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大根と王妃①  作者: 大雪
第五章 捜査協力
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第33話 犯人の狙いは…

 李盟の部屋を出た時には、完全に夜も更けていた。

 外は相変わらずの曇天の空で雨が降っているが、廊下の壁にかかっている時計を見れば、針は午後九時を指している。

 暴れ回り、たっぷりと話をした李盟は完全ではないが、何かが吹っ切れつつあるようだった。

 すぐには無理だろうが、この調子でいけば、きっと良い方向に向かうに違いない。

 そう思えば、足取りも軽くなる。

 長い廊下は経費削減の為か、灯りが殆どなかったが、通い慣れた道を食堂へと向かって果竪は歩いた。

「ご飯、ご飯」

 李盟は食事はいらないと言ったが、自分は酷くお腹が空いてしまった。

 既に食事の時間は過ぎているが、余り物か何かでも貰わないときっと餓死してしまう。

「それに付け合わせの大根のお漬け物~」

 屋敷の貯蓄庫の殆どは民達へと解放されたが、それでもいくつかは果竪達へと回ってきた。

 因みに、その殆どは大根。

 今まで貯蓄してきた大根達との再会に喜び、頬ずりし存分にその滑らかな肌を味わった。

 その後、大根だけはと言って、屋敷の料理人に無理を言って自分で調理した。ああ、大根。

 悩ましい肢体だけではなく、美味しい大根。

 醤油や味噌、ダシとのコラボにより更なる上へと駆け上り、見事な大変身を遂げる愛しき大根。

 想像しただけで、唾が出る。

 ボタボタと大量の唾が廊下に水たまりを作っている事に気付いた果竪はハッと口元を拭う。

 ……雨漏りしたという事にしよう。

 変なところで潔くない果竪だった。

「って事で、大根大根」

 ご飯から大根へと言葉を変え、ルンタタとステップまで踏む。

 ここに他の者がいれば、危ない人として通報されたかもしれない。

 食堂で無事に食事と大根をゲットした果竪は、そこで一人食事を取る。

 他には誰も居らず、広い食堂に果竪が食事する音が響いた。

「はぁ……やっぱり野菜は美味しいわ」

 久しぶりの野菜料理に果竪は舌鼓を打つ。

「にしても、こんな美味しい野菜を盗っていくなんて許せない」

 そればかりか、川にまで毒を流した犯人などボコボコにしてしかるべきだ。

「それに、李盟があんなに傷つく原因まで作ったんだから、情状酌量の余地はないわね」

 そもそも、農作物の盗難がここまで酷くなければ、もっと事態は良かった筈だ。

 何故なら、農作物の盗難によって、農家の赤字に目をつけた人買いだけでも発生しなかった筈だからだ。

「農作物を盗難されて人買いも来る。確かにふざけんなって話よ」

 しかも、農作物の盗難は一度だけではなく、二度目も起きた。今度は川に毒も流されて。

 だが、そこでふと思う。

「前も思ったけど……普通、毒なんて流すだろうか? 農作物の盗難をする人達が」

 それは、後々自分達の首も絞めかねない愚行だ。

「今までにも盗難事件は起きていたけど、そんな事をする人達はいなかった」

 なのに、今回はあった。

「何処かで、農作物を盗っていた人達が暴走したという事かしら」

 しかし……暴走する方向が違わないだろうか?

「それに……まだ分からない事があるわ」

 それは、工事の不手際だった。

 嵐を防ぐ為になされた工事に関わった者達。

 彼らを雇ったのは確かに李盟だった。

 しかし、それだけだった。

 工事に関わった者達の言動からすれば、李盟に不正があるとされる。

 ならばと、不自然なお金の流れを探ったが、予想通り全く出て来る事はなかった。

 手抜きするにしろ、見返りは必要だ。

 特に、工事に関わった者達は見た目は別として、中身は酷く金に汚かったという。

 ある程度纏まったお金でも渡さなければ動きはしないだろう。

 なのに、お金は流れていない。

「ならば何か別のものでも与えられたのかしら?」

 といっても、果たしてそれは誰から?

 李盟でない事は分かっている。

 だとすれば、官吏の誰か?

