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大根と王妃①  作者: 大雪
第五章 捜査協力
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第22話 暴動

 果竪が州都へ戻ってきたのは、翌日の昼頃だった。

 村長達に毒の件を伝えた後、すぐに戻ろうとしたが、事の次第を報された民達の間で騒動になったのだ。

 全ての事態にようやくめどが立った頃には、既に深夜となっていた。

 流石に危ないからと朝まで待たされた結果、翌日の朝に村を出発する事となったのだ。

 自分達が乗る【車】を急がせ、領主館に急ぐ果竪達だったが、高台の領主館に辿り着いた瞬間、驚きに目を丸くした。

「何……これ」

 たった一日……たった一日しか経っていないのに、状況は激変していた。

 数十人の男女が領主館の門の前に集まり、口々にヤジを飛ばしていた。

「領主を出せ!!」

「そうだ、領主を出せよ!! 俺達が苦しんでいるのに助けてくれない領主を出せ!!」

 彼らはギラギラとした目つきで叫ぶ。

 暴動――その言葉が果竪の脳裏に過ぎる。

 兵士達が必死に宥めようとするが、彼らはそんな兵士達に殴りかかっていく。

「どうか落ち着いて下さい!!」

「うるせぇ!! さっさと領主を出せっていってんだよ!!」

「そうよ、説明なら領主にさせなさいよ!!」

「私達がこんなに苦しんでいるのに一人安全な場所にいて……いつまで苦しんでなきゃならないのよ!」

「そうだそうだ!! 納得のいく説明をしてもらわなきゃな!!」

 彼らは完全に興奮していた。

 このままでは、兵士達を張り倒してでも中になだれ込みかねない。

 一方、兵士達は民達を傷つけないように厳命されているのか、誰一人として帯剣していない。

 このままでは、大変な事になる。

 慌てて止めに入ろうとした果竪だったが、明燐に留められた。

「離して!!」

「危険ですわ」

「だからって、このままにしておける筈がないじゃない!!」

「それでもです! あの方達の様子は尋常じゃありません。そこに割って入れば果竪も襲われてしまいますわ」

「明燐……」

「お願いです、どうか思い留まって下さいな」

 明燐の必死な様子に、本当に危険だという事を思い知らされる。

 だが……だが……。

「やっぱり、黙って見ている事なんて出来ない!!」

「果竪!!」

そこに、一際強い罵声が聞こえてくる。

「貯蓄を解放したらそれですむ話かっての!!」

「そうだそうだ!! 犯人を捜してなんぼだろ!!」

「なのに、犯人はいまだ捕まえられないわ、打開策はないわ。ふざけてんのかよ!!」

「しかも、分け与えてくれるのは、あんなふにゃふにゃ野菜じゃあな」

「つぅか、その殆どが大根って馬鹿にしてるだろうが!!」

 その言葉にカチンと果竪が切れた。

 大根……大根貰ったのに……何その言い草?

