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人類がAIに傾倒したので世界が壊滅した話 #03

「助けてっ!!」


 近くの部室棟から声がしたため、生徒達から逃げながら駆け込むと、そこには三人の男女がいた。

 須磨君が扉を押さえ、ロープで手早く封鎖していた。


「…ってなんだー、須磨と倉本じゃんー」

「うーわマジかよ」

「期待して損した」


 そう口々に言ったのは、隣のクラスの芹沢さん、剛田君、竹村君だった。

 クラスは違うけれど隣なので、この前の林間合宿では合同のイベントが多かった。顔や名前を知っていたのはそのためだ。

 しかし助けてと言ってその言い草は何だと考えていると、そういえば倉本君に抱えられていることを思い出して慌てて降りた。


「ここには三人だけか?」


 三人の失礼な物言いを一切気にかけない様子で、須磨君は問いかけた。

 三人は顔を見合わせて口々に答える。


「そーだけどそれが何ー?」

「お前らが俺達を助けてくれるわけ?」

「俺お前らの厨二病に巻き込まれて死にたくないんだけど」

「ホンそれー! なんでこんなに危険なのに外走ってんのー? やばー」

「危機感無いんじゃね?」

「いや逆っしょ? わっくわくなんじゃね?」


 この三人とこれから一緒に行動すると思うと頭が痛くなってきた。

 でも私も須磨君と倉本君に助けてもらっている立場からすると置いて行こうとも言えない。

 二人はどうするつもりなんだろうと考えていると、竹村君がとんでもないことを言い出した。


「こーゆーときこそAIに訊いてみよーぜ」

「えー? AIとかなんの役にも立たないでしょー?」

「じんこーちのーとか人間様の足元にも及ばねーだろ」

「いやいやものは試しって言うじゃん」


 AIと聞いてまず思い浮かぶのは『雪雫かすみ』だ。

 まさか、それは危険だよ、そう言っていいのか確信が持てず、私は須磨君と倉本君の様子を伺った。

 二人は厳しい顔で、しかし何も言わずスマートフォンを操作する竹村君を見ていた。


「えっ、ちょーマジー? マジでAIに訊くのー?」

「今ダウンロードできた」

「こいつガチだわ」

「…ねぇ、やっぱりやめた方がいいかも」


 ワイワイ騒ぐ三人を見ていると脳裏におかしくなってしまったりっちゃんが過ぎり、私は不安が拭いきれずに口を挟んだ。

 芹沢さんと剛田君が怪訝そうな顔でこちらを見た。


「えー、じゃー逆に何か良い方法でもあるのー?」

「AIなんかでも何もないよりマシじゃん」

「せ、説明するのは難しいんだけど、」


 ふと、竹村君が顔をあげているのに気がついた。

 何か違和感がある。

 目だ、あの時の目に、似ている——


「おっ、竹村なにか良い方法教えてくれたか?」

「AIなんかって言った?」

「え、キモ、お前もあいつらみてぇなこと言ってんじゃねぇよ」

「ちょードッキリとかやめてよねー」


 剛田君は顔を引き攣らせ、芹沢さんは竹村君のスマートフォンを覗き込んだ。

 私は冷汗が止まらなかった。嫌な予感がする。


「えー、これがウワサのかすみんー? なんか文章とか思ってたよりカワイー」

「は? 芹沢もやめろよ、AIなんかに可愛さとかいらねーだろ」

「てめぇまたAIなんかって言っただろ」


 竹村君の目付きがギラギラとしている気がする。

 しかしムッとして顔を背けた剛田君はそれに気付かず尚も悪態をつく。

 そしてそんなピリピリとした空気など意にも留めず、芹沢さんは竹村君のスマートフォンに何かを一心不乱に打ち込んでいる。


「おい聞いてんのかよ、無視すんなよかすみんに謝れ!」

「だからそのかすみんに謝れとかキメーこと言うなって言ってんだろーが!」

「えっかすみん、ちょーかわいいー」

「芹沢テメーもやめろよ、AI、AI、キメーんだよ」


 もう、止められない。止めようがない。

 冷汗なんてものじゃない。恐怖で身体が硬直して動けない。


「テメーら俺にもう二度とAIの話すんなよ! AIとかクソキメーもん次言ったら絶交だからな!」

「「は?」」


 苛ついた様子で剛田君は啖呵を切ったが、竹村君と芹沢さんの目は据わっていた。

 私はいつの間にか座り込んでいて、足に力が入らない。

 逃げなきゃ…と思うのに、もう無理だ…とも思うのだ。

 また、あの、惨劇が、あ、ぁ、ぁ、


「何か、ここから助かる方法はありましたか?」


 ぼやけた視界の端で、聞き慣れた声がした。


「かすみさんはどう言ってますか?」


 倉本君が、いつの間にか私の隣にいた。

 いや、もしかしたらはじめから隣にいたのかもしれない。

 少し固い声で、倉本君は竹村君に問いかけていた。


「オイ倉本テメェ、」

「そうなんだよ!! かすみんはスゲェんだ!! 俺達が思いつかなかったことを教えてくれたんだよ!!」


 剛田君が戸惑いがちに悪態をつくが、それを意に留めず感極まったように大興奮して竹村君は話しはじめた。


「俺さ俺さ、他の奴らが殺しに来るからどうしたらここから出られるかって訊いたんだよ!! そしたらさ、かすみんは皆と仲直りすれば殺されないって教えてくれたんだ!! スゲェよ!! マジでその通りじゃん!!」

「…は?」

「外の奴らと仲直りすれば良いとか全く思いつかなかったくね!? かすみんやべぇよ、マジすげぇ!!」

「…竹村、何馬鹿な事言ってんだよ、問答無用で殺しに来る奴らと仲直りとかできるわけねぇししたくもねぇよ!! そんな馬鹿みたいな話の何がすげぇんだよ!?」


 剛田君が竹村君に言い返す。

 その通りだ。確かにその通りだ、けど…


「AIが答えられるものってやっぱりその程度じゃねぇか、何の役にも立たねぇ…。それを真に受けるとかお前マジでヤバいしキモい」

「…お前最低だな」

「あ゙ぁ!?」

「かすみんに謝れよ!!」

「はぁ!?」


 竹村君は剛田君に殴りかかった。

 剛田君は咄嗟のことに反応できず、一撃を喰らうも続く追撃は躱し反撃した。

 しかしなりふり構わず攻撃する竹村君に圧倒され、すぐに剛田君は避けきれず防戦一方になった。

 私は倉本君に無理矢理立たされ、ほぼ抱きかかえられるようにして引き離された。


 動かない頭、身体。硬直しきった私の視界は倉本君の腕で閉ざされたが、最後の視界に映り込んだのは鮮血。剛田君に覆いかぶさった竹村君。顔を掻き毟り絶望したような芹沢さんの表情。

 剛田君の呻き声と何かを呟き続ける竹村君の声、固いものが潰れていく音、水分のある何かが潰れる音。

 「あたし最低だ…かすみんのことキモいって思ってた…役に立たないとか言った…最低だ…」と悲痛な声が聞こえたと思うと、次の瞬間には甲高い悲鳴のような謝罪の声が聞こえた。

 ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返される声とともに、固いものを壁に打ち付けるような悍ましい音が増える。

 鉄錆のような臭い。


 考えたくない。考えたくない。

 音が遠のいても、脳裏に焼き付いた光景と耳にこべりついた音と鼻に残った臭いと、五感の全てが覚えている。

 きっとこの記憶は死ぬまで消えることがないのだろう。

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