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大根と王妃①  作者: 大雪
第七章 事態急変
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第48話 異常事態

久しぶりの投稿です~(汗)

「き、来てない?!」

 呆然とする果竪に、組合長は青ざめた顔で頷いたのだった。

 組合長の屋敷は表通りに面した洒落た造りの建物で、果竪は記憶をたどりながら一番近道と思われる道を進んでいき、ほどなく扉の横の呼び鈴を鳴らせばすぐに家人が出てきた。

 が、夜に訪れた非礼を詫びようとした瞬間、果竪は奥から走り出てきた組合長の形相にしばし固まったのだった。

 当然だろう。

 青ざめて死人のような顔をした相手が全速力で近づいてくれば、誰だって逃げ出したくなるのが人――ではなく神の性というものだ。

人間達が思い描く誰をも救い受け入れる神なんぞ、そもそも天界広しといえどそうそう居ないのである。

 ただし、果竪に関しては相手が大根であればたとえ腐っていようとも受け入れオーケーであるが、大抵の場合は腐った大根は明燐に影で処分されてしまうので、今のところ受け入れた経験は持ってないが。

 そんなわけで、凄まじい形相の組合長を前に果竪は無意識に後ずさったものの、即座に捕獲されて屋敷の中に連れ込まれてしまった。

 が、果竪にとっての災難はそれだけではなく、なんと連れ込まれるや否や、李盟と連絡がつかない事を告げられたのだった。

「それってどういう事ですか!!」

 組合長の胸倉を掴み問いただして分かった事は、とにかく屋敷に来る時間になっても李盟が来なかった事、心配になって人を向かわせたがその者達も戻ってこなかった事が分かった。

「様子を見に行かせた人達も戻ってこないなんて……」

「それだけではありませんのじゃ」

「え?」

「もちろん、わしらだって李盟の元に向かわせた者達がいくら待っても戻ってこない時点で黙っていたわけではございません。すぐに次の者達を、そしてわしら自身も領主館へと向かいました。しかし……」

 組合長は疲れたように告げた。

 たどり着けなかった――と

「たどり……つけない?」

「そうです……どんなに進んでも、わしらは領主館にたどり着けなかった……」

 領主館へは今まで数え切れないほど行っていたし、ついこの間も領主館を訪れた。

 道など目を瞑ってでも歩けるほど通い慣れた道。

 なのに、どれだけ進もうと領主館に辿り着くことは出来なかった。

「丘の上の領主館は見えるのに、その領主館に向かう為の丘の道をわしらは最後まで見つけられなかったのです……」

「そんな……」

 憔悴しきった組合長の言葉に、果竪は言葉を失った。

 この様子から、組合長の言う内容は全て事実なのだろう。

 領主館にたどり着けない。

 そんなこと、普通ではあり得ないことだった。

 逆に言えば、そんなあり得ない事が領主館に起きているという事だ。

 そこに李盟がいる――

 もちろん、組合長は既に李盟が領主館から出てきて街に降りてきている可能性も考え動いてくれていた。

 しかし、どれだけ街の中を探しても李盟の姿はなかったという。

 街の外に出た記録もない。

 となれば答えはただ一つ。

 今も領主館に居ると言うことだ。

 そして、李盟を探しに行かせたまま戻ってきていない者達も、辿り着けない領主館の異変に巻き込まれたものと思われる。

 だが、そこで一つ疑問に思う。

「先に行かせた人達は戻ってこなかったのに、ど~して組合長達は無事だったんですか?」

 同じように領主館に向かったのに、先の人達は行方不明になり、組合長達は無事に街に戻ってこれた。

 これはどういう事なのか?

「わしらにもさっぱり分からないのです」

 それは組合長自身が知りたかった。

 何故自分達だけが無事だったのか?

 だが、今はそれよりも、行方不明になった者達や李盟の安全の方が大切である。

「とりあえず、今も他の者達が領主館に辿り着こうと必死になって方法を探してくれております」

 しかし、この様子ではそちらも難航しているのは間違いない。

「王妃様にわざわざご足労頂いたのに申し訳ありません」

 しかも自分は果竪から直々に李盟の事を頼まれていたというのに、このような事態に陥いらせてしまった自分の不甲斐なさに組合長は肩を震わせるも、それらはすぐに李盟の身を案じる心配へと変わる。

 領主館にたどり着けない。

 それだけでも異常事態だが、今回はそれ以前から色々と下地が出来ている。

 大規模な農作物の盗難に川への毒流し、人買い、更にはすぐそこまで迫っている長きに渡る嵐とそれに耐えうる強度のない設備。

 そしてその設備は手抜き工事であるとされ、大量の農作物の盗難と川への毒流しによる土壌汚染により次回の農作業の困難、それによる州全体の物資の枯渇と民達の貧困は確実という未来が迫っている。