「あんなカビの生えた大根なんていらねぇんだよ!!」

「ってか、もしかしたら新鮮な野菜を独り占めしてるんじゃねぇのか?!」

「嘘! 最悪!!」

「俺達にカビの生えた野菜を出しといて、自分は一人新鮮な野菜を食べてるのか?! はっ! 馬鹿にしてるな!!」

「寧ろお前があの貯蓄されたクソ大根を食えよ!!」

「大根を馬鹿にするなぁぁ!!」

 果竪の蹴りが大根をクソ呼ばわりした男の胸にヒットした。

 ぐはぁと悲鳴をあげながら、地面へと倒れ込む。

「お、お前誰だよ!!」

「大根の怒りを代弁する者よ!!」

 突然現れた果竪に驚く民衆。

 しかし、果竪の口から飛び出した言葉に更に驚いた。

 一方、兵士達は顔見知りの果竪に呆然とし、明燐はその場に突っ伏していた。

「あぁ?! 馬鹿にしてるのか?!」

「馬鹿にしたのはアンタの方じゃない!! 大根を、あんなに素晴らしい大根を貶すなんて、農家じゃないわ!! ううん、神ですらない獣よ!!」

「うるせぇ!!」

 そう言って殴りかかろうとする男に果竪は逆に股間を蹴り上げ沈黙させる。

 強い。

 強すぎた。

 【聖域の森】にて化け物相手に弱気になっていた姿は何処にいったのか。

 大根は果竪の戦闘能力すら引き上げるらしい。

「いい事?! 大根はこの世に二つとない素晴らしい存在なのよ!!」

 ビシィと民衆に指を突きつけ果竪は叫んだ。

「あの白くほっそりとした裸体、全身から放たれる神々しいまでのオーラ、青々と茂る葉の繊細さ、そして一瞬にして周囲を虜にするそのニヒルな笑み!!」

 笑み?!大根って笑うの?!

「それでいて謙虚で慎ましく心優しい大根。そう――トップアイドルになれる素質を持ちながらも、他の野菜との素晴らしいコラボを披露しつつ、時には脇役、時には縁の下の力持ちの裏方もこなす大根を馬鹿にするなんて、神失格よ!!」

「た、たかが大根に何熱くなってるんだよ!!」

「たかがじゃない! 大根は世界のトップアイドルなのよ!! 敬意を込めて大根様と呼ぶのよ!!」

 果竪の怒声にその場がいっきに静まり返った。

「いい?! 今後大根を馬鹿にしたら、この私が許さないから!!」

 それこそ、地の果てまでおいかけて大根の素晴らしさを数日間にわたって説明してくれる。

 そう叫ぶ果竪に、民衆達だけではなく兵士達までもがその恐怖に怯えた。

 だが、何処にでも空気を読まないものはいる。

 人より少しだけ勇敢だった彼は、果竪を怒鳴りつける。

「煩い!! 大根なんて味も素っ気もねぇ駄野菜だろうが!!」

 そうして果竪の胸倉を掴み、その顔を二目と見られぬように殴ろうと振り上げた彼だったが、突然その腕を掴まれる。

「やめろ」

「あぁ?! 何すんだよ!!」

「く、組合長!!」

 それを止めたのは、組合長だった。

「止めるのか?! 止めるって事は領主の味方をするのか?!」

「少なくとも、そなたの味方はせんよ。わしも、他の者達も、な」

 その言葉に男が驚いて周囲を見れば、多くの男女が自分や仲間達を取囲んでいた。

「怒りは分かるが、些かやりすぎではないのか?」

 それは、街の者達だった。但し、先程まで騒いでいた者達とは違い、冷静さを保っている。

 彼らは醜く暴れる彼らを冷ややかな目で見ていた。

「な、なんだよ!! 本当の事じゃねぇか!!」

「そなたの言うとおりじゃ。だが、そうだといってもこのような振る舞いは品性を疑われる」

「俺が下品だとでも言うのか?!」

「そうだ」

「このジジイ!!」

 男が殴りかかろうとするが、すぐさま別の仲間が止めにかかる。

「落ち着け!」

「ちくしょう!! 俺達は正しい事をしているだけだ!! 盗難事件が酷くなってもう何日経つ?! その間領主は犯人を見つけるどころか新たな被害を防ぐ事も出来てねぇ!!」

 確かに、男の言うとおりだった。

「それでも、領主は一生懸命に対策を立てているわ!」

 果竪が叫ぶも、男は馬鹿にしたように唾を吐く。

「けど被害はなくならねぇだろ!! 所詮頭でっかちが何をやろうと無駄なんだよ!! しかも、ここの領主は子供だろうが」

「子供の何がいけないの?」

「ガキには無理だっていってんだよ!!」

「それは現領主への侮辱ですぞ」

 組合長の厳しい言葉に男ははんっと笑った。

「侮辱も何も本当のことだろう?そもそも俺は反対だったんだ。子供の領主が即位だなんてな!!平和なときならまだしも、何か起きた時には役立たずだ。現に今だって何も解決出来てねぇ!!」

