第五十八話「ドッペルゲンガーのクロカゲ」
「魔王が強いかって? ヒャッヒャッヒャ! そんな訳なかろう。やたらと魔力は多くてちょっと器用に白魔法と黒魔法が使えるが、どっちも中途半端じゃのう。魔法使いとしてはよく見積もっても中の上くらいじゃ」
「魔王様が強いか?……魔法使いにしては素早いが身体能力は大した事ないなあ。妙な武術の心得はあるけど、私がその気になれば簡単に押し倒せるだろうな。……ならなんで押し倒さないかだって? 私は手籠めにするより手籠めにされたいのだ!」
「魔王様が強いかどうか? 私に分かる訳ないでしょ。あ、でも意外とあっちは逞し…」
「「「でも魔王(様)はそれでいいんじゃよ(のだ!)(んじゃない?)」」」
「魔王様は魔王様だ! あの方以外の魔王など考えられない! 私が手籠めにされたい魔王はあの方だけだ!」
「忠臣は二君に仕えず。我が仕える魔王様は魔王様だけだ。強いか強くないかではない。魔王様が勝てない相手が現れれば我らが相手すればいいのだ!」
「ヒャッヒャッヒャ! あの魔王が強いと逆におかしいじゃろ。強くないからここまで仲間を集められたんじゃ。手を貸したくなるんじゃ。じゃからあやつはあのままでいいんじゃよ」
「強くなくてもいいんじゃない? 強さより大切な物を、あの人は持ってるわよ。あ、でも意外とあっちは逞し…」
「別に認めた訳じゃねえぞ。認めた訳じゃねえけどオレはアイツが魔王じゃなかったらこの国にはいなかっただろうな。認めた訳じゃねえからな!」
「強いか弱いかなんてどうでもええやん? ウチは好きなモンを作らせてくれる魔王さん好きやで?」
「吾輩の願いを叶えてくれたあの人に吾輩は感謝しています。飲むヨーグルトやプリンなどを作らされるのは、ごめんこうむりたいですがね」
…小生は思った。
強くもなければ残忍さの欠片もないお人好しのちょっと器用なだけの魔法使い。
魔王の力を無駄遣いし、下らぬ魔法を生み出し続けている人物。
およそもっともまったくもって魔王にふさわしいとは思えない人物。
しかしなぜかこれほどまでの仲間を集め信頼を得ているこの魔王こそ、魔王にふさわしい人物なのではないのかと。
ずっと影の中から見てきた魔王。この者こそが…
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話は昨日の魔王軍幹部会議に戻る。
「小生はドッペルゲンガーのクロカゲ。表向きは魔王の幹部の1人のドッペルゲンガー。しかしてその正体は…」
小生は魔王の愉快な幹部達を見ながらニヤッと笑う。
「魔王の監視を命ぜられた闇の魔王の眷属であるのだよ。魔王の愉快な幹部達よ」
「闇の魔王の眷属? クロカゲが先ほど話していた強い眷属という事ですか?」
「いや、コイツじゃない。コイツ以外に強い眷属がいるんだ」
「その通りであるよ甘い物好きのガーゴイルよ。小生の戦闘能力はほぼゼロである」
「では味方という事ですか?」
「そうではない甘い物好きのガーゴイルよ。小生は魔王の味方でないのだよ」
「味方でない、つまり敵という事だな」
魔王の秘書が、いつの間にか剣を抜き小生の背後に立っていた。
小生の首が落ちる。しかし…
「無駄である」
小生は首を抱えピタッとつけた。
「そなたの聖剣で攻撃したとて小生には通用せぬよ。なぜなら小生は魔王の力そのものであるからな」
「…どういう事だ」
「それについて説明するのは後だ。それより皆、落ち着いてくれ。クロカゲは俺達の味方ではないけど敵でもないんだ」
病室で秘書に出て行かれた後、現れた小生と話をした魔王が皆を落ち着かせる。
