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大根と王妃①  作者: 大雪
第三章 大根失踪
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第14話 王妃絶叫

 明燐がしまったと思うも、もう遅かった。

 完全に顔は青ざめ、小さな体は痛ましいほど震えている。

「大根………盗難……」

「果竪、まだ決まったわけでは」

 いや、この話の流れでは確実に盗難だろう。

 だが、そんな事を言えばもっと大変な事になるのは目に見えている。

 何とかして宥めようと言葉を尽くすが、果竪には通用しなかった。

「そうよっ! 大根が私に何も言わずにいなくなるわけがない! やっぱり誘拐されたのよ!」

「違います! 果竪の大根は自ら自立するべく旅立っていったのです!」

「いや、それもどうかと思うのですが」

 ツッコミを入れる組合長。

 しかし、明燐はそれをさらりと無視して果竪を宥めようとする。

 だが果竪の怒りは治まらない。

「私の、私の愛する大根が!」

「果竪、落ち着いて」

「いやぁぁ! 私の愛する大根が穢されるぅ!」

 あのほっそりとした白い肢体を、下品な笑みを浮かべながら汚い手でなで回す者達の光景が先程よりも強烈に、色濃く目に浮かぶや否や、果竪は絶叫した。

「ああぁっ!」

「誰か! 果竪を部屋に」

「寝ている暇なんてないわ! 組合長、詳しく話を聞かせて! 私の大根が穢される」

 そして売り飛ばされる!

「と、とりあえず状況説明をお願いします」

 組合長の言葉に、果竪は自分が大根畑に駆けつけた時の事を話した。

 すると、組合長は無情にも言った。

「摘発は難しいかと、王妃様のところのは、箱での盗難ではなく、直接畑から抜いてますから誰の所ものかという印もありませんしねぇ」

 箱や袋があればまだ見つけやすいが、畑から直接となると組合長の言うとおり見つけるのは困難を極める。

 だが、果竪は負けなかった。

 いや――大根に関する事で負ける、諦めるという単語は、果竪の中にはない。

「印なんて関係ない! 大根を見ればどれが私の愛する大根かなんてすぐに分かるわっ!」

 たとえ、何千何万本の大根が積み重なっていようとも、自分で愛情を込めて作った愛しい大根を探し出す障害にはならないと果竪は豪語する。

 組合長は年甲斐もなく胸をキュンとさせた。

「その滑らかでシミ一つのない肌も、青々とした葉っぱも、更には豊満な肢体も全て覚えているものっ! どんな風に世話をすればどんな反応をするのかだって、私は知っているのよ!」

 それだけ聞けば到底相手は大根とは思えない。

 明燐はどうやって果竪を黙らそうかと半ば本気で策を練った。

「流石は王妃様です」

「組合長!」

 一生付いていきますと言わんばかりの組合長の胸倉を思わず掴む。

「そんな事を言えば果竪は調子にのります!」

「何を言われる明燐殿! 農作業に身を費やして数千年。これほどまでに大根を愛する方は見た事がない。この私、心から王妃様を尊敬致しますぞ」

 王妃様こそこの衰退する農業界の星だと叫ぶ組合長。

 本気で首を絞めそうになる手を必死に止めながら、明燐は果竪を振り返る。

「とにかく、落ち着きなさい」

「私はいつでも落ち着いているわ」

「大根大根騒いでいる人が何を言うのっ」

「だって大根は私の全てだもの!!」

 大根愛して数百年。

 出会いは人間で言うところの三歳の頃。

 その白くほっそりとした大根の輝くばかりの美しさに果竪は酔いしれた。

 そして、この早々なる出会いに感謝し、後の大根との生活を夢見て心は浮き足だった。

 はっきりいって、その時ほど神である事を感謝した事はなかった。

 神は不老。平均年齢は一応数千歳。

 とはいえ、神の寿命はあって無きに等しく、永遠にも近い永い時を生きる。

 つまり、平凡に暮らしていればずっと大根と一緒。

 大根との幸せパラダイス人生が待っているのだ。

 そうして三歳にして、普通の思考と神生を捨てた果竪。

 果竪にとって大根は全て。大根を口にする時は必ずや「愛しい、愛する」をつけなければ気がすまないのでは、と周囲から心配されるほどに大根を愛している。

 愛 LOVE 大根

 Iが愛であるところにこだわりが見える。

 文法、いや、言語の垣根を越えたというよりは、色々と何かが間違っているが、果竪にとっては問題ではない。

 寧ろ、この言葉だけでは溢れんばかりの大根への愛は語り尽くせなかった。

 それゆえに、新しい字を開発しているという噂まで流れている。

「私の愛する大根を奪うなんて許せない」

「ま、まだ果竪の所の大根については、盗まれたとは決まっていませんわ」

「盗まれていないのなら、どうして大根はいないの?!」

「そ、それは」

「この屋敷の人が勝手に抜いたわけでもない。もし抜いていたら、私にきちんと教えてくれるもん! そして感動の再会を果たしてるもん」

 感動の再会

 明燐の脳裏にある光景が浮かび上がる。

『私の愛する大根ぉぉんっ』

『果竪ぅぅ』

 互いに両手を広げて画面の端と端から走り出し、終に中央にて抱き締めくるくると回り出す。

 それは感動的な光景。

 但し、片方が大根でなければ。

「……」

「明燐? どうしたの?」

 そんな光景も光景だが、言葉だけ聞いてすぐに情景が思い浮かんでしまう自分が悲しかった。

「って、こうしちゃいられないわ!!」

「果竪? 何処に行きますの?」

「決まってるじゃない?! 領主の所よ!!」

 大根を探し出すには情報が必要だ。

 その情報が一番集まっている所といえば、この領地の領主の所である。

 そうして果竪は何の準備もせずに屋敷を飛び出し、その後を慌てて明燐と組合長が追いかけたのだった。


う~ん……また長くなりそうです……。

どんだけ大長編になるんだ、大根と王妃って……。


あ、感想お待ちしてますね~♪

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