 男の言葉に、他の仲間達が同意の声を上げる。

「とっととやめちまえばいいんだよ!!」

 その言葉に、果竪が怒りの声を上げようとした。

 だが、それよりも先に静かな声が男の言葉を遮った。

「ならば貴方は何をしましたか?」

「あ?」

 あまりにも場違いなほど穏やかな声にそれまで怒鳴り散らしていた男が相手を見る。

 中年の男だった。

「貴方ならばもっと上手くやれるのですか?」

「あ、当たり前だ」

「ならばここで教えて下さい。どのようにすればいいのか?」

 突然の質問に、男は押し黙る。

「答えられないのですか? 領主様よりも素晴らしい案が聴けると思ったのに、いやはや」

「ならお前にはあるのかよ!!」

「ええ、あります。その案は全て領主様が行って下さいましたが」

「は?」

「私達の思いつく方法は全て領主様が行って下さっています。それこそ、寝る間も惜しんで。私達はそんな領主様に敬意を表しますよ」

「っ! けど、なんの結果も出てねぇ!!」

「すぐに結果を求めるとはなんと無粋なんでしょうか。もう少し待ちなさい」

「これ以上待てっていうのか?!」

「ええ。待てるでしょう? 食料はまだ貯蓄を解放した分がありますし、値段が急激に高騰したわけでもない。それとも……待てない何かがあると?」

「くっ!」

 更に何か言い募ろうとした男を仲間達が止める。

 分が悪いと感じたのか、悔しそうな目つきで睨みつけながらも退散を選んだ。

「お、俺達の言う事は間違ってないからな!! 言葉にしないだけでみんな思っている事だ!!」

 そういうと、暴徒と化していた者達はそそくさとその場から立ち去っていった。

「果竪様、大丈夫ですか?」

「組合長……どうしてここに?」

「騒ぎの報告が来ましてね」

「そうだったんだ……」

「いやはや、驚きました。まさか、来てみれば果竪様が男に殴りかかられそうになっているとは」

「う……ごめんなさい……あ、で、そっちの人達は?」

「ああ、組合仲間達ですよ。但し、他の村や町の者達もいますが」

「あ――助けて下さってありがとうございました」

 果竪がペコリと頭を下げた時だった。

 先程までしっかりと閉じられていた門が開かれる。

「李盟様!!」

「離せ!!」

 少年領主こと李盟が他の官吏を振り切り、果竪へと走り寄ってきた。

「果竪様、大丈夫ですか?!」

「あ……李盟こそ大丈夫なの?!」

「僕は平気です。それよりごめんなさい、すぐに来られなくて」

 今まで駆けつけられなかった事に李盟が謝罪の言葉を口にする。

「気にしないで。寧ろあの場面で出てきた方が大変だったわ」

 彼らは領主を出せと騒いでいた。そんな所に李盟が出て来れば大変な事になっただろう。

「でも、果竪様達が危険に晒されて……なのに一人安全な場所に居た自分が恥ずかしい」

 領主失格だと告げる李盟に果竪は首を振った。

「李盟は立派だと思うわ」

「え?」

「兵士達に帯刀させなかったのは貴方の指示でしょう?」

 暴徒と化した民衆を止める際、兵士達は誰一人として帯刀していなかった。

 あの状況で帯刀しないという事をさせられる人物は唯一人。

「帯刀していれば、もしかしたら民達を傷つけてしまうかもしれない。万が一にもその危険性は冒せないとして、李盟は禁じたんでしょう?」

「……ですが、それは果たして正しかったかどうか……」

「どうして?」

「帯刀するという事は、兵士達の命を守る事でもあります。それを禁じた事で、僕は兵士達の命を危険に晒してしまった」

 そんなことはない――兵士達から反論の声が上がる。

「だそうよ」

「でも……」

「我もそう思いますよ」

 先程男に理論整然と立ち向かった中年の男性がそう言って頷いた。

「貴方は帯刀をさせない事で、民達の命を守ろうとしたと同時に、同じ立場に立とうとされた」

 どんなに敵意がないと言われても、武器を持っていればそう簡単には信じられない。