「魔王の言うとおりであるよ。小生は貴様達の味方ではないが敵でもない。むしろ協力してやってもよいと言っているのである」
「どういう事やねん?」
「クロカゲは俺達の味方じゃないが、敵でもない。むしろ味方になってくれようとしてるんだ」
「左様。故あって今すぐ味方にはなれぬのだが、小生は貴様達の味方になろうとしておるのだ」
「事情がさっぱり分からんが…」
「まずは小生が魔王の力そのものであるという事から説明した方がよさそうであるな、魔王よ」
「ああ、クロカゲは闇の魔王から与えられた魔王の力そのものなんだ」
「どういう事なん?」
「そこな魔王の能力が強化され、魔力がほぼ無限にあるのは小生がいるからである。小生が魔王の影にいる間、魔王は魔王としての力を得ているのである」
「つまり…アンタはずっと魔王さんの影にいたゆう訳か? それで滅多に姿を表さへんかった訳か」
「その通りである、見た目によらず意外と頭の回るドワーフの小娘よ」
小生とドワーフの小娘の話を聞いていたサキュバスの女がハッとした顔になる。
「ずっと魔王様の影にいた? ちょっと待って、それじゃ『契約』の時も…」
「待てエリザベス。それは大丈夫だ」
「自分に素直になれないサキュバスの女よ。小生は空気の読めるドッペルゲンガーなのでな。それに魔王のプライベートを覗き見する趣味はない。『契約』の間は魔王の影から外れていたのだよ」
「ああ、ならいいわ…。…なんか気になる形容詞がついてたけどまあいいわ」
「魔王様? ベス姐さん? 何の話だ?」
「「何でもない何でもない」」
「気になるな…」
「汝性欲を持て余し毎晩1人遊びに熱心なエロ女秘書よ。今はそれよりも闇の魔王の事であろう」
「そ、そんな名で私を呼ぶな!!!」
毎晩毎晩1人遊びに勤しむエロ女秘書が、顔を真っ赤にして叫ぶ。本当の事ではないか。
「話を戻すぞ。小生は魔王の力そのもの。そして闇の魔王の力そのものでもある。つまり小生が魔王の影にいる時は魔王の力が強化され、闇の魔王の影にいる時は闇の魔王の力が強化されるのである」
「そんなら魔王さんの影の中にずっといたらええんちゃう?」
「それができぬのだドワーフの小娘よ。小生は闇の魔王の眷属。闇の魔王が自分の影に戻れと言われたら逆らえぬし、自由に魔王の影に移る事もできぬ」
「ほな味方になれへんやん!」
「否。味方になる方法はある」
「どうすればよいのだ?」
「エロ女秘書よ、簡単な事である。そなたらの誰かが闇の魔王に一撃入れればよいのだ」
「「「「「…」」」」」
「剣、魔法、拳、蹴り、なんでもよい。闇の魔王に一撃入れるのだ。さすれば小生は魔王の影に移る事ができる。そうなったら闇の魔王はただの運動不足の引きこもりの男である」
「「「「「…」」」」」
「まあ言うほど簡単な事ではないがな。小生が影にいる間の闇の魔王は強い。世界を滅ぼす事ができるくらいにな」
「そんなに強いなら、何で自分で世界征服しなかったんだ?」
「人には色々あるのだよ、童貞デュラハンよ。あるいは…」
「何だ?」
「………いや、何でもない。それより話は分かったな。闇の魔王に一撃入れろ。さすらば小生は貴様達の味方になれる」
「…ひとつ聞かせてもらってもいいかしら」
「なんであるかな、サキュバスの女よ」
「何故あなたは、私達の味方になる気になったの?」
「簡単な事である」
小生は、魔王と愉快な幹部達を見回して笑んだ。
「貴様達の事が気に入ったのだよ。鏡の前でネチネチネチネチ死んだように生きている甘ったれの闇の魔王より、よっぽどな」