 それとも……。

 だが、そうだとすれば、やはり李盟にとって状況は悪くなるだろう。

 官吏の監督不届きとして、領主失格の烙印を押されてしまう。

 特に、民達の感情が悪化している今は。

 一歩間違えれば暴動すら起りかねない。

「せめて……ここまで民達の感情が悪くなければ……」

 それならば、一人……かは、分からないが、とにかく官吏が勝手に暴走したとしてしまえる。

 勿論、領主の管理能力も問われるだろうが、何かある時に民達が暴動を起こすといった事はない。

「はぁ……李盟は頑張ってる……なんて言葉ですむ問題じゃないわ」

 頑張っているならそれでいいのか?

 そう問い返されればどうしようもない。

 領主ならば、寧ろ甘んじてその叱りの声を受けなければならない。

 でも、李盟はその声も受けているのに、辛い事ばかりだ。

「……なんで、李盟ばかりこんなに大変になるんだろう」

 頑張っても、頑張っても認められない。

 その理不尽さが悲しい。

「そうよ。こんなに責められるのはおかしいわ」

 それは、何も李盟寄りの思考から出た言葉だけではなかった。

 そもそも、李盟はここまで責められる理由はあるのだろうか。

 確かに失策は多いが、きちんとやるべき仕事を行って居る。

 なのに、今ではそれすら無視して責められる。

 それは、いくら被害に遭っているとはいえ、余りに酷くはないか?

 それに――と果竪は思う。

「他の村や町に二度目の被害が出た。それを防げなかったのは領主のせいでもあるけど、そこに居た者達の責任も少なからずあるわ」

 すなわち、そこに駐在している兵士達や官吏の力不足も関わる。

 なのに、不思議と官吏達の不手際への叱責は聞こえず、領主を責める言葉だけが聞こえてくる。

「工事も同じ……」

 手抜き工事をした者達は姿を消したから仕方ないが、工事を任せるに当たっては、他の官吏達の同意も必要となる。

 つまり、領主だけではなく、官吏達も含めて全員の責任であるが、官吏達に対してはこれっぽっちも責める言葉は聞かれず、ただ声高に領主を責める声のみが聞こえる。

「人買いだって、いつのまにか領主のせいにされているし」

 というか、領主の所に奉公に出す……なんて物言いからして、何かあると思わされる。

 特に、こんな時期では。

 というか、どうして領主?

 それならば、隣の州の貴族の家にでも奉公と話した方がよっぽど良かっただろう。

「考えて見ればそうよね。領主とか、この州の貴族とかにすれば、すぐさま本当かどうか確かめられるし」

 と言う事は、確実に人買いとばれても良いという事に他ならないか?

「でも、そうする理由が分からない」

 しかも、最近ではしきりに領主様が望んでいると口にする。

 そんな事を口にすれば、実は裏で領主と繋がっているのではないかと思われても仕方がない。

 考えて見れば、全てがそうだった。

 暴動の時も、色々とあったが、最終的には領主に焦点が当てられていた。

「どうしてかしら……領主だけが責められる」

 余りにも領主だけに的が絞られている。

 それはまるで、誰かが裏で領主を責めるように仕向けているかのようにさえ思えた。

「でも、領主だけを責める……とすれば、その理由は何?」

 いつの間にか、食事する手を止めて、考え込む。

 簡単に個人を特定して責めるとすれば、怨恨が思い浮かぶが……。

「でも……怨恨となると、一体誰が……」

 ふと、ある者達が果竪の脳裏に浮かんだ。

 あの者達ならば……。

 だが、彼らが州に入ったという情報はない。

 二十年前の一件以来、彼らの報復を恐れて能吏達はその動向に神経を尖らせているのだから。

「確か……隣国で暮らしているという情報を去年受けたわね」

 隣国で慎ましく暮らしていると聞いた。

「そうすると、別の誰か?」

 だが、そうなると思い当たるものが見つからない。

 いや、恨みというのは人知れず膨らむものもある。

 しかし……何かがひっかかる。

 何かが。

 でも、それが何かは分からない。

 それは、心配した料理人が声を掛けるまで続くも、やはり答えは出なかった。


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