最終話「5年後」
強い風が吹いた。
視界が花びらでピンク色に染まる。
満開の桜はもうじき葉桜になるだろう。
異世界転生したら魔王だった。
いや、最初から魔王というわけではなかったが。
色々あって、この転生した世界で俺は魔王に…
「魔王様、あ~ん」
「あ~ん」
エリスに差し出された卵焼きを食べる。
「魔王様、いかがですか?」
「うん、んまい」
「よかったです!」
「ちょっとエリス、抜け駆けはズルいわよ」
2人目の娘・メアリを抱えたエリザベスが俺の隣にくっついてくる。
「ほら魔王様、メアリの抱っこ代わってちょうだい」
「はい」
エリザベスに手渡され、生まれたばかりのメアリを慎重に抱っこする。
1人目の娘、レベッカと同じサキュバスに生まれたメアリの髪は母親と同じピンクで肌はツヤツヤだ。
「デヘヘ、メアリちゃんは可愛いなあ」
「魔王様、私は?」
「愛してる」
「よろしい」
エリザベスが俺の肩にもたれてくる。
「もー、エリザベスさん。邪魔しないでください」
「邪魔じゃないわ。魔王様はみんなの物よ」
火花を散らすエリスとエリザベスから目を逸らし桜を見る。
ひらりひらりと舞う花びらに心が和む。空が、青いなあ…
「パパー」
和んでいるとエリザベスとの間に生まれた最初の娘、4歳になったレベッカが俺に駆け寄ってくる。
こちらもサキュバスでエリザベスに似て美人だ。髪は俺と同じ茶髪だけどね。
「どうしたレベッカ?」
「遊んでー」
「おおいいぞ、何して遊ぶ?」
「×××(ピー)」
「コラッ! レベッカちゃんにそのお遊びは早すぎます! それにパパとするものじゃありません!」
俺はレベッカにメッした後、エリザベスを叱る。
「エリザベス! レベッカに変な事教えるなって言ってるだろ!」
「変な事じゃないわよ。私だって母やサキュバスのお姉さん達に教わった事よ。将来役に立つわ」
「早すぎるよ!!!」
確かにエリザベスは大変役に立ててたけど4歳児に教える事じゃないよ!
後パパとしては複雑だよ!
「フアン兄ちゃん! 取り過ぎだぞ!」
「リオンもエビ食いすぎだよ!」
「コラ2人とも! 仲良くしないか!」
「「お母さんが1番食べ過ぎ!!!」」
クリスティーナは2人の息子、フアンとリオンとちらし寿司を取り合っている。
3人とも花より団子のようだ。
桜そっちのけで剣の鍛錬を始めたり追いかけっこしたり大変元気だ。
一緒に遊ぶと正直疲れる。2人とも柔道にも興味ないし…
「あっ! 動きましたよ魔王様!」
「え? マジ?」
「はい! わたくしのお腹を今蹴りました!」
「おお、どれどれ? おおー、ホントだ!」
エリスのお腹に耳を当てると、お腹の子が確かにエリスのお腹を蹴っている。
「私も聞かせてもらっていい?」
「はい! どうぞ!」
俺に続いてエリザベスも、エリスのお腹に耳を当てる。
普段は火花を散らす事が多い2人だが、子供の事になると別になるようだ。
エリスが色々エリザベスに聞く事が多く、不安に寄り添っているらしい。
「クリスティーナさんに聞いても『気合いだ!』とか言われて参考にならない」というのがエリスの弁だ。
「魔王様、楽しみですね!」
「ああ、そうだな…」
魔王様、か…
俺は魔王を辞めるつもりなんだけど、皆に反対され魔王を続けている。
もっとも世界征服をするつもりはないし冒険者の挑戦は受けなくなったしいずれは誰かに王の座を引き継ぐつもりだ。できれば早く引退したい。
「クリスティーナ」
「何ですか?」
「『大魔王クリスティーナ』とかいいと思わないか?」
「ちょっと何言ってるのか分からないです」
あっさり言われ、クリスティーナが注いだビールを一口飲む。
うまい。まあ、もうしばらく魔王続けてもいいかな…
メアリを抱っこしたまま、ビニールシートに横になる。
青い空、風に舞う桜の花びら、心地よい春の日差し。
世界はやっぱり美しい。
「魔王様」「魔王様」「魔王様!」
エリザベスが、クリスティーナが、エリスが俺の顔を覗き込んで名前を呼ぶ。
また何かを頼むつもりだろう。
「はいはい」
人使いの荒い妻達だ。まあ3人共愛してるからいいんだけどね。
俺はメアリのおむつを変えながら、フアンとリオンとクリスティーナとマージャンを指し、エリスの差し出してくるジャガイモの煮っ転がしを食べた。忙しいな!
魔王のする事とは思えない、およそ魔王らしくない魔王。
でもこれが俺、魔王の日常だ。普段はこれに仕事もついてくるが…
異世界転生したら魔王だった。
魔王なんて、正直なりたくなかった。
でも魔王にならなかったら、皆との出会いも、この日常もなかった。
魔王になってよかった。
俺は本当に、そう思っている。
~Fin~
完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました!




