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大根と王妃①  作者: 大雪
第四章 大根を求めて
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第15話 街道

 いつもはカラリと晴れている空。

 しかし、あの日以来晴れる事なく黒い雨雲で占められ、地上には小雨が降り注ぐ。

 雨は大地に恵みをもたらし作物の成長を助けるが、こうも降り続けると、恵みどころか不安が込み上げてくる。

 水害――

 その影響を直に受けるだろう民達は、皆不安そうに空を見上げては溜息をついた。

 広大な領地を持つ凪国は、東西南北それぞれで八州ずつに分かれている。

 これに王都のある中央を加えると、全部で三十三の領地となる。

 但し、中央は州ではなく都と呼ばれており、正式には一都三十二州と呼ばれていた。

 果竪が住んでいる瑠夏州(るかしゅう)は、この北方八州に属する州の一つであり、北方八州の中では中規模ほどの領土と人口を有していた。

 領地は平原と森林が多く、鉱山と呼ばれる山は殆どない。

 その為、収入に困った前領主は平原、更には森林を切り開いて畑を開墾する事となった。

 それから数十年。

 一時は大量の借金を背負うも、ようやく苦労が実った後は、毎年安定した収入を得られるまでとなり、いつしかこの食糧自給率が低い凪国内でも珍しく農作業に優れた領地としてその名を馳せるようになった。

 勿論、凪国の人口を考えれば十分の一も賄えていないが、この国では大きな進歩として評価されていた。

 そんな偉大なる功績を持つ前領主の後を継ぐのは、今年十歳になる前領主の遺児たる少年である。

 両親を早くに亡くしての即位だが、父の代からの能吏達の助力のもと日々努力を重ねていた。

 彼の一大事業は、大量に収穫された農作物を運ぶのに必要な街道を造った事だ。

 この大掛かりな公共事業のおかげで、領地内の景気も上昇の一途を辿った事から、大成功だったと言っても良いだろう。

 その上、街道はしっかりと整備され、安全の為に定期的な点検と警備も行われていた。

 街道は網の目状に広がり、領地内の村や町であれば全て繋がっているといってもいい。

 技術者達が全力で作り上げた街道。

 等間隔で置かれた照明に、足場は綺麗に平らにされたコンクリート造りの道が続く。

 歩道と車道がきちんと分けられており、安全面の工夫もされていた。

 果竪はその歩道を爆走していく。

「待っていて私の愛しい大根! 今貴方を助けに行くわっ」

 意味不明な叫び――少なくとも、同じく歩道を歩いていた者達は思った。

 まばらだが、それでも両端の歩道を歩く歩行者が居た。

 ついでに言えば、車道を走る【車】もいる。

 そしてそれらの全てが、果竪の叫びに一斉に道を譲った。

 まるで波が引くようにポッカリと開いた道を走る果竪を、明燐達が他人のふりをしたいという葛藤と戦いながら追いかけていく。

「どうしましょう……このままでは変質者として通報されてしまいますわ」

 普通、大根への愛を叫びながら爆走する人なんていない――しかも傘を差さずに。

 これが屋敷の敷地内ならばまだしも、こんな人気の多い場所ならば、もはや誤魔化しようがない。

 かといって黙らせようにも、大根への愛だけを胸に爆走する果竪はとんでもなく足が早かった。

「くっ……いつもは遅いくせに!!」

 畑仕事で鍛えているとはいえ、足はそう速くはない果竪。

 それでなくても、武術の鍛錬で走らせれば早々に倒れていたほどだ。

 本当に果竪は普通の少女なのだ。

 ただ、人より無謀で人よりお人好しで優しい、何処にでもいるような普通の少女。

 だからこそ、あの大戦時において、周囲は果竪を後方支援へと回していた。

 戦わずに済む、安全な場所へと留める為に。

「明燐様、もう少し行った先に乗り場があります。そこで【車】に乗るというのはどうでしょうか?」

「そうね……それなら、普通に走るよりも速いから果竪も納得するかも」

 【車】――それは、この国で取れる宝玉の欠片を動力源として動く、車輪のついた機械の乗り物である。

 その昔、まだ滅亡直前の人間界において人の足ともなっていた【車】という乗り物。

 大戦以降にそれら――今の車の基礎になるものが作られたのが始まりだと言われている。

 そもそもは、人間界同様、荷物や人を運ぶ為の道具を目的として作られ、現在では個人で所有する者も居るが、中にはお金を取って人を運ぶという商売をする者もおり、明燐が呼ぶと言ったのは後者の方に属する。

 他にも、国や世界によって活躍している種類には差があるが、【車】の開発以降、更に様々な【乗り物】が開発され、今では【船】や【飛行機】、【列車】、【戦艦】など、実に多くの種類がある。

 人間界とは違うのは、石油などの化石燃料ではなく、強い力を宿す宝玉の欠片で動くという事だ。

 因みに使用されている欠片の大きさは様々であり、【車】ならば小指よりも小さな欠片で十分走行可能だった。

 ただこの場合、神力の使用が制限されているにも関わらず、強い力を持つ宝玉を使用しても良いのかという疑問が出てくるだろう。

 だが宝玉の力は神々の力――神力に比べれば非常に安定している事が長年の経験から実証されており、大きさも小さな欠片を【乗り物】や【電化製品】の動力源としてのみ使用する場合は問題はないとされていた。

 但し、これには十二王家が開発した特殊な技術により可能とされているのであって、宝玉だけがあっても技術がなければそれは使用禁止とされている。

 更に、全ての【乗り物】と【電化製品】には緊急停止装置というものが組み込まれており、万が一宝玉の力が空間の安定に影響を与えた場合は自動的に機能を停止するように造られていた。