 反対に、危険を顧みず武器を持たずそう言った兵士達は、正しく対等の立場に立っていた。

「ご立派な領主だと思います」

 そう言って頭を下げる男に続き、他の者達も頭を下げた。

 その様子に、果竪がポンポンと李盟の頭を宥めるように撫でた。

 だが、そんなほんわかし始めた空気を厳しい声が破る。

「ただ、それでもこれだけは覚えておいて下さい」

「え?」

「あの者達の言葉また真実だという事を」

「おい」

 組合長が止めようとするが、それを制止し男は言う。

「領主様、貴方様がすぐに民達の為に動いて下さっている事は分かります。ですが、今の所成果が上がっていないのもまた事実。難しい事は百も承知です。しかし……心というものは身勝手なもの。特に被害の大きい村や町では、焦燥感やこの先の事を思って不安を募らせる者達は多くいます」

 それは仕方のない事だと言えよう。

「それは我らも同じです。口には出さなくとも、それぞれに不安を抱いております。ただ、彼らはそれが人よりも多くありすぎて」

「爆発してしまったという事ですか」

「ええ。ただ、その危険性は誰しもが持っているという事です。それに、日々現状が悪化していきますからね」

 そう言って、男が空を見る。

 相変わらず太陽は隠れたまま。

 降り注ぐ雨も変わらない。

「水害……」

「ただでさえ、盗難事件のせいで一日一日着実生活は悪化しております。このうえ水害まで起きれば民達の生活は困窮どころかトドメを刺されかねません。皆それを恐れているのです」

「……諫言、痛み入ります」

 神妙な面持ちで答える李盟に、男が悲しげに笑う。

「まだ幼い貴方には酷な事かもしれません。酷い事ばかり言っていると思います。ですがこれもまた真実です。今はあの程度で収まっていますが、時間が経てば経つほど不安は不満へとかわり、いつしか爆発する」

 そうなれば、今回よりももっと大きな暴動と化すだろう。

 下手をすれば双方に大量の死者すらでかねない。

 それほど、暴動というものは恐ろしいのだ。

「最大限の努力を致します。そして貴方方にもお礼を申し上げます」

 訝しげに自分を見る男に李盟は言った。

「これほど時間が経っていても、他からは暴動の話は聞いておりません。それは全て皆様が止めて下さっているのでしょう?」

 その言葉に、男が静かに微笑んだ。

「貴方は父君に似て居られますね」

 若くして亡くなった前領主。

 各地を駆け巡り、必死に民達の為に尽くした名領主。

 色々な面で豪快な彼だったが、それでも他人の動きには機敏で、どんなに隠れて何かしてもすぐに見抜き、礼を言った。

 そんなところは父親そっくりだった。

「皆様の信頼に応えられるように、一刻も早く解決を約束致します」

 真剣な眼差しに、男は頷いた。

「だから、どうかもう少しだけ頑張って下さい」

 その言葉に、男を始め次々と皆が頭を下げる。

 果竪は思った。

 この様子ならまだ大丈夫だと。

 確かに彼らの言う事は尤もだった。

 皆大小様々な不安を持っており、それはちょっとしたきっかけで不満へと変わる。

 その危険性は時が経てば経つほど強まっていくだろう。

 だが、彼らは領主の真摯な対応に彼を認めた。

 彼らは、それぞれの村や町である程度上の方に位置する者達だ。

 彼らが領主を認めたならば、きっとその不満を逸らす為に力を注いでくれるはずだ。

 領主にその矛先が向かないように。犯人を捕まえるまでの間、時間を稼いでくれる。

 ならば自分も全力を尽くさなければ。

「そして――あの大根を馬鹿にした男に、大根の素晴らしさを思い知らせてやるわ!!」

「果竪、それは何か違うかと思いますが……」

 明燐の言葉に、その場に居た全員が頷いた。


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