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大根と王妃①  作者: 大雪
第六章 疾走
41/62

第40話 森

加筆修正しました♪

修正部分は最初の部分です。

 明燐は美しい。

 でも、これ程その笑顔が美しいと思ったのは何十年ぶりか。

 その白く艶めかしい大根に匹敵するほどの太股を、これでもかと見せつけながら男達を踏む姿は女王様以外の何者でもない。

 いつのまにか履いている黒いピンヒールはどこから出てきたのか。

 それでぐりぐりと縛られた男を踏む。

「さあ、全てを吐きなさい!!」

 笑顔だが、容赦なく鞭を振るい踏みつける。

 何だか踏まれている男の一人から、悩ましい喘ぎ声が聞こえてきているのは自分の気のせいだろうか?

「め、明燐、落ち着いて」

「私は十分落ち着いてますわよ」

 確かに見た目は落ち着いているだろう。

 首から上だけを見れば。

「これで黒のボンデージ衣装であれば完璧な女王様ですな」

 使者団の長がボソリと呟いたのを果竪は聞き逃さなかった。

 しかし――ボンデージってなんだろう。

 確か昔、軍の仲間達もそんな事を言っていた気がする。

  胸の谷間や太股に際どすぎる切れ込みの入ったドレスは着ていた明燐に対して。

 背中も丸見え、豊満な胸は今にもこぼれ落ちそうで、白い太股であらゆる者達を悩殺していった明燐。

 と、一際下半身を刺激するような悲鳴が、鞭を振るわれる男から上がる。

「明燐!! それ以上はやめて」

「さっさと白状しないこいつらが悪いのですわ」

「で、でも……」

 刃向かう者には徹底的に思い知らせ、その結果息絶えたとしても仕方がないとする明燐とは違い、たとえ相手がどんな悪人でも何処かで同情を抱いてしまう果竪はハラハラとそれを見守った。

「明燐、そんなに痛めつけたら相手も話せないと思うわ」

「話す気があったらどんな状態でも話せますわ。口を塞いでいるわけでもありませんのに」

「それはそうだけど……」

 このままじゃ可哀想だと果竪が男達を見た時だった。

 男の一人が果竪を睨付けて吐き捨てる。

「ちっ! こんなブスに手を出した結果がこれとはな!」

「貴様!!」

 明燐がドスのきいた声で怒鳴りつける。

「はっ! 顔なんてブサイクで体もガリガリ! そんなんじゃ何処にも需要なんてもねぇよ!!」

 明燐が鞭をしならせる。

 その鞭に力が漲るのを見て果竪は慌てて飛びついた。

「わ、私は気にしてないから!」

「私は気にしますわ!!」

「まったく、二人揃えば正しく美女と野獣だよな! ああ、野獣じゃなくて乞食か」

「明燐、あれは反省する為に必要な儀式というものであって」

 自分でも何を言っているのか分からない。

 だがこのままにしておけば、確実に明燐は男達を皆殺しにする。

「長……果竪を頼みます」

 オドロオドロしい声で頼むというよりは命じられ、長はヒィィと声を発しつつ果竪へと駆け寄る。

「明燐!!」

 ああ、どうしよう!!このままじゃ明燐が爆発する!!

 せっかくの手がかりを皆殺しにしてしまう。

 お願いだから嘘でも反省の色を示してぇぇ!!

 そんな時だった。

「ってか、あんたは自分で仕返しも出来ないのかよ、この大根足!」

 男は嘲笑う様に言った。

 それはせめてもの、相手への意趣返しだ。

 この美しくも恐ろしい女を傷つけるには、あの平凡な少女を傷つけるのが一番効果があると男は見抜いていた。

 それで、首を落とされたとしても構わない。

「何をするの果竪!!」

 首を落とされるどころか、とんでもない光景がそこにあった。

「明燐やめて!! この人達は反省してるわ!!」

「はぁ?!」

「だって私の事を褒めてくれたもの!!」

 え?どこが?今のどこが褒めていた?

 明燐だけではなく、男達も首を傾げたその時

「大根足だなんて最高の褒め言葉よ!!」

 どこが?!