 しかも、今回起きた事件の数々を早期に解決するどころかどんどん事態が悪化していく事で領主への非難は強まった上に、領主自身が黒幕ではないかとまで囁かれる始末。

 そして何度も暴動が起き、領主自身の命すら危険に晒されかけた。

 それほどの異常事態。

 その中での、領主館の異常。

 しかもそこに李盟が居るとすれば。

 もうこれ以上青ざめられないほど青いにも関わらず、組合長の顔から更に血の気が引く。

 李盟は無事で居てくれるのか。

 ふと、組合長の中に、もしやこの騒ぎは誰かが李盟を害す為に起こしたものではないかとの考えが浮かんだ。

 今までの暴動を思えば、それほど李盟は憎まれている。

 だがすぐにその考えを打ち消した。

 確かに暴動は起きたし、州都の者達の領主への不信は強い――いや、強かった。

 だが、李盟のあの真摯な態度に州都の者達が少しずつ考えを変えていったのを自分は知っている。

 自分を危険に晒すことになっても、動かせる人員全てを民達の為にまわした李盟に、感心した者達は多かった。

 そして彼らは、李盟を探すのに協力してくれている。

 だから……彼らがそんな事をするなんて事は絶対にない。

 とにかく、今は原因追及よりも一刻も早く領主館にたどり着く方法を探さなければ。

 組合長は顔を上げながら口を開く。

「領主様は必ずや無事にお連れします。ですから、王妃様は……王妃様?」

 組合長は何度か瞬きをし、果竪が居るであろう場所を見つめた。

 が、何度も見つめてもそこには誰も居ないという事実に、一気に目の前がぐらついた。

「……様……王妃様……」

 果竪が居ない。

 それどころか、後ろの玄関の扉が開け放たれている。

 これは……もしや、いや絶対に。

「だ、誰か王妃様を!!」

 まず間違いなく、李盟を探しに領主館に向かった果竪。

 これがバレたら明燐には確実に殺されるだろう。

 だがそんな自分の身の心配よりも果竪の身に危険が迫りかねないその事実に、組合長はすぐさま後を追いかけようと玄関を出る。

 が――

「あ……」

 玄関を出た瞬間鼻をつく甘い匂い。

 その匂いを嗅いだ瞬間、急激に体の力が抜けていく。

 強烈な睡魔が組合長の意識に食らいつき、そのまま闇の中へと引きずっていく。

「……様……」

 最後に組合長が聞いたのは、バタンと何かが倒れた音だった。

「眠ったか?」

「ああ、眠ったようだ」

 闇の中から二人の男が現れ、倒れた者達を見つめる。

 家、外と違いはあるものの、それを嗅いだ者達は全て眠りへとついた。

「これで全員か?」

「いや、まだ眠ってないのがいるな」

「ならばさっさと眠香を使え」

 そう言えば、相方が怒りを露わにする。

「使ったさ!! けど眠らなかったんだ! それどころかさっさと走り去って行きやがった!」

「この眠り香でも眠らないのか?」

「ちくしょう! 本当に忌々しい女だ」

 男は苛ついていた。

 いや、苛つきなどでは到底収まりがつかない。

 あの女は最初の暴動で自分の邪魔をした女だ。

 そればかりか、数々の屈辱を与えてくれた。

「とにかく、量を増やしてもいい。さっさと眠らせろ」

 後はあの女だけなんだから。

 そう告げる相方に、男はふとある事を考えついた。

 後はあの女だけ。

 そう――起きているのはあの女だけで、あの女以外は全員眠っている。

 つまり……あの女に何があろうとも助けるものはいない。

 ……という事は――だ。

「決めた」

「何がだよ。さっさと眠らせて俺たちも領主館に向かうぞ」

「それはお前に任せた。俺は残る」

「はぁ?」

「あの女に復讐する機会なんだよ」

 男は笑う。

 自分の邪魔をしたばかりか、散々屈辱を与えてくれたあの女。

 たいして美しくもなく賢くもない愚鈍で醜いガキのくせして、この自分の邪魔をした屑。

 それだけで万死に値するというのに、今も眠り香から逃れて再び自分達の邪魔をしようとしている。

「おい、時間が」

「別にいいだろう? 既に殆どの奴らが領主館にいるんだから、俺一人ぐらい居なくても構わないはずだ」

 もちろん、向こうも大切だが、それ以上に自分はあの女が腹立たしい。

 この崇高なる身分と地位を持ち、もう少しすれば新たな領主の側近として華々しく君臨する自分を散々侮辱してくれたあの女をこのまま見逃すなんて事は出来ない。

 ああいう女は、今後もきっとゴキブリのようにしゃしゃり出てくるはずだ。これからのこの州の統治にあんな生意気な民はいらない。

「見せしめもかねて……殺ってやるよ」

 舌なめずりをしながら狂気に歪んだ笑みを浮かべる男に、相方の男は溜息をついた。

 しかし一度こうなってしまえば、どうしようもない。

「さっさと来いよ」

 そう言うと、相方の男はその場から姿を消した。

「さ~てと」

 男は一直線に領主館を目指すくそ生意気な少女を見下ろすと、その顔を醜く歪ませながらニタリと笑った。

「たっぷりと痛めつけてから殺してやるよ――」

 その顔が絶望と恐怖に歪む姿を想像し、男は狂ったように笑い続けたのだった。


皆様、こちらではお久しぶりです♪


今回、久しぶりの続きでした。

まだ活動報告の期間限定小説が終わっていないというのに……もう向こうは期限伸ばします、潔く。


いつまで伸ばすかはもう少しお待ち下さい。

後で活動報告にて記載しておきます。


ってか……中編も全て長編になる私って……見捨てずに見守って下されば幸いです。


そしてとうとう始まり編も後半部分に、最後の佳境に入ってきました。

さて、果竪は李盟のもとにたどり着けるのか?!

果たして李盟は無事なのか?!


次回更新は未定ですが、お付き合い頂けると嬉しいです♪

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