々男を足蹴にしてきた技が今ここで大いに活躍していた。

「はっ!! この愚物が私達に近寄るとはなんて烏滸がましいのかしら」

「明燐、女王様モード入ってるよ」

 身に纏う服はどこも露出していないのに、そこにただ仁王立ちしているだけで触れるのも躊躇われるほどの高貴さと威厳が漂っている。

 その姿はまさに女王様。

 この世に蔓延る愚かな者達を粛正するべくこの世に舞い降りた気高き女王様。

 鞭が具現化される。

「這いずってこの世に生まれてきた事を後悔するがいいわっ!!」

 そうして繰り出される鞭。

 それが描く軌跡はもはや芸術だった。

「李盟、怯えなくても大丈夫だからね」

 ヒシっと自分に抱きつく李盟に果竪は安心させるように言ったが、効果はあまりなかった。

 そもそも、李盟は女王様モードに入った明燐を見るのは初めてだったからだ。

「お~ほほほっ!! もっともっと踊ってみなさいなっ」

 鞭で打たれた男達が逃げ惑う姿は正しく踊っているかの如く。

 それを揶揄して高笑いする明燐はどう見ても悪役だが、その美貌のせいか悪を打ち倒す正義の使者にしか見えない――と、他の者達がいれば即座にそう表しただろう。

 美人は得だ。

 果竪は世の不条理を感じた。。

「この……」

 伯冨は倒されていく部下達に強く舌打ちをした。

 あと少しで願いが成就されたのに、このままでは全てが泡となる。

「くそ……くそ……」

 せっかく此処まできたのに……。

 苦汁を舐め続けてきたこの二十年。

 必死にのし上がってきた。

 いつか、いつかあいつらに復讐してやると。

 自分は選ばれた存在だ。全てを手に入れるべき存在だ。

 なのに、それを邪魔した者達。

 この手で散々苦しめて殺してやると誓った。

 殺してやる。

 殺してやる。

 たとえどれ程の犠牲を払おうとも構わない。

 そうして、自分は全てを投げ打って計画を進めてきた。

 自分の苦しみと絶望を理解してくれたあの方が授けてくれた秘策を、必死に進めてきたのだ。

 あと……一歩だったのに。

 計画の殆どは成功し、この州に大打撃を与える事は成功した。

 この分では、しばらくこの州は主立った動きは出来ないだろう

 水害、食糧不足、毒に始まり沢山の被害を受けたのだから。。

 だが……それだけだ。

 自分が本当に殺したい相手は傷一つなく残っている。

 その相手を殺さなければ本当の勝利はない。

 なのに……それを行う前に自分達の野望は潰やされようとしている。

 また……自分は負けるのか?

「このままでなるものか!!」

 せめて、李盟だけでもこの手で――

「李盟っ!!」

 その怒声にハッと果竪が後ろを振り返るや否や凍り付いた。

 凄まじい怒気、凄まじい殺気と怨嗟を身に纏った伯冨が猛然と走ってくる。

「お前だけは私がこの手で殺すっ!!」

 伯冨の顔は正しく鬼そのものだった。

 暫しその気迫に飲まれていた果竪だったが、すぐに我に返り李盟を連れて逃げようとした。

「え?」

 足が動かなかった。

 視線をずらし、愕然とする。

 そこには、明燐に倒された男達が果竪の足を掴んでいたのだ。

 道連れだと言わんばかりにニヤリと笑う男達。

「果竪っ!!」

 明燐が駆け寄ろうとするが、別の男達がそれを押留めようとする。

 それに明燐が切れた。

「邪魔をするな!!」

 大きく振るわれた鞭が一線した途端、ビシャッと嫌な音が響く。

 だが、間に合わない。

「死ねえぇっ!!」

 果竪は李盟を抱きしめて自分が盾になるように体の向きを変える。

 そこで大根を盾にしないところは流石と言えよう。

 果竪にとって大根は愛する存在。

 愛する大根を盾にするなんてとんでもない。

 果竪は大根を盾にするぐらいなら自分が串刺しになる覚悟だった。

 その後、切れた明燐がどんな手段をとるのか予想すらせずに。

 だが……果竪は串刺しにはならなかった。

「がはっ!!」

 伯冨の刀が床を滑って壁にぶつかった。

 続いて、ドサッという音と共に伯冨の体が床へと押しつけられる。

「あ……」

「大丈夫ですか?! 領主様っ」

 伯冨を押さえつけたのは、街の人達だった。

 五人ほどの男達が暴れる伯冨を必死に押さえている。

 続いて、ドタバタという足音と共に次々と街の者達が部屋に入ってきた。

「良かった!! 無事だったんですねっ」

「領主様っ」

「みんな……」

 李盟が果竪の腕の中から茫然と彼らを見つめる。

「怪我はございませんか?!」

「組合長っ」

 遅れて、組合長もやってきた。

「明燐様、遅れてすみませぬっ」

「遅いですわ組合長!! 後でお仕置きですわねっ」

 その時、ドキンっとした組合長を果竪は見逃さなかった。

 そろりそろりと後ろに後退る果竪に組合長は慌てて否定の言葉を述べる。

「ち、ちがいますぞっ!! た、ただ人より若干M的思考が強いだけでっ」

 ズザザザザとゴキブリも顔負けな様子で部屋の隅っこに逃げる果竪に、組合長は自分の失言に気づいた。

 しかも、若干街の者達からも引かれたような気がするのは何故だろう。

 自分を中心にミステリーサークルならぬ人が離れて作られた空間に、組合長は心の中で涙した。

 もしかしたら、来年から組合に入る若者が減るかも知れない。

 そんな傷心の組合長の代わりに、他の領民達が動き男達を捕縛していったのだった。


タイトルを見られて「はい?!」と反応して下さった方はたぶん多いと思います。

という事で、大根一本一本に名前もつけている果竪でした(笑)

とりあえず、あと十話ぐらいですかね……たぶん。

一応、一件落着?な今回でした。が、それで終わりではないのが大根と王妃。最後のどんでん返しが待っております。


今まで付き合って下さった皆様、ありがとうございますvv


そして、あともう少しだけお付き合い頂ければ幸いです♪

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