 目を剥く男達とは反対に、明燐は気が遠くなった。

「貴方は……大根がついていれば何でも褒め言葉ですか!! 言っておきますけど、それは蔑む言葉ですわ!!」

 男達もそれには賛成だった。

 しかし、果竪はそれを否定する。

「何を言うの明燐!! 大根という単語がつく言葉に酷い言葉なんてないわ!!」

 それは世界に悪い人なんて一人も居ないよ――というぐらいにあり得ない言葉だ。

「星の数ほどありますわ!」

「なら言ってみてよ!!」

 そう切り替えされ、明燐は言葉を詰まらせた。

「え、えっと……だ、大根足とか……大根足とか……」

「ほら! 他にはないじゃない!! やっぱり大根がつく言葉で悪い意味を表わすものなんてないのよ!!」

「そ、そんな事ありませんわ!!」

 しかし、すぐには思いつかない。

「ふっ……そうよ、大根ほどその肌と同じぐらい真っ白な心を持つ存在はいないわ。そう、聖母のような慈愛と慈悲を持ちながら、魔王を打ち倒す勇者のような凛々しさと勇敢さを持ち、歴代の賢君達にも負けない聡明さを併せ持つ大根の名がついて悪い意味を表わすだなんてあり得ない!!」

 どんな大根だ――

「やっぱり私の愛する大根は死角無しの無敵な存在なのよ!!」

「…………」

 手を組み合わせ、キラキラと目を輝かせてあらぬ方向を見る果竪は、誰の目から見ても終っていた。

「……ちょっとそこの貴方達。ああなりたくなかったら、すぐさま白状しなさい」

「ちょっ! どういう意味よそれは!!」

 怒った果竪が明燐に飛びかかるが軽く地面に転がされる。

 その姿に、本気で白状しようかと考えた男達が居た。

 それから二時間後――ようやく男達は根城を吐いた。

 色々と葛藤があったかもしれない。

 プロとしての誇りと果竪みたいになりたくないという鬼気迫る思いとの狭間で悩みつつも、ついには誇りを捨てて常識をとった男達。

 果竪は憤慨したが、明燐はよく決意してくれたと慈愛の笑みを浮かべ、一瞬にして男達は魅了された。

 因みに、その間に使者団の長が隣村に車で走り救助を求めた事により、多くの人達が助けに走ってきた。

 既に村人達の多くが隣村へと運ばれていっている。

 同じく、トラックに積み込まれていた少女達も隣村へと運ばれていった。

 男達が全て白状した後、明燐は一気に興味をなくしたように男を地面へと投げ捨てた。

 体中に鞭の後がとても痛々しいが、明燐曰く村人の痛みに比べれば蚊に刺されたぐらいだと吐き捨てる。

「けど、兵士達が居てくれて良かったですな」

 長の言葉に、果竪はハッとした。

「そういえば……ここにもいるのね、領主が飛ばした兵士が」

「ええ。騒ぎが起きた時、一目散に人々の救助に当たっておりました」

 しかし、娘がいない事に気付いた者達が村に舞戻り、残った者達を止めるのに必死で手が回らなかったという。

「じゃあ……その人達は全員無事という事なのね」

「ええ」

「良かった……」

「それで、今後についての事ですが」

 長は果竪に今後の事について説明する。

「根城はここから少し離れた南の岩山にあるそうです。時間を考えれば、すぐに兵士を派遣しなければなりません」

「そうね……でも、そこに割ける人手はあるの?」

「近隣の村々に助けを求めればなんとか……。今回実行犯は捕まりましたから、少しの間兵士達を集っても大丈夫だと思います」

「そう……」

「ただ、その前に相手に逃げられるのだけは避けたい」

 特に、相手はまだ四十名も残っているという。

 彼らが逃げる、または集められた少女達を連れ去られれば面倒なことになる。

「とりあえず、今は根城を囲むだけの者達を出来るだけ集めておりますので、もう少しすれば動けるでしょう」

 安心させるように笑う長に、果竪も釣られるようにして笑った。

 しかし、すぐに長の顔色が曇る。

「ただ……その分、騎凰殿のもとに駆けつけるのは遅くなってしまいますが……」

「あ……」

 そうだ……騎凰。

 崖下に落ち、今も行方不明の騎凰。

 自分達は彼を捜しに行くのがそもそもの目的だった。

「でも……人買いに攫われた少女達を見捨ててはおけないわ」

 果竪は身を引き裂かれるような思いを抑えて言った。

 本当ならばすぐにでも騎凰のところに行きたい。

 だが、集められた少女達もまた危機迫っている。

 何処かに届られるという少女達を後回しにした事で、向こうが感づき別の場所へと移動させてしまえば、二度と少女達を助け出せなくなるかもしれない。

「……騎凰様は生きてる」

「……そうですね」

 そうだ……きっと大丈夫。

 確証は何かと聞かれれば困るが、そう思わなければ動く事は出来ない。

