番外編④「親達と魔王達」
魔王国へ行った娘が久しぶりに帰ってきた。…魔王の妻になって。
「父上、母上、ただいま帰りました」
「あ、ああ……お帰り」
色んな意味でどうにもならない娘が無事結婚したという事にはホッとするが、やっぱり自分の娘が誰かと結婚するというのは父親としては複雑である。しかも、相手は魔王だ。
まあその魔王は普通にいい人そうで…
「ご無沙汰しております。これ、魔王国で作ったワインですが…」
手土産を差し出してくる魔王とは思えないほど腰が低い男。クリスティーナに強引に押し切られて結婚する羽目になったに違いない。かわいそうに…
「魔王様、そこは『お義父さん、お嬢さんを僕に下さい』でしょう」
「いやそれで『魔王なんぞに娘はやらん!』とか言われたら何も言い返せないから。俺が父親だったら娘を魔王になんかやれないから」
…いや、むしろ娘をもらってくれてありがとうございます!と言いたいくらいだけど口にはしないでおく。
なんせ昔から「魔王に手籠めにされたい!」なんて夢見てた娘だから…
「父上、結婚式の日取りなのですが」
事務的に結婚式の日取りと段取りを告げてくる娘。
仕事モードに入ったようだ。性癖以外は優秀な娘なだけにその説明は分かりやすい。
分かりやすいんだけどちょっと悲しい。
「…クリスティーナ」
「何ですか父上?」
「ちょっと結婚に反対していい?」
「ダメです」
反対も封じられ私は何も言えなくなる。
「…」
魔王が同情の目で見てくる。きっと普段こんな扱いを受けているのだろう。
きっとこれからも苦労するだろうけど、娘をよろしくね?
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魔王になった息子が里帰りして来るという。…3人の妻を連れて。
「いやどういう事!?」
「知りません」
お隣のクリリちゃんがムスっとした様子で引っ込んでいく。
昔「ユウキをお婿さんにしてあげてもいいです」と言っていたからなあ…
ニブチンの息子は気づいていないようだったが、クリリちゃんの初恋は息子だったのではないだろうか。もっとも10代に入ってから冷めてしまったようだが。
そんなこんなで夏休みに息子が何やら妙な乗り物に乗ってやって来た。本当に3人の妻を連れて。
「お義父様、ご無沙汰しております」
以前もお会いした事があるクリスティーナさん。息子にはもったいないほどのスタイルのいい美人だ。やはりどこかで頭をぶつけた事があるのではないだろうか。
「初めまして、エリザベスです」
サキュバスのエリザベスさん。息子にはもったいないほど色気のある女悪魔だ。お腹が大きくなっている。なんと息子の子を宿しているとの事だ。こんなエロいなサキュバスとヤったのか。息子よ、うらやましいぞ。
「初めまして! エリスと申します!」
元・グムグム教国の姫というエリスさん。息子にはもったいないほど可愛い娘だ。
ただ……気になる事がある。
「あの…エリスさん」
「はい!」
「失礼ですがお歳はおいくつでしょうか?」
「16です!」
「アウトー!!!」
息子よ、それはアウトだ! 条例違反だ! 青少年なんちゃら法違反だ!
「落ち着いて下さいお義父様。魔王様はエリスにまだ手を出していません」
「そ、そうであるか」
「わたくしは別に手を出されても構わないのですが…」
「ダメよ。お子ちゃまはお人形でも抱いてなさい」
「あらエリザベスさん、お冗談がお上手ですわね」
ウフフアハハと笑い合うエリスさんとエリザベスさん。クリスティーナさんとの間には何もなさそうだが、こちらは何やらあるらしい。
「…」
息子が疲れた顔で2人を見ている。
よくもまあこんな中途半端な男が3人もの妻を娶れたものだ。いやしかしこの優柔不断でNOと言えぬ息子だから3人も妻を娶る羽目になったのかも知れぬ。つくづく甲斐性のない男だ。いや、甲斐性はあるのか? 魔王国は財産があるというし…
「息子よ」
「…何でしょう?」
「祝いの席でももうけるか? 持ってきた酒もある事だし」
「…そうしましょう」
エリスさんとエリザベスさんの間を仲裁した後、息子が台所へと向かっていった。
魔王国産の酒は旨かった。出来の悪い息子にしては上出来である。
それにしても3人もあんな美人とサキュバスと可愛い娘を娶れてうらやましい…
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「久しぶりね、お母さん」
「ええ、そうね」
15年ぶりくらいに娘が家に帰って来た。
いや、昔の家は国が滅んでしまったので今の新しい家なんだけど。
「…なあ、ホントにお母さんなのか? お姉さんじゃないのか?」
「サキュバスは人間より寿命が少し長いし、若くてキレイな時間が長いのよ」
「そ、そうなんだ…」
娘は魔王の妻になっていた。
「お母さん、抱いてみて」
「ええ」
しかも魔王の子を産んでいた。
すやすや眠る孫娘は私とエリザベスの血を受け継いでいるサキュバスだ。将来はきっと美人になるだろう。
「可愛いわね」
「そうでしょう! エリザベスに似て可愛いんですよ!」
「あなたの子でもあるでしょ魔王様? 魔王様もそこそこ顔立ちは整ってるんだし」
「…なあ、俺の事好きなんだよね?」
「もちろんよ」
魔王の頬にキスをする娘とデレデレする魔王。
「ねえエリザベス」
「何かしら?」
「どうしてこの人と出会ったの?」
「それはね…」
娘が家を出た後の事を話す。
美容師になった事、サキュバスである事が理由で殺されそうになった事、そこを魔王に助けられた事、魔王城に連れられそこで暮らすようになった事…
「…で、エリザベスと『契約』を結んだんです」
「『契約』? 何それ?」
「え?」
途中で口を挟んできた魔王に問いかけると、魔王が鳩が豆鉄砲で撃たれたような顔になる。
「え? サキュバスを外に連れ出すには『契約』が必要だって…」
「ないわよ、そんなの」
「え?」
「他の悪魔なら『契約』が必要だけど、サキュバスには必要ないわよ」
「…」
「悪かったわよ。今度脱がすなり縛るなり私を好きにしていいから」
…どうやら魔王は娘に騙されてたらしい。まあこの子昔からウソが上手だったから。
「それにしても……随分娘とよろしくしてたみたいね?」
「え? ええ、まあ…」
「私もよろしくしてもらってもいいかしら?」
「ダメよ。魔王様は私の物なんだから」
魔王様の腕に胸を押し当てるようにして抱きつくエリザベス。それに慣れている様子だが少し照れている魔王様とやら。
他にも2人妻がいるとかだが心配ないだろう。
「エリザベス」
「なあに?」
「よかったわね」
「ええ、ありがとう」
私は娘を祝福する。
サキュバスとしては欠陥品で、きっとつらい事もあっただろう娘が幸せになってくれてよかった。
私は孫娘を抱きながら娘に微笑んだ。




