第五十七話「魔王VS闇の魔王②」
「魔王が強いかって? ヒャッヒャッヒャ! そんな訳なかろう。やたらと魔力は多くてちょっと器用に白魔法と黒魔法が使えるが、どっちも中途半端じゃのう。魔法使いとしてはよく見積もっても中の上くらいじゃ」
「魔王様が強いか?……魔法使いにしては素早いが身体能力は大した事ないなあ。妙な武術の心得はあるけど、私がその気になれば簡単に押し倒せるだろうな。……ならなんで押し倒さないかだって? 私は手籠めにするより手籠めにされたいのだ!」
「魔王様が強いかどうか? 私に分かる訳ないでしょ。あ、でも意外とあっちは逞し…」
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「う、うわあああああああああああ!!!!?」
「…うるさい」
胸に衝撃が走り、身体がすっ飛ばされる。
「ぐっ、はあっ…」
どこかに背中からブチ当てられ、息が詰まる。
痛みが、腕を失くした左肩と全身を駆けまわる。
「魔王様っ!」
クリスティーナの悲痛な叫び声が遠くから聞こえた気がした。
「がっ…」
遅れてやってきたのは、
とてつもない痛みだった。
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
痛い、つらい、痛い、つらい、痛い、つらい、痛い痛い痛い痛い痛い…
なんで、こんな目に遭わないといけないんだ…
こんな思いをするくらいなら、いっそ、死んだ方が…
「魔王様! しっかりしてください! 魔王様!」
誰かが俺を揺さぶり、左肩に何かをくっつけ何かを飲ませてくる。
痛みで滲んだ世界に輪郭が戻り、誰かがクリスティーナである事を確認する。
くっつけられたのは切り飛ばされた左腕で、飲まされたのは回復薬か何かのようだ。
「クリス、ティーナ…」
「はい!」
「杖…」
「魔王様! これです!」
クリスティーナが右腕に掴ませてきたそれを、俺は自分の左肩に当てる。
「『ハイネス・ヒール…!』」
治癒の魔法で腕を治す。
くっつけた左手を動かす、ちゃんと動く。
俺はクリスティーナからもう1本回復薬をもらい、それを飲んだところでようやく落ち着いた。
「ありがとうクリスティーナ……もう、大丈夫だ…」
「魔王様…っ」
泣きそうな顔のクリスティーナが、俺に抱きついてくる。
その頭を撫でた後、俺は闇の魔王を改めて見る。
今はティルが魔法で作り出している土人形のゴーレム達と戦っているようだ。
一体一体ちまちま襲ってくるゴーレム達にいらだっているらしい。
倒せはしないだろうがいい作戦だ。
「俺と同じ転生者か? いや、異世界召喚系か…?」
それにしてはずっと鏡から叱責してくるだけだったが…
何にせよ闇の魔王が俺の前世の世界と関係ある人間である事は間違いないだろう。
「…ぐっ」
立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
足が竦んで、立ち上がれない…。さっきの腕を切り飛ばされた時の痛みと恐怖が蘇る。あんな思いは、もうしたくない…
でも…
「魔王様! ご無理なさならないでください!」
「無理、するさ…」
俺の仲間を、この世界を守らないと…!
なのに身体が言う事を聞いてくれない。俺は立ち上がろうとしたものの腰が上げられず尻餅をついてしまう。
こうしている間も、ティルが、マキシムが、ミノさんが闇の魔王相手に戦ってくれているというのに…
「ベス姐さん、ガーさん」
クリスティーナの呼びかけに、いつの間にか来ていたエリザベスとガーさんが俺の両脇を抱える。
「なっ!? お前達、避難してるはずじゃ…!?」
「あなたに戦わせて自分だけ安全な所になんていられないわよ。何年の付き合いだと思ってるの」
「戦えはしませんが力を貸させてください!」
「力を貸させてって……オイっ! 何をする気だ!」
戦場から遠ざけようとするエリザベスとガーさんに怒鳴るも、2人は俺を後ろに引きずろうとしている。
「…万が一の事があった時に頼んでおいたのです。魔王様を連れて逃げるようにと」
「何勝手な事言ってるんだ! 放せ! 俺も戦う!」
「嫌なんですよ!!!」
クリスティーナの悲痛な叫びが、辺りにこだまする。
その目には…いっぱいの涙が溜まっていた。
「あなたが傷つく姿を見るのは嫌なんです! ミノさんだって、ベス姐さんだって皆同じ気持ちです! あなたが傷つくくらいなら、私達は自分が傷ついた方がマシです!!!」
「クリスティーナ…」
「私達が時間を稼ぎます。魔王様は皆とどこかに…世界の果てにでも逃げてください」
「バ、バカ言うな! お前達を置いて逃げるなんてできるか!」
「…ベス姐さん、ガーさん」
俺の言葉には返事をせず、クリスティーナはエリザベスとガーさんに呼びかける。
「魔王様を頼む」
クリスティーナが、限界を超えているはずなのに剣を引き抜き闇の魔王へ駆け出す。
「待て、クリスティーナ… 待てえええええええええ!!!!!」