 と、その様に沢山の安全策がとられているからこそ、【乗り物】や【電化製品】は宝玉の欠片を使用されて動かす事が認められているといってもいい。

 ただ、これらは全て空間が比較的安定している場所の場合であって、場所によっては宝玉の欠片すら使用出来ないほど不安定な所もあり、そういう場所に関しては人間界と同じ石油や石炭、太陽光などの色々な動力源が使用されていた。

 そんな【乗り物】は、大戦以降に取り入れられた科学技術の中でも、いの一番に開発された代物であり、今やあちこちで使用されている電化製品よりも実は歴史が古い。

 そもそも、神というもの、大なり小なり神力を有している。

 大戦以前は自由に使えた力は、それを使用しての空間転移、異世界渡りも日常茶飯事だったと伝えられている。

 だが、独力でそれが行えたのはごく一部の実力者だけで、普通の神では確実に命を失うほどの神力を消費するという困難かつ危険極まりない行為だったらしい。

 ならば、どのようにして他の世界に行っていたかと言うと、答えは簡単だ。

 なんのことはない、別の力を借りたのである。

 正確には、術者の能力を増幅し少ない力で空間転移や異世界渡りの際に補助となる道具製作と使用が行われていたのである。

 それが、門や陣というものだった。

 それらは見た目も名の通りの代物だが、普通のそれとは違い、文字通り他の世界に渡る為の道具として重宝され、普通の神々はそれらを使って移動していたのである。

 現在もそれらの門や陣はあり、使用可能であるが、実際には緊急時のみの使用とされ、特に異世界渡りには十二王家の許しが必要だとされた。

 その為か、異世界渡りは別として、空間転移の門や陣はあまり使用されていないのが現状だった。

 そもそも門や陣自体が作成にも長い時と膨大な力を必要とする事もあり、はっきりいって数自体が少なく、世界が広がってからはそこに行くまでが一苦労だった。

 それが、大戦以降の門や陣離れかつ反対に科学技術で開発された【乗り物】全般が天界十三世界全土に広がった原因の一つと言えよう。

 だが、やはり大きな理由としては、神力の使用制限が大きく関わってくる。

 暗黒大戦により壊滅状態となった天界は、現天帝と十二王家の力により最近になってようやく安定し始めて来た。

 だが、消滅寸前まで追い込まれた世界は、あちこちに後遺症を残し未だに不安定な場所が数多く、強大な力を振るうことは禁じられていた。

 強大な力が不安定な世界と干渉しあい、世界の均衡を崩してし崩壊へとおいやる。

その為、強力な術の使用は、緊急時以外は禁じられる結果となったのである。

 その結果、同じ世界内を移動するには【車】などの乗り物が好まれ、天界の各地で頭角を現してきたのだった。

 因みに、使用されている宝珠もあまりに大きいものになると、使用した途端に均衡に影響を与えるが、現在世界で使われている【電化製品】、【乗り物】などに使用される程度の宝珠の欠片ならばそれほど世界の均衡を崩さないとして使用の許可が認められていた。

 今では、天界中で欠かせないものの一つとなり、場所によっては非常に気軽に乗り回されていた。

 勿論、この瑠夏州も同様で、街道では農作業に使われる【車】などは多く走っていた。

 が、人を運ぶ【車】――【タクシー】も幾つか走っており、その乗り場がもう少し先にあるのである。

 それに乗れば、少なくともこれ以上、果竪の奇特な暴走は見られずに済む。

「明燐様、そろそろ王――いえ、果竪様をお止めしないと通り過ぎてしまいますぞ」

 王妃と言いかけ慌てて果竪と呼び直した組合長。

 もし最後まで言ったら、明燐は容赦なくアッパーをお見舞いしただろう。

 こんな誰が聞いているとも分からない場所で果竪の素性をばらせば後々厄介になる。

 そうでなくとも、果竪の素性は秘されているというのに。

 だが、組合長の言う事も一利あり、明燐は果竪を呼び止めるべく声を掛けようとした。

「誘拐犯を見つけたら【ローリング・大根・首絞めサンダー】をお見舞いしてやるわ!!」

 え?!何、そのとても好奇心そそられる技名は!!

 名前からは到底どんな技なのかは想像出来ない。

 しかし、首絞めと名前がついているので、たぶん首は絞めるのだろう。

 なんて考えていたら

「ど、どうしましょう!! 乗り場を通り過ぎてしまいましたわ!!」

 乗り場は遥か後ろに見えた。

 こうなれば、戻るのも一苦労だ。

「流石は果竪様!! こうしてわしらの意識を一時的にそらせる事で己のが道に突き進もうとは!!」

「いえ、組合長。果竪はそこまで考えていませんわ」

 悔しい事に、きっと今の果竪の中を占めるのは大根の事のみ。

 そう――大根だけで、自分の事なんてこれっぽっちも考えていない……。

 明燐はフッとそれは美しい笑みで組合長を振り返った。

「いっそのこと、気絶させるという手もありますわね」

「ちょっ! 流石にそれはって、お待ち下さい!!」

 シュッシュッと、気絶させる為の一撃の予行練習をする明燐に、組合長は頬を引きつらせた。

 たおやかで、手を触れる事すら躊躇われる清楚華麗な美少女という、見た目こそ争いとは完全に無縁そうに見えるが、そのじつ性格は酷く過激かつ苛烈である事を組合長は知っている。

 そして一度殺る、いや、やると決めたらどんなに困難でもやり遂げることも。

 何せ、集団で襲いかかってきた者達を軽くボコボコにした事もあるのだから――このお方は。


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