 それに、きっと騎凰が此処に居れば言っただろう。

 民を統べる者として、守るべき民達を最優先にしろと――。

 だから……少女達を先に助ける。

 その後は、何が何でも騎凰のもとに行く。

「それに……もしかしたら今頃誰かに救出されてるかも」

 その可能性は限りなく低いにも関わらず、果竪はそう言った。

 そうでもしなければ動けなくなるから。

「一刻も早く……少女達を助けましょう」

「ええ」

 とはいえ、少女達を助けるだけで全てが終るわけではない。

 盗難事件、川への毒混入、その他色々な事がまだ山積みとなっている。

 もしかしたら、場合によっては少女達を助けた後も騎凰の所には行けないかも知れないと思いつつ、果竪は長と別れた。

「……悩んでもどうしようもないよね」

 今は出来る事をしよう。

 その思いを胸に、果竪は忙しく走り回る隣村の者へと声を掛けた。

 隣村までは直線距離にすると、車で一時間も掛からない場所にあった。

 しかし焼け落ちた村との間に深い森がある事から、それを迂回するように街道が作られてしまっているという。

 また、その深い森のせいでお互いの村の様子が分からず、結果として被害に気付くのが遅れたという。

 だが、同時にその森のおかげで、人買いは容易には手が出せなかったとも言える。

 トラックで乗り入れるのも大変なほど。

 また、誘き出す為に火を付けるにしろ、その森は隣村を守るように囲んでいる事から上手く行くとは思えなかったらしい。

 結果として、森は村を守った。

 しかし、その森は村にとっても大切な場所だった。

 そもそも今でこそ緑溢れるこの場所だが、凪国建国当時、此処は砂漠化が始まり緑は殆ど失われていた。

 いくら植樹してもすぐに枯れ、動物達も居なくなった。

 それを憐れんだ前領主が【聖域の森】の若木を植樹したところ、なんとそれまでとは打って変わって植樹していた木々はしっかりと大地に根を張り、みるみるうちに緑が広がっていったのだと、村の長は果竪に教えてくれた。

「この森の他にも、幾つかの森では【聖域の森】の木が植えられているんですよ」

「【聖域の森】の……」

 果竪は驚いた。

 まさか、こんな遠く離れた場所にも【聖域の森】の木があるのかと。

 と、驚きで手に力が入ったのか、少々包帯を強くしめすぎてしまった。

 途端に、怪我人の呻き声が聞こえた。

「ご、ごめんなさい!!」

 果竪は慌てて謝り包帯を緩める。

 無理を言って隣村へと連れて来て貰い、焼け出された怪我人の手当を手伝っているというのに、これでは本末転倒だ。

 それを苦笑しながら見守る村長。

 壮年の姿をした彼もまた、怪我人の手当をしていた。

 村の中でも一番広いこの建物は、普段は公民館として使用されている。

 が、診療所は既に一杯である為、村長が即座に解放したのだ。

 おかげで、公民館の中は至る所に怪我人が溢れ、この大部屋にも沢山の怪我人が居た。

 村人達が総出で看病に当たっているが、若い男衆達は使者団の長の手伝いで村を離れている為、結果残った者達の負担が増し、こうして村長もまた看病に追われていた。

 中には酷い大火傷を負っている者達もおり、ともすれば目を覆いたくなる光景だった。

 死者がいないのが幸いと果たして言い切っていいのか。

 果竪は何度も涙ぐみそうになり、そんな果竪を心配したのか、村長は突然関係のない話をし出したのだ。

 それが、この村を守る森のお話。

「木はたった一本でした。けど、その木は森の最奥に今もしっかりと聳えております。あの木は私達にとっても、森にとっても守り神です」

 自分達は神。

 神の守り神というとおかしな感じだ。

 だが、神だからといって全てが完璧な存在ではない。

 完璧であれば、暗黒大戦など起こらなかった筈だ。

 どれほど強い力を持っていようと、長い寿命を持っていようと、自分達は完璧ではない。

 たとえ、神と言われる存在でも――だ。

 時に心の支えとなるものを欲し、それに縋り付く。

 有名なのは、創世の二神である。

 創世神話の時代、何も無い【無】から現れた二神は全能神を作った。欠けた所のない大切な大切な二人の子供達を。

 そうして作り出された全能神達が、この世の全てを造ったのだ。

 その後、創世の二神は誰も見つける事の出来ない場所へと隠れ眠りに就いた。

 そう……今の神々にとって、人間でいうところの神は、そんな創世の二神と、全能神達かもしれない。

 完璧なのは全能神達だけ。

 それ以降の神々は全てあちこちが欠けた状態で生まれてきたのだから。


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