「ハアアアアアア!!!!!」
裂帛の気合いを上げて、クリスティーナが闇の魔王に斬りかかる。
マキシムも炎の剣を振り上げ、ミノさんも大きなマサカリを構え、ティルもとっておきの魔法を唱えようとし、ハカセも壊れた魔王ロボを起こしてビームを放とうと…
「…鬱陶しいんだよ! どいつもこいつも!」
…して、全員石に変えられた。
「あ、あああああああああああああ!!!!!」
クリスティーナが、マキシムが、ミノさんが、ティルが、ハカセが、後ろに控えていた魔王軍の戦闘員も皆石に変えられ固まってしまった。
「魔王様! 早く逃げるわよ!」
「皆の犠牲を無駄にしてはいけません!」
「…もう無駄にしてる」
俺を抱えようとしていたエリザベスとガーさんも、いつの間にか背後にいた闇の魔王に石に変えられた。
「エリザベス…! ガーさん…!」
皆、
皆石に変えられてしまった。
立ち竦む俺を見た闇の魔王が、嘲笑を浮かべた後魔王城を見た。
「…随分大切にしてきたみたいだな、あの城」
闇の魔王が、右手の人差し指と中指を立てて魔王城を指さす。
「何、する気だ…」
「…決まってるだろ。お前の大切にしてきた物全部壊すのさ」
「やめろ…、やめろおおおおおおおおお!!!!!」
次の瞬間。
魔王城が爆発し、跡形もなく吹き飛んだ。
跡形もなく、吹き飛んだのだった。
「あ、ああああああああ…!!!!!」
大切な仲間も、大切にしてきた城も失い、俺の心がひび割れる。
「…いい気味だ。今どんな気分だ? 魔王さんよ」
闇の魔王が、うつむく俺の頭を足で踏みつける。
「………どうして」
「…うん?」
「どうしてこんな事するんだ…」
「…決まってるだろ。お前が俺の言う事を聞かなかったからだ」
闇の魔王が、俺を何度も何度も蹴りながら言葉を続ける。
「…お前が! さっさと世界を滅ぼして! この世界を征服して! この世界にいる全員を俺の言う事を聞くようにしなかったから! こんな事に! なったんだ!」
「そんな事…! できる訳ないだろ…!」
「…うるせえ! 命を助けて魔王にしてやったんだからお前は俺の言う事聞いてりゃよかったんだよ! それなのに下らない事に精を出しやがって! お前なら俺の言う事を聞いてくれると思ったのにとんだ期待外れだったぜ!」
「そんな…この世界を征服してお前は何がしたいんだ!」
「…決まってるだろ。誰も俺に逆らわない、誰も俺に説教しない、誰もが俺の言う事を聞く俺の理想の世界を作るのさ」
「そんなの……できるわけないだろ」
「…うるせえ! お前は黙って俺の言う通り世界征服してりゃよかったんだよ! なのにのらりくらりと『善処します』だの『今取り組んでいる最中です』などどヌケヌケ抜かしやがって! 8年も待たされてこっちはもう限界だ!」
俺を蹴り続けながら、闇の魔王がそんな事を言う。
まるで子供。
いや実際中身は子供なのだろう。
身体は俺より大きく、うっすら無精ヒゲも生えていて大人だが中身は子供だ。
そんな中身が子供の闇の魔王を……背後に忍び寄っていたガーさんが思いきり殴り飛ばした!
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いやー、まさか吾輩にこのような出番が来ようとは。
暴力とか嫌いなんですが今はそんな事言っている場合ではありませんよね。
クリスティーナさんやミノさん、エリザベス達を助ける、そして魔王様を助けるためにも頑張らないといけないですよね。
吾輩は背を向けている闇の魔王に忍びより、少しずつ距離を詰めます。
吾輩の動きに気づいた魔王様が、一瞬驚いた表情をしましたがすぐに視線を逸らし吾輩の存在を闇の魔王に気取られないようにされました。
この心遣いを無駄にしてはいけません!
闇の魔王の背後に回った吾輩は、両の手を握り合わせて思いっきり闇の魔王の頭に振り下ろしました!
「…っ!?」
予想外の一撃に、闇の魔王が頭を押さえ……うつ伏せに倒れました! やった! やりました! スミマセン! でも皆さんを傷つけたあなたを吾輩は許しません!
「魔王様! ご無事ですか!」
「あ、ああ…でもガーさん、何で石に変えられたのに動けるの?」
「だって吾輩、元々石ですもん」
「あ」
魔王様が、そういえばそうだという顔をする。
吾輩は元々ただの石像。石像に魂が宿ったモンスター。
エリザベスやクリスティーナさん達と違って、元々石だから石に変えられても何ともありませんでした。
でも動いたら闇の魔王に木っ端微塵にされるでしょうから、吾輩の特技の石像のフリをして機会を窺っていました。
そして闇の魔王に一撃入れたのです。
なぜなら…闇の魔王に一撃入れられたら、あやつが仲間になってくれると約束したのですから。
「クロカゲ!」
魔王様が、その者の名前を呼ぶ。
「承知!」
クロカゲが闇の魔王の影から姿を現し、魔王様の影へと飛び込む。
それが、吾輩達の反撃の狼煙の合図